トピックス -企業家倶楽部

2016年04月08日

宇宙ビジネスを立ち上げるなら今しかない グローバル・ブレイン インキュベーション事業部 青木英剛

企業家倶楽部2016年4月号 特集第4部-3





(文中敬称略)

 ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインのインキュベーション事業部から、宇宙産業の魅力を各方面に発信している青木英剛。自身を「日本で唯一の宇宙エヴァンジェリスト(伝道者)」と称し、その名の通り、複雑な宇宙ビジネスにおける技術やトレンドの啓蒙に奔走している。



日本の宇宙産業にビジネスマインドを吹き込む

 青木は、アメリカの大学、大学院で宇宙工学を学び、ロケットや人工衛星の飛ばし方について研究。その後もNASAと共同研究をするほど宇宙にのめり込み、就職先は絶対に宇宙関連産業を担う日本企業と決めていた。

 帰国後、希望通り日本で最大の宇宙業界シェアを誇る三菱電機に入社。国家事業に携わる毎日だったが、官の主導するプロジェクトにはビジネス性が無いことに疑問を感じた。

 そんな折、三菱電機と並行して仕事をしていたアメリカ初の宇宙ベンチャー、オービタル・サイエンシズ社の確かな事業戦略を目の当たりにし、疑問が確信に変わったという。

「ビジネスではなく、ただ宇宙開発をしているだけ」の日本の宇宙産業に危機感を覚えた青木。今度は、技術者としてではなくビジネス面から宇宙産業を支えたいと、ビジネススクールに通い勉学に励んだ。

「2000~3000億円の国家予算で市場規模が停滞している以上、民間企業からお金を引っ張ってくるしか道は無い」

 その上で欠かせないのは、宇宙ベンチャーの出現である。現在自身も投資する小型人工衛星開発のアクセルスペースなど、当時からベンチャーが少しずつ立ち上がっているという感触はあった。ただ、その衛星を使って何かしようという人は皆無。「この状況下で自分のやるべきことは、宇宙産業全般の啓蒙」と方向性を定めた青木は、戦略コンサルタントとして企業の宇宙活用支援や政府の政策作りに携わっていった。

 そこでの経験を通して青木は「宇宙を産業として確立するためには、ベンチャー企業が大企業を巻き込んで新たな事業を起こせるように支援しなくてはならない」と気付き、ベンチャーキャピタリストに転身。宇宙に関連しているとあれば、自身が出資している会社はもちろん、そうでない会社もサポートしようと尽力している。



宇宙への理解を深め投資に踏み切らせる

 研究開発に重きを置く国家事業と違い、民間の宇宙開発は投資者へのリターンが求められる。国のプロジェクトにおいてはモノを作って納品すれば終わりだったが、民間企業ということになると、作ったモノを利用してどのようなサービスを提供するかが肝。例えば人工衛星を打ち上げると言っても、情報収集や通信網整備によって収益化がなされなければ、投資家からは見向きもされない。

「特に超小型の人工衛星やロケットの市場は、これから2、3年で加速度的に伸びる」と分析する青木は、「ビジネスを立ち上げるなら今しかない」と焦りの色すら見せる。

 しかし、ビジネスのスピード感に投資が付いてきていないのが現状だ。「宇宙産業への投資はどうしても長期的視野に立たざるを得ない」と青木が認めるように、一度の投資額が大きく、会社を起こしてから上場や売却が成立するまでに5~10年という時間がかかる宇宙事業の案件には、躊躇する投資家がほとんどだという。

 また、宇宙ベンチャー自体の数が少なく、投資家自身が宇宙ビジネスの目利きをすることができていないのも、投資に踏み切れない一つの原因だろう。そこで青木は、「業界や動向を理解している人が他の投資家に情報を共有し、複数の企業や投資家が協力して資金を捻出する体制を作ればいい」と力説する。

 投資のためには宇宙産業に対する理解も重要で、それには専門的な知識もある程度必要だ。「しっかり技術を理解できる投資家が増えれば、宇宙ベンチャーの成功事例も上がって来る」と啓蒙活動に勤しむ青木。元宇宙エンジニアとして、技術の知識やトレンドへの嗅覚を兼ね備えた青木だからこそ、担える役割だろう。



日本のモノづくり技術に勝機あり

 そうして日本から生まれた宇宙ベンチャーには、いくつかの勝機がある。まずは、人工衛星やロケットの製造には高い技術力が必要とされる点。そして、家電や自動車のように製造法が模倣されてしまうことが無い点である。

 例えば、かつては世界一を誇った日本の家電は、今や大量生産された安い中国製・韓国製の製品には勝てない時代となってしまった。家電などは量販店で購入したものを分解すれば構造やシステムが分かる。そうして簡単に類似品が作られ、安価で売られてしまったのである。

 しかし、特に人工衛星は一度打ち上げたが最後、数年後に落ちてきて燃え尽きるまで地球の軌道上を回っているため、取ってきて分解することはできない。宇宙で機能する高い技術のモノづくりと、安価な類似品製造の不可能性。そんな特性上、「質の高い衛星を作るノウハウを磨き続ければ、日本発ベンチャーが宇宙のフロントランナーとして産業をリードし続けることができる」と期待を寄せる。

 さらに、そうした製造面に加え、実際の収益化に繋がる情報ビジネスの側面が重要となってくる。アクセルスペースの場合を例にとれば、いかに写真を加工し、「情報」に変えて売るかという部分だ。企業側にとって、衛星の写真自体が欲しいわけでは無く、その先にある情報こそ経営の意思決定に必要。森林管理の場合は火災が起きた時だけ警報を鳴らし、農地観測では収穫時期を知らせるといったように、要望に応じた画像解析まで担おうとしている。



見るべき競合は海外

 宇宙ベンチャーの勃興を標榜する青木だが、人工衛星、ロケット、宇宙旅行といった各分野に関してはそれぞれ一社ずつで良いという考えだ。携帯キャリアや電力は独占や寡占といった問題が起こったが、あれはあくまで国内市場に限定されていたため。宇宙ビジネスの場合、必然的に世界各国の企業と戦うことになるのだ。

「各国との競争でコストも下がるでしょうし、イノベーションも起きる。そして、市場が広がる。日本においては宇宙ビジネスのパイが無いので、それを食い合うのではなく、むしろどんどん世界に打って出るべきです」

 そんな青木は、5年前から宇宙事業の産業化を声高にアピールしてきた。近年になってようやく宇宙ビジネスが盛り上がりを見せ、芽が出始めたという実感だ。宇宙ベンチャーと呼べる企業群が、アメリカ、ヨーロッパでも興りつつある。日本企業が相手取るべきは、これら海外の競合というわけだ。

 現在、超小型衛星と超小型ロケットが同時にビジネスとして立ち上がろうとしている。まさに、宇宙事業のインフラとも言うべき最初期の段階。インターネットで言えば、全世界に向けて回線が引かれる一歩手前という状況だ。

「この宇宙へ向けたインフラが構築されるのは、歴史的に見て今この時期しかない」

 そんな重要な転換点に、私たちは立ち合おうとしているのかもしれない。宇宙ビジネスは、ここからが本番だ。



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