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トピックス -企業家倶楽部

2016年05月13日

フィンテック革命、アジアに拡大 中国企業がモバイル決済などで世界をリード/梅上零史(うめがみ・れいじ)

企業家倶楽部2016年6月号 第2特集


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

   

情報技術(IT)で金融サービスに革新をもたらす「フィンテック」がバズワードになっている。決済、送金、融資などあらゆる金融分野で既存の金融機関がないがしろにしてきた顧客をベンチャー企業が囲い込み始めている。昨今のイノベーションの例外ではなく、フィンテックも米国シリコンバレーがリードしているが、中国を中心とするアジアも急速に台頭してきた。

 



■ペイパルを凌駕

 フィンテック企業の代表格はネット決済サービスの米ペイパル(カリフォルニア州サンノゼ市)だろう。オークションサイトの米イーベイ(同)から分離・独立した会社で、2015年7月にナスダックに再上場。上場直後の時価総額は520億ドル(約5.6兆円)とイーベイの320億ドルを上回った。その企業価値は三井住友フィナンシャルグループ(4.5兆円)、みずほフィナンシャルグループ(4兆円)を上回る。

 そのペイパルを凌駕する企業が中国にある。中国版ペイパル「支付宝(アリペイ)」を運営する蟻金融服務集団(アリ金融)だ。アリペイは特にモバイル決済に強く、利用者数は5億5000万人とペイパルの1億7900万人の3倍。取引金額も年間約8000億ドルともいわれ、ペイパルの約3000億ドルを上回る。アリ金融は阿里巴巴集団(アリババグループ、浙江省杭州市)から分離した会社だ。アリババ自体は2014年9月に米国で上場した直後は時価総額25兆円を記録したが、アリ金融も上場すれば10兆円の時価総額は下らないとされる。

 1999年創業のアリババはもともと企業間(BtoB)のネット通販サイトだったが、2003年に消費者向け(BtoC)のサイト「淘宝(タオパオ)」を開設。2004年にそこでの決済手段をアリペイとして独立のサイトにした。消費者がアリペイに口座を持ち、商品の購入に際して同口座から出品者に支払いをする。アリペイは仲介をするわけだが、消費者が商品を受け取った時点で出品者に支払いを実施することで、消費者が安心してサイトで商品を購入できるようにした。アリペイではクレジットカードを持っていない信用力の低い消費者でも口座に人民元をチャージするだけで支払いが可能になる。

 アリ金融及びアリババは中国のフィンテック分野をリードする。アリ金融が金融業界での存在感を高めたのは2013年に始めた投資信託「余額宝」だ。アリペイの口座には支払いのために出番を待っているお金が大量に預けられている。それをアリ金融が証券口座のマネー・マーケット・ファンド(MMF)のように運用する仕組みだ。市中銀行に預けるよりも高金利で運用できるため人気となり、資産規模は10兆円規模と世界でも指折りのファンドに成長した。

 さらにアリ金融は「芝麻信用(ゴマ信用)」、「 蟻小貸(アリ小貸)」といったサービスも展開する。ゴマ信用はネット通販利用者の信用力を取引履歴、会員期間の長さ、公共料金の支払い記録などから点数化するサービスだ。その点数に応じて与信枠を与え、通販サイト内で枠内での信用買いができる。点数が高ければ提携ホテルのチェックインもクレジットカード提示なしでできる。

 アリ小貸はアリババの通販サイトに出店する零細企業に対する貸出しだ。店舗の取引履歴や人気度などのデータを活用して与信審査を自動化した。2010年にサービスを開始し、累計で70万以上の企業に少額融資を実施しているという。アリ金融が企業のアリペイ口座を押さえているため、資金回収も容易で融資が不良債権化するリスクも小さい。

 中国のネット市場は「BAT」と呼ばれる中国ネット御三家が牽引してきた。Bは百度(バイドゥ、北京市)、Aはアリババ、Tは騰訊控股(テンセント、深?市)だ。バイドゥはネット検索、アリババは電子商取引、テンセントはインスタント・メッセンジャーとそれぞれ出自は異なるが、豊富な資金力を背景にお互いの領域に進出。競い合うように事業を拡大してきた。フィンテック分野も例外ではない。チャットアプリ「微信(ウィーチャット)」を手掛けるテンセントはネット決済サービス「財付通(テンペイ)」を2005年に開始。遅ればせながらバイドゥも2014年に同様の「百度銭包」を開始した。


■ペイパルを凌駕

■2014~2015年に大型上場

 フィンテックとはそもそも何か。フィンテックは「フィナンシャル・テクノロジー(=金融技術)」の略語で、昔からある言葉だ。金融機関向けに技術ソリューションを提供するシステム会社を主に指していた。しかしここ1、2年バズワードになっている「フィンテック」の概念はやや異なる。どちらかというと既存の金融業界に変革をもたらすベンチャー企業的なイメージで、1999~2000年のIT(情報技術)バブルに匹敵する波を市場関係者やメディアが期待しているのだ。特に2014年から2015年にかけてフィンテック銘柄が相次ぎ米国で大型上場を果たしたことがブームに火をつけた。

 2014年12月、レンディングクラブ(サンフランシスコ市)がニューヨーク証券取引所に上場した。お金を借りたい個人と貸したい個人をネットで仲介する「P2Pレンディング」を手掛ける、2006年創業のベンチャーだ。上場直後の時価総額はりそなホールディングス並みの100億ドル超(現在は30億ドル程度)を記録した。2015年7月のペイパル上場後、11月には決済システム開発のスクエア(同)も上場した。42億ドルと千葉銀行やあおぞら銀行並みの時価総額をつけた。小型のクレジットカード読取装置をスマホや「iPad」などに取り付けるだけでレジ端末にできるシステムを提供する。

 「革新的なビジネスモデルと技術を結びつけ、金融サービスを改善、拡張、そしてディスラプト(破壊)する高成長組織」。英アーンスト・アンド・ヤングが英財務省の要請で2016年2月にまとめたフィンテック関連のリポート「最先端にいるUKフィンテック」では、フィンテック企業をこう定義する。かつその特徴として「顧客中心」「資産軽量」「規模拡大性」「簡便性」などを挙げる。これまで既存の金融機関が熱心に取り組んでこなかった消費者の小口の決済や外国人労働者の海外送金、学生向けの融資など、“金融弱者”を対象としたサービスが世界各地で活発になっている。モバイル端末や電子商取引の普及でユーザーのニーズに細かく対応することができるようになったからだ。

 同リポートではフィンテック集積拠点として英国と競合する6つの国・地域を人材供給、資金調達、政府支援、利用ニーズの4つの切り口で比較・分析した。英国が辛うじてカリフォルニア州を上回ったが、ニューヨーク州も高得点を記録。やや間を空けてシンガポール、ドイツ、オーストラリア、香港が並ぶ。シリコンバレーがやはりフィンテック分野でも最先端という印象だが、ブームは世界各地に広がっている。

 地域的な広がりは会計事務所KPMGと未公開企業データベースサービス会社CBインサイツがこの3月にまとめた報告書「フィンテックの鼓動、2015年を振り返る??フィンテック・ベンチャー資金調達のグローバルな分析」からも分かる。ベンチャー・キャピタルが支援するフィンテック企業に注入された資金は2015年に世界で前年比約2倍の138億ドルとなった。うち約半分の77億ドルは北米での投資だが、アジアのディールは45億ドルに達欧州の15億ドルを大幅上回った。

「かつては西洋のビジネスデルが最適なモデルと見どうそれをアジアで再するかに努力が払われてた。これからはもっとアジから新しいビジネスモデル出てくるだろう。モバイ技術によってそうした動が加速している」。

 KPMG香港のアイリーン・チュー氏はそう指摘する。に中国での動きが活発同報告書は「2015、中国におけるフィンテッ投資は爆発した」と表現るほどだ。2014年に6億ドルに過ぎなかった資は2015年には27億ドルに急増し、アジアでの投資の6割を占めた。


■2014~2015年に大型上場

■フィンテック100

 どのようなフィンテック企業がアジアにはあるのか、KPMGと豪州ベンチャー・キャピタルのH2ベンチャーズが15年12月に発表した、世界を代表するフィンテック企業100社のランキング「フィンテック100」でみてみよう。世界19カ国のフィンテック企業から、資金調達額、事業の地理的・分野的な広がりなどを考慮して、グローバルなフィンテック50社と今後期待できる新興フィンテック企業50社を選出した。100社のうち米国企業が40社と最多だが、アジア企業も12社と健闘。オーストラリア、ニュージーランド企業も10社入った。

 アジア12社のうち8社が中国企業で、総合1位に輝いたのは中国の衆安保険(衆安オンライン財産保険)だった。上海に本社を置く同国初のネット保険会社で、アリババとテンセントのライバル関係にある2社が保険大手の中国平安保険(深?市)と手を組んで2013年に設立した。2015年には米モルガン・スタンレー、投資銀行大手の中国国際金融(CICC)などから9億3100万ドルの出資を受けるなど、将来を有望視されている。

「保険」分野は加入者の健康状態や過去の事故・災害の記録などビッグデータを解析してリスクを算出するなど、IT力が競争力の源泉となる分野だ。米国ではオスカー・ヘルス・インターナショナル(ニューヨーク市)がネットで顧客に最適な医療保険を選択・販売すると同時に、処方履歴管理や医療検査など医療サービスも提供している。加入者にウエアラブル端末を渡して日々の健康管理データを活用することも検討中だ。自動車保険の分野では走行距離が多いほど保険料が高くなる商品を提供するメトロマイル(サンフランシスコ市)などが注目されている。ランクインしたインド企業2社はどちらも保険がらみ。28位のポリシーバザール(グルガオン市)は保険比較サイトを運営し、49位のカバーフォックス(ムンバイ市)はネットを通じて保険商品を販売する。

 レンディングクラブと同じ「P2Pレンディング」分野では3つの中国企業がリスト入りした。中国平安保険が出資する11位の上海陸家嘴国際金融資産交易市場(陸金所=ルファックス、上海市)、携帯端末大手の小米が出資する45位の積木合子(北京市)、そして新興企業50に入った人人貸(北京市)だ。P2Pレンディングでは、貸し手の信用をネットで収集したビッグデータを使って分析し、どのぐらいの利子で貸し付けるのが適切かをITで算出する。39位に入った北京閃銀奇異科技(ウィーキャッシュ)は「機械学習」技術を使って15分以内に個人の信用力を判断するシステムを提供している。

 中国にはP2Pレンディング企業は2000社以上あるとされ、今後、再編・淘汰が進むとみられている。大手は資金調達力を高めている。陸金所は2015年12月に中国銀行系の投資会社、中銀集団投資などから9億2400万ドルを調達。同業の点融網(ディエンロン、上海市)も英スタンダードチャータード銀行などから2億400万ドルを得た。信而富(チャイナ・ラピッド・ファイナンス、上海市)は米国で上場を計画しているという。

 ランキングにはシンガポール企業2社もエントリーした。ファスタキャッシュとニューモニで、いずれも「決済」「送金」分野のベンチャー企業だ。ファスタキャッシュはフェイスブックやLINEなどSNS(ソーシャル・メディア・ネットワーク)内で送金する環境を提供する。割り勘にした飲み代の友人への送金、ネット店舗への支払いなどが各種SNSでできる。ニューモニは外国人労働者を対象にしたサービスで、専用の端末を通じてお金を「通話時間(エアタイム)」にして相手に送る。相手は受け取ったエアタイムを携帯電話会社でキャッシュに替えてもらう仕組みだ。



■ブロックチェーン

 フィンテックを語る時に「ビットコイン」について触れないわけにはゆかない。通常の法定通貨のように中央銀行などの発行体は存在せず、ビットコインが通貨であると認めた人たちの間でお金として流通し始めた。2009年から普及が始まって7年、法定通貨との交換所や決済手段として採用するレストランなども増えてきた。1ビットコインは約4万6000円(4月9日現在)で、1500万単位が流通しており、その時価総額は約7000億円規模になっている。

 ビットコインの背後にある技術が「ブロックチェーン」だ。ビットコインはアルゴリズムによってコンピューターの中で存在する実体のない通貨。それは誰が誰にいくら所有権を移転したか、そうした取引の帳簿(ブロック)があるに過ぎない。新しい取引があれば帳簿に更新記録をつなぎ合わせて(チェーン)いく。この帳簿は改ざんするのに膨大はコストがかかり、しかも複数のサーバーに分散して存在するため、偽造や消滅のリスクが小さい。通貨だけでなく、不動産や知的財産権の台帳管理にも応用できる。大型コンピューター上で構築した顧客データベースなどを安価な分散型で構築できる可能性もあり、金融業界にとどまらない様々な応用が期待されている。

 ブロックチェーン技術を使ったベンチャーもアジアで生まれている。フィリピン人出稼ぎ労働者向けに送金サービスを手掛けるシンガポールのトースト、ゴールドを裏づけにして仮想通貨を発行するシンガポールのディジックスグローバルやタイのアミラボズ(バンコク市)などだ。

 ビットコインの取引が最も多いのは実は中国。金融不安の高まりとともに利用が増え、現在全世界の取引の9割前後が中国で行われているといわれる。ドルに対して切り下がる可能性のある人民元をビットコインに替えて海外送金する需要が多いようだ。中国では個人の外貨持ち出しは年間5万ドルに制限されており、ビットコインならこの枠外だからだ。さらに先進国の中央銀行が量的緩和を通じて自国通貨の減価競争を繰り広げる中、通貨の役割の一つである「価値の保存」にもビットコインへの期待は高まる。「金(きん)のような数字だが、金よりも使い勝手はいい」(日本デジタルマネー協会)。

 ビットコインの普及は法定通貨を発行する中央銀行にとって脅威だが、ブロックチェーン技術を使えば中央銀行も紙幣に取って代わる電子マネーを安価に発行できる可能性がある。ブロックチェーンは発行体のないビットコインという分散型の仮想通貨を実現したが、誰が誰に所有権を移転したかという取引履歴のリストは発行体がすべての取引を把握できる中央管理型のデジタル法定通貨も可能にする。

 2016年1月、中国人民銀行(中国の中央銀行)はデジタル通貨の発行を検討していることを表明した。「マネーロンダリングや脱税を減らして経済の透明性を高め、通貨の供給と流通に対する中央銀行の制御力を高める」とその狙いを述べている。中国では規制をかいくぐり、人民元の紙幣を香港にハンドキャリーで持ち出してドルに替える行為が増えている。人民元の自由化を進めてきた中国だが、急速な流出に通貨の動きをコントロールする手立てを模索しているのだ。フィンテックを巡り、民間企業、中央銀行・政府入り乱れて動きが急になっている。



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