トピックス -企業家倶楽部

2016年05月05日

教育は人類永遠の課題/日本経済新聞社参与 吉村久夫

企業家倶企業家倶楽部2016年6月号 教育への挑戦~新しい日本人を求めて~ vol.1

大人たちの不満

 教育は人類永遠の課題です。その証拠に、古代エジプトのパピルスという紙に「今の若者はダメだ」という大人たちの若者への不満が書かれていたと言います。今日でも、大人たちは「今の若者は」と不満を述べがちです。

 いつの世でも、大人たちが若者に不満を持つのはなぜでしょうか。理由はいろいろあります。自分たちの若かった時代に比べて、今の若者は礼儀知らずだ、不勉強だ、辛抱が足りない、などと思ってしまうからです。自分たちだって若者だった時には、大人たちからそう言われていたのにです。

 世の中は常に変化しています。ダーウィンの言にあるように「生き残るのはよく変化するもの」なのです。いつの世でも、大人たちは若者の変化への適応力を心配しているのです。未来が若者たちの手に委ねられているからです。

 とりわけ、昨今の世の中の変化には目を見張るものがあります。交通手段と通信手段の発達で、世の中が一気に狭くなりました。いわゆるグローバリズムです。一国だけの閉ざされた社会で気ままに生きることは許されません。それは死を意味します。

 世の中はハイテク時代です。昨今はAI(人工知能)の時代です。自動車にもロボットにもAIが組み込まれています。自動車やロボットの肝心の中身はブラック・ボックスに入っています。よほどの専門家でなければ、中身を知ることはできません。

 ドッグイヤーという言葉があります。犬は一年に七つ歳をとるそうです。つまり、一年が七年に相当するような急激な変化が起きているという意味です。分野によっては、七年分どころか、十年、二十年分の変化が起きているでしょう。



若者たちの不安

  いつの世でも、若者は大変なのです。変化に適応して行かなければならないからです。ましていわんや、ドッグイヤーとあっては、どうやって自分を適応させていけばいいのでしょう。大人たちの不満の一方で、若者たちは時代適応力を厳しく問われて、不安に陥っているのです。

 若者たちの競争相手は日本人だけではありません。全世界の若者たちです。彼らの多くは英語を流暢に話します。日本の若者が「英語は苦手なんだ」などと弁解しているわけにはいきません。

 ハイテク時代ですから、科学技術にも通じていなければなりません。もちろん、ブラック・ボックスに入っている最先端技術にも通暁しているというのは無理でしょう。しかし、パソコンやスマホは自由自在に駆使できなければならないでしょう。

 でも、若者たちが過度に心配する必要はありません。なぜなら、若者たちは大人たちに比べればはるかに新時代の環境に適しているからです。子供の時から、テレビゲームをやっています。デジタルの世界に強いのです。

 それに音感もいいのです。子供の時から、ジャズやポップスに親しんで来たのです。横文字の歌を歌ってきたのですから、外国語にも抵抗は少ないのです。大人たちに比べれば、英語の習得に長けているでしょう。それに帰国子女も増えています。彼らは現地生まれの人のようなネイティブな発音も出来るのです。

 さらには、若者たちは栄養のあるものを十分に食べて育って来ましたから、大人たちよりもはるかに立派な体をしています。第一、身長がぐっと伸びました。外国人並の体型をした者が多いのです。その証拠に野球、サッカー、テニス、スケートなどの世界で一流のプレイヤーになっています。一昔前には考えられないことでした。



人は開発され続ける

 環境変化に対応して人は開発され続けます。そのことは歴史が証明しています。石器時代人は縄文時代人になり、やがて弥生時代人になりました。有史時代に入って、平安時代の貴族が生まれ、鎌倉時代の武士が生まれ、やがて江戸幕末の志士が生まれて、明治維新を起こしました。

 人類は時代とともに進化して来たのです。それは人類自身の持って生まれた才能のおかげもありましたが、人為的に人材を開発して来た結果でもありました。つまりは教育の力です。教育が人類永遠の課題であることは、とりもなおさず、教育が人類の進化を支え続けてきたことを意味します。

 明治維新は誰が起こしたのでしょうか。薩摩、長州の下級武士たちだったでしょうか。明治になって政党と大学を創った大隈重信は「全国津々浦々の書生たちがやった」と語っています。黒船の来航に国難を痛感した全国の心ある若者たちが立ち上がった結果だというのです。

 彼らは書生といわれる学問好きな若者たちでした。彼らが学問を好きだっただけではなく、それまでに大人たちがいろいろな教育の機会を設けていてくれたことが力を発揮したのです。寺子屋や私塾や藩校が花盛りでした。幕末、日本人の識字率は世界最高水準だったといわれています。



新しい日本人の誕生

 時代は新しい人を要求しています。いま世界は大変革期にあります。当然、新しい政治家、経営者、技術者、芸術家、学者、教育者の出現が求められています。

 昔の事で恐縮ですが、私は1971年7月、日本経済新聞の朝刊一面に「新しいアメリカ人」と題する企画記事を10回連載しました。当時、私はニューヨーク特派員をしていて、人種の坩堝といわれる多民族国家、米国の強さの秘密を解明したいと思ったからでした。

 その連載記事を書きながら、私は日本へ帰国したら「日本人誕生」というテーマに取り組みたいと考えていました。米国という国が時代に即応して、新しい米国人を誕生させて来たように、日本もまた新しい日本人を誕生させることで、日本の歴史を刻んで来たのだと考えたからです。

 以来、45年が経ちました。忙しさにかまけて、私は自分に課したテーマに取り組まないまま今日に至りました。もう年齢も80歳になりました。はたして「新日本人の誕生」という課題に応えられるかどうか、心もとない思いです。

 しかし、勇気を奮ってあえて挑戦してみることにしました。理由は二つあります。一つは歴史の大きな転換点が訪れているということです。恒久平和を実現できないまま、人類は宇宙時代を迎えつつあります。その中で、日本は再び多民族国家へ移ろうとしています。

 理由の二つ目は、そうした歴史的大転換の中で、日本の果たすべき役割が一段と大きくなろうとしているのではないかという思いです。日本は第二次世界大戦を引き起こすという大きな過ちを犯しましたが、本来は「和」を大事にする国です。自由を愛する楽天的な民族です。

 再び多民族国家に移ろうとする日本が、和と自由の精神をどのように発展させて行くのか、興味は尽きません。それ次第で、日本は世界に大きな影響を与えるでしょう。

 新日本人誕生の動きは始まっています。世界を席巻したクール・ジャパンのアニメ、スポーツ界でのイチロー、錦織圭、羽生結弦などの活躍、ノーベル賞に見る物理学、医学、化学での日本の貢献。年間2000万人に迫ろうという訪日外国人、世界中で働く日本企業関係の外国人経営者、外国人従業員。

 教育そのものの世界でも、新しい試みが始まりつつあります。「温故知新」です。教育熱心な日本人は昔も今も変わりありません。その成果が再び世界から大きく問われようとしているのです。



Profile

吉村久夫(よしむら・ひさお)

1935 年生まれ。1958年、早大一文卒、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与。著書に「進化する日本的経営」「本田宗一郎、井深大に学ぶ現場力」「二十一世紀の落とし穴」など。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top