トピックス -企業家倶楽部

2016年04月08日

ベンチャーが宇宙時代を切り拓く/宇宙ビジネスの未来

企業家倶楽部2016年4月号 宇宙ベンチャー特集第1部


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

   

宇宙時代が訪れつつある。世界中で宇宙ベンチャーが起こり、これまで国家が担っていた事業を収益化すべく邁進しているのだ。先行するアメリカは大規模な投資とベンチャーを応援する風土で独走するかに見えるが、「モノづくり大国」日本も黙ってはいない。日本発ベンチャーに勝機はあるのか。そして、宇宙旅行、惑星探査、二地点間の超高速移動というような、これまでSFの世界でしか無かった未来は実現するのか。宇宙産業の今に迫る。(文中敬称略)




「やっぱり、地球は青いんだなぁ」

 2036年、東京都在住の会社員A(34)は人生初の無重力を体感しながら、宇宙機の窓から眼下に広がる母星を感慨深く眺めていた。東京国際宇宙港の滑走路を飛び立った機体が地上15kmの成層圏近くまで到達するのに、約45分。そこからロケット噴射で宇宙に飛び出すまでは1分ほどしか掛からなかった。轟音と共に宇宙機がロケットエンジンを作動した時は、約3Gの重力加速度が体にかかって少し違和感を覚えたが、宇宙に出てしまえば何のことは無い。

 久々の長期休暇で宇宙に行きたいと言い始めたのは妻だった。今回のプランでは、宇宙に飛び出した後、地球を一周。そのまま月へと至り、月面ホテルに一泊して、再び地球に戻ってくるという。ここ15~20年の間に宇宙開発は飛躍的に進歩し、海外旅行と同じ感覚で宇宙へも行けるようになった。最近は月への旅が流行りで、新婚旅行の行き先としても一番の人気を誇っている。家族サービスで妻子ともども宇宙旅行ツアーに参加することとなった経緯も、その辺りにあった。妻の気持ちも分からなくはない。今や、世界の主要都市は全て宇宙港で繋がっている。ニューヨーク、パリ、イスタンブール・・・旧来の飛行機では東京から13時間近くかかった場所でも、少し多めに料金を払えば宇宙機でひとっ飛び。一度地球外に飛び出してマッハ6(約時速7200km)に達したかと思えば、90分で着いてしまう。もはや地球は、どこも日帰り旅行の対象だ。

 こうして想いを巡らす間にも、宇宙機は弧を描いて地球をぐるりと廻っていく。一時はデブリと呼ばれる宇宙ゴミが問題になったこともあったが、今ではこれらを処理する企業の活躍で様々な残骸は随分と掃除された。

「地上100kmからが宇宙らしい。100kmと言うと、東京から熱海くらいの近さじゃないか。それと同じ距離を空に飛んだだけで、そこはもう国境の無い世界。こんな光景が見られるなんて、不思議なものだね」

 思わず妻につぶやく。最初は宇宙と聞いてもあまり実感が湧かなかったが、実際に飛び出てみると、一番興奮しているのは自分だ。いや、それよりもずっとはしゃいでいる男が一人だけいた。

「月まであとどれくらい?」

 息子の飽くなき探究心は、どんな場所でも潰えることが無い。

「大体10時間くらいかな」

 人間が地球外に足を踏み出す第一歩となったこの天体には、すでに多くの人が訪れているが、まだ長旅と言わざるを得ないだろう。ただ、月面探査の結果、水やレアメタルを採掘することが可能となり、彼の地は宇宙開発における前哨基地として立派に機能を果たしている。未だ火星に行くには往復で2年がかりだが、重力が地球の6分の1の月からロケットを打ち上げられるようになったことで、コストは10分の1以下になった。

 思えば、宇宙が身近になるまでに結構な年月がかかったものだ。かれこれ20年ほど前だっただろうか、宇宙開発のために多くのベンチャー企業が立ち上がり始めたのは。実験と失敗を繰り返しながら事業を生み出した彼らがいたからこそ、こうした宇宙旅行や惑星探査、超高速移動が現実になったと言える。そして、その躍進の第一歩として語り継がれるべきニュースが世界を駆け巡ったのは、忘れもしない2015年の冬だった。



宇宙業界に激震

「おかえり、ベイビー!」

 2015年12月22日、宇宙業界に激震が走った。アメリカ発、イーロン・マスク率いる宇宙ベンチャーのスペースXが、上空から戻ってきた自社製ロケット「ファルコン9」の垂直着陸に成功したのだ。パラシュートを使わないロケット噴射のみでの着陸は高度な技術を要し、特に大型のロケットに関しては民間企業として初の快挙。前述のようにマスクが喜びの声を上げるのも頷ける。

 ファルコン9の打ち上げ費用は約50億円。これは、日本初の純国産ロケットとして脚光を浴びたH-2Aロケットの打ち上げ費100億円の半額にあたる。さらにこの成功で彼らが示したように、打ち上げた後に再利用できるとなれば、コストの大幅削減が期待できるだろう。実際、同社は将来的に1回あたりの打ち上げコストを現状の100分の1まで引き下げる計画を立てている。

 実はこれまでに幾度もの失敗を繰り返しているスペースX。しかしマスクは「まぁ少なくとも今回の残骸は大きいよ!次の着陸に期待している」と前向きだ。こうした企業家精神には脱帽するしかない。

 同社はすでに、NASA(アメリカ航空宇宙局)から国際宇宙ステーションへ物資輸送を行う契約を受注。2019~24年にかけて、民間宇宙企業3社が担う契約の総額は約1兆6500億円という。

 この他アメリカでは、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスの興したブルーオリジンが、高度100 kmまで上昇させたロケットを無事着陸させることに成功するなど、宇宙ベンチャー熱が高まりを見せている。

「宇宙ビジネスが広がりつつある」と言われても、いまいちピンと来ないというのが正直な反応だろう。それでも、宇宙業界に地殻変動が起きているのは事実。前述のスペースXは最も顕著な例だが、なにも同社だけが宇宙ベンチャーではない。これまでは国家主導で行われてきた宇宙事業を、徐々に民間が担いつつあるのだ。自前で人工衛星やロケットを打ち上げようというベンチャービジネスの波は、すでに日本にまで至っている。


宇宙業界に激震

まるでインターネット黎明期

「宇宙事業で最も早く立ち上がる」と関係者が口を揃えるのは、人工衛星を利用したビジネスだ。中でも注目を集めるのは、衛星を利用して地球上のデータを収集するリモートセンシング。日本でこれを担おうというアクセルスペースは、2022年までに50基の衛星を飛ばそうと計画している。この人工衛星網によって、地球上のあらゆる箇所を観測しようというのである。

 こうしたインフラ構築について、エンジェル投資家としてアクセルスペースに出資するACCESS創業者の鎌田富久は「インターネット業界で言えば、ようやくネット回線を引こうかという状態」と表現する。つまり、あと少しでインターネットは利用できるようになるが、まだそれを利用して何をすればいいのか誰もがはっきりとは描けていない状態というわけだ。

 1990年代初頭、まだインターネットという言葉に馴染みが無かった頃、これを使ってビジネスをしようと言い出した企業家たちに対する世間の目は冷たかった。「インターネットで本当に飯が食えるのか」と。

 しかし、最終的にどうなったかはご存知の通り。よもやメールを使っていない企業はあるまい。インターネットから隔絶された企業は皆無となった。産業としても、アメリカからヤフー、グーグル、フェイスブックといった企業が次々に出現し、業界の覇権を握っていった。

 鎌田と同じく、アクセルスペースに投資しているグローバル・ブレインの青木英剛は「社会にITが浸透したように、全ての企業が宇宙からの情報を活用する時代が来る」と断言する。「宇宙」と言うと縁が無いように思えるかもしれないが、これは一種のビッグデータ解析サービスだ。そのように考えれば、多少は親近感が湧くのではなかろうか。



宇宙なしには生きられなくなる

 スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツらの活躍でパソコンが普及したことにより、人の生活や仕事環境は格段に変わった。しかし、あらゆる情報が密接に繋がり合い、価値を持って使われるようになったのはインターネットの構築によるところが大きい。そして、今やあらゆるモノがネットに繋がるIoT時代。人工衛星からもたらされる膨大な情報がスマートフォンや家電、自動車と連携することで、私たちの生活に浸透するのは時間の問題だ。

 ソフトバンクグループが「ペッパー」を開発して市場形成を急ぐスマートロボットの領域も、当然この範疇に入ってくる。宇宙からのビッグデータを人工知能が解析し、自己学習することにより、人間には取ることの難しい情報を得られるだろう。

 実際、衛星からの情報はすでに様々な分野で使われようとしている。例えば物流。あるショッピングセンターの駐車場を時間ごとに定点観測すれば、何曜日の何時頃にお客の入りが悪いか傾向が見える。そこに当ててタイムセールを打つなど、効率的な販促が可能というわけだ。

 さらに広い範囲の画像を購入すれば、商社が自社商船の位置を正確に把握できるようになる。新興国の港湾では管理がずさんなところもあるため、自社の積み荷が的確に積み込まれ、予定通りの運航をしているか目で確かめたいという要望は少なくない。

 また、近年盛り上がりを見せているシェアリングエコノミーも、衛星利用によってさらに発達するかもしれない。画像を解析すれば無駄な空きスペースが見つかり、より効率的な空間活用が提案できるためだ。

 治安問題の解決にも繋がる。世界を見れば、未だに海賊行為や誘拐、テロといった犯罪が横行しているが、衛星からの監視を強化することでそれらに対するセキュリティー対策を取れるだろう。もちろん、プライバシー問題との兼ね合いが議論になることは明白だが、イギリスの事例を見て欲しい。彼の国では、国内に設置された監視カメラは600万個とも言われ、事件や事故の原因究明に一役買っている。

 安全保障という面では、災害による被害も最小限に食い止められる。地震や津波、山火事などの予兆を察知することで、人命が救われるケースも出てこよう。ブラジルではアマゾン地域の違法伐採や森林火災が大問題となっており、実際に衛星による森林管理が行われている。

 ここで挙げた例は、ほんの一握りに過ぎない。京都大学の宇宙物理学科に学び、自社でも宇宙情報サービスを手掛けるブロードバンドタワー会長の藤原洋も「安価に人工衛星を飛ばす技術が確立した今、これからは衛星の取る情報の部分に独創性が出てくる」と語る。今後どのようなサービスが生まれ、進化していくかは誰も予測できない。

 そう遠くない将来、人工衛星網が構築された際にどのような使い道があるか、今から練っておいても損はないだろう。



既存の携帯キャリアは崩壊

 こうした人工衛星網の構築を狙っているのは日本企業だけではない。

 前述のスペースXは、最終的に4000基の人工衛星を飛ばして世界中でインターネット接続が行えるようにすると計画。アクセルスペースとは用途が異なるとはいえ、戦慄を覚えるほどの構想だ。

 サービスの質が担保されれば、地球上のインターネット市場はスペースXが一手に握る可能性もある。日本の携帯キャリア市場が根底から覆されることもありうるのだ。

 ソフトバンクはアメリカに進出して世界市場を取ろうと躍起だが、彼らが苦心して電波の品質を向上させた頃には、誰も地上局など使わなくなっているかもしれない。NTTドコモやKDDIは言わずもがな、国内で争っている段ではない。

 ソフトバンクグループ社長の孫正義なら、「俺だって4000基の人工衛星くらい飛ばしてやる!」と吠えそうなものだが、今のところ彼が宇宙事業に熱を上げているという話は聞かない。

 米国発の宇宙企業に資金や人材が集まるのは、その高い技術力の他に、彼の国の持つベンチャー企業を積極的に採用しようという風土が欠かせない。スペースXがNASAから受注できたのも、決して偶然ではないのだ。

 また、これにはアメリカが成り立った歴史的な背景も関係しているのではなかろうか。彼の国は、宗教上の理由からイギリスで迫害された人々が渡航したのが起源。その後もヨーロッパで発生した飢饉から逃れるため、またはゴールドラッシュで一旗上げようと多くの人が乗り込んでいったが、想いこそ違えど、挑戦の心が彼らを動かしたことに変わりはない。

 逃亡のためか、野心からか、理由のいかんは別として、宇宙は人間が出て行ける領域になりつつある。宇宙にはすでにホテルが浮かんでいるのをご存知だろうか。実験的ではあるが、アメリカのビゲロー・エアロスペースが2006年に打ち上げた「住空間」は10年間に渡って重大な損傷もなく機能している。日本を含む世界中の企業が真剣に試みようとしている分野であり、決してSFの夢物語ではない。

 宇宙へ向けたエレベーターも、理論的には実現可能だというから驚きだ。日本では大林組が構想。2050年の完成を目指しており、上空3万6000 kmまで一週間ほどで到達するという。

 中国では、PM 2.5などの大気汚染に耐えかねて富裕層が国外への「脱出」を始めていると聞くが、環境破壊や人口爆発によって地球の住環境が悪化しつつある今、宇宙は人間にとって新たな住空間となるかもしれない。



宇宙で暮らす環境は整った

 様々な活用の可能性が高まってきた宇宙。これを開発しようというベンチャー企業に対しては、前述の鎌田や青木など、有力な投資家も付いてきた。インキュベイトファンド代表の赤浦徹も「10年単位で見れば、必ず価値は上がっていく」と力強く語る。

 彼らが投資するのも、宇宙に更なる広がりがあるからだろう。今後不可欠となるのは、この地球とは異なる新領域に適応した衣食住。「住」に関しては、徐々に開発が進んでいることを書いた。

 衣料品に関しても、宇宙仕様の洋服が欠かせないが、ここには実例がある。2008年にJAXAからお墨付きを受けたのは、和歌山の誇るモノづくりベンチャー、島精機製作所。同社の無縫製横編機「ホールガーメント」で編んだTシャツやポロシャツ、靴下が宇宙船内用の日常服に採用されたのだ。

 彼らの編んだニット製品は縫い目が無いため糸くずが発生しにくく、抗菌、防臭、吸水性を完備。冷えやすい部分を厚くするなど保温のための工夫を施しつつ、軽いのが特徴だ。無重力の宇宙では体液の移動が地上と異なるため、体型が変わることもあるが、そうした変化にも適応した。

 いよいよ人間が宇宙に出て行くとなれば、ファーストリテイリングやクロスカンパニーなどのアパレル各社がこの需要を逃すはずはあるまい。「食」の部分でも進歩が見られる。現在の宇宙食は味が良くなってきた。宇宙飛行士の山崎直子は「カレーが一番美味しい」と笑う。

 また、宇宙ステーションではすでに植物が栽培されている。ハウステンボスでは植物工場で育てた野菜を実際にレストランで食材としているが、この原理を使い、適切な温度管理の下で光と水分、二酸化炭素さえ供給すれば、食べ物に困ることは無いだろう。

 最近では人間の栄養供給の手段として微生物のユーグレナを原料にした食材も広まっているが、これが宇宙でも培養可能となれば、その体から取れる油で燃料も同時に補給出来る可能性もある。

 宇宙に出る実利的な動機としては、資源開発が挙げられよう。月面探査を担おうとしているアイスペース代表の袴田武史も「月には水をはじめ、様々な資源が眠っている。それらを活用できれば、宇宙利用の可能性はさらに広がる」と説く。

 月の資源で注目されているのは、ヘリウム3という物質だ。「夢のエネルギー源」とされる核融合発電に使えるものの、地球ではほとんど採掘できず、1kgあたり10億円とも言われる。この超希少物質が、月にはなんと数百万トン眠っているのだ。これは、現在世界で使われている電力を数千年分まかなえる量である。

 資源という意味では、現在取り沙汰されているデブリ問題も逆手に取れるかもしれない。名称こそ「宇宙ゴミ」だが、これらに使われているのは歴としたレアメタル。日本では、リネットジャパンが不要になった携帯電話やパソコンに入っている希少な金属を「都市鉱山」と呼んでリサイクルしようと試みているが、「都市鉱山」ならぬ「宇宙鉱山」が地球の周りを漂っていると言えよう。

 宇宙空間に故人の遺灰が入ったカプセルを飛ばす「宇宙葬」のようなビジネスも出てきている。これを手掛けるスペースシフトの金本成生は、「宇宙がもっと身近になれば、記念行事や芸術に使っても良い」と語る。そして、そうした日は近づきつつあるのだ。


宇宙で暮らす環境は整った

果ては宇宙旅行そして火星移住か

 宇宙は人類にとって最後のフロンティアだろう。現時点では、行くだけで危険が伴う上、コストも大きい。

 だが、大航海時代を思い起こして欲しい。アジアから貴重な香辛料を持ち帰るため、ヨーロッパ諸国はこぞって資金を出し、船団を送り出した。その中で多くの者が死んでいったが、その分の見返りは大きかった。世界史上で二番目に世界周航を成し遂げたイギリスの海賊ドレークが祖国に持ち帰った品々の総額は、当時のイギリスの国庫収入よりも多かったという。

 では、日本人にはそうした開拓者精神が無いのか。そう問われれば、全力をもって「否」と答えよう。宇宙という未知なる領域に日本人が飛び出していけない理由は何一つない。

 勝機は、低価格と小型化にある。「同じ性能の衛星を作るならば、アクセルスペースは格段に安く作れる」と太鼓判を押すのは鎌田。同社が人工衛星を1基作って飛ばすのにかかる費用は3~5億円と、今まで国が作ってきた衛星の100分の1だ。また、水1リットルを打ち上げるのに100万円ものコストがかかる宇宙業界では、日本のお家芸である小型化の技術が欠かせない。モノづくり大国の面目躍如が期待される。

 冒頭で紹介したような世界は必ずやって来る。イーロン・マスクが標榜する火星への移住さえ遠い話ではないかもしれない。飛行機、携帯電話、テレビ・・・人類は、思い描いた未来を必ず成し遂げてきた。そこにフロンティアがある限り、挑戦する。これは歴史が証明する人類の宿命である。そして、現代にあってこの任を担うのはベンチャー企業家だ。「アドベンチャー(冒険)」という語源の通り、宇宙へと馳せる自らの夢を信じて、ベンチャー企業家たちは今日も駆ける。



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