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トピックス -企業家倶楽部

2016年09月06日

インド、スタートアップ経済始動へ―ユニコーン企業に見る起業先進国の秘密/梅上零史

企業家倶楽部2016年10月号 グローバル・ウォッチ vol.9


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

   

 

インドが設立間もない技術系企業、テック・スタートアップの創出で世界をリードしつつある。海外のベンチャーキャピタルの資金が流入し、評価額10億ドルを超える「ユニコーン」と呼ばれる未公開企業が数多く生まれている。スタートアップはイノベーションの源泉とも見られている。まだ下位中所得国のインドが起業分野で躍進している理由は何か。ユニコーン企業にその秘密を探った。




「若者よ、求職者から創職者になれ」。今年1月16日、インドのモディ首相は新しい産業振興策「スタートアップ・インディア」の行動計画を発表した。規制緩和や免税、資金援助を通じて若者の起業を支援し、大学にも新しい31のイノベーション・センターを作り、さらに7つのリサーチ・パークを新設するといった具体的な内容だ。

 モディ首相がこうした施策を打ち出す前からインドではスタートアップ・ブームが起きていた。ネットメディア「テック・イン・アジア」によれば2015年のアジアにおけるベンチャーキャピタル投資は14年の約3倍の553億ドルで、中国に次いで多いのがインドの79億ドル。3位のイスラエルに6倍超の差をつける。

 インドが起業先進国であることを各種データが示している。印IT業界団体NASSCOM、同調査機関Zinnovの調査レポートによれば、インドのスタートアップ企業数は4200超で、米英に次ぐ世界第3位。中国、イスラエルの上を行くという。米調査会社CBインサイツが公表しているユニコーン企業ランキングでは世界168社中、インド企業は7社(16年8月1日時点)。米国(76社)、中国(32社)に次ぐ3位で、5社の英国及びドイツの上を行く(日本は1社のみ)。

 表にインドのユニコーン企業を11社リストアップした。CBインサイツのユニコーンに選ばれた7社に、米国企業に分類されているミューシグマとシンガポール企業となっているインモビの2社を追加。さらにCBインサイツがユニコーン予備軍と認定する2社を加えた。11社について詳しく分析すると多くのスタートアップをインドが生み出す秘密が垣間見える。




▼募集広告サイト運営のクイカールは15年初め、拠点をムンバイからバンガロールに移した。技術系人材を確保するためだ。コスト負担は大きくなっても、成長するには移転は不可欠と判断した。

 
 11社中5社がバンガロール、3社がグルガオン、2社がニューデリー、1社がノイダに本拠地を置く。バンガロールは1970年代から航空、宇宙関連の政府研究機関が集積し、夏でもエアコンが不要な過ごしやすい気候は90年代にマイクロソフトなどの外資系企業を引きつけた。米国からソフト開発などを受託する産業も発展し、ウィプロやインフォシス・テクノロジーズといった地元発の大企業も生まれた。“インドのシリコンバレー”はIT系の人材が見つけるのが容易で、テック・スタートアップが起業する環境が整っている。

 米調査会社スタートアップ・コンパスの「グローバル・スタートアップ・エコシステム・ランキング2015」では、選抜した世界20都市中、バンガロールは起業生態系の発達度合いで15位にランク入り日中韓は調査対象外)。アジアでは10位のシンガポールに次ぐ。特に金調達ではベンチャーキャピタル(VC)投資の急増もあり6位と高価だ。

 NASSCOM、Zinnovのレポートによれば、スターアップの26%がバンガロール、23%がニューデリー近郊、17%がムンイに集中しているという。この3都市をハイデラバード、チェンナイプネが追い上げる。米国でもスタートアップ・ハブはシリコンバレーニューヨーク、ボストン、シカゴなど複数拠点が割拠している。バンガロールのライバルが複数出てきているところがインドの強みであり、懐の深さでもある。

▼セコイア・キャピタルは地元VCを買収する形で06年に進出し、バンガロール、ニューデリー、ムンバイの3都市に拠点を置いて有望なスタートアップを物色している。同社が海外拠点を置く国はほかイスラエル、シンガポール、中国の計4カ国だけ。インドからは東南アジアにも展開し、100社強の投資先がホームページに並ぶ。米国でアップルやグーグル、フェイスブックなど有力IT企業を育ててきた歴史をアジアで再現しようとしている。 

 ユニコーンへの出資で目立つのは米系VCの活躍だ。テック・イン・アジアによれば、投資件数で見ると15年のトップ7のうち4社が米系VC。上位3社はセコイア、アクセル・パートナーズ、タイガー・グローバル・マネジメントだった。中でもシリコンバレーの伝説的VC、セコイアはユニコーン11社のうち5社の主要出資者となっている。

▼評価額1位、“インドのアマゾン”フリップカートの創業者サチン・バンサルとビニー・バンサルはインド工科大学(IIT)デリー校の出身。同じ姓で同じパンジャブ州チャンディガーの出身だが姻戚関係にはなく、IITデリー校で初めて出会った。入学したのはサチンが一年先だが落第し、夏休みの課題を共同で作業したことが知り合うきっかけとなった。

 ユニコーン企業11社の創業者20人(たいていの企業に共同創業者がいる)中、IITを卒業したのは15人に上る。中でもIITデリー校出身者は8人もいる。“インドのウーバー”オラ・キャブズ(会社名はANIテクノロジーズ)の二人はIITムンバイ、ネット広告で世界展開するインモビの4人はうち3人がIITカーンプルの出身だ。

 
 IITとは国立の理系エリート養成機関であり、全国に18校あるが、16年中に23校に増える。合計で年間3万人強を学部に受け入れ、大学院レベルでも3万人弱。むしろIIT出身でない起業家を探す方が難しいかもしれない。

▼ “インドの食べログ”ゾマト・メディアの創業者2人、ディーピンダー・ゴヤルとパンカジ・チャダーは米ベイン・アンド・カンパニーの同僚だった。

 ユニコーン11社の創業者の大学卒業後のキャリアを見ると外資系企業経験者が圧倒的に多い。しかも外資系コンサルティング会社の出身者が目立つ。ビッグデータの解析受託サービス、ミューシグマのディラージ・ラジャラム会長やクイカールのプラナイ・チューレットCEOはともに、プライスウォーターハウス・クーパーズ、ブーズ・アレン・ハミルトンで働いた後に起業した。

 意外なのはIT大手のインフォシス、タタ・コンサルタンシー・サービシズといった地元を代表するIT企業出身者が11ユニコーンの中に見られないことだ。地元のIT先駆者たちは米国企業の下請け的な存在であるため、起業家を生み出す文化を持っていないのだろうか。

 スタートアップ投資に沸くインドだが、16年に入ってやや陰りが出てきたとの指摘もある。16年上期の投資額は15年下期の7割減の15億7000万ドルに落ち込んだ(テック・イン・アジア)。

 しかし世界各国がこぞって低金利に埋没し、イノベーションによる生産性の向上こそが潜在成長率を高める手段との認識が広がりつつあるいま、スタートアップ育成の重要性は増している。若年労働者が増え続けるインドでは、スタートアップこそが雇用をもたらすと政府も考えている。金融政策だけで経済成長を図ろうという日本は大丈夫なのだろうか。




P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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