トピックス -企業家倶楽部

2016年02月05日

業界トップのキーマンを攻めろ!!/アイハーツ代表取締役社長 野田憲史

企業家倶楽部2016年1/2月号 注目企業




どうしたら当社にご注文を頂けますか?

 スマートフォン(以下スマホ)専業広告代理店アイハーツ社長の野田憲史は現在でも「営業部長」の名刺を持ち歩く根っからの営業マンだ。野田は2010年11月、ガラケーと呼ばれる従来型携帯電話の広告代理店を経て独立した。野田の営業ポリシーは「業界トップ企業のキーマンを攻めろ」。しかし、創業当時はアップル社のiPhoneが上陸したばかりで、スマホが普及し始めの頃。創業メンバー5人が必死にアポイントをとっても、創業間もないベンチャーの開発中のサービスを採用する会社が見つかるはずもなかった。

 だが野田は「生まれたばかりの市場で誰も実績なんてない。担当者を口説けていないだけだ」と自ら飲食業大手の受注を実現させた。当時同社は2000店舗目の出店が目前で、アプリとテレビCMをセットで行う計画だったが、当時のアイハーツにはテレビCM制作を請負う力はなかった。結果、アプリ制作受託のみで勝負しなければならなかった。

 野田は「仕事は学校のテストより簡単」と言う。答えを相手に聞けばいいからだという。必ず単刀直入に「どうしたら当社にご注文を頂けますか」と問う。その条件をクリアしたら決裁権を持つキーマンの上司と会わせてください、と約束をとる。それを粘り強く繰り返していく。

 通常、アプリの機能と制作費についてコンペで競うのだが、打ち合わせを重ねるうち、担当者はアプリ採用後の収益化について最も悩んでいると知った。そこでアイハーツは、アプリ採用後に黒字化する期間までトータルで提案。その甲斐あって、初めての受注を手にすることが出来たのである。

 野田は契約の暁にはトップに引き合わせてもらう。ある時、某チェーンの店舗をキャンペーンで使わせて欲しいと提案した。すると返事は「無料という訳にはいかない」。たまらず「いくらですか」と問うと、社長は「君の全預金だ」という。それはすなわち倒産しろという意味だ。一瞬言葉に詰まったが、野田も腹を括った。「わかりました」と答えると「お前面白いな」と破顔一笑、キャンペーンを行なえることになった。



スマホ広告配信の面倒を一掃

 スマホやPCでインターネットを閲覧すると、画面のさまざまな場所に広告が表示されているのに気付くだろう。インターネット広告を出す場合、広報担当者はASPと呼ばれる広告配信会社に依頼する。しかし、ASPごとに扱うサイトやアプリが異なり、効果的に広報するためには複数のASPと契約を結ぶのが一般的だ。そのため、広報担当者はASPごとに発行される複数のアカウントを管理して、費用対効果などの検証や事務手続きを行なわねばならない。アカウント自体が有料の場合もある。

 アイハーツはそんな広告主の悩みを一掃した。広告主とASPの間に入ることで、広告主には効果的な広告タイプや出稿媒体を提案し、各ASPへの予算の振り分けや交渉を行なう。同社が交渉窓口になることで、従来は精神的に抵抗感があった出稿の中止や、中止していたコンテンツへの再配信なども効果的に出来ると評判だ。また、広告主は、同社が開発した広告効果測定ツール「i-generation(アイジェネレーション)」で、全ての広告を1つの画面で一括管理可能。担当者の不満を解消した。

 そのサービスが評判を呼び、取引先にはネット大手のヤフー、楽天なども名を連ね、その8割以上が直取引である。初年度の売上高1億3875万円に対し、2014年10月期の売上げは12億6800万円と右肩上がりに成長している。



資本金が1カ月で半分に

 野田は2008年に上陸したiPhoneに衝撃を受け、必ずや携帯市場とPC市場がスマホ市場へ移行すると確信した。しかしガラケー全盛時代であったため、当時役員を務めていた会社でスマホ向け広告事業を提案するも通らず、どうしても諦められなかった野田は、一人で事業を始めようと退職・独立した。そんな野田の下に元部下たちが4人、事前の相談もなく退職してやって来てしまった。「創業メンバーはみんな、野田なら必ず何か成し遂げられると思った」と同社取締役の片山美樹は振り返る。

 資本金は800万円。野田が10年かけてコツコツ貯めてきた元手だった。しかし、その資本金も1カ月で半分になってしまう。「大手企業とお付き合いするのだから、オフィスビルでなければダメだ」という野田の信念で、構えたオフィスの入居費用が400万円だったのだ。「軍資金はオフィスに入って半分になった。1年後にこの束が増えるのかゼロになって解散となるか、勝負だ」。野田のこの宣言で社員たちは奮い立った。

 8坪のオフィスに用意したのはパソコン1台、電話1機、プリンターが1台のみ。机も椅子もなかった。暖房をつける余裕などない。床にレジャーシートを敷いて直に座ると、冬の寒さが堪えた。もらってきたダンボールを床に敷いて寒さをしのぎ、営業に駆けずり回った。

 その後は、野田式の営業が功を奏し、社員たちは次々に契約をとってくるようになった。5名だった創業メンバーが6名になり、ようやく机と椅子がオフィスに届くと10名分ある。訝る社員に野田は語りかけた。「見えないのか。私には会社が大きくなって、社員が増えている様子が見える」



あわや黒字倒産

 しかし、現実はドラマのように甘くはなかった。営業が軌道に乗り始めると、新たな問題が浮上した。急激に売上げが伸びたはいいが、800万円の資本金ではキャッシュフローが追いつかず、あわや黒字倒産に陥ったのだ。野田は慌てて友人たちに10万円でいいからと借金をして回り、仕舞いには友人の奥さんから「帰って下さい」と追い返される始末。

 そこで次に思いついたのがメガバンクだった。しかし、窓口では「3年分の決算書がなければ無理だ」とすげなく断られてしまう。

 そんな野田に、片山は自分の親に会うべきだと忠言した。片山の親は経営者で、その知識が役に立つに違いないというのだ。野田はあっけにとられた。経営初心者とはいえ、自分にも経営者としてのプライドがある。部下の親にどの面を下げて会いにいくというのだ。しかし、とうとう万策尽きてしまった。わらをもつかむ思いで片山の親を訪ねていくと、「信用金庫には行きましたか」と静かに言った。

 それは天からの声だった。野田には、前職から付き合いのある懇意の信用金庫グループの社長がいたのである。そこからなんとか融資を受けることができ、危機を乗り越えた。



国策を担うような企業に

 IPOも視野に入れ、2015年に新規事業を5本立ち上げた。中でも人材事業は収益性が高いという。1つは大手金融特化型のシニアエリート人材紹介。さらに、現在注力しているのが新卒の優秀なITプログラマーの人材紹介だ。個人情報流出問題の対策だけでなく、マイナンバー制度の開始に向けて、優秀なIT人材は争奪戦になっている。将来有望な若者が自治体や政府の仕事を担えば日本の強みとなると野田は主張する。

 今後は、生活に必要不可欠なインフラ事業を確立したいと考えている。ゆくゆくは国策を担う会社に育て上げ、アイハーツを継続的に繁栄させたいと意気込む。

 同社のキャッチフレーズは「インターネットにハートを」。夢を共有する社員の条件として「親孝行」を第一に掲げる人情家野田が率いるこれからのアイハーツに期待したい。(庄司裕見子)



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