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2016年07月25日

井戸は社長が掘り水は社員が飲めばいい/ストライプインターナショナル代表取締役社長 石川康晴

企業家倶楽部2016年8月号 ストライプインターナショナル特集第3部 編集長インタビュー


常に冷静沈着、飄々として決断の早い企業家というイメージがあるが、意外にも常に悩み、決断までに何年も掛かることもあるというストライプ石川康晴社長。「常に考え続けることが経営。路線転換の連続が同社の強み」と語るアパレル業界の革命児に、企業家の心構えを聞いた。( 聞き手は本誌編集長 徳永健一)



成功体験を捨てる

問 最近の大きな話題として、社名変更がありましたね。その目的は何だったのでしょうか。

石川 過去の成功体験を全部捨てるのが一番大きな目的です。3年ほど前からやや大企業病の傾向が出てきました。社員は保守的になり、私自身も少し守りに入っていると感じた。グローバル展開を叫びながらも、現実にはまだ海外売上率3%です。生産性向上を掲げて様々な施策を打ってきましたが、劇的にアパレル業界の生産性を変えることもできませんでした。

 国内の直営店を中心に売上げ1000億円まで到達しましたが、よりグローバル化を促進し、事業領域もテクノロジーを前面に押し出していくのだという強いメッセージが社名変更に繋がりました。

問 思い切った決断だと思います。石川社長の意思表示、覚悟の表れだったのですね。

石川 はい。私自身がクロスカンパニーという会社の中でやってきたことを捨て去りたかったのです。最終的にはその想いがこの背中を押したと思います。



一直線にそろう瞬間

問 決断するのが経営者の仕事と言われます。特にベンチャー経営者は朝令暮改が常。さらに朝礼朝改でもいいと言う企業家もいます。周りの人は振り回されるかもしれませんが、自分の中ではブレていないわけですね。

石川 私の場合、明確に決められないことが山ほどあります。悩んでいないように見えて、実はずっと悩んでいる。右か左か決断できない自分がいるのです。

 しかし、随時新しい情報が入ってきます。すると、散らばっていた悩みの種と解決策が一直線にそろう瞬間があるのです。その時に初めて路線変換の号令を社内でかける。その瞬間が時には朝から夜のたった8時間で訪れることもあれば、今回の社名変更のように2、3年かかる場合もあります。

 例えば3年前になりますが、会社の利益を確保するため、生産拠点を人件費の上がりつつある中国から東南アジアに移そうと考えていました。幹部にも「チャイナプラスワンだ!アセアンシフトだ!」と事あるごとに話していました。東南アジアでの生産を全体の4割まで拡大しようとしていたのです。しかしその後も、自分の中ではずっと迷い続けていて、今年に入って「アセアンじゃない!やっぱり中国だ!」と路線変更しました。

 人件費の高騰を回避しようとし、それ自体には成功したのですが、一方で納期が長くなりました。私たちはトレンドを売る会社として、人件費の高騰よりも納期の長期化の方が懸念材料だと、リスクの捉え方が変わったのです。一度は声を大にして叫んだことでも、言った翌日から「本当にそれで良かったのだろうか」と考えることはよくあります。

問 石川社長が実は悩んでいるというのは意外ですね。いつも即断するイメージがありました。

石川 でも、経営者は皆さん同じではないでしょうか。3年かけて「これだ!」と言った施策すら、1カ月で変わっていることがあります。本当に難しいですね。

問 まさにそれが経営なのでしょう。

石川 そうですね。ずっと考え続けることが経営なのだと思います。


 一直線にそろう瞬間

社長と学生の二足の草鞋を履く

問 現在、京都大学大学院で学ばれていますね。以前、ある企業家から、「自分の感覚や直感をスタッフに言葉で伝えることが難しかったが、大学院で学び直した結果、ロジックで説明できるようになった」と聞きました。経営者と学生の二足の草鞋を履くメリットには、どんなことがあるのでしょうか。

石川 まさに、感覚的な想いを論理的に相手に伝えることが出来るというメリットはその通りです。もう一つは他産業の情報が入ってきます。アパレル業界にいると、高島屋や三越の接客法や同業他社の事例など、近い産業の情報しか入らなくなります。一方大学では、例えば世界最大の日用消費財メーカーであるP&Gの世界戦略や、アメリカのGE(世界最大のコングロマリット、ゼネラル・エレクトリック)、スイスのネスレ(世界最大の食品・飲料会社)の事例など、幅広くビジネスモデルを伝えてくれます。

 ネスレの例で言えば、食品会社が聞いたら当たり前の事柄でも、私たちアパレル業界の者が聞くと新鮮なことが結構あります。

 それも経営者だからキャッチアップできるし、面白いと感じるのだと思っています。経営者は自社で活かせることを探しながら授業を受けている分、学生よりも貪欲です。いつも講義では一番前の席に座り、教授の話すことを自分たちの会社に置き換えて考えながら聞いていますから、90分間の授業もあっという間に過ぎてしまいます。社会人の実務経験を10年以上積んでから再び学びに行くと、様々なことが整理できるでしょう。

問 ヒントは同業者ではなく、他業種にあるのかもしれませんね。

石川 そうです。オリエンタルランドの執行役員の方が講義に来たりもするので、参考になります。経営管理全般のフレームワークや単語が学べるという先ほどのロジックの話もメリットですが、一方で異業種の成功事例を一通り聞きながら、自分たちの業界でまだ試みられてはいないことを模索できるのが大きいですね。

 私は京都大学大学院のゼミの中で「メチャカリ」という洋服のレンタルサービスを考えました。これは興味があるマーケティングの先生のゼミに入り、「先生、服のレンタルアプリを作ろうと思っています」と言ったら、先生の方が話に乗ってきました。メチャカリは私が考えたと思われていますが、実は京大の先生と一緒になって考えたのです。先生も実業家と実際のビジネスモデルを構築することを楽しんでくれていました。


 社長と学生の二足の草鞋を履く

ゼロから1を創り壊すのが社長の仕事

問 石川社長が考える経営者の仕事とは何でしょうか。

石川 いくつかあると思いますが、一つはゼロから1を創ることです。分かりやすく例えるならば、井戸は社長が掘って、水は社員が飲めばいい。社員に井戸を掘らせ、「水が出てきたら先に俺に飲ませろ」という経営者もいます。しかし私は、土方仕事は社長が行い、水が出始めたら浄化するところまでは社長と社員の二人三脚、綺麗な水は社員が飲めばいいと思います。

 だから中国に会社を作った時も、ゼロから1にする瞬間は、私を含めトップが現地へ開拓しに行きました。次に1から100にするのは組織ですから、現在は新しいメンバーが中心になって進めています。

 もう一つは壊すこと。創造性を意識した破壊で、これまでの流れを断ち切るのです。私たちで言えば、企業理念、事業領域、社名を変えました。また、完成度の高まったブランドを一度見直したり、無くしてしまったりするのも社長の仕事です。これは、優秀な部長でもなかなか出来ません。

 年間休日や賃金を増やすかどうかも人事部長の提案だけで決めるのは難しい。短期的に利益が出たからと言ってベースアップできるとは限りません。社長が自社を中長期的な視点で見て、持続的成長が可能だという腹積もりがあってはじめて意思決定できる事柄だと思います。ストライプでいえば、女性の働く環境についても、社長がコミットメントしないといけないでしょう。



社外取締役に期待すること

問 新しく社外取締役に元ソニーCEOの出井氏、元LINE社長の森川氏、元資生堂副社長の岩田氏を迎え入れました。社外取締役制度を導入した目的は何ですか。

石川 社外取締役は、保守的な経営者に対して「もっと頑張れ」と後押しすることが一番の役割だと思います。しかし、私は積極的に先行投資する経営者なので、むしろ手綱を持ちブレーキをかけてもらうことを期待しています。私がアクセルを踏みすぎた時に、ブレーキをかけられる存在は年上で経験のある人物です。今回の選任は、私より年上で、場合によっては私のことを怒れる人にお願いしました。

 今年中に株式上場を予定していますが、まだパブリック企業になるには粗があるので、彼らのように大企業で経営の経験がある方々にそうした点を指摘してもらいたい。私から「この決議事項に対して不足事項なり違う考え方を仰ってください」と聞いています。そこで言われた意見を組織に取り入れられるかは、社長の器量にかかっています。

問 積極的に社外取締役の助言を取り入れているのですね。新しいメンバーでの取締役会はいかがでしたか。

石川 報酬委員会の設置など具体的なご指摘をいただき、早速取り掛かりました。彼らの意見が会社にとってプラスになっている手応えはあります。

 岩田さんなど「私はアパレルのことは分からないので、石川さんのアテンドで全ブランドの視察をしたい」と熱心に関わってくれています。そこで今度、岩田さんを含めた社外取締役を全員連れて、越谷レイクタウンに入っている弊社9店舗を視察しようと計画しています。1店舗ずつ、マーケティング戦略も含めて現場で伝えながら案内するつもりです。



仕事を趣味にすると人生は楽しい

問 最後に、石川社長の仕事観について教えてください。

石川 仕事を趣味だと思うべきではないでしょうか。こう言っても、心に刺さらない方もいらっしゃるかもしれません。でも、私は本当に仕事が楽しいのです。少年時代に友達の家でファミコンをしていた、あの感覚に近い。何時間でも考え続けられます。挑戦にも失敗にも学びがある。上手くいかない時、這い上がろうとしている自分すら楽しめます。

 仕事を趣味と捉えられたら幸せです。人生の時間の3分の1は職場にいるわけですから、それを趣味と言い切れれば、人生は楽しくなるはずです。

問 人生を豊かにする上で他には何かありませんか。

石川 仕事という趣味ともう一つ何か違う趣味を持つべきだと思っています。私の場合は、それがアートです。休日を利用して美術館に行ったり、海外のアートコレクターがうちに遊びに来たり、アパレル業界に閉じこもっていては絶対に会えない方とも出会えます。沢山の友人を作ると、その分多くの情報が入ってきますから、やりたいことが実現できる可能性が高まるでしょう。

 私は岡山の出身ですが、クラレ創業者の大原氏が大原美術館を作り、倉敷の町並みを整備しました。倉敷にはパトロン文化があります。また、ベネッセも岡山発の企業で、福武元会長が瀬戸内海の島をアートにしました。大原さんも福武さんも文化人を応援し、エネルギーを注いだのです。私は、そうした大先輩の後ろ姿を見てきました。

 一定の成功を収めた経営者は文化人の後ろ盾となるべきでしょう。さらに次世代の企業家を応援すべきです。まだ芽が出ていない、もしくは芽が出始めたばかりというアーティストと話をしながら、金銭的・人脈的なサポートをすることで、彼らのステージがどんどん変わって行くのが嬉しい。古い考えかもしれませんが、そんな支援をする文化がカッコいいと思います。私たち若い経営者がそういう思想を持つことで、次の経営者に対しても何か影響を与えられるのではないでしょうか。



p r o f i l e

石川康晴 (いしかわ・やすはる)

1970年岡山県生まれ。94年クロスカンパニーを創業。99年「アースミュージック&エコロジー」を立ち上げた。10 年中国に進出。一方、女性支援制度を中心とした社内制度の充実、環境活動や地域貢献活動へも積極的に取り組み、東日本大震災で被災者180人を雇用をしたことでも話題となった。内閣府男女共同参画会議議員。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。2016年3月ストライプインターナショナルに社名変更。第18回企業家賞大賞受賞。



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