トピックス -企業家倶楽部

2016年04月21日

生体認証が当たり前の世界を創る/Liquid代表 久田康弘

企業家倶楽部2016年4月号 スタートアップベンチャー




指紋認証で簡単会計

 コンビニ、レストラン、スポーツ店・・・気付けば財布の中には何十枚ものポイントカードが入っていて、かさばる上に管理しきれない。こうした経験には覚えのある人も多いのではなかろうか。もし膨大な量のカードの管理が自分の指紋一つで済むとなれば、利便性が格段に向上するのは間違いない。今、そんなニーズに応えた媒体レスの本人認証が注目を集めている。

 この需要をいち早く掴んだのが、Liquid(リキッド)代表の久田康弘だ。生体認証を使った本人確認サービス「Liquid Pay(リキッド・ペイ)」を提供。冒頭に挙げたようなポイントカードの束も、同サービスを使えば一気に解消する。店頭では、カード提示の代わりに自分の指を専用端末にかざすだけ。ユーザーは大量のカードを持ち歩く必要がなくなり、必然的に紛失の心配も無用となる。

 リキッド・ペイはポイントサービスの他に、デポジット決済サービスとしても知られている。レジで事前に登録した指紋をかざすと、予め入金しておいた金額から買った品物の代金が自動的に引かれるシステムだ。

 生体認証を利用した決済サービスは、2015年10月から長崎・佐世保にあるハウステンボス内の30以上のレストランおよび土産店で試験的に導入されている。来園者はエントランスで生体情報の認証を行い、最初にデポジットへ入金を済ませておくと、財布やカードを所持すること無く手ぶらで園内の支払いを済ませることができる仕組みだ。

「テーマパークは相性が良い事業の一つ」と分析する久田。確かにテーマパークで遊ぶ時、わざわざ財布を持ち歩きたくはないものだ。同様に、レジャー施設やスキー場、マラソン会場、海水浴場なども親和性が高い。そうした場所を訪れている人にとって、大切なカードや現金を失くす不安の無いリキッド・ペイは魅力的なサービスだ。

 生体認証を使った決済・顧客管理は、事業者側にもメリットが多い。まず、ポイントカードなどの発行費が削減できる。また昨今、簡単にコピーされたIDやICチップを使ったなりすましが至るところで起きる中で、セキュリティ面も万全だ。

 久田は「偽造対策という形でどんどん複雑なセキュリティが必要になり、コストは異様に上がり続けている」と危機感を募らせる。さらに、高度なセキュリティが導入されるほど本人確認の手続きは複雑化し、ユーザーにとっての利便性が失われているも考えものだ。

 一方、生体認証ではコピー不可能な個人の指紋を使用するため、なりすましの危険性を格段に下げることができると同時に、手続きの中で何か利用者の手間が増えることもない。安全性と利便性を両立させながら、セキュリティのコスト削減を実現できるこれまでにない本人確認の手段として注目を集めている。

 良いことづくしの生体認証だが、アイテム性に欠けるという媒体レスゆえの難点もある。例えばクレジットカードやポイントカードであれば、色などによってランク分けがなされていたり、そのアイテムを保有していること自体への喜びがあったりするが、生体認証の場合は自分の指紋自体が媒体となるため、そういった差別化は図りづらい。

 しかし久田は、「生体認証はあくまで一つのツールであり、何を使うかはユーザーに選択肢があって良い」と、あくまでも前向きだ。以前よりあった現金、カード、スマホなどの電子デバイスと競合するのではなく、「それらと生体認証を組み合わせた形での提供」を目指す。



たまたま起業が最適な手段だった

 法学部で金融工学を学んでいた久田は、初めから生体認証を使ったビジネスで一旗揚げようと考えていたわけではない。大学卒業後は投資銀行に就職。その頃から、「コンピュータやタブレット、スマホといったデバイスが必要とされる時代は終わっていく」と考えていた。

「会社は3年で辞めると決めていた」という久田。その3年間に漠然と持っていた課題意識に対する解決法を模索していた時、あるアイデアに行き着いた。

「これだけなりすましやカード不正が増えているということは、物理的なIDは限界が近い。10~20年後を想像したら、なりすまし不可能な生体が伸びると思いました」

 もともと生体認証の領域には興味があった。友人の中でも「カードが多過ぎて管理が大変」といった声があり、現代社会にも既にニーズがあると確信。「自分がやりたいと思う事業領域に取り組んでいる会社があれば、そこに参加するという選択肢もあった」と当時を振り返るが、実際に大手企業の技術やグローバル展開などを徹底調査したところ、久田が目指すビジネスをしている会社はなかった。「その時点で、最適な手段は起業だと決断しました。だから、最初から自分で会社を興そうと思っていたわけではない」。しかし、一度やると決めれば、あとは目的に向かって突き進んだ。

 世界的にも未開拓の分野ということで、何も無いところから全て自分たちで作り上げなければならなかった。サービスを構築するまでの間は無報酬だ。

「最近やっと売上げが立って給料を払えるようになった」と久田。ベンチャーの厳しさを痛感したが、課題解決のためならと新しいことに挑戦し続けた。数々のプロジェクトが動き始めて努力の芽が出始めたのは、つい最近のことである。



社会の当たり前になれば結果は自ずとついてくる

 いわば、これまでは地道に実績を積み上げる時期だった。「これからは、ようやく普及期に入っていく」と語る久田は、「今年末から来年初頭には、世間がリキッド・ペイを認識するくらいにサービスを広めたい」と意気込む。

 それでも人材集めには未だに苦労の途上。日本社会においてベンチャー企業に就職することは、依然として特異な選択と思われがちで、学生の目も向きにくい。これはリキッドにかぎらず日本全国のベンチャー企業の課題だ。久田は、「それでも選んでもらうには、魅力ある会社として学生を惹きつけるビジネスをし続けなくてはならない」と現実を冷静に見据える。

 久田がビジネスで日々考えていることは、いかに売上げを上げるかより「日常生活で当たり前に見る光景を作り出すこと」だという。「案件が社会的なインパクトを持っていれば自然と認知度が上がっていく。対外的な戦略を積極的に打つより、着実にプロジェクトを進めたい」と、堅実だ。

 将来的に上場も目指すと語るのも、「信用を築き、アライアンスの選択肢を増やすため」であり、全て自社サービスの普及を最優先に意識した結果の行動である。また、ボーダレスな生体認証の分野でビジネスをするからには、世界も目指す。現在は東南アジアを中心に3カ国でも試験的なサービスを展開している。

 先駆者として、未知なる分野に挑み続けるリキッド。世界中のありとあらゆる場所で、生体認証を利用した決済・本人認証が当たり前になる日は近い。

【企業概要】

社 名 ● 株式会社Liquid

本 社 ● 東京都千代田区丸の内1-3-1 東京銀行協会ビル14階

設 立 ● 2013年12月



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