トピックス -企業家倶楽部

2016年03月25日

50基の人工衛星で新時代のインフラを作る/アクセルスペース代表 中村友哉

企業家倶楽部2016年4月号 特集第2部




3億円で衛星を持てる時代

「超小型衛星の利用を爆発的に広めたい」

 そう語るのは、世界で初めて民間商業用衛星を開発したアクセルスペース(東京・千代田区、未上場)代表の中村友哉だ。人工衛星は今や、通信・気象観測など様々な面で我々の生活を支えている。だが、そのほとんどは国・大学が研究目的で開発を進めてきたもの。民間ではこれまで、開発環境の厳しさから商業化まで結びついてこなかった。アクセルスペースはその歴史を塗り替え、業界の先駆者として未踏の地を進み続けているのだ。

 同社は現在、超小型の人工衛星を開発している。その特徴は、圧倒的な低コストだ。従来の大型衛星は数百億円もかかる代物で、民間企業が買うにはあまりに高額であった。だが、同社の衛星はそこに風穴を開けている。その値段はなんと約3~5億円。大型衛星の100分の1という驚きの低価格を実現したことで、民間でも十分買える製品となった。無人衛星であるため、低価格の民生部品で目的を果たせるのが安価の一因となっている。また、顧客のニーズに応じて、赤外線カメラの搭載など独自機能を追加できる点も大きなメリットだ。

 実際に、同社の衛星は世界最大の気象情報会社ウェザーニューズによって購入された。主な使用目的は北極海域における海氷の観測だ。実は近年、氷が溶けている影響で、この一帯を航路として利用できる。そこで役に立つのが人工衛星。宇宙から得られる海氷分布情報を通行船舶に届けることで、船会社は安全な航行が可能かを判断できる。

 こうした超小型衛星のニーズは年々上昇しており、民間にとどまらず行政利用したいという地方公共団体も現れている。今後は更に潜在的需要が開花していくだろう。



衛星ビジネスを180度変える

 だが、彼らの目指す場所は更にその先にある。衛星利用の世界的普及だ。そこで鍵を握るのが、今後取り組む新事業計画「Axel Globe(アクセルグローブ)」である。中村が「従来の衛星ビジネスを180度変える仕組みにしたい」と意気込む計画の内容はまさに壮大。「GRUS(グルース)」と名付けられた超小型衛星を使って、地球上の全地域を毎日観測するというのだ。

 全域をカバーできる理由は以下の通りである。多数の超小型衛星を同一軌道上に入れ、地球の周りを転回させる。その中を地球自体が自転するため、自動的に全ての地域をカメラに収められるというわけだ。

 では、計画の実現には何基の衛星が必要なのか。中村に目標を聞くと「2017年に3基、2020年に10基、2022年までに合計50基の自社衛星を飛ばすことです。このペースでも遅いくらい」と力強い答えが返ってきた。50基あれば全球をカバーできるという計算だ。

 衛星写真を提供するサービス自体は、米国にも同種の競合他社がいる。ただ、アクセルスペースは、彼らに無い強みを三つ持っている。

 一つ目は、コストの違いだ。これまでの衛星画像は一枚100~200万円が相場だった。高価な理由は、人工衛星で写真を撮る場合、日時と経度・緯度を指定して衛星がその地点に来た時に撮るためだ。つまり、撮影機会が限られていたために希少価値が増していた。アクセルスペースの場合、多数の衛星で毎日全球の写真を撮れる上、過去の写真もストクしておく。すると、顧客から要請があればいつ・どこの写真でも瞬時に用意できるため、値段も安く設定できる。

 二つ目の強みはビジネスモデルの違いだ。米国の人工衛星は、1メートル単位の細かい解像度で8キロメートルほどの狭い範囲を撮る。その使用目的はセキュリティー対策で、国や軍に買ってもらうためだ。ただ、写真が精密になるほど個々人のプライバシーに抵触する危険性は高まる。

 一方でアクセルスペースの衛星は、解像度では2.5メートル単位と米国製より粗い。しかし中村は、「2.5メートルで十分」と意に介さない。同社では、あえて細かい識別能力を付けないことで、一基で57キロメートルという広範囲をカバーできる設計にしているのだ。米国製と比べると桁違いの広さ。その意図について、彼はこう語った。「広い範囲を撮るほうが価値が高いと思っています。この概念は米国にはまだありません」

 さらに中村が重視するのが、写真に留まらず、その分析から得られるデータも提供する点だ。ある地域における都市化の進行具合を把握したい企業に対しては、時期別の写真を比較分析して得られた結果を渡すという具合だ。こうした活用法について中村は、「一枚一枚画像を売っても、それらを解析しないと役に立たない場合がほとんどです。その場合、ニーズに応えるデータを渡すことで付加価値が大きくなる」とその意図を述べた。

 そして、三つ目の強みは資金提供者の違いだ。米国企業の場合、資金調達相手はベンチャーキャピタルになる。彼らは株式の売却による儲けを得るのが主な目的なので、企業に対して利益を出すことを最優先に求めてくる。一方でアクセルスペースには、宇宙ビジネスに取り組みたいと言う複数の事業者も出資している。彼らは、本当に使える製品やサービスを作って欲しい思いがあるので、製作側も開発に専念できるのだ。


衛星ビジネスを180度変える

ターゲットは新興国

 アクセルグローブを活用できる分野は数え切れない。農業への利用が分かりやすい例だろう。広大な農地を撮ることで、農地の状態・作物の収穫時期を把握できるのだ。その他にも、パイプラインの監視・工事の進捗把握など様々な用途が考えられる。また、このシステムは民間にも開放し、特殊な解析方法を思いついた人が独自のアプリケーションを作れるようにする予定だ。世界中の人がアプリを提供するプラットフォームとなれば、普及は飛躍的に進むだろう。

 そんな彼は、アクセルグローブによって「新しいインフラを整備したい」と語る。見据えるターゲットは世界だ。その中でも「インフラの発達した先進国と比べて、これから発展していく新興国のニーズが大きい」と分析。東南アジア、南米、中東などにはインフラが未熟な国が多数存在する。国内の全地域を撮影する技術を持たないために、自国の地図を作れない場合すらあるのが現状だ。そうした国にとって、1枚100万円を超すような従来の衛星画像を購入する余裕は無い。だからこそ、低価格でデータを提供できる同事業は重宝されると中村は考える。



おもちゃというレッテルに奮起

 だが、なぜ彼は商業化の難しかった宇宙ビジネスの中でも超小型衛星に目を付けたのか。起業のルーツは大学時代にあった。

 2002年、東京大学に在学中だった中村。本人は「それまで宇宙に興味は無かった」と明かすが、ある出来事をきっかけに衛星の魅力に引き寄せられていく。転機となったのは、航空宇宙工学を専門とする中須賀真一の研究室に入ったことだ。そこでは当時、世界で初めて学生主導で超小型人工衛星を製作するプロジェクトが立ち上がっていた。中村も果敢に挑戦するが、右も左も分からない分野に悪戦苦闘。それでも遂に、手のひらに収まる小さな人工衛星を完成させた。「こんな経験は他ではできない」。衛星製作の面白さに感激した彼は、この時から研究にのめり込んでいく。その熱中ぶりは「論文を書くのもそっちのけで衛星を作っていた」と笑うほどだ。

 しかし彼の情熱とは裏腹に、研究室で作った衛星に対しては冷ややかな反応もあった。必死で完成させても、あくまで教育用に使うおもちゃという見方しかされなかったのだ。「実用的ではないというレッテルを貼られました」と振り返る中村。当事者である彼の考えは全く違った。衛星を作る度に性能は大幅に向上しており「実用化できる確信がありました」と言うのだ。「小型衛星の利用を広めたい」という大きな志が生まれた瞬間だった。

 そこで、小型衛星を製作する民間企業に就職しようと考えたが、どれだけ探しても見つからない。それもそのはず、当時の日本は宇宙ビジネスという考え自体が珍しい時代だ。彼の求める企業は存在しなかった。「自分で起業するしかない」。こうして彼は、未開の荒野へ足を踏み入れることとなった。


おもちゃというレッテルに奮起

顧客不在で起業を諦めかける

 しかし、起業を目指す中村を待っていたのは茨の道。「起業前が一番苦労した」と語るほど、宇宙ビジネスの環境は整っていなかったのだ。彼は当時、衛星を購入してくれる顧客企業を探そうと奔走していた。熱心に声をかけるが、担当者の反応は一様に優れない。理由は明白だった。誰も衛星を使うビジネスなど経験したことがないので、どう事業に活かせるのか分からないと言うのだ。結果、どの企業からも利用を断られてしまう日々が続く。顧客がいなければビジネスそのものが崩壊してしまう。「起業は無理かもしれない」。厳しい現実を前に、もはや活路は無いように思えた。

 だが、諦めかけていた中村の元に一つの話が舞い込む。ウェザーニューズが衛星を購入したがっているというのだ。この出会いが彼を窮地の底から救った。作った衛星は約3億円で売れ、アクセルスペースはついに売上げを出す。これまでの宇宙ビジネスでは、事業として利益を出すところまで進んだ企業は存在しなかった。アクセルスペースの一歩が、業界の歴史を動かしたのだ。



宇宙産業勃興の兆し

 そんな同社が進む次のステップに位置するのが、前述のアクセルグローブである。実現には50基の衛星を打ち上げる必要があるが、これまで開発したのはまだ3基だ。当然、課題は山積みである。資金調達や人材確保はもちろんだが、他の業者に頼る部分も出てくる。その一つが、衛星を打ち上げてくれるロケットの存在だ。同事業では全ての衛星を同一軌道内に入れる必要があるが、希望の軌道に入れてくれるロケットを完成させた会社はまだない。打ち上げを事業に含まないアクセルスペースにとっては、開発が待たれるばかりだ。

 ただ、明るい兆しも見え始めている。例えば、政府が宇宙ビジネスの支援に積極的な姿勢をとっていることだ。国のみで開発を進めるのは負担が大きいので、彼らにとって民間の参入は大歓迎。企業側としても、政府のお墨付きをもらって海外に製品を売り出せれば心強いだろう。「宇宙ビジネスが盛り上がっている印象はある」。国からの追い風を受けて、中村自身も手応えを感じている。そんな彼の想いを乗せたアクセルグローブが実現した時、宇宙は我々にとって今より身近な存在となるに違いない。

 小さな衛星に見果てぬ夢を託すアクセルスペース。遥か彼方を目指す彼らの挑戦はまだ始まったばかりだ。



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