トピックス -企業家倶楽部

2016年07月21日

店舗戦略と現場力で顧客の心を掴む/ストライプインターナショナルの強さの秘密

企業家倶楽部2016年8月号 特集第2部


クロスカンパニー改めストライプインターナショナルは、今やアパレル界において大きな存在感を示している。時流を読み、ビジネスモデルの破壊と創造を繰り返す彼らは、その挑戦心で数々の荒波を乗り越えてきた。多種多様なブランドから繰り出されるきめ細やかな店舗戦略、フレンドリー接客を中心とする現場力で、らゆる世代の顧客を惹きつける同社の強さの秘密に迫る。(文中敬称略)



原点を忘れず

 創業から20年以上。ストライプは世界にまで展開し、売上げ目標1兆円を掲げるまでに成長した。しかし、ここまで至るには数々の苦難を乗り越えねばならなかった。ストライプ社長の石川康晴は特に、飛躍の原点とも言える”あの出来事”を今でも鮮明に覚えている。

「うちの社長はバカだ」

 創業5年目、石川は最大の危機に瀕していた。13人いた社員中10人が退職届を持参。そのうちの一人が友人宛てに書いた手紙を見つけた石川が、出来心からつい中身を開くと、前述の衝撃的な言葉が目に飛び込んできた。

「うちの社長は売れもしない高額品を商品戦略に据え、東京・代官山に店を出すと言っている。こんな会社は潰れるから、私は来週辞める」

 それは、石川に対する社員の率直な気持ちだった。それまで展開していたのは、ヨーロッパから女性アパレル商品を買い付けて売るセレクトショップ。4年目までは倍々で売上げを伸ばしたが、ワンピース15万円、靴15万円など高額な商品に手を出したことで次第に顧客離れが顕著となり、事務所は在庫の山に。資金は枯渇し、倒産寸前まで追い込まれた。

 前述の手紙のショックでしばらく放心状態に陥った石川だが、ふいに社員たちの方が正しいのではないかという疑問が頭をもたげてきた。「現に社員の大半が辞めると言っている以上、自分のやり方が間違っていたのかもしれない」。こうして戦略を1から練り直した石川。ヨーロッパからの買い付けを止め、SPA(製造小売業)メーカーとして比較的安価な商品を作ろうと決めた。

 結果、同社初のSPAブランドとして誕生したのが「アースミュージック&エコロジー(以下アース)」である。1999年9月に第一号となる岡山店を立ち上げると、600人ものお客が殺到。店を一周するほどの大行列ができた。

 まさに第二創業。倒産を目前にして、これまでの戦略を根底から破壊し、SPAへと急激な変革を遂げられたことで、奇跡の起死回生が成ったのである。


原点を忘れず

破壊と創造を繰り返す

「あした、なに着て生きていく?」

 こうして生まれたアースは、女優、宮﨑あおいの印象的なCMで飛躍的に認知度を伸ばしていった。一般消費者からすれば、テレビでよく名前を聞くようになった程度の話かもしれないが、経営者にとってCM戦略はまさに億円単位の決断となる。そこには怖さもあって当然。しかし、石川は果敢にも挑戦していった。

 決断と言えば、2011年には中国・上海に初出店を果たした。当時、中国では反日デモが盛んに行われていたが、徹底力が石川流。やると決めたからには腹を括り、自ら一カ月の半分は現地に住み込んで陣頭指揮を執った。

 それだけ中国に肩入れしていた石川も、一時期は生産拠点を東南アジアへ移行せよと叫んでいた。しかし、「実は東南アジアだと言った瞬間から、本当にそれで正しいのか考え続けていた」と本音も漏らす。最終的には中国に回帰。決断したからにはとことん進むが、時には既存のやり方を覆すことも辞さない、石川の性格がよく表れている。

 常に変化を受け入れ、ビジネスモデルの破壊と創造を繰り返す。旧クロスカンパニー時代から続く路線転換の方針は、今なお健在。その一つの集大成とも言えるのが、ストライプへの社名変更であり、ライフスタイル&テクノロジーへの事業領域拡大なのだ。



アースを卒業させない

 アパレル業界の荒波に揉まれてきたアースは、今やストライプを代表するブランドに成長した。全国に273店舗(フランチャイズ含む)を展開。売上げも350億円を優に超え、グループ全体の25%近くを占める。

 少し上品ながら、自然体で可愛い。そんな「ナチュかわ」の流行を牽引してきたブランドとあって、若い女性が着るイメージが強いかもしれない。だが、「このブランドは20代女性が着るもの」と決めつけるのは早計だ。

 アースはあと3年で20周年を迎える。当然、ブランドが生まれた時に20代だった顧客層は40代へ突入。そうした中、アースでは「顧客20年構想」の下、同ブランドから「卒業させない」戦略を打ち出している。つまり、15歳の中学生から35歳の主婦へと至る過程で、年齢が上がると共に他社ブランドへ乗り換えられてしまうのを防ぐ作戦だ。

 その具体的な施策として生まれたのが、世代ごとの階層分けだ。10代向けはホワイトレーベルとレッドレーベル、20代向けはプレミアムレーベル、30代向けはナチュラルレーベルと階層を作り、2016年の秋から40代向けのレーベルも登場予定。アース事業部長の坂巻暢彦は「さらにその上の世代も狙っている」と明かす。

 着るシーンやサイズ感、色のトーンは世代によって異なる。同じアース内でも、世代ごとにブランドを立てる必要があり、それが言葉を変えて「レーベル」という呼び名になった。「ずっとアースを着られて嬉しい」というファンは多い。購入する年齢層が広がれば客単価も徐々に上がるだろう。対象客層の拡大が好業績に繋がることは言うまでもあるまい。

 実は、店舗の立地もレーベルごとに使い分けている。10代向けは都心近く、20代向けは仕事帰りに立ち寄れる場所、30代向けとなると郊外のショッピングセンターに多く、キッズを含めたファミリー志向が加わる。ブランドのコンセプトや客層に最適な立地へ出店することで、高効率に収益を上げているのだ。



地方郊外型路面店で一石二鳥を狙う

  アパレルの消費全体が減少傾向にある以上、洋服一本で勝負するのは厳しい。アースも、レーベルを作って客層を広げるだけではなく、新しいブランドの在り方を模索せねばならない。

 ファーストリテイリングの運営するGUなど低価格ブランドの台頭が目立つ中、1000円高くともアースで買う意味を加える必要がある。そのために必要なのはブランディングであり、アースでしか扱えない商品や、得られない価値の提供だ。それはすなわち、ストライプが新たに掲げた「ライフスタイル」という旗印である。

 これに向けて考えるべき一つは、新しいモノづくり。ストライプは今や食料品から化粧品まで展開。お菓子や芳香剤も手掛けたことがある。もう一つはイベント。全社で浴衣(ゆかた)を着るイベントを開催し、それに紐づけてアースで浴衣を販売するといった施策を打っている。

 アースが今後、地方郊外型路面店の展開を促進しようとしているのも、この流れと無縁では無い。

 路面店の店舗規模は、アースにしては広い100~150坪を想定。またレディースのみならず、メンズ、子ども服、雑貨も合わせて販売する。基本的には車でしか行けないような場所なので、駐車場も30~40台分は確保しているという。

 都心のファッションビルや郊外のショッピングセンターが飽和状態になってきたことで、地方郊外を未だ残された隙間と捉えている側面は否めない。だが、前述のような店舗規模と客層は、ストライプの押し進めるライフスタイル戦略と見事に合致する。

 まず、店舗が広いことで、幅を取りやすい雑貨が置ける。ファミリー層を取り込むような商品構成にすることで地域に根差し、かつ広い敷地もあるとなれば、イベントも開きやすいだろう。例えば、盆踊りを開催するも良し、子どもを集めてお絵かき大会を開くも良し。アースの地方郊外店は、店舗戦略とライフスタイル戦略の一石二鳥を狙った奇策と言える。



全世代が支持するグリーンパークス

 アースに並び、ストライプの稼ぎ頭となっているのが、グループ全体の売上げの約20%を誇るブランド「グリーンパークス」だ。この店、実は他社から仕入れた商品が6割を占める。様々なブランドを取り扱っていることもあり、客層は10代の小中学生から80代のおばあさんまで幅広いというから驚きだ。

 同ブランドは、人々の生活に寄り添うのがコンセプト。店舗数としてもフランチャイズ含め309店舗と、実はアースよりも多い。それも、グリーンパークスが地方のスーパーを中心に出店を進めているためだ。「スーパーの方がショッピングセンターよりも多いでしょう?」と坂巻が説くのも頷ける。華やかさを抑えながらも洗練された雰囲気は、地方でよく目立つ。

 アースが、ファッション好きな女性が「今日は洋服を買いに行こう」と思い立って行く店ならば、グリーンパークスは、スーパーで卵や牛乳を買った帰りに品の良いワンピースなどを見繕う店という表現が相応しかろう。

 ファッション好きな人は、アースのレーベル階層をそのまま上がっていく。一方グリーンパークスは等身大で買いやすいため、ファッションにそれほど関心が無くとも、季節に応じて新しい服は欲しいという層が購入している。

 ふと気付けばある自然なたたずまいから、店の名前が認識されていないこともしばしば。ある調査では、「クローゼットにあるものの、どこで買ったのか覚えのないブランド」という結果が出た。しかし、それだけ自然に買われているため、飽きが無く、むしろ売上げにも繋がっているというから面白い。



多種多様なブランドで様々な出店条件に対応

 ストライプのブランドは、アースやグリーンパークスだけではない。その他「イーハイフンワールドギャラリー」「セブンデイズサンデイ」など、飲食を除いて14ものブランドが並び立つ。ブランド自体を多く持つことで、コンセプト、客層、店の坪数を勘案しても、様々な出店条件に対応することが可能だ。

 東京に進出したばかりの頃は、ショッピングセンターなどの商業施設を開発するデベロッパーとの関係性が希薄で、出店に苦労することも多かった。店舗開発本部長の清水優は「一度決まっていた場所を、デベロッパーと付き合いの深い競合他社に取られたこともある」と振り返る。

 しかし、今や会社の規模は拡大。アパレル業界の中でも、ストライプの存在感は日に日に強まるばかりだ。決め打ちで「ここにグリーンパークスを出して欲しい」などと要請されることもある。自然と、出店時に良い立地が取れるようになってきた。

 ショッピングセンター一つ取っても、わざわざブランドを探して来るお客はいない。だからこそ、適切な客層を呼び込む出店戦略と店舗の立地が重要となるのだ。



ユニクロ柳井正から叱咤激励

「ユニクロの柳井さんが会いたいと言っている」

 ある日、ストライプ(当時クロスカンパニー)社長の石川に一本の電話がかかってきた。こんな機会はそうそう無い。午前8時に東京・六本木のファーストリテイリング東京本部へ赴くと、開口一番、同社会長の柳井正から「なぜ石川さんは小さな店しか出さないのですか」と問われた。

「ウォルマートのような巨大スーパーがあれば、セブン- イレブンという小さなコンビニもあります」と説く石川。だが、これに対し柳井は「全ては規模だ」と言下に否定した。

「在庫を減らし、小規模で展開して利益率を高めるのが僕たちのビジネスモデルです」

 石川も負けじと言い返したが、「それは違う。規模だ」と柳井はバッサリ。それから3日間、「規模」という言葉が頭を巡っていた石川だが、「ならば、一つやってみよう」と思い立った。こうして出来上がったのが、新ブランド「KOE」である。

 このため、同ブランドは当初から200坪という大型店を志向。2014年より岡山、高松といった路面店からスタートし、翌2015年には関東への進出を果たした。広がりゆく業容の中で、ストライプが唯一手掛けてこなかった大型店。これで、ストライプの出店戦略に新たな選択肢が加わった。


ユニクロ柳井正から叱咤激励

現場力を磨く

  店舗戦略が十分に練られていても、これを実際に運営するのはスタッフだ。ストライプの売上げは、直接お客と接点を持つ彼女たちにかかっている。では、現場ではどのような施策が打たれているのだろうか。ここで、アースの事例を見てみよう。

 ららぽーと富士見(埼玉県)にある「アース リビングストア」。ここでは、訪れる客層に合わせて、平日と週末で店舗のレイアウトを変えている。平日は、若いお母さんが幼い子どもを連れてくることが多いため、落ち着いた雰囲気のゆったりした商品を置く。スタッフの服も、あまり若々しさが目立たないように心がけている。一方、土日は若年層の集客が見込まれるため、価格帯の低い商品を前に出し、土日の出勤が多いアルバイトには可愛さを押し出した洋服を着てもらうようにするという。



お客の服と言動を注視

  リピーター作りにも余念が無い。お客の顔を覚えるのは当然。また、よく来店する相手に対しては、最も仲の良いスタッフに止まらず、名前や好きな洋服の雰囲気まで店舗で共有し、誰もが細やかに対応できるよう意識している。

 アースの場合、お客に声かけをして商品の販売に繋げることが多いが、中にはお客と話すのが苦手なスタッフも。「その根底にはあるのは自信の無さ」と店舗責任者の関根朱里紗は説く。そのため、ららぽーと富士見店では、商品のメリットを挙げたり、お客が何に興味を持っているのか判断したりするトレーニングを行っている。

 特に、お客の着ている服や店内での言動には注意を払う。現時点で着ている洋服の雰囲気が好みのタイプである可能性は高い。その服の系統がどのカテゴリに属し、どのような合わせ方が良いかなど、様々なファッション誌を研究してイメージできるようにしておくことが重要だ。着こなしから、時には靴や鞄といった雑貨の類まで薦めることもあるという。

「ただ少し立ち寄っただけのお客様もいますが、何巡も店内を回っているのに同じ所で止まっている時などは、お客様が迷われている証拠」と関根。表情などを汲み取り、手に取った商品に応じて説明を行う。どうしても購入しようか悩む場合は、商品番号を記載して渡すこともある。その場での購入に至らずとも、ファンになってもらえれば未来の売上げに繋がる だろう。

 統計的にも、接客を行った方が圧倒的に購入に結び付きやすく、またお客の満足度も高い。スタッフの現場力は、確実にストライプの売上げに貢献していると言えよう。



お客を自然に購入へと導く

 一方KOEの場合、話は異なる。こちらは前述の通り、同社初の大型店舗。もちろん、お客が気軽に話しかけやすい雰囲気は作るが、基本的には声かけをせずとも店内を回って購入してもらえるように仕掛けるのが肝だ。

 だが、接客をせずに売上げを伸ばすほど難しいことはない。お客を自然に導き、購入に繋げるためには、動線の作り方が鍵を握る。お客が何を見て、どのように動き、どの棚に興味を示すのか、常に注視する。

「お客様が足を運ばないコーナーには、必ず問題点がある」と店舗管理部エリアマネージャーアシスタントの菊地香織は言う。店舗の構造が問題なこともあるが、季節感と合っていないなど、テーマと異なる商品が陳列されているケースが多い。そうした「ブレ」を、顧客は敏感に感じ取るのだ。

 入店するお客は、ショッピングンター内を散策している途中に立ち寄ることがほとんど。そして、新規のお客を増やすためには、入り口からの見え方が重要だ。店頭に置いてある大きな看板を、時間と共に変化する通行客の流れに合わせて置き換えるなど、常に意識を向けている。



現場に行け

 現場重視の姿勢は、ストライプ社長を務める石川の口癖が「現場に行け」であることからも分かる。常務取締役兼CFOの張替勉は、「社員の中で一番店舗を見ているのは石川本人」と舌を巻く。アース事業部長の坂巻も、「自分自身、週の3分の1は現場を見に行っている」と言う。

「ポップ広告一つとっても、東京本部のある東銀座・歌舞伎座タワーの上階で話し合っていては、本当にお客様に伝わっているのか皆目分からない」と坂巻。実際の店舗に赴き、広告がお客の視界に入っているのか、広告の品を手に取っているのかなど、常に見ておく必要があるというのだ。

 店舗の状況も、立ち上がりからセールの時期、季節の変化とともに刻々と変わるもの。一度見て終わりではなく、定点観測しなければならない。やはり、売上げを作っているのは現場なのだ。「本社や東京本部は店舗のサポート役」と口を酸っぱくして説く石川が、それを一番理解しているのだろう。



全正社員制度を廃止

 現場スタッフのことを第一に考える石川を表す顕著な例が、2015年2月の全正社員制度廃止だ。同社では、アパレル企業には稀有ながら、店舗スタッフまで含めて全員を正社員として採用することを是とし、強みにも掲げてきた。時短でも働けるため、女性が活躍できる会社と言うわけである。しかし、その他でもない社員たちからのアンケート調査結果に石川は驚いた。

「スタッフが足りなくて店舗が回りません」

 これまで、「基本的にスタッフは皆、正社員になりたいもの」と考えてきた石川だが、「正社員は責任が重いイメージがある」という声や、「働き方を多様化させるべき」との意見もあり、創業以来20年間続けてきた全正社員制度の廃止を決断した。

 これにより、アルバイト採用を開始したことで店舗の人員不足は解消。石川は「苦渋の決断だった」としているが、過去に囚われず、変化を受け入れる思想が、社員満足度の向上、ひいては店舗業務の活性化に繋がった。

 時々刻々と変わり行く世の中で、今日の正解が明日も正解とは限らない。だからこそ、変革を恐れず挑戦し続ける社風が最も重要となる。ストライプの根底にこの精神が流れている限り、同社はますます進化を遂げていくだろう。



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