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2016年03月22日

【竹中平蔵の骨太対談】vol. 39 宇宙はベンチャーがリスクを取れる領域になった/アクセルスペース代表 中村友哉、アイスペース代表 袴田武史

企業家倶楽部2016年4月号 骨太対談


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

 



世界のベンチャー宇宙を狙う

竹中 お二人は宇宙ベンチャーの企業家ですね。まずはそれぞれの事業内容を教えてください。なぜ宇宙ビジネスを選ばれたのですか。

中村 アクセルスペースでは超小型衛星の開発・運用を行っています。学生時代に入っていた研究室で人工衛星を打ち上げ、その性能の高さから実用化を確信したことがきっかけです。2013年にはウェザーニューズ社と共同開発した衛星の打ち上げに成功。当面の目標は2017年に3基、22年までに全部で50基の小型衛星を宇宙へ送り出すことです。実現すれば、世界中をいつでも観測できるようになります。

 ビジネスという観点では、アップルのようなケースを目指しています。アップルは端末とOSが普及したことで、多くのアプリがリリースされました。同じように、私たちがプラットフォームを作り、それを利用したいと思う企業や個人が乗ってくるビジネスモデルを作りたいです。

竹中 小型衛星というのはどれくらいの大きさになりますか。

中村 弊社で作ろうとしているものは重さ約80キロです。一般には100キロ以下の衛星を超小型衛星と言います。従来は1~4トンだったので、相当小さくなりました。

竹中 袴田さんのビジネスはいかがですか。

袴田 アイスペースは月面探査を行う小型ローバーの開発を行っています。最終的には宇宙に人間の生活圏を作ることを目指しています。宇宙で生活するには、経済が回っていることと地球を出て宇宙に行く理由が不可欠です。その第一歩として行いたいのが、資源開発のための調査ですね。宇宙ビジネスを目指したきっかけはSF映画「スター・ウォーズ」で宇宙に憧れを持ったことでした。

竹中 月面の資源探索とは、どういった資源が期待されますか。

袴田 月で注目されている資源は水です。地球上と異なり、宇宙では水は貴重な資源になります。現在、宇宙に水を届けるためには輸送コストが1リットル当たり100万円かかっていますから、もし宇宙で見つかればそのコストを抑えられます。

 また、NASAは火星の有人探査を目指していますが、地球から燃料を全て積んでいくのではなく宇宙で補給したいと考えています。そこにも水の電気分解を活用できます。

竹中 宇宙ベンチャーといえば、米国のイーロン・マスク氏率いるスペースXが有名ですが、やはりアメリカが強いライバルとなりますか。他の国の状況はどうでしょうか。

袴田 仰る通り、アメリカが一歩リードしている状況です。ヨーロッパは大きく取り上げられているわけではありませんが、100社ほどベンチャーが誕生しているようです。

中村 ヨーロッパには部品製造などB2Bの会社が多いです。面白いものでは、ロケットの打ち上げスケジュールを調整する会社もあります。中国はまだ民間レベルではなく、国家産業として行っています。



誰もやっていないからこそ挑戦

竹中 私は経済学者として多くの経済政策に携わってきました。その際、多くのことは市場に任せればいいのですが、市場だけではできないことが二つあると提言してきました。予測不可能な長期の金融と、宇宙開発です。しかし、2010年にNASAが宇宙産業を民間に解禁した時、技術面や安全面がある程度の水準に達し、民間が取れるリスクになったのかもしれません。

 とは言え、宇宙開発には膨大な資金が必要なことは変わっていないでしょう。日本の投資家はリスクを取りたがらないと思いますが、資金調達はどうされていますか。

中村 環境が大きく変わり、調達しやすくなりました。人工衛星によってデータを取れるので、実は宇宙産業はビッグデータや人工知能との親和性が高いのです。ITの広がりとともに、人工衛星の有用性が論理的に語れるようになりました。3Dプリンターの登場などの影響で「モノづくり」そのものへの関心が高まったことも一因かもしれません。

 ただ、誰もやったことがないからこそ我々は挑戦しています。にもかかわらず、前例がなければリスクは取れないと断られてしまう傾向は確かにありますね。アメリカの投資家ならば、可能性があるリスクは逆にチャンスだと捉えて飛びつきます。

竹中 宇宙産業を「モノづくり」とする視点は面白い。確かに衛星は「モノ」ではありますが、モノ自体だけではなくデータにも意味があるので、すそ野が広い産業ですね。

袴田 実はアメリカでは「宇宙産業」という言葉はあまり聞きません。初めから他の産業で使うためにデータ収集を目指しています。アメリカ全体が宇宙を活用することを前提として宇宙開発の未来を見据えていると言えるでしょう。



日本宇宙特区設立も

竹中 特にアメリカに宇宙ベンチャーが多い印象ですが、理由は技術の水準ではなく、規制に対して柔軟な法風土にあるのではないでしょうか。宇宙法は強い縛りがある規制ではありませんよね。

袴田 はい。宇宙法はあくまで国際法にすぎません。規制法としての法律を作ってしまうと自由に事業が出来なくなってしまいますから、法整備には消極的です。

 アメリカの国内法は規制というよりも、むしろ国のお墨付きといったイメージです。将来どんなビジネスができるか考えて、法律を作ってしまいます。世界で何も決まっていないので先に決めたもの勝ちになっていて、どうしても日本は後手に回りがちです。

中村 袴田さんのおっしゃる通り、法整備はまだこれからです。しかし、人工衛星は5~10年後にはインフラとして当たり前のものになっているでしょう。急速にルール作りが進むに違いありません。我々もそこに関わっていかなければならない。

竹中 インターネットのように民間でルールを作っていけるかもしれませんね。その一方で、まだ現在は単純に技術力だけで勝負できる段階。日本の強みとなる可能性もあると思います。

 研究開発には専門知識も必要になると思いますが、人材確保には苦労されていますか。宇宙産業に関わってきた人材は少ないでしょう。

中村 私は経験の有無はあまり重視していません。また、宇宙が好きという気持ちが大きすぎても冷静な目で事業を見れないという弊害があり、難しいところです。

袴田 弊社の開発方法と既存の宇宙産業の方法は異なりますから、新しいやり方に耐性があることも必要です。ただ、経験者という面では、電子機器やソフトウェア面の人材が参入しやすくなってきています。

 技術だけではなく、ビジネスを作る人も必要です。どうしても研究者肌の人が多い業界なので、考え方が研究者寄りになってしまいます。

竹中 宇宙業界として、今後の課題は何かありますか。

中村 国内に打ち上げ手段が無いことです。まだ日本の打ち上げ技術はアメリカに追いついていませんが、私は日本から打ち上げたい。海外での打ち上げとなると、最終的には宇宙に飛ばす衛星にもかかわらず輸出手続きが必要となるからです。

 日本では、今までJAXAのロケットしか打ち上げてこなかったので、打ち上げコストを下げる努力をする必要がなかった。そのため、打ち上げ費用は高額です。人工衛星の単価を数億円にまで下げたにも関わらず、このままでは高い打ち上げ費がネックになってしまい、強みを活かせません。

袴田 私は日本からの打ち上げにはこだわっていませんが、交渉をする際に打ち上げ側の立場が強すぎて交渉になりません。更に予定通りに飛ばず、スケジュールに柔軟性もありません。NASAでは開発前から打ち上げ会社と契約し、ベンチャーが打ち上げる枠を確保して自由にできるようです。

竹中 枠を割り当てるといえば、かつてのアメリカの放送局を思い出しました。テレビの土曜7時から8時を民間のものとして割り当て、ここからハリウッド映画も育ったのです。

 例えば「宇宙ビジネス特区」として地域を割り当て、その中で規制を緩和する。特区内で生産した衛星を海外で打ち上げるならば、輸出手続きを不要にするなどの施策はどうでしょうか。

中村 人工衛星などの製造特区はいいかもしれません。今後大量に作っていくのであればライン生産に近いものが必要になってきます。うまく地域全体で回せればいいですね。

 しかし、人工衛星やロケットといったハードウェアだけではなく、これからはデータを活用するためのソフトウェア面を担う企業も出てくるでしょう。それならばどこに拠点があっても構いません。

 ただ、私としては「小型衛星ならば日本」と言われる世界の拠点になりたい。今後の需要が見込まれるのは、新興国です。しかし、アメリカの宇宙産業は閉鎖的なので、技術を提供しないでしょう。そこに勝機がある。宇宙には国境がありませんから、いかにグローバルに関係を築けるかが大切になります。

袴田 私も宇宙ビジネスがソフトウェア事業に移ることは間違いないと思いますが、日本の強みはハードウェアをしっかりと作り込めるところ。これは日本で担いたいですね。

 一方、日本の市場だけでビジネスを展開するための仕組みは作ってほしくありません。たとえ国内で成功して資金が入っても、長期的に考えれば日本の市場は小さすぎます。最終的には世界という大きな市場を狙わなければ、生き残れなくなってしまいます。



物事を宇宙規模で考える時代へ

竹中 技術面の問題が解決され、実際にビジネスとして動かすことを考えた際にはどのような問題が生じると予想していますか。

袴田 市場の開拓がまだ出来ていないことです。世界を巻き込みつつ、日本という国も合わせて動かしていく必要があります。そして、世界のライバルに立ち打ちできるポジションを作らなければいけません。

中村 新しい産業ですから、潜在力はあってもまだ具現化はしていません。我々がお客様と一緒に新しくサービスを作っていくことが必要になります。アメリカも進んでいるように見えますが、期待先行で投資が盛んなだけ。まだ産業としては成熟していません。

 だからこそ、宇宙を利用したグローバルな需要を一つひとつ確認し、ニーズに応えるものを提供しなければいけない。衛星を作る道筋はもう見えています。そこから取ったデータをどう活用するか丁寧に展開することが大事になっていくでしょう。

竹中 今は世界に宇宙産業の価値を伝えられるかの瀬戸際ですね。元々は国家産業であった宇宙開発ですが、政府との関係はどうですか。

中村 宇宙戦略室の方とはよくお話します。100年先の国家を見なければいけないのに、各省庁の省益のことが頭によぎるようです。国として宇宙をどう捉えるかといった大きな話し合いが必要になります。

袴田 どうしてもアメリカとの兼ね合いで「宇宙ステーション事業の延期の理由をどうすべきか」といった議論になってしまいます。

 今はまだ「国家予算=産業規模」という段階から完全に抜け出せてはいません。だからこそ、日本として限りある予算をどの分野に投入するか決めるべきです。例えば、カナダはロボットアームに集中し、今では国際宇宙ステーションで採用されています。もちろん、先進国としてどの領域に関しても一定レベルの水準は持っていたいという気持ちは分かります。ただ、民間企業が強みを生かせる場を探すように、国としてもそういった戦略が必要ではないでしょうか。

竹中 そのためには社会全体の宇宙への認知度を高めていかなければなりませんね。

袴田 その通りです。ただし、関心の種類が大事になります。宇宙に人気があることは変わりませんし、「宇宙ビジネスをされているなんて凄いですね」と言っていただける機会は多い。しかし、「凄い」と言われた時点でまだ宇宙産業が実際のものとして見られていない印象を受けます。多くの人の中で、宇宙はまだ夢やロマンで止まったままなのです。

 小惑星探査機「はやぶさ」が日本で話題になり、宇宙への関心を更に高めたことは事実だと思います。しかし、あの関心は科学的成果にではなく、はやぶさの困難溢れる物語に対してだったように思います。

竹中 一般的に宇宙はまだ「夢物語」という認識ということですね。

 地球規模で物事を考えようと、グローバリゼーションという言葉が流行っています。しかし、今後は全てを宇宙規模で捉える「スペーサイゼーション」の時代が到来するかもしれませんね。

 お二人は「あんなベンチャー企業家になりたい」と思われる存在になる入り口に立たれているところだと思います。頑張ってください。



袴田 武史 (はかまだ たけし)   

1979年生まれ。2004年名古屋大学工学部卒業後、ジョージア工科大学大学院進学し、修士号(航空宇宙工学)取得。コンサルティング会社を経て2010年より、民間月面ロボット探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本唯一のチーム「ハクト」を率いる。運営母体を13年ispace社と組織変更し、代表に就任。


袴田 武史 (はかまだ たけし)   

中村 友哉(なかむら ゆうや)

1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、3機の超小型衛星の開発に携わる。うち02年に完成、03年に打ち上げ成功した「Cube Sat」は学生が作った世界初の超小型人工衛星となる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。


中村 友哉(なかむら ゆうや)

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。73年一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年小泉内閣に初入閣、04年参議院議員に初当選。06年政界引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長就任。14年国家戦略特区の特区諮問会議のメンバーに就任。


竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

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