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2016年06月02日

【竹中平蔵の骨太対談】世界に通用する事業を創る/vs エイチ・アイ・エス会長兼ハウステンボス社長 澤田秀雄

企業家倶楽部2016年6月号 骨太対談


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

 



地方活性化でインバウンドを掴む

竹中 澤田会長といえば、実業家であると同時に、「世界に視野を広げ、もっと楽しい人生を生きよう」という考えを日本に定着させたコンセプトリーダーですね。これまで、新しい観光のあり方を作り出してきました。

 観光業は世界で最大規模の産業です。私は以前より、日本には大きな観光産業の可能性があると言い続けてきました。十数年前、当時500万人だった外国人観光客を1000万人まで増やすという目標を立てたら笑われましたが、3年前にその目標は達成されました。近年「インバウンド」という言葉で大きく取り上げられるようになり、今やその数は2000万人に達しようとしています。

 しかし、まだ体制が整っていないのも事実です。澤田会長はインバウンドについてどう考えられていますか。

澤田 まさに注目している分野です。勢いよく伸びていて、私は2000万と言わず5000万人に届くほどの潜在的な力が日本にはあると考えています。

竹中 私もおっしゃる通りだと思います。定住人口よりも観光客数の方が多いという国はヨーロッパにいくつもありますが、日本は人口1億2700万人に対して2000万人ですから、現状で増えていると言ってもそうした観光大国に比べれば大したことはありません。

 しかし、例えば毎年7%ずつでも増えていけば、10年後には2倍となる計算になります。

澤田 もっと早く伸びていくと思います。ただ、それを実現させるためには、今のように東京や京都に頼りきったままでは受け入れきれません。初めて訪れるのはそうした都市部でも、2回目は北海道、九州などの地方に行くという流れを戦略的に作っていきたい。そのためには、まず宿泊の問題を解決する必要があります。今、東京や大阪のホテルの稼働率は80~90%に達し始めています。しかし、それがいっぱいになったからと言ってすぐ新しくホテルを作るというわけにもいきません。結果、価格が高騰しますし、予約が取れない事態が発生するでしょう。すると、どうしても観光ビジネスにもブレーキが掛かってしまいますから、それだけは何としてでも避けたい。

 一方で、観光客の多くが東京、京都、大阪などの都市部に集まるため、地方の宿泊施設には空きがあります。都市部に集中する観光客をいかに地方に散らばらせるかが今後の課題です。

竹中 その通りで、インバウンド需要を盛り上げるためには、都市部だけではなく地方全体の活性化が重要です。

 ちょっとしたインフラさえ整えば人の流れが良くなったり、少しだけ設備を拡充すればより効率的になったり、観光を盛り上げるために必要なポイントがそれぞれの地方にあります。そうした点を踏まえ、役所だけでなく企業や住人が協力して改革を進めることに意味があります。



西の果てで不可能に挑む

竹中 地域活性化というと、まさに最近澤田さんが一番力を入れているハウステンボスが代表的な事例ではないでしょうか。開園以来18年間に渡って赤字続きだった案件で、澤田さんが9人目の社長だそうですね。

澤田 はい。私が社長になってからもうすぐ6年になりますが、以前のハウステンボスには、テーマパークとしての課題が山積みでした。

 一つは市場の小ささです。普通テーマパークのお客さんは、6~7割が地元から来ると言われています。例えば、関東ならば約2000万人くらいの大きな市場がある。大阪も同様です。一方のハウステンボスは日本の西の果て九州にあり、佐世保と長崎を合わせても人口は100万人に満たない。マーケットで言えば、大きく見積もっても大都市圏の10分の1ほどの規模です。

竹中 そうなると、地元以外のところからお客さんを呼びこむ必要があるわけですね。そのアクセスの部分はいかがですか。私も一度行きましたが、東京から長崎まで飛行機で2時間弱、さらに空港からハウステンボスまでバスで1時間ほどかかり、行くまでが少々大変だった記憶があります。

澤田 アクセスに関しては今でも苦戦しています。時間がかかり費用も高くつくため、一度ならまだしもリピーターになりづらいという欠点がある。長崎市と一緒にハウステンボスの近くに空港を作るというアイデアもありましたが、なかなか良い場所が無く、上手く行きませんでした。

竹中 最近は仙台空港や関西国際空港など、民間が運営を委託された空港が増えてきたので、ぜひ澤田会長にもチャレンジしていただきたい。エンターテインメントが融合した、楽しく効率化も図られた空港ができたら面白いと思います。市場規模、アクセス以外にも課題はありましたか。

澤田 テーマパークというからにはテーマが必要です。東京ディズニーリゾート(TDR)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ )には映画会社がついているため、新しいコンセプトやキャラクターに合わせたイベントをどんどん打つことが出来ます。

 ハウステンボスにも、オランダをモデルに作った素晴らしい景観や建物、季節の花々がありますが、二度目に来た時の目新しさがあまりありませんでした。つまりリピーターになりにくい。そうした条件に加え、長崎は雨も多いですし、先ほど言ったようにアクセスも良くない。そもそもあの場所にテーマパークを作ったこと自体が間違いだったのです。

竹中 聞けば聞くほど再建など夢物語のような気がしてきます。そんな難しい案件をなぜ引き受け、再生することになったのですか。

澤田 僕も初めてお話を頂いた時は、これは絶対に苦労すると思い、お断りしました。しかし、佐世保市長が熱心な方で、二度断った後にもアポイントメントなしで朝一番にお願いに来られた。そこまでされては、引き受けざるを得ないと思いました。

 三回頼まれて折れたのも本当ですが、エイチ・アイ・エスがここまで成長してきたのは観光業のお陰ですから、九州の観光のお手伝いがしたかった。そして何よりも、僕自身のチャレンジの血が沸き立ったのが理由です。今まで数多くの会社の再建に関わってきた中で、一番と言っていいほど難しい案件。しかし、現地に行けば素晴らしい建物や花があって、これをどうにかして再興したいと燃えました。



ナンバーワン、オンリーワンが人を呼ぶ

竹中 まさに、澤田会長のチャレンジ精神に火が点いたという感じですね。課題が山積する中、初年度から黒字を出されたのには驚きました。どのような発想で乗り越え、黒字が出るモデルを作り出せたのですか。

澤田 まずは、人間の体ならば健康診断をしてどこが悪いのか見るように、私も現地視察や決算書を通した診断から入りました。だいたい数字を見れば現状を把握できますが、ハウステンボスの場合は設備投資へ経費をかけすぎていました。敷地面積だけ見ればTDRの1.6倍を誇りますが、実際の市場は10分の1。これでは採算が取れません。

 こうして数字から様々な判断を下し、手を打つ準備をする。これを、再建に手を付ける数カ月前から進めることで、いざ経営をする時には半分黒字化への体制が作り上げられている状態になります。

竹中 過剰な設備投資の問題が明らかになった一方で、イルミネーションや新たな施設などを作り上げ、ハウステンボスのイメージを変えましたね。コストカットと新規投資のバランスは難しかったと思います。

澤田 企業というのは単純で、利益と経費の差で黒字か赤字かが決まります。つまり赤字を黒字に転換させるためにすべきことは2つ。無駄な設備投資を削り経費を下げることに加えて、売上げを増やすことが必要です。テーマパーク事業で言えば、売上げを伸ばすには入場者数の増加が肝でした。

 そこで、私はどこのテーマパークでも共通して閑散期と言われる冬に注目しました。冬にお客さんが少ない理由はずばり「寒い、暗い」。ならば逆転の発想で、「温かい、明るい」を目指そうと始めたのがイルミネーションとプロジェクションマッピングです。園内がパッと明るくなって、冬で日が短い分、長い時間イルミネーションを見ることが出来る。光は熱を持ちますし、気持ちも温かくなります。以前は春休みの3月と夏休みの8月が最も集客のできる時期でしたが、今では12月が一番です。

竹中 「寒い、暗い」を「温かい、明るい」にするなど、澤田会長はそうしたキーワードを見つけるのが上手いと思います。ただ、言うは易く行うは難しですよね。

澤田 アクセスなどの面で東京や大阪に劣るハウステンボスですから、同じようなことをやっても見向きもされません。しかし、他がやっていないこと、もしくは日本一・世界一と言えることをすればお客さんは来てくれます。

 1300万球ものLEDを使ったイルミネーションは世界一の規模ですし、昨年立ち上げたロボットホテルも世界初の試みです。人の注目を集めるためには、まずナンバーワンかオンリーワンであること。これを常に意識しています。

竹中 イルミネーションにしてもロボットホテルにしても、澤田会長には突き抜ける力がある。良いと思っても、投資するには体力もいるし人材も必要ですから、実現は難しい。しかし、これを成し遂げれば長期的な目線からして利益が拡大しますし、企業の基盤が強固になり好回転を生みます。



実験場ハウステンボスから世界を目指す

竹中 澤田会長は、ロボットホテルの他にもハウステンボスで様々な実験をされていると聞きました。

澤田 ハウステンボスはモナコと同等の広さを誇りますが、全て私有地のため規制が少なく、実験場としては最適です。私がいつも園内で乗っている電気自動車や、今後運行予定の全自動バスは、一般の公道を走ろうと思ったら許認可を取るのに2~3年かかるでしょう。

 実用実験は技術革新において欠かせないプロセスです。ロボットの研究でも、いざ使ってみると9割方は何かしら問題があることが分かります。そうして改良を繰り返すことで、世界に出せるレベルの技術になるのです。

 昨今の技術革新のスピードはとにかく速いですから、技術が形になり次第、実用実験に移し、そこで分かった問題点を次々に改良していかないと欧米にすぐ置いて行かれてしまう。彼らの速さに付いて行くためには、規制に縛られていては難しいので、ハウステンボスは実験に最適な場所と言えるでしょう。

竹中 私は今アベノミクスの一貫で国家戦略特区のメンバーを務めていますが、まさにそうした実験のための規制がかからない地域を作ろうとしています。ハウステンボスはまさに澤田特区と言えるでしょう。

 これからもそのチャレンジ精神をもって様々な挑戦を続けていかれると思いますが、2020年には東京オリンピック、パラリンピックが控えています。その頃はどうなっていると思いますか。

澤田 ハウステンボスはこれまでテーマパークとして急速な発展を遂げてきました。これから目指すのは、そこで観光ビジネス都市を作ることです。悪く言えば広すぎるが、良く言えばスペースがたくさんある。そして規制も少ないということで、研究を進めて実用実験をしたり、新しいビジネスを起こす場にしたいです。そこから世界に通用する事業が生まれてくればいいですね。

 我々としては、ロボットの会社を作ることを考えています。テーマパークの中でエンターテインメント性を持つものと、より実用性に焦点を当てたロボットを並行して作っていく。もう一つ、世界一生産性の高い植物工場建設の準備も進めています。どんな環境でも、美味しくて栄養素がありコストが掛からない植物の生産が可能となるでしょう。

 ハウステンボスはこうした将来のための実験場となりつつあります。ここで起きた技術革新が日本のため、ひいては世界のためになる事業として大きく成長することで、観光という平和産業を担う私たちが貢献できるのではないかと思います。



竹中平蔵 (たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。経済学者。73 年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。第2次安倍内閣において、13 年に日本経済再生本部の「産業競争力会議」の民間議員としても活動。14 年1月より、国家戦略特区の特区諮問会議のメンバーに就任。16年4月より慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授に就任。
竹中平蔵 (たけなか・へいぞう)

澤田秀雄 (さわだ・ひでお)

1951年大阪府生まれ。高校卒業後、旧西ドイツマインツ大学に留学。80 年インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を設立、95 年株式を店頭公開。96 年スカイマークエアラインズを設立、98年35年ぶりに国内航空業界に新規参入を果たす。99年協立証券を買収し、エイチ・アイ・エス証券(現エイチ・エス証券)を設立。04 年6 月エイチ・アイ・エス会長。モンゴル銀行、ウォーターマークホテルを展開する。10 年4月ハウステンボス代表取締役社長就任し、18年間赤字の同パークを1年で黒字化。15年利益100億円を達成。99年第1回企業家大賞を受賞、現在は企業家賞審査委員長を務める。


澤田秀雄 (さわだ・ひでお)

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