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2016年03月17日

加速度的に伸びる民間宇宙産業 宇宙飛行士 山崎直子/編集長インタビュー

企業家倶楽部2016年4月号 特集第3部


「今、様々な分野と宇宙が結びつこうとしている」と期待を寄せる、宇宙飛行士の山崎直子氏。2010年、11年間の訓練期間を経て、小さい頃から夢見ていた宇宙へ飛んだ。「自分が多くの人に助けてもらったように、今度は私が宇宙に挑戦する人の下支えがしたい」と夢を語る彼女は、産官学をつなげ宇宙の可能性を広めるため奔走する。そんな山崎氏に、自身の経験や最新の宇宙ビジネス事情を聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)



2010年に宇宙へ「出張」

問 山崎さんは2010年に、日本で7人目の宇宙飛行士として国際宇宙ステーション(ISS)に約2週間滞在されましたね。その様子を我々はテレビを通して見ておりました。実際に宇宙ではどのような作業を担当されましたか。

山崎 私は15日の滞在期間中、ISSの組み立て作業に従事していました。ISSは幅100メートル、奥行き75メートル、重さが約420トンもある巨大な施設です。もちろん一度に全ての部品を打ち上げることは出来ませんから、1つがバス1台分ほどある部品を約40個、10年かけて運んだわけです。私はロボットアームを操作し、最終段階を迎えていた組み立て作業に携わりました。

問 宇宙飛行士として選抜されてから実際に宇宙に行くまで、長い年月がかかったそうですね。

山崎 宇宙までの道のりは、決して平坦とは言えないものでした。日本にある訓練センターだけでは全ての領域をカバーできず、アメリカ、ロシア、ヨーロッパなどを転々とする生活です。2003年にスペースシャトルの事故が起きた時は計画が中断し、その後の見通しが全く立たずに不安だったこともあります。結果的に、訓練を始めてから宇宙に行くまでに11年かかってしまいました。

 とはいえ、訓練ばかりの毎日ではありません。ISSとの交信を担当したり、自然科学系の実験を行ったり、マニュアルを作ったりといった地上業務に従事していました。その間はNASAやJAXAの職員として働いているため、休暇などは上司に許可をもらう必要があります。

問 まるで普通の企業と同じですね。

山崎 他に一般企業と変わりが無いという点で面白いのは、宇宙に行く際も扱いとしては「出張」という名目になることですね。「いつからいつまで出張に行きます。行き先は宇宙です」と申請するわけです。ただ、宇宙では宿泊場所も食事も用意されているため、出張手当ては出ませんでした。(笑)

 地上の訓練では、チームワークを伴った飛行機の操縦や、船外活動を仮定して、水中での宇宙服を着た作業などを行ないます。また、宇宙で病気になってもすぐに病院に行くことはできないため、簡単な注射、点滴、抜歯などの練習もします。

 宇宙飛行士になるために、健康に関して昔は厳しく制限がかけられていましたが、今は治療技術の進歩も相まって、健康面での条件が大分緩和されました。打ち上げ時にある程度のG(重力)がかかるので高血圧だと難しいですが、視力は眼鏡やコンタクトで矯正していれば大丈夫。歯もきちんとした治療がされていれば問題ありません。年齢も下限はありますが上限は無く、これまでの宇宙飛行士の最高年齢は77歳です。



8分30秒で宇宙へ

問 長い訓練期間を経て、ついに宇宙へ行くことが決まったわけですね。待ちに待った打ち上げの時について聞かせてください。

山崎 当時は宇宙船というと、私が乗ったアメリカのスペースシャトルとロシアのソユーズの2種類がありました。スペースシャトルは2011年限りで退役したので、私は最後の日本人搭乗者になります。

 下積み期間は11年と長丁場でしたが、いざ打ち上がると秒速8キロメートルの速さまで一気に加速し、8分30秒で宇宙に到達します。あまりにも短い時間の出来事で拍子抜けしました。背中を床につけた状態で打ち上がって行くので、初めは少し締め付けられるような感じはしますが、深呼吸して動けば問題ありません。

 ロケット打ち上げの瞬間の写真や映像を見ると、白い煙がもくもくと出る様子が見て取れますが、あれは実はエンジンから出る煙ではなく、轟音対策として流した1000トン以上の水が水蒸気になったものです。音は空気の震えなので、ロケット打ち上げ時ほどの大きな音になると、地面から跳ね返った音がスペースシャトルや周囲の建物を破壊してしまうほどの威力があります。その危険を回避するための方策として、水蒸気を使い跳ね返りを抑えているわけです。

 しかし、外から見ているとうるさく感じる轟音も、シャトルに搭乗している私たちからするとヘッドセットをしているので聞こえません。ただ、振動が頭蓋骨に響くので骨を通じて音を感じました。

問 いざ打ち上がってしまえば宇宙に着くまであっという間ということですね。初めての宇宙空間はどんな感じがしましたか。

山崎 打ち上げから8分30秒経ったところでエンジンが止まり、無重力状態になります。体が浮いた時、どことなく懐かしい感じがしたのを覚えています。よく、水の中で浮いていると生まれる前にお母さんのお腹の中にいた時のことを思い出して懐かしいと表現されることがありますが、その感覚に近いかもしれません。

 また、元を辿れば私たちの体もみんな宇宙のかけらで出来ているわけですから、故郷を訪ねに行くような感じでしょうか。

問 懐かしい感覚とは不思議ですが、何となく想像出来る気がします。ISS到着後はどのような生活をされていたのですか。

山崎 一度、中に入ってしまえば地上と同じ気圧で、温度も過ごしやすいように調節されているので、宇宙服無しで生活することが出来ます。地上の生活と違うところは、重力が無いので上も下もない世界ということですかね。また、ISS内はパソコン、ケーブル、文房具、補給物資などがあり、非常にごちゃごちゃしています。数ある物の管理を全て手作業でやっているので大変です。ICT技術なども進歩しているので、今後は自動的に情報を吸い上げるような仕組みになると良いですね。

問 地上の技術革新を宇宙空間でも使う動きがあるわけですね。ISS自体でもコンピュータ利用などが盛んに行われているのでしょうか。

山崎 安全が第一のISSは、滞在中の宇宙飛行士、地上スタッフ、コンピュータによって24時間体制で運営されています。現在は、人とコンピュータが対等に、お互いをチェックしながら管理をしています。しかし、将来的により遠くにある月や火星に行くとなれば、地上の助けを得ることが難しくなるので、今まで以上にコンピュータと協調することが必要です。

 その一環として、宇宙船でロボットを活用する研究が進んでいます。今はまだ会話相手になる程度ですが、ゆくゆくは手順書を口頭で説明したり、工具を取ってきたりといった支援型の役割を果たせるようになるでしょう。アメリカでは、船外活動を代わりに担ってくれる作業用ロボットも開発中ということで、期待しています。



宇宙産業は官から民へ

問 宇宙でもIT技術活用が増えてきているようですね。一方で人工衛星やロケットなど、宇宙を活用したビジネスについてはどのように見られていますか。

山崎 昨今大きな変化が起きていると感じます。従来、国家主導で進められてきたプロジェクトに、ベンチャー企業が加わってきています。宇宙産業の民間分野の伸びは年間11%で増え、人工衛星保有国は約50カ国まで拡大しました。

 個人的に、宇宙を利用したビジネスで注目している分野は4つあります。①地球観測、②アウターネット、③人工衛星を利用した①・②以外のビジネス、④宇宙旅行です。

 特に地球観測は昨今とても需要が伸びている分野です。2004年からの10年間に打ち上げられた地球観測用の人工衛星は133基ですが、これは次の10年間で倍以上になるという予測があります。

問 加速度的に伸びていくという予想ですね。

山崎 それほどまでに人工衛星の技術革新が目覚ましいということです。小型化も進んでいますし、画像技術に関しても40センチの物が識別できる所まで開発が進んでいます。40センチというと、車1台見分けられるだけでなく、その車のドアが開いているかどうかまで見えるほど鮮明な画像が撮影できます。

 宇宙空間はどの国にも属しませんので、世界で共有のものです。宇宙空間であれば地球の上空をどこでも行き来でき、データを撮ることが出来るわけですから、色々な物が見られます。中村友哉代表率いるアクセルスペースも、これを利用して北極海航路の観測を行い、既にビジネスモデルとして成立させています。

 アウターネットは、地球観測と同様に注目度の高い分野です。現在、40%ほどの世界のインターネット普及率を、人工衛星を使って100%にしようという計画で、アメリカのベンチャー企業であるスペースXとワンウェブの2社が開発をリードしています。それぞれ4000基、700基といった信じられない数の衛星を打ち上げると宣言しています。日本の運用する通信衛星はこれから打ち上げ予定のものも含めてわずか5基ですから、その数がいかに多いのか実感していただけると思います。

 以前から衛星を使ったインターネット普及のアイデアはありましたが、企画倒れすることばかりでした。しかし今回は人工衛星の小型化が急速に進み、コストも下がっているという背景があるので、実現する可能性が高い。このプロジェクトがもし現実になれば、世界の通信網にも大きな変化をもたらすでしょう。

 これらの他にも人工衛星を利用したビジネスは多数あります。近赤外線モニターを使って効率と美味しさを最大限に高める農業が実践され、茶葉や米などはすでにブランドとして発売されているほど。精度の高いGPSを自動運転や津波の早期警報に応用することも検討が進められています。



誰もが宇宙に行ける時代が到来

問 人工衛星ビジネスと一口に言っても、観測業や通信業から農業まで、様々な分野で活用できるのですね。今はまだ限られていますが、今後より多くの業界で衛星を利用したビジネスが発展するような気がします。宇宙旅行に関してはどうですか。

山崎 私自身とても興味を持っている分野です。今アメリカやイギリスを中心に、飛行機のような形をした新しい宇宙船が開発されています。離陸着陸時には滑走路を使いますが、大きめの国際空港にあるようなものであれば規模は十分だそうです。

 今のところは、高度100キロを超えた宇宙空間に5分ほど滞在してすぐに地球に戻ってくる旅行になるとのことですが、燃費がよくなれば、離陸して宇宙を飛び、他の国に着陸することも可能です。宇宙を飛んでいる間は速く飛行できるので、日本とアメリカの間を2時間ほどで移動することが出来る。空気が無い宇宙空間を飛ぶので騒音問題も発生しません。世界の主要都市を日帰りで結ぶ新しい輸送手段としても注目されています。

 アメリカには既にスペースポートと呼ばれる専用の空港が10カ所に整備されていて、イギリス、スウェーデン、ドバイ、マレーシア、シンガポールなどでも検討が進められています。日本でも有志団体によって場所の選定が行われているところです。

 宇宙船とは別の形で開発が進められているのが宇宙エレベーターです。何年か前に開発されたカーボンナノチューブという素材を使うことで、理論上実現可能になったということで建設計画が進んでいます。

 技術面や他国との協力などの面で課題はありますが、宇宙エレベーターの完成によって人の移動が出来るだけにとどまらず、輸送コストが100分の1にまで下がると言われています。そうなると、輸送コストが高いことを理由として進んでいなかった宇宙の構想が実現でき、大きな工場や太陽光発電所の建設も夢ではありません。

問 輸送機にしてもエレベーターにしても、今まで机上の空論であったようなアイデアに対して技術が追いついてきた結果、実現に向けて一歩ずつ動き出したという感じですね。

山崎 まだ宇宙と聞くと、遠い世界のように感じられる人が多いと思います。しかし意識して周りに目を向ければ、人工衛星やロケットの開発が進み、コンピュータなどの技術が進歩したことで、宇宙は様々な分野と結びつき始めていることに気付くでしょう。政府でも、官と民が協力して宇宙開発、ビジネスを進めていこうという流れが生まれています。

問 最後に、山崎さんの夢を聞かせてください。

山崎 私は現場にいて、宇宙産業は一人ひとりの想いや行動が集まって形作られていることを肌で感じてきました。ですから、これからの宇宙開発に一人でも多くの人が関わって欲しい。そのために私も色んな人の助けになりたいと思います。そしていつか、みんなが宇宙に行ける時代が来たら、私もまた宇宙に飛びたいです。




Profile

山崎直子(やまざき・なおこ)

千葉県松戸市生まれ。1999 年国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士候補者に選ばれ、2001年認定。04 年ソユーズ宇宙船運航技術者、06 年スペースシャトル搭乗運用技術者の資格を取得。10 年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙へ。ISS 組立補給ミッションSTS-131に従事した。11年8月JAXA退職。内閣府宇宙政策委員会委員、立命館大学および女子美術大学客員教授などを務める。著書に「宇宙飛行士になる勉強法」(中央公論新社)など。



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