トピックス -企業家倶楽部

2016年03月31日

低価格ロケットで民間需要に応えたい/インターステラテクノロジズ代表 稲川貴大

企業家倶楽部2016年4月号 特集第2部





北海道・十勝にある実験場で、日々ロケット開発に励んでいる宇宙ベンチャーがある。その名もインターステラテクノロジズ(東京・文京区、未上場、以下インターステラ)。彼らが注力するのは、小型人工衛星専用の打ち上げロケットだ。

 現在、社員は8名。同社代表の稲川貴大を含めて全員がエンジニアだ。「これまでは国が担うのが当たり前だったロケット開発という分野ですが、我々のようなベンチャー企業でも本当に宇宙に行けることを示したい」と意欲を燃やす。

 ロケットと聞いて、多くの人が想像するのはスペースシャトルかもしれない。全長は約56メートル。カラーリングも白基調とシンプルだ。しかし、インターステラのロケットはそういった従来のタイプと異なり、全長4メートル前後と小型でカラフルなデザインが特徴となっている。

 その開発の歴史は2005年まで遡る。宇宙機エンジニア、科学ジャーナリスト、作家らが集まって「なつのロケット団」という任意団体を結成。民間による宇宙開発を掲げ、ロケット開発に着手した。そんな彼らの事業を引き継ぐ形で、2013年にインターステラが設立された。

 稲川は「そもそも宇宙ビジネスには大きく分けて2つの形態がある」と説く。一つは、人工衛星を使った通信業や観測事業。もう一方は、ロケットを使って地球から宇宙もしくは地球上の他の地点に物を運ぶ輸送業だ。超小型人工衛星を打ち上げて地球周回軌道へ届けるインターステラの事業は、もちろん後者。いわば「宇宙への足」を担おうと奮闘している。



国と民間のミスマッチを捉える

 前述のように、様々な技術の結晶であるロケットを作るのは容易ではなく、膨大な年月、費用、労力がかかるため、国主体で進めるのが常識だった。日本でもJAXA主導で、人工衛星や探査機を搭載できるH-2Aロケット(エイチツーエーロケット)などが作られ、実際に運用もされている。

 ただ、国家プロジェクトとなると、どうしても国の威信をかけて最新の技術を駆使したロケットを作ろうという目的が先行しがちになるが、世界最高の性能を持つロケットは値段も世界一。国が「低コスト」を謳うH-2Aロケットでさえ、一度の打ち上げにかかる費用は約100億円だ。

 一方、民間宇宙産業に目を向けると、人工衛星の小型化が急速に進んでいる。以前の人工衛星は、電力を供給するための太陽光パネル、観測用の大きなレンズ、軌道制御用のエンジンなど様々な機器を搭載していた。その結果、重さはマイクロバス1台分に相当する約2トン。そのサイズの衛星を打ち上げるためには、ロケットもまた大型である必要があった。

 しかし、ここ10年ほどの間に半導体の性能が飛躍的に向上したことで、人工衛星は劇的に小型化した。放射線などが飛び交う宇宙空間での耐久性さえ考えなければ、コンピュータ、カメラ、通信機などを搭載するスマートフォンも人工衛星として機能すると言われるほどで、小さくて高性能な人工衛星を作る技術はすでに確立されている。しかし、いくら人工衛星が小さく安くなったところで、一度に数トンのものを打ち上げるためのロケットを使うのではコストが見合わない。

 大型ロケットは、コストに加えて打ち上げ回数の限界という問題も抱えている。例えばH-2Aロケットは事前に大規模な準備が必要なため、打ち上げ回数は多くても年に4回。その中でも、国の偵察衛星などが乗っていると相乗りすることは出来ず、民間の衛星が乗れるのは年間1~2本である。仮に自前の衛星を持っていても、宇宙に送れるかはタイミング次第というわけだ。

 さらに稲川は「宇宙と言うと一つの空間というイメージがあるかもしれないが、一度の打ち上げで目指せるのは無数にある地球周回軌道のうちの一つに過ぎない。後から軌道修正するにはエネルギーを要するので、基本的には初めに行きついた軌道に乗り続けることになる」と指摘する。

 複数の衛星が相乗りする場合は、提供した資金の額に応じて行き先を決める際の発言力が高まるため、安く打ち上げようとすると、自分の目的に合った軌道を選ぶのは難しい。こうした状況では、民間企業が好きなタイミングで自分の乗せたい軌道に衛星を打ち上げることは、よほど運が良くない限り不可能と分かる。

 稲川はこの現象について、「宇宙産業への民間参入が進むと同時に、国が作ろうとしているロケットと、実際にそのロケットを使う人たちのニーズの間にミスマッチが生じている」と分析する。

 国が費用をまかない、国策として打ち上げる人工衛星ならともかく、民間からすれば「打ち上がりさえすれば性能は二の次で良い。とにかく安く済ませたい」というのが本音である。そうしたニーズに応え、民間の需要に基づいた小型のロケットを作ろうとしている稲川。「1回の打ち上げ費用が数億円に抑えられれば、民間企業もそれぞれのビジネスに最適な軌道に荷物・人工衛星を届けられるようになる」と理想を語る。



手作りロケットでコスト軽減

 そんなインターステラの開発の軸は「コスト削減」に尽きる。例えば、他のベンチャー企業では打ち上げたロケットを着陸させて何度も再利用しようという流れがあるが、インターステラは「使い捨てのものを大量生産した方が安い」という姿勢を崩さない。

 部品選びにも低コストへの意識が現れている。宇宙へ飛ぶロケットと言うと、世界中の最先端の技術と素材を使ういかにもハイテクなイメージがあるが、インターステラの開発では「難しいことはやらない、ハイテクな素材・部品も使わない」をモットーに掲げる。

 したがって、稲川たちが用いるのは「極端に言えば、ホームセンターで買えるもの」。さらに、ロケットの頭脳となるコンピュータ部分は全て自社製だ。東京オフィスに併設されている作業場で、プログラミングから電子工作、はんだ付けまで自分たちでこなす。ロケット用のバルブなど、市販の物で代用できなければ、やはり自社で作ってしまうという。

 ロケット専用の部品は、小さいものでも数万~数十万円するため、日常生活で手に入れたり、手作りの部品に置き換えたりすれば、当然経費は10分の1もしくは100分の1にまで下がる。

 技術に関しても、稲川は「古いもので十分」とすまし顔。現在はロケットエンジンの燃料と言えば液体水素が主流だが、インターステラはエタノールと液体酸素を使っている。液体水素は性能が良い反面、扱いが難しい上に高価格。一方エタノールであれば、薬局で買えるため容易に入手でき、管理もドラム缶に入れたままで良いので取り扱いが簡単だ。

 部品、コンピュータ、技術全ての面でコストを意識した開発を進めるインターステラ。最新技術と比べれば機能はある程度落ちるが、「顧客が求めているのは優れた性能より安い価格」と自信を持っているため、高品質にはあえてこだわらない。

「世界最高の性能のロケットは目指していない。最終的に民間が求める圧倒的低価格のロケットを提供したいという想いが開発の軸になっています」



数千億円市場を相手取る

 最速で2019年の打ち上げを目指すロケット開発だが、今は北海道・十勝にある広大な敷地で打ち上げ試験を繰り返し、完成に向け進捗が3分の1まで来たところだという。

 ロケットに自社製の部品を使っていると前述したが、「日本では、ロケットを実験できるような設備がなかなか無い」として、技術実験のための設備も同じく自社でまかなっている。これぞ、ロケットにかける想いの強さがあるからこそ成せる業だ。

「今は、ロケットに必要な要素・技術を一つひとつクリアしていこうと、様々なテストをしている段階です」

 これまでに打ち上げたロケットはのべ9機で、それぞれパラシュートの改善、海に向けた発射、速度・高度を上げるためのエンジン拡大、ジャイロセンサーを使った姿勢制御など、違った技術要素をテストしている。

 いずれも成果を上げていて、2013年8月には速度マッハ1.12(秒速381メートル)、最高高度6.5キロメートルを記録した。その他にも、風船を使った通信機の試験も行い、高度30キロで映像の撮影に成功している。

 今はロケットごとに別の技術要素の実験をしているが、最終的には全ての技術が組み合わさって一つのロケットができる。稲川が「ロケットは様々な技術要素の詰め合わせで、技術的にも開発が難しい」と言うのもうなずける。

 インターステラの小型ロケット開発は着実に前進しているが、未だに資金、人手不足に悩まされている。そのため同社は、超小型人工衛星を宇宙へ運ぶロケットと並行して、観測ロケット開発にも着手している。これは、打ち上げて地球の周回軌道に乗せるものではなく、一度宇宙空間に赴いて観測データを取り次第すぐに落ちてくるタイプを想定。今年の打ち上げを予定している。こうして開発した観測ロケットは、人工衛星用ロケットの一部としても使用できるため、その完成が人工衛星運送ロケット開発への一つのマイルストーンとなるだろう。

 稲川が小型ロケット開発の先に目指すもの。それは、新たな宇宙利用の創出だ。

「今はまだ人工衛星と打ち上げの値段が高すぎて、それを使ってビジネスをしようと考える人が少ない。しかしコストを下げれば、様々な分野から人や企業が参入して、それまで考えつかなかったような新しい利用方法やビジネスが生まれてくるはずです。そのイノベーションの発端になりたい」

 稲川は今後、何百基もの人工衛星を使った需要が生まれると確信している。1基あたりのコストは数億円でも、仮に年間約500基の小型衛星を必要とするビジネスを相手にすれば、そこには何千億円もの市場が広がっている。

「とにかく今は、製品の早期完成を目指して開発に注力する時期」と、全身全霊で開発に取り組む稲川。彼らのロケットの誕生は、宇宙の新たなイノベーションの幕開けとなるだろう。



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