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2016年03月14日

パリ協定、温暖化対策劣等生の日本これからどうする?/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏

企業家倶楽部2016年4月号 緑の地平 vol.29


Profile

三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。



今世紀後半には温室効果ガスの排出、実質ゼロへ

 昨年12月、パリで開かれたCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は法的拘束力のある「パリ協定」を採択し閉幕した。協定は(1)温室効果ガス(GHG)の2大排出国である中国、米国を含む196カ国・地域が排出削減の責務を負う、(2)地球の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるよう努める、(3)5年ごとに各国の目標を見直し対策を強化するなど、先進国、開発途上国が一体となって低炭素社会の実現に向け取り組むことを定めた画期的な内容(表参照)になった。

 さらに協定は「気温上昇を2度未満に抑えるためには、今世紀後半には人為的な排出と吸収をバランスさせる」と明記している。このことは、今世紀後半には「実質的な排出量ゼロ」が必要なことを示している。

 この野心的なパリ協定に日本は対応できるのだろうか。現状を見る限り極めて困難と言わざるを得ない。パリ協定達成のためには、日本のこれまでのエネルギー政策を抜本的に転換させなければならないが、その覚悟が今の日本には極端に不足しているからである。

 温暖化対策は長期間にわたる地道な努力が求められる。ところが、政府は、温暖化対策で日本は世界のトップランナーであるかのような間違った情報を国民に刷り込んできた。それが功を奏し多くの国民は現状程度の取り組みで世界のトップランナーに立っているような錯覚を抱いてきた。このため、国民の多くは、実際には日米欧主要先進国の中で、日本が落ちこぼれに近い存在であることを知らない。マスコミも温暖化対策の劣等生、日本の姿を積極的に伝えてこなかったこともあり、今度のCOP 21 でも「日本はそれなりに頑張った」との印象を持つ人が多かったのでははないか。



GHGの排出量を削減できない劣等生日本

 だが、現実は逆である。COP21を前に日米欧先進国がCOP事務局に提出した2030年のGHGの排出削減目標は日本の場合13年比26%削減(90年比18%減)だったが、EU(欧州連合)は90年比40%減、米国の「25年までに05年比26~28%減」と比べ大幅に見劣りした。電源構成に占める自然エネルギー(再生可能エネルギー)の割合も、水力を除く太陽光や風力などは数%に止まり、欧米と比べ極端に低い。

 一方、化石燃料の中で最大のGHGを排出する石炭火力発電については、米国や英国、ドイツなどが新設を禁止し、既存設備の廃炉に積極的に取り組んでいるが、日本は逆に大型石炭火力の新設、輸出に力を入れようとしている。このため、COP21の開催中も、日本は「GHGの排出削減に本気で取り組む意志があるのか」といった批判の声が会場周辺に集まったNGO、NPOの間から盛んに投げかけられた。さらに今度の会議では温暖化による海面水位の上昇で消滅の危機に直面している島嶼国が中心になりEUなどに働きかけ結成したより強力な温暖化対策を求める「野心連合」が大きな役割を果たした。米国が加わるまで様子見をしていた日本も、米国の参加を知って慌てて参加するなど米国追随の姿勢に会議参加者から失笑を買う場面もあった。

 2000年以降、日本のGHG排出量はリーマンショック後の不況の2年間と14年度を別にすれば今日まで増加の一途を続けている。京都議定書の日本の公約、「90年比6%削減」も森林吸収と外国から購入した排出量を加えることで、かろうじて目標を達成した。実際の排出量は90年を上回っていたのである。COP21の場で、「日本は本気でGHGの削減に取り組む意志があるのか」との疑問が多数投げかけられた背景には、削減実績を伴わない日本に対するいらだちがあった。



原発、火力中心のエネルギー政策が破綻

このような現状を前提にすると、パリ協定の目標達成のためにはかなりの努力が必要なことが分かる。日本のエネルギー政策の基本は原子力発電と石炭を主力とする火力発電の2本柱だった。90年代に入り、温暖化対策が求められるようになると、化石燃料に代って原発を増やすことでGHGの排出削減を目指す路線を強力に進めてきた。原発大国フランスに近い姿である。ところが11年3月の深刻な原発事故によって、原発路線は破綻してしまった。

 火力発電もダメ、原発もダメということになり、日本のエネルギー政策は完全に破綻してしまった。自然エネルギーを将来の基軸エネルギーとして育てることに消極的だった日本も、これから本気で自然エネルギーの開発、普及に取り組んでいかなくてはならない。しかし政府は相変わらず既存のエネルギー政策にこだわり、原発の復活、それまでは石炭火力で電力不足を補おうとしている。このため11年以降は温暖化対策は後手に回されている。

 2030年にGHGの排出量を13年比26%削減するためには、その時点までに20基を超える原発を稼働させなければならないが、原発アレルギーが高まっている今の日本で可能だろうか。さらに50年には「80%削減」の長期目標を掲げている。だがそれを達成するための手段が示されていない。仮に原発で対応するとなれば、原発事故前(54基)を上回る原発が必要になる。火山国であり将来大地震の発生が予想されている日本の状況を考慮すればとても現実的な対応とは言えまい。



エネルギー政策の作成、推進のための新しい拠点が必要

 パリ協定を達成するためには、第一に政府は温暖化対策で日本は先進国の中の優等生ではなく劣等生であることを国民・企業に率直に伝え、節電、省エネで奮起を促すこと、第二に原発ゼロ、低炭素、自然エネルギー中心でやっていける新しいエネルギー政策のロードマップを早急に作成・実施すること、第三に大胆な温暖化対策税の導入、排出権取引など市場メカニズムを大胆に進めること、などが必要だ。

 時代に合わなくなった既存のエネルギー政策を廃止し、ゼロベースで新しいエネルギー政策を作成・実施していくためには、原子力と石炭火力に縛られている既存の主務官庁ではムリがある。別の言い方をすれば、既存のエネルギー政策で既得権益を得てきた企業・行政・政治家の鉄のトライアングルと決別しなければならない。


 理想を言えば、この際、エネルギー行政の拠点を思い切って主務官庁の経済産業省から内閣府などに移すことが望ましい。それがムリなら、せめて省益に汚染された古手幹部を一掃し、省益よりも国益、国益より地球益を重視する課長補佐クラスの若い通産官僚の頭脳を総動員するなどの思い切った人材若返り革命によって、国家百年の計にふさわしい新エネルギー政策を作成してもらいたい。



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