• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2016年03月29日

誰もが宇宙旅行に行ける時代を/PDエアロスペース代表 緒川修治 

企業家倶楽部2016年4月号 特集第2部




パイロットへの夢、宇宙機へ繋ぐ

 人類が宇宙へ抱く夢といえば何だろうか。やはり、宇宙旅行だろうか。それとも、日本からアメリカまでわずか2時間で移動できるような超高速移動だろうか。SFの世界だと思われていた話が今、現実になろうとしている。この夢を叶えるべく奔走するのが緒川修治率いるPDエアロスペース(愛知・名古屋市、未上場)だ。

 実は緒川、青年時代の夢はパイロット。26歳という年齢制限までに合格は果たせなかったものの、航空機への熱意が失われることはなかった。三菱重工で次世代戦闘機の開発に携っていた際、宇宙飛行士の募集が始まったことを耳にする。

「これだ!」

 緒川は宇宙飛行士を目指すことを即決。年齢制限は40歳だったが、まだ時間はあった。早速、東北大学大学院の門を叩き、航空エンジンの研究と宇宙飛行士試験のための勉強を開始する。

 ところが2003年、不幸な事故が起こった。スペースシャトル「コロンビア号」の空中分解事故だ。7名の宇宙飛行士の尊い命が犠牲となった。

 この大惨事に際し、原因究明のため各国の宇宙開発はストップ。これでは40歳に間に合わない。パイロットの夢、ここで潰えるか。諦めるべきか悩んでいた緒川に、転機が訪れる。アメリカでわずか50人のベンチャー企業が、ロケットの開発・製造に成功したことを知ったのだ。

「チャンスが来るのを待っていては駄目だ。自分で作ろう」

 こうして、2007年に故郷である名古屋でPDエアロスペースを起業。たった一人でのスタートだったが、ついに夢の「宇宙機」開発をスタートさせた。


パイロットへの夢、宇宙機へ繋ぐ

39万8000円で宇宙へ

 宇宙旅行といえばロマンに溢れるが、まだ現実は厳しい。大きな障壁として考えられるのは消費者保護法だろう。かつて悲惨な事故があったように、宇宙への道のりには危険が伴う。プログラムに参加するとなると、命を落とすことがあっても自己責任であることを認める書類にサインが必要になるだろう。契約社会のアメリカでは成立するが、日本ではこのような書類は効力を発揮しない。消費者にとって不利益な契約は無効とされてしまうのだ。万が一のことがあり、遺族から訴えられてしまえば企業側に勝ち目は無い。

 更にコスト面にも問題がある。例えば、実際に英国のヴァージン・ギャラクティック社が予約販売を開始した宇宙旅行を見てみると、宇宙に滞在できる時間はわずか5分。にもかかわらず、販売価格は約2500万円と高額だ。地球を見たという感動は素晴らしいに違いないが、これでは宇宙に行ける人はごくわずか。宇宙は身近に感じられない。

 一方、緒川の目標額は39万8000円。その心は、「今、高価な家族旅行として考えられるのはヨーロッパ旅行。そこと値段を合わせれば、十分手が届く範囲になる」と語る。

 この価格を実現するため、緒川の宇宙機は通常のロケットとは一線を画す。まず、現状のコスト高の一因である打ち上げをそもそも必要としない。なんと航空機のように自力で離着陸するというのだ。

 打ち上げるためにロケットが十分な推進力を得るためには、質量が小さいことが望ましいとされている。空の燃料タンクや使い終わったロケットエンジンを宇宙空間で切り離す方法が一般化しているのはそのためだ。

 しかし、高価なロケットを使い捨て、毎回作りなおしていてはコストは削減できない。いかに効率よくロケット機体を再利用するかがコスト削減のカギとなっているのである。スペースXのイーロン・マスクは「ロケットを再利用できれば打ち上げコストは100分の1程度に下がる」と述べている。そのため各社が注目しているのはエンジン部分だ。

 そもそもエンジンには2種類あり、飛行機などにも使われる通常のジェットエンジンは周囲の酸素を取り込み、燃焼させる。一方でロケットエンジンは酸化剤と燃料によって爆発を起こすことで推力を得ている。しかし、酸化剤は非常に重く、軽量化の流れにはそぐわない。

 前述のヴァージン・ギャラクティック社は、空気が活用できる範囲はジェットエンジンを搭載した母機で子機を運び、空気層がなくなる地上15km から子機自身のロケットエンジンに点火、発射する方法を提唱した。しかし、機体が違えば必要な技術も異なる。これでは母船とロケットの2機分の機体やメンテナンスが必要となってしまう。

 一方、スペースXやアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスが創立した宇宙開発ベンチャー、ブルーオリジンは、逆噴射に着目した。逆噴射とはエンジンの噴射を進行方向と逆方向に噴射することで航空機などの動きを制御する方法だ。各社とも2015年には打ち上げたロケットを垂直状態で着陸させることに成功している。

 しかし、日本のベンチャーも負けてはいない。「弊社のエンジンならば機体の再利用、軽量化を同時に叶えることができる」と緒川が自信を持っているのは自社開発の「パルスデトネーションエンジン」。ジェット燃焼とロケット燃焼を単一エンジン内で切り替えられるというものだった。この技術が認められ、2012年に特許を取得。機体やエンジンは一つで済むので、最大55%のコスト削減が可能。構造が単純なため安全性も向上する。

 そんな夢のエンジンを開発した緒川は、小学生の頃から発明家の父の研究を手伝ってきた。エンジンに関する実験に携わることなんと20年以上。同技術は、長年の経験と研究心から来る成果の賜物だったのである。



宇宙旅行者訓練プログラム始動

 さて、宇宙旅行のためには、宇宙に旅立つための空港が必要となる。いわゆるスペース・ポート(宇宙港)だ。アメリカ・ニューメキシコ州では既に建設されたが、2014年に日本でも開発の動きがあった。それを牽引していたのが緒川だ。

 予定地は沖縄・下地島。JALやANAのパイロットの飛行練習場跡地だった。いずれ宇宙港として開発しようと目を付けていた矢先に、沖縄県が使用事業者の募集を開始。3D技術などの発達により、実際の訓練に大規模な施設が不要となり、緒川の想定よりも早く売りに出されてしまったのだ。

 沖縄県としては居抜き物件として眠らせて置くのは惜しいため、すぐにでも使って欲しいところ。しかし、緒川の宇宙機はまだ完成していない。ビジネスとして活用する提案が必要だった。

 そこで緒川が提案したのが、宇宙港に関する7つの付帯事業だった。①宇宙旅行訓練、②宇宙機のパイロットスクールとしてプライベートライセンスやプロライセンスの取得支援、③F1カーの試走など多目的試験場としての貸し出し、④航空宇宙ベンチャーの支援、⑤ベンチャー企業や起業を志す人を育てるスクール、⑥人工衛星打ち上げ、⑦宇宙旅行である。まさに日本の宇宙産業の総合施設を目指したのだ。

 最終的には他社が権利をとることになったが、緒川は諦めていない。その付帯事業を国内の各地で展開しようというのだ。

 まず第一弾として愛知県豊山市のダイヤモンドエアサービスと提携し、宇宙旅行訓練プログラムをスタートする。宇宙旅行に行きたい人や自分が宇宙に行けるか知りたい人には、メディカルチェックを含め、宇宙の無重力空間体験を提供する。

 というのも、今までは民間人は宇宙に行くことができなかったため、まだ宇宙に行くための健康基準などがわからない。将来の宇宙旅行の一般化に備えて、基準を作成することも目的だ。更に、今後はヘルス関連会社と提携し、宇宙に行ける体質への改善プログラムを提案することも構想中だという。

 ターゲットも実際に宇宙旅行を考えている人には絞らない。宇宙旅行はまだ高価で手が届かないが、宇宙の無重力空間を体験してみたい人が楽しめるプランもある。宇宙旅行が人類の長年の夢であったことを考えると、十分集客は期待できそうだ。


宇宙旅行者訓練プログラム始動

宇宙発電で世界に電力供給

「宇宙旅行は将来の成長戦略への第一歩目」とする緒川の抱く構想は果てしない。宇宙旅行として地球と高度100km以上の場所を往復することができれば、様々なことが可能になるという。

 まずは高度100km以下の世界。大気観測だけではなく、航空機型の即応性を活かした海難事故救援支援や火山等危険地域の多目的観測などを行う。そして、単一機体内でジェットエンジンとロケットエンジンを切り替えることで、宇宙機を他の地域に着陸させれば二点間飛行となり、超高速輸送が可能になる。東京から飛行機で13時間かかるニューヨークが、たったの2時間で行ける計算だ。

 また高度100 km以上でロケットを空中発射すれば、衛星の軌道投入を行える。他天体の鉱物資源獲得や国際宇宙ステーションへの物資輸送、宇宙発電が期待されている。

 宇宙発電とは、宇宙にソーラーパネルを並べて太陽光発電をしようというものだ。2キロ四方のものを並べることに成功すれば、原子炉1基分の発電量に相当。電力不足の解決も見込まれている。

 発電された電気はマイクロウェーブで地球に送電することができる。日本国内に32ヶ所の拠点があれば、確実に受信可能だとの研究結果もある。もちろん、衛星の軌道を調整すれば全世界的な電力ネットワークを構築することも可能だ。

 今や宇宙は人類のロマンというだけの存在ではなくなりつつある。様々な地球規模の問題を解決する可能性を秘めているのだ。そして、誰もが宇宙から青い地球を眺めることができる日は着実に近づいている。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top