トピックス -企業家倶楽部

2016年04月27日

世の中の常識を疑い、新しいことに挑戦する/ベステラの21世紀戦略

企業家倶楽部2016年6月号 ベステラ特集第1部


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

   

「造った人には壊すことは難しい」と解体業界のイノベーター、ベステラ社長の吉野佳秀は言う。造った人は必ず造った逆をやればいいと考えるからだ。解体業界に古くからある思い込みに一石を投じ、独自の発想力とブルドーザーのような行動力で革命を起こし続けている。既存事業が好調なときに将来の事業の柱となる種まきも忘れない。企業家として円熟期を迎えた吉野がどうしても手に入れたい次なる武器とは何か。ベステラの未来戦略に迫る。(文中敬称略)



好機を逃さず飛躍せよ

「ヒマラヤ山脈を越える鶴の話を知っていますか」

「簡単には越えられません。鶴はじっと上昇気流を待って、一気に6000メートル級の山頂を越えていくのです。我が社も今、まさに好機です。この追い風に乗って、勝負しよう」

 3月9日18時30分、東京・墨田区にあるベステラ本社の会議室にて、役員、部長、課長、リーダークラス約20名が顔を揃え、月に一度開かれる全体会議が始まった。会の冒頭で、社長の吉野は、ベステラが新しいステージに入ったことを高らかに宣言し、ビジネスチャンスに乗り遅れることなく、皆もこの鶴のように飛躍するようにと、檄を飛ばした。出席する各部門の責任者たちの顔にも高揚感と緊張感がみなぎる。吉野が創業から40年間、待ちに待った大勝負を掛ける時が来た。機が熟したのだ。

 ベステラは、製鉄・電力・ガス・石油といった金属製の高炉やガスタンクを保有する大企業がクライアントで優良な顧客基盤を持っている。高い安全性が求められる大型のプラント解体工事に特化したオンリーワン企業で、「リンゴ皮むき工法」といった独創的な技術力を有することで業界内では以前から一目置かれた存在だった。

 2015年9月2日、東証マザーズに株式上場を果たすと、化学プラントの解体業という事業領域の特異性とその成長性に投資家からも注目が集まった。東日本大震災後5年が経つが一向に解決する気配のない福島原発への世間の関心も無関係ではないだろう。原発大国日本は近い将来に必ず来る廃炉の問題を抱えたままだ。株価の異常な値上がりがそのことを物語る。

 上場日、公募価格2500円の25%を上回る3125円を付けた後、ストップ高で株価はさらに上昇し続けた。なんと、1カ月後には1万1870円と4.7倍の値を付けるほどの人気株となった。

 なぜ、これほどまで株価が高騰し注目を集めたのか、その理由を吉野に聞くと、「老朽化するプラントの解体需要は多くあり、受注残高も多くある。ベステラの社会貢献性と将来性を高く評価してもらったのではないか」と安堵の表情を見せた。株式上場時、吉野は74歳でマザーズ史上最年長上場の企業家となった。史上最年少記録があるなら、最年長記録があってもいいだろう。

 2016年1月期の売上げは38億4600万円(前期比25・7%増)、経常利益4億6400万円(同19・4%増)と3期連続で増収増益、2期連続の過去最高となり、上場後初の決算発表も好調な滑り出しとなった。2017年1月期決算も過去最高の受注残高により、売上げ47億円、経常利益4億8800万円と増収増益を見込む。

 このように、本業のプラント解体事業が好調のうちに、将来の自分たちの飯の種も蒔いてきた。そのために必要な人員も採用し、満を持して大勝負を掛ける。株式上場を機に第二創業とばかりにギアを一つ上げたのだ。

「新しい期が始まり、私も大風呂敷を広げてしまった。少し大法螺を吹いたけれども、皆さんの協力もひとつよろしくお願いします」と吉野は愛嬌たっぷりに挨拶を締めくくった。


好機を逃さず飛躍せよ

「作った人には壊せない」

「紙飛行機を壊せというと、必ず作った人は折った逆をして、丁寧に一枚の紙に戻します。どうせ捨てるのだから、くしゃくしゃと丸めればいいのです」、吉野は頓智話のようにベステラの特徴について説明する。

 つまりは「作った人には壊せない」と吉野は力説する。ベステラを業界で一躍有名にしたのは、大型の球状ガスタンクを解体するベステラ独自の技術「リンゴ皮むき工法」である。2004年に新聞で発表するやいなやガス会社の最大手から「直ぐに来て説明してほしい」と電話があった。吉野が「リンゴ皮むき工法」について説明すると「他には話をせずに独占でやらせてほしい」と打診があったほどだ。

 ガスタンクは老朽化したとき、一体どうやって解体するのか。これまでは、作った時の逆の工程を行う。足場を組み、鉄の板を一枚一枚はがし、大型のクレーンで吊って下すのだ。高所での作業が伴い、強風が吹けば剥がした鉄の板は煽られ大変危険だ。

 しかし、「リンゴ皮むき工法」を使えば、足場は不要で、クレーンで吊って下す手間もかからない。タンクのてっぺんに鉄を切除するロボットをセットすると切断された鉄自身の重さで、剥いたリンゴの皮のようにつながってゆっくり地上に降りてくる。それを3メートルごとに切断し、トラックに積んで運び出す。タンクの内側に鉄は降りてくるので風の影響を受けず、安全なのだ。さらに無駄な足場やクレーンが不要になる分、工期も短くなり、当然コストも格段に下がるというメリットがある。

「早い・安い・安全が合言葉」と吉野は言う。

「従来のクレーンを使う工法は重力に逆らっており、美しくない。もっと地球と仲良くして、重力を活用した工法が理に適っていて美しい」と吉野は独自の解体美学を持っている。

 話を聞くと実に合理的な解体法であるが、なぜこれまで誰も思いつかなかったのだろうか。

「建設業は作るのが花形で、壊すのは面白くない。だから、誰も勉強せず、新しい工法が生まれなかった」

「我々は壊す専門家。人間は真剣になったら知恵も出る。毎日毎日、ガスタンクを眺めて、どうにか仕事が欲しいと考えていたら、ある時、そっと神様が背中を押してくれた」と吉野はリンゴ皮むき工法を思い付いた日のことを語る。4年間、仕事現場から見えるガスタンクをずっと眺めていたというから、「雨垂れ石をも穿つ」とはこのことだ。運は努力した人の味方をする。


 「作った人には壊せない」

腕時計は身に着けない

既存事業のプラント解体事業は絶好調、東証マザーズに株式上場も果たした。今では若く優秀な人材も揃い、新規事業への足掛かりも整った。順風満帆の人生のように見える吉野だが、若いころから苦労が絶えなかった。14歳の時に父親が亡くなり、家族の大黒柱を失った吉野家は貧乏な暮らしを強いられた。解体業を始めてからも2度のオイルショックが襲い、全ての仕事が止まってしまう日干しの状態も経験した。

「特に40代は苦しく、貧乏でした」

 30年ほど前、何も当てなどなかったが名古屋より東京の方がマーケットが大きく、チャンスがあるだろうとトラックに家族を乗せ上京。しかし、すぐに仕事の依頼がある訳もなく、資金は底をついた。気付くと借金は4000万円に膨らんでいた。「社員に給料が払えず、明日食べるものがあるかといった状況。地獄のように苦しかった」

「母親の葬式代が出せなかったのが一番辛かった」と吉野は苦しかった当時を振り返る。

 ベステラという小さな船に時代の荒波が何度も押し寄せたが、嵐が過ぎるまで吉野はじっと耐えた。外部環境が変化することは避けられないと知った吉野は自然と生き残る術を身に着けていた。それは、なるべく余分な物を持たない経営である。設立から40年以上と社歴の長いベステラだが、工事用の重機や工事部隊は持っていない。吉野は意図して持たなかった。

「余分な重機を保有すると苦しい時に利益の上がらない仕事も取ってしまう。散々苦労したからお金の大切さが分かる」とあくまでプラント解体の工法・技術の提供をコア・コンピタンス(主力事業)として、「持たざる経営」を貫いてきた。

 吉野は還暦を迎えるにあたって人生でやり残したことはないかと考え、会社を株式上場させるという目標を立てた。これまで幾度も逆境に遭いながらも夢を諦めずに乗り越えてきた。少し良くなってきたと思ったら2008年に起こった世界的不況リーマンショックで赤字に転落。周りの者は皆、上場の夢は諦めたと思った。

「自分で決めたことを止めるのは嫌いです。根性でしょう」、吉野だけは決して志を曲げなかった。

 吉野は「勘が鈍るから」といって現場に立つ時は、腕時計を身に着けることはなかった。事務所を出たのが何時、昼飯を食べたのが何時と覚えていれば、どこにいようと、逆算して正確な時刻が分かったという。

 ある時、千葉県の工場に呼ばれ、鉄のスクラップがどの位の量になるか見積もりが欲しいと依頼があった。吉野はその場で目視しただけで頭の中で計算し、「5000トンで1億5000万円」と即答した。その見積もりに狂いはなかった。後に「吉野の見積もりは正確だ。あいつに勝てる奴はいない」と業界内で評判になったというエピソードがある。

「時計を持つと頼ってしまう。見積もりの精度が勝つか負けるかの勝負。カミソリみたいな見積もりをしないといけない。勘が鈍るのが一番怖かった」と今でも勝負師の顔を覗かせる。


 腕時計は身に着けない

誰もやっていない最先端の仕事をしよう

「成功確率50%でも、新しいことに挑戦しよう。赤字にならなければ、思い切ってやってみたらいいじゃないか。失敗したら責任は俺が取る」、吉野がよく口にする言葉だ。思い切って社員に仕事を任せて、細かいことは口出ししないのが吉野流だ。

「勝負をさせてくれる会社で、人が育つ」と取締役技術営業部長の小板幹博はそうベステラの企業文化について語る。

「コンピューター付きブルドーザーのような経営者で、夢を語り、実際にまい進する姿は、社員にワクワク感を与える。周りが自分も手伝いたくなる魅力がある」と山口大学教授の泉秀明はベステラの強みをそう分析する。

「新規事業の企画を説明すると吉野社長は僅か2分で『よし、やろう!』と即決され、驚きました」と現在、3次元計測事業部責任者を務める多田まことは、吉野の経営者としての度量と決断力にほれ込んで入社したうちの一人である。

「誰もやっていない最先端の仕事をしよう。きっと、お前がするんだろう」、吉野は人を乗せるのがうまい。

 もともと経営コンサルタントとして、外部から新規事業を企画提案していた多田であったが、週五日ベステラに通い、仕事に熱中しているうちに気付けば、その責任者として先頭に立っていた。

吉野は普段から情報収集の量が豊富で、アンテナを本業以外の宇宙関連から芸術まで全方向に張っている。毎週、新聞や雑誌の記事のスクラップを輪ゴムで束ねて各担当者に渡す。社員は追いつくのが大変な程だ。吉野は普段からノンジャンルで大量の本を読み漁り、知りたいことがあればセミナーに出向き、直接当事者に会いに行き質問する。

「博識で、頭脳明快。話している内容は論理性があり、発想が柔軟」とゴルフ仲間の経営者、橋本雅治は吉野の印象について語る。

「他所が持っていない最新式なら尚いい。業界の常識を変えるような事業を起こそう」と国内の大企業でも複数台保有するところはまだ少ない中、最新3Dレーザースキャナ4台、ハンディスキャナ1台を購入。ハードとソフト合わせて1億円近い先行投資も厭わない。持たざる経営が信条の吉野だが、将来への投資となると話は別だ。資本を惜しげもなく投下する。それは人材への投資も同じだ。新規事業で必要な人材は揃える。社内の約2割となる人員を新規事業である3次元計測事業部へ配属し、足りない人材は外部から招へいする力の入れようだ。


誰もやっていない最先端の仕事をしよう

解体業の常識を打ち破る

 なぜ、吉野はこれ程までに新規事業の3次元計測事業に肩入れするのか。それは、既存の解体事業と営業面で相乗効果があるからだ。3次元計測は、最先端のスキャナを使い、複雑化したプラントの設備情報を細部にわたるまで点群化(データ化)し、寸法もパソコン上で確認できる。設備の入れ替えの際、配管が邪魔にならないかなど、干渉チェックや配置シミュレーションも可能。電子化された情報なので、現場担当者だけでなく、決裁権を持つ本部の人間など、誰でも可視化できるメリットがある。

 プラントには、「建設」→「メンテナンス(改造)」→「不具合・劣化」→「寿命(解体)」という『プラント・ライフサイクル』がある。ある製鉄所を例にとってみよう。今から50年以上前の高度経済成長期に建造された製鉄所が老朽化し、寿命を迎え、最終的に廃炉になることが決まった時点でやっとベステラにお声が掛かる。解体は一番後ろの工程なのだ。そして、いざ壊そうとなった時にクライアントの現場担当者から「図面がない」と言われることがほとんどのケースである。50年前の建設当時の図面が残っていることはまずない。紙の図面があったところで増改築が繰り返され、現状の設備とは違う。よって、これまでは俗にいう『勘ピューター』で目利きのできる人材が重宝された。解体現場では、工事依頼主、施工会社などベステラ以外の複数の人間が出入りする。工事の安全性を第一に考えれば、現状の設備を正確な3次元データで管理する必要性がある。経験や勘は非常に属人的であり、裏を返せばネックにもなる。

 プラントが寿命を迎える前のメンテナンス時にも改修か解体か検討するために最新のデジタル化された図面が必要になる。これまで入れなかったプラント・ライフサイクルの解体という最終コーナーでしかクライアントと接点がなかったのだが、ベステラは、3次元計測事業という最新の武器を持つことで、前工程のメンテナンス段階から密接に関わることが可能になった。すなわち、必ず来る数年先の解体受注の予測に役立つのだ。

 このように3次元計測事業は、既存の解体事業と非常に相性がよい。それどころか、これまでの解体業の常識を覆すインパクトを持っている。戦国武将織田信長が当時最先端の鉄砲隊を組織し戦に勝ったのと同様に、ベステラは他社に先駆け、最新の武器を手に入れた。


解体業の常識を打ち破る

目標は売上げ1000億円

 国内には1960年代の高度成長期以降に建設された設備が多くあり、今後30年間で建築後50年以上経過し、老朽化するプラントが加速度的に増加すると予測される。また、産業競争力が求められ事業再編も進む。これからもベステラが得意とする安全性が求められ、高度な技術力が必要とされる化学プラントの解体需要が増えることがあっても減ることはない。

「社会の常識を覆し、解体業界にイノベーションを起こす。目標は売上げ1000億円、経常利益100億円を目指す」と吉野の鼻息も荒い。東証一部への指定替えも視野に入れる。既存のプラント解体事業が好調な上、株式上場で知名度と信用度を増し、資金調達も出来た。新規事業である3次元計測事業への先行投資も万全だ。業界のイノベーター、ベステラの次なる一手は何か、気になるところだ。

 現在、さらなる安全性向上のため京都大学、山口大学と産学連携で溶断ロボットの開発を進めている。成功すれば、より危険度の高い場所での解体作業が可能になる。福島の原発での解体作業など国内には解決できていない問題が山積している。高い技術力と独創的なアイデアを持つベステラへの期待は高まるばかりだ。

 日本で確立したプラント解体の実績があれば、海外進出も可能だ。ベステラの解体技術は特許戦略によって守られている。海外の企業に技術指導を提供し、本格的な拡大期に入る日は近い。上昇気流を捉えて世界に飛び立つベステラに期待したい。



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