トピックス -企業家倶楽部

2016年04月05日

超小型人工衛星の最先端を切り拓く 東京大学航空宇宙工学専攻教授 中須賀真一

企業家倶楽部2016年4月号 特集第4部-2




人工衛星の常識を変えた男

 東京大学の航空宇宙工学専攻教授として、宇宙ビジネスの展開を「学」から支える男がいる。中須賀真一だ。2003年、重さわずか1kgの超小型人工衛星を打ち上げ、この領域を切り拓いた先駆者である。10年からはJAXAのプロジェクトでリーダーを務め、現在は内閣府宇宙政策委員としても宇宙産業に貢献している。

 同プロジェクトは、安価で「ほどほどに良い」性能の人工衛星を作ろうと始まったものだった。従来の人工衛星は重さにして1~4トン、製作費も500~1000億円というまさに国家事業。その常識を破るべく、「ほどよし」と名付けられた衛星はわずか3億円だが、現在もなお活躍している。

「打ち上げとその後の運用が成功したことで、研究者や投資家の宇宙産業に対する考えが前向きになった」と中須賀。信頼を構築する上で実績が重視される日本だが、超小型衛星の展開が机上の空論ではないと証明され、業界の空気感も変わってきた。

 また、技術面の進歩だけではなく、国内の宇宙産業のインフラが整ってきたことも、同プロジェクトの功績であろう。以前は地上試験設備すら揃っていなかった日本だが、今では国内で部品調達が可能となり、九州工業大学を中心に試験設備も配備された。

 こうした努力の結実として象徴的だったのが、2010年から東大とJAXAが共同開発した超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」。通常ならば探査機の開発には5年以上かかるところ、わずか1年という異例のスピードで完成し、無事宇宙へと飛び立っていった。



小さくすることは捨てること

しかし、いくら衛星を作る環境を整えても、それを運用する技術が無ければビジネスには繋がらない。ここで重要になるのが、人工衛星を支える衛星バス技術とミッション技術だ。

 バス技術とは電力の供給や地球との交信など、どの衛星にも必要不可欠な基礎技術である。中須賀は、通常1トンの衛星に載せて運用するほど高性能の高速通信機を50kgの超小型衛星に搭載して業界を驚かせた。その通信速度は500Mbpsと、スマートフォン4G回線の約100Mbpsを遥かに超える。

 一方でミッション技術とは、衛星を打ち上げる目的を達成するための技術だ。例えば、中須賀が着目しているのはマイクロ波。現在小型衛星に搭載されている電磁波では、夜間や悪天候時は交信が困難となり、災害時など緊急を要する時に役立たない。従来の巨大な人工衛星では活用されているが、小型衛星に載せることに成功すれば世界初の快挙となる。

 中須賀も「ビジネスを展開する上で、競争優位を確立するカギを握るのはミッション技術」と指摘する。この技術は言わば人工衛星の付加価値を形作るものと言える。衛星を通して何をしたいのか、顧客のニーズに応じて、観測装置を搭載できるかが勝負だ。

 しかし、既に巨大衛星に搭載されている技術だかと言って、小型衛星に転用するのは容易ではない。

「大きいものを小さくするには、何かを犠牲にしなければなりません。例えば観測に特化した小型人工衛星は、実はそれ以外に載せられるはずの多くの装置を切り捨てた上に成り立っているのです」

 この選択と集中こそ小型衛星開発の肝。また、技術面では専門的な知識が要求される。ここはやはり、中須賀たち研究者の出番だろう。学術機関が次世代を担う技術をゼロから生み出し、ビジネスに活用できそうならば企業に託す。こうして大学発の宇宙ベンチャーが誕生するのだ。



製品を売らず技術を伝える

 今後、小型衛星のニーズが増加すると考えられる地域は新興国だ。日本は、通信設備などの地上インフラが整っている上、都市開発も既に形が出来上がっている。国土面積も狭いため、広大な農地を管理する必要にも迫られていない。

 一方、新興国ではこれから都市や農林地を開発せねばならない。新しく仕組みを作るのであれば、最新技術である人工衛星を活用したいと考えるはずだ。また、新興国にとって自前の衛星を持っていること自体が技術シンボルであり、ステータスになるという側面もある。

 実際、中須賀が提携していたのはベトナム政府だ。日本からのODA(政府開発援助)を活用し、人工衛星製作を学ぼうと30名以上の学生が来日。2013年には見事打ち上げを果たし、現在は2020年を目標に、小型衛星の研究と製造を担う拠点「ベトナム宇宙センター」の完成を目指している。

 中には、人工衛星そのものだけを売ることで、技術の流出を防いだ方が得策ではないかとの意見もあるが、中須賀は大きくかぶりを振る。

「まず大前提として、私たちは国際貢献をすべきという考えが一つ。そして、仮にビジネスが生まれた際には、長期的なパートナーになり得るような関係性を築かねばなりません」

 彼の目が見据えるのは1年や2年先の利益などではない。新興国の人々が、衛星の作り方を日本で学べば、将来的に自国で衛星を製造することとなった際、日本から部品を買ってもらえるというのだ。確かに、人工衛星は宇宙でも問題なく動かねばならないことから、部品一つ一つとっても高い技術を要するため、その全てを国内で生産するのは難しい。さらに、日本流の製造を身に付けた以上、日本製の部品の方が扱いやすいはずだ。

 過去に、海外で同様のビジネスモデルはあったものの、中須賀の提言と大きく異なるのは予算だ。前述の通り、従来の数百億円から100の1のコストとなれば、手が届く国はぐっと増える。

 また、こうした施策は、「ほどよしプロジェクト」によって生まれた企業や試験施設を守ることにも繋がる。これまで日本国内に宇宙産業の企業が育たなかったのは、国家のプロジェクトだけではあまりに受注が少なくビジネスとして成立しないことが原因だった。だが今後、新興国を含む海外からの注文が増えれば話は変わってくる。国内で部品を調達できる環境は、日本の宇宙開発企業にも追い風となるだろう。



国から逃げずに巻き込め

 ただ、海外と提携するにはやはり国のサポートが大きな後押しとなる。

「ベンチャー企業家に話を聞くと、国の規制に足を引っ張られて、やりたいことができないと言う人が多い。しかし、本来的には国を避けるのではなく、むしろ巻き込んでいかなければなりません」

 中須賀は、産業を盛り上げる制度や、反対にビジネスを抑制するであろう規制を、企業側から政府や関係省庁に説明すべきだと説く。いわゆるロビー活動だ。日本ではあまり見られないが、海外に目を向けると活発に行われているのが分かる。アメリカ・ニューメキシコ州では、スペース・ポート(宇宙港)建設の是非を住民投票で決定したほどだ。

 これまでは国家事業として行われ、小規模だったため、日本の宇宙産業に関する法整備は遅れている。近年ベンチャー企業が登場したことで、ようやく動かざるを得ない状況になったというのが本音だ。

「政府としては、どうすれば当該産業だけでなく、日本全体にとって良いか想定しながら手探りで法令整備を進めている。企業家を含め、実際にその産業に携わっている人間から要望を出してもらった方が、的を射た政策も作りやすい」

 このように、内閣府宇宙政策委員ならではの進言をする中須賀。研究者として技術を生み出し、それをビジネスに展開させた企業家を指導し、さらに政府の役職まで務める彼は、今後飛躍的に伸びる宇宙産業における産官学連携の懸け橋としての役割が増すばかりだ。



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