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トピックス -企業家倶楽部

2016年03月28日

宇宙の資源開発に挑む/アイスペース代表 袴田武史

企業家倶楽部2016年4月号 特集第2部





 月面探査の国際賞金レース「グーグル・ルナ・エックス・プライズ(GLXP)」が、2017年末の期限を前に白熱している。GLXPは、民間開発の月面探査機を月に着陸させ、500メートルの走行、動画・画像の撮影といった規定課題をこなす早さを競うもので、優勝チームには賞金20億円が与えられる。その他にもボーナスミッションが設けられ、賞金総額は30億円にもなる大規模な国際レースだ。

 レース開始当初は30以上のチームがエントリーしていたが、現在残っているのは16チーム。そんな中、日本から唯一参加しているチーム「HAKUTO(ハクト)」が健闘している。チームを運営するアイスペース(東京・港区、未上場)代表を務める袴田武史は、「レースの勝算は十分にある」と自信たっぷりだ。

 ハクトがレースで使用する宇宙探査機(ローバー)は、現在開発の最終段階を迎えている。昨年、同じくGLXPに参加しているアメリカの宇宙開発企業アストロボティック・テクノロジーのロケットに相乗りする形で、2016年後半に月へローバーを打ち上げる計画を発表した。



世界が認める探査機でレースを戦う

 ハクトが開発するローバーの強みは、何と言ってもその軽さとスピードだ。他のチームの探査機が軒並み20~30kgの重さの中、ハクトのローバーの重量はたったの4kg通常、探査機は1台に様々なセンサーや機器を積むため、その分だけ大きく重くなっていく。一方、今回ハクトが作ったローバーに搭載されているのは、360度の撮影が可能な4台のカメラ、障害物回避などを判断する基礎的な自律性AI、そして走行速度を上げるための大きなタイヤなどで、シンプルな作りだ。レースミッションの遂行に不可欠な機能に絞ることで、圧倒的な軽さを実現した。

 彼らが軽量化にこだわる理由は、高額な打ち上げ費用にある。現在、民間開発のロケットで地球から月へ行くためには、1kgあたり1.4億円のコストがかかる。「これでも安価な方で、政府のロケットを使うと金額はさらに跳ね上がる」と袴田は言うが、いずれにせよベンチャー企業が気軽に出せる金額ではない。

 当然運ぶ物が重くなれば、費用も比例して上がる。GLXPのプロジェクト全体を通したハクトの目標コストは10億円。4kgのローバーですら、単純計算で打ち上げに5.6億円かかるため、これ以上重くなると目標金額内で収まらない。必要な機能は維持しつつ、いかに軽くするかが課題だ。

 ただ、レースである以上、スピードも重要だ。他のチームよりも早く、砂で覆われた月面を500メートル走らなくてはならない。障害物を検知し緊急停止するといった原始的な動きはAIが実行するが、走行などの基本操作は地上から行う。

 その速度は、ライバルチームが「ハクトのローバーは走るのが速い」と羨むほどで、袴田も「月面に降りられれば、我々が一番早く走れる」と自負する。走行面での技術的成果を評価され、ハクトは2015年1月に発表された同レースのマイルストーン賞(中間賞)で月面移動サブシステム中間賞を受賞した。

 驚くべきは、レースに向けて万全の機能を備えたローバーの大部分が、日常の中にある様々な機械の部品(民生品)から作られているということ。レースに勝つことだけが目標であれば、大量の資金を投じて最新の宇宙専用部品を使うのも手だろう。しかし、ハクトが見据えるのはあくまでレースが終わった後の事業化。だからこそ、「身近」で「低価格」にこだわった探査機で世界に挑もうとしているのだ。



世界初、月の縦孔を探査

 袴田はビジネス化の第一歩として、GLXPを「壮大な技術構築および実験の場」と捉えている。技術試験は小規模で安く済ませるのが定石。しかし宇宙ビジネスの世界では、実際に月にものを飛ばして動作を確認した時点で初めて実績と呼べる。だからこそ袴田は「GLXPを利用して、技術のデモンストレーションをしたい」と語る。このレースは、今後の事業化に向けた世界へのアピールでもあるのだ。

 現在、同社が得る収益はほとんどが広告事業によるもの。ハクトのプロジェクトに賛同する企業にスポンサー・パートナーとなってもらい、スポンサー費を調達するという形をとっている。スポンサーであること自体が広告効果をもたらし、企業価値を上げる仕組みだ。

 しかし、2017年末にはGLXPのプロジェクトは終わりを迎える。結果がどうなろうと、今のビジネスモデルだけでは、その後の見通しが立たない。袴田が意識するように、これからはレースと並行して事業化への布石を徐々に打つ時期に入ってくるだろう。

 そこでアイスペースが目を付けたのが、水や鉱物資源をはじめとする宇宙での資源開発だ。ハクトはGLXPのミッション遂行に加え、月面の縦孔(たてあな)探査を計画している。縦孔およびその先にある月の洞窟内部の様子は軌道上の衛星から捉えることが難しく、探査が成功すれば世界初のデータとして高い研究的価値を持つ。そこからは、月が誕生した経緯、基地建設地としての可能性、そしてハクトの本命である資源の存在が明らかになるだろう。



地球外の水や鉱物が宇宙産業を活性化

 水や鉱物資源の発見は、今後の宇宙開発を大きく前進させる。

 地球から宇宙へものを運ぶには膨大なコストがかかるが、人類の生活に欠かせない水もその例外ではない。水1リットルを宇宙に運ぶのにかかる費用はなんと100万円。もちろん宇宙で構造物を作るためには、資材も地球から持参せねばならない。

 つまり、今後人類が宇宙で活動の幅を広げるためには、輸送コストを劇的に下げるか、宇宙空間で資源を得るか、どちらかの実現が必須課題なのである。

 袴田は資源開発がもたらす恩恵について、「水は、月面基地での重要な資源となるだけでなく、水素と酸素に分けることで燃料ができ、ロケットや衛星に補充できる。月を経由した火星到達も夢ではない」と説く。地球から直接火星など遠くの天体に行こうと思うと、燃料を多く積みこまねばならないためロケット自体が重くなり、費用がかさむ。だが、月に寄って燃料補給が出来れば、打ち上げ時の重量軽減に貢献できる。また、地球よりも重力の小さい月からの打ち上げであれば、少ないエネルギーで他の天体を目指せるというわけだ。

 こうした大きなプロジェクトは、学術的な探求が目的のため政府主体であることが多い。それゆえ「水を燃料源として使うモデルは、まず政府の需要に答えられるはず」と袴田は分析。同時に「メディアが取り上げないだけで、民間需要も増えている」と指摘する。特にアメリカの富豪たちのビジネスへの嗅覚は鋭い。

 世界最大の宇宙ベンチャー、スペースXを率いるイーロン・マスクは、地球の環境悪化を危惧して火星への移住を公言。また、アメリカでモーテルチェーンを手掛けるホテル王ロバート・ビゲローは、ビゲロー・エアロスペースを創業し、自己資産500億円を注ぎ込んで宇宙ホテル経営に向けた開発に乗り出した。すでにいくつかのモジュールが打ち上げられ、国際宇宙ステーションとのドッキングに成功している。

 宇宙における資源採掘は今後、より効率良く低コストで宇宙開発を進めるために、国家・民間を問わず欠かせないものになるだろう。


地球外の水や鉱物が宇宙産業を活性化

宇宙資源の採掘権で収益化を狙う

 資源開発をどうビジネスにして収益化するか、袴田はアイスペースの立ち位置を慎重に見極めようとしている。

「今のところは、宇宙での資源開発も地上のそれに近い方法が採用される可能性が高い」と袴田は言う。地球での資源開発の手順に則ると、初めにすべきことは採掘場所の特定だ。アイスペースの場合は、月面の縦孔がその対象として決まっている。場所を定めると、次は現場に行って資源の有無と埋蔵量を確認する。資源があると確証を得たら、それから採掘のための施設を作り、実際に資源を売買する。

 もちろん、この一連の流れをアイスペースが全部担うわけではない。なぜなら、大量の資源を採掘して製造するには、莫大な資金を投じなくてはならないからだ。そのためアイスペースは、資源を見つけた段階で大手企業に採掘権を売り、実際の採掘と売買は他社に一任するビジネスモデルを目指している。

 しかし、宇宙で資源を売買するには大きな壁が立ちはだかる。「資源開発の市場が広がり続ける中、たびたび議論になるのが所有権の問題です。それが定まらなければ、資源があったとしても売買出来ない」

 宇宙開発において、現在国際法として効力を持っているのは1967年に国連総会での決議を経て発行された「宇宙条約」だ。ここでは宇宙空間の探査・利用の自由、領有の禁止、平和目的での利用などが規定されているが、「実態は玉虫色で、読み方によって様々な解釈が出来てしまう曖昧な条文」だという。約50年前に作られた条約ということもあり、制度疲労を起こしている面もある。

 資源開発に関して「宇宙での所有権は認めない」と読める文面はあるものの、明記はされておらず抜け道はある。アメリカでは、2015年11月に「2015年宇宙法」が成立した。米国内の資源開発を手掛けるベンチャー企業のロビー活動に後押しされる形で出来た法律で、「小惑星において、水や鉱物をはじめとする資源の商業的な探査と利用を認める」とはっきり書いてある。しかしこの2015年宇宙法、天体を含む宇宙空間に関していずれの国家の専有も許さないとする宇宙条約に反しているという声もあり、今後大きな論争となっていくだろう。

 袴田は現状を受けて、「宇宙開発と言うと技術寄りのイメージがあり、法律、政治、ビジネス面は手薄になりがちですが、これから重要なのはそうした他分野からのサポート。一緒に産業の枠組みを作っていきたい」と現場の想いを語る。

 宇宙の資源開発は、まだ世界的にも挑戦の少ない未知の領域だ。そこに先陣を切って挑む日本発のベンチャー、アイスペースから目が離せない。



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