トピックス -企業家倶楽部

2016年03月10日

北朝鮮を止められるか/日本経済新聞社客員 和田昌親

企業家倶楽部2016年4月号 地球再発見 vol.1


和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。




 子供は正直だ。おかしなことをおかしいと言う。「そう簡単にはいかないんだよ」と大人の理屈で答えてみても賢い子は納得しない。その論理にスキがあるからだ。そう、子供が理解できない話はインチキだ。

 核実験を続ける北朝鮮を多くの国が「盗人猛々(たけだけ)しい」と非難を強めている。拉致被害者問題もある。子供は「それなら大量破壊兵器を持っているのを理由にイラクを軍事攻撃したんだから、そういう風にしたら?」とたたみかけてくる。

 さあ、どうする。秘密のベールに包まれる北朝鮮はいつの間にか核武装を完了したようだ。長距離弾道ミサイルも持ち、日本はおろか、北米にも到達可能な高性能型も開発ずみだ。今年1月6日には「水爆実験」に成功したと発表した。核実験は4回目だ。そんなはずはないと軽視する専門家もいるが、軍事的には常に「最悪のシナリオ」を想定しないといけない。

 多国籍軍による軍事介入は今のところ不可能に近い。イラク周辺には米に対抗できる大国がなかった。しかし北朝鮮の場合はお隣に中国という軍事大国がある。中国は朝鮮戦争以来の北朝鮮の後ろ盾であり、貿易の大半をまかなっている盟友だ。だから韓国を支援する米国なども軍事介入は想定していない。地政学的に北朝鮮は中国と韓国の間にあり、これが「緩衝地帯」になっている。

 それが北朝鮮の客観情勢だ。日本は「制裁強化」を訴え、国連安全保障理事会で制裁強化決議をしようと働きかけているが、難航している。中国が反対しているからだ。

 
 38度線南の韓国は巨大な拡声器で北に向けて金正恩体制のおかしさを喧伝し、米軍は戦略爆撃機B52を朝鮮半島上空に飛ばして北を威嚇している。これでは何も変わらない。

 そうこうしているうちに、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験を強行した。

 大人たちは頭を抱えている。でも、賢い子供から「そもそも核兵器を持とうとするのがなぜいけないのか」と聞かれるかもしれない。

 国連は70年前に創設されたが、その時に出来た組織が「安保理常任理事国」で、メンバーは第二次大戦の戦勝国である米国、英国、フランス、ソ連(現ロシア)、中国の5カ国(P5)だ。すべてが核兵器保有国である。つまり5カ国の核兵器保有は“たまたま”自動的に認められる格好になった。

 核抑止力の理論(核で攻めれば核で攻められる)が広がり、P5だけは抑止力によって戦うことがないとされた。それ以来P5の「互助会」的運営、秘密主義がまかり通っている。しかし、他の加盟国から見れば、5カ国以外が核兵器を保有しているからといって、国際社会で袋叩きになったり、国連で非難決議をされるいわれはないということになる。

 地球レベルで見ると、P5だけが「正式な核保有国」というおかしな安全保障体制が動いていることになる。「そんなあいまいな事をしていたら、北朝鮮が暴れても仕方がないよ」と子供に言われそうだが、実際に核兵器を密かに開発する国が目立ってきた。NPT(核拡散防止条約)という国際的な枠組みがあるが、これに加盟していないイスラエル、インド、パキスタンが核兵器を保有していることは周知の事実だ。

 NPTの不完全さを突いたのが北朝鮮だ。1月の「水爆実験」後の放送では「核実験は主権国家の合法的権利である」と強調していた。核を持てば抑止力になるので、保有するのは当然、というわけである。

 子供はこう反応するだろう。「確かにP5の特別扱いはおかしいね」と。「核兵器を持てるP5」と「核兵器を持てない新興国」が存在する矛盾を解決しない限り、核兵器の拡散は続く。そして北朝鮮の暴挙は止められない。

 かくなるうえは、時間がかかってもP5が自ら本気で「核兵器廃絶」を実行するしかない。北朝鮮はなお抵抗するかもしれないが、子供は理解してくれるだろうか。



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