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2016年07月28日

道徳指導で日本の幼児教育を変える/幼児活動研究会代表取締役 山下孝一 

企業家倶楽部2016年8月号 注目企業


(文中敬称略)



高まる幼児体育へのニーズ

「体育指導を通じて、子どもたちに人間としての基本や道徳を身に付けてもらいたい。それが一番大きな仕事です」。力強くそう語るのは、1972年設立の幼児活動研究会で代表取締役を務める山下孝一だ。

 同社の主軸事業は、契約した幼稚園・保育園で体育の授業を実施する「正課体育指導」。教える内容は、体操・跳び箱・縄跳びなど幅広い。4~5歳の園児が倒立したまま手を使って歩いたり、8段の跳び箱を軽々と跳んだりする姿には驚愕する人も多かろう。また保育時間内の指導に限らず、放課後にサッカー・新体操などのスポーツクラブを開催する他、園の抱える課題に対して経営指導も行っている。

「幼児体育へのニーズは年々高まっている」と説く山下。実際、幼児活動研究会はその需要に応える形で、ここ5年ほど堅実な伸びを続けている。2016年3月期の決算では、売上高63億円、経常利益8億6200万円を達成した。

 今、幼児体育が求められる背景には何があるのか。一つは、少子化の影響だ。子どもの減少に伴い、幼稚園・保育園は特色を出さなければ人が集まらなくなった。もう一つは、都市開発で自然が取り除かれて、子どもの遊び場が無くなってしまったこと。こうした中で、運動を外部の専門家に指導して欲しいという声が、親や園から叫ばれるようになった。

 だが山下は、「子どもたちの運動技能を上達させることが一番の目的ではない」と語る。冒頭の言葉通り、日本の幼児教育へ貢献することが彼らの目標なのだ。 

 実際、現場ではそんな想いが体現されている。山下に案内されて、同社が経営する幼稚園「YY塾」五反田校の活動を見学した時のことだ。

「整列ッ!番号ッ!」

 準備体操を終え、体育の授業開始にあたって生徒たちを整列させているのは、一人の園児。YY塾では毎回、子どもたちの中の誰かがリーダーとなって、他の園児に指示を出す。普通の幼稚園ではまず見ない光景だろう。

 こうした例は、体育にとどまらない。同校で教師を務める同社事業部の松永大宗が見せてくれたのは、50枚以上の付箋が貼られた分厚い国語辞典。一人の園児が、自らの手で言葉の意味を調べた証だ。その意図について松永は「分からない問題に対して、自分で行動する基礎をつけるため」と説く。

 山下の哲学が反映された指導は、「口コミが99%」(松永)という形で評判を呼び、塾を始めた頃は一人も集まらなかった園児も、今や56人にまで増加した。山下自身、「礼儀や道徳などをしつけて欲しいという保護者からのニーズは、年々高まっている」と実感している。

 この背景として彼が挙げたのは、戦後の日本教育の問題点だ。個人の自由が重視されるようになった 半面、「今の親世代は十分なしつけを受けてこなかったため、自分の子供にも教えられない」と言う。YY塾に通う子どもたちは日々、「嘘をつかない」「親孝行」「諦めない」などの言葉を唱和する。こうした観念が今、見直され始めているのだ。「自由には責任が伴う」。山下の言葉には、底知れぬ重みがあった。



園児がくれたやりがい

 今でこそ並々ならぬ熱意で幼児教育に邁進する山下だが、体育指導を始めた動機は思いもよらぬものだった。「生活していくために、仕方ないがやるしか無かった」と言うのだ。

 実は山下、もともと国語の教員を目指していた。ところが働き口が見つからない。そんな時知人から、幼稚園で体操の指導員を募集していることを知る。これが体操指導を始めたきっかけと言うから、真実は小説よりも奇なり。しかし、国語の教員になりたかった山下は、幼児への体操指導に「最初はやりがいを見出せなかった」と明かす。

 そんな気持ちを変えたのは、園児たちだった。彼らは指導を受けると、「面白い」「もっと教えて」と熱心に山下のもとに駆け寄ってくる。そして、上達したら弾けんばかりの笑顔で喜んだ。「子どもはかわいいな」。そんな想いが山下の心に芽生え、いつしか「日本中の子どもを育てて、社会に貢献したい」という大志を抱くようになった。

 そうなれば考えるべきは、具体的な方法だけだった。「多くの子どもは幼稚園と保育園のどちらかに通っているから、園と一緒に子どもを育てる方が理に適っている」。こうして幼児活動研究会は始まったのだ。

「当たり前」が差別化になる

 それから今日まで、体育指導が主軸事業であるのは変わらない。とはいえ、他社との競争が年々激しさを増す中では、必然的に差別化が求められる。そして、指導方法は誰がやっても似たようなものになってしまい、差別化は難しかった。

 そこで注目したのが、社員の礼儀・掃除・挨拶を徹底することだ。礼儀で言えば、お辞儀の角度は45度。園に入るときは門のところで荷物を下に置いて、気を付けして一礼する。さらに、指導終了後は使った部屋をきれいに掃除した。

 こうした丁寧な行動への反響は、想像以上に大きかった。指導内容は今までと同じにも関わらず、訪れた園から評価されるようになったのだ。その変化について山下は「礼儀正しくて挨拶・掃除をしっかり出来る人と、それが出来ない人とでは、どちらが良いかは一目瞭然でしょう」と力強く語る。妥協を許さないトップの姿勢と、それに応えた社員の地道な努力があってこその結果だろう。

 だからこそ、山下の社員への想いは強く、「社員を幸せにすることが社長の一番の使命」と言うほどだ。そこには、「社員がこの会社で働けて幸せだと思えたら、彼らも本気になってお客様を喜ばす」という信条がある。幼児活動研究会は2007年に株式上場を果たしたが、その主な目的の一つも「社員に自分の会社を誇りに思ってもらうため」と山下は明かした。



子どもはみんなできる

 とはいえ、幼児活動研究会はもはや、全国に55の支部を持ち、社員数も600名を超す一大組織。社員が増えれば、前述のような意識の共有は一層難しくなる。

 そこで同社では、社員全員に「経営計画書」という冊子を与え、毎朝1ページずつ読んで感想を述べてもらっている。この冊子には、山下の経営方針や「利他の心、素直、謙虚、感謝」など重視する気構えが並んでいる。山下の精神は、こうして社員の心に刻まれていくのだ。

 創業から40年以上を迎える幼児活動研究会。今後の展望を聞くと、「幼児教育そのものに貢献するために、今後は体育に限らず教育全般に関わりたい」という答えが返ってきた。その一環として挙げるのが、社員が他の幼稚園・保育園の園長となって経営を行う事業の拡大だ。少子化の影響で、園の経営の後継者問題が深刻化している。同社では現在、園長をしている社員が13人いるが「うちの支部が55カ所あるので、55の支部に一カ所ずつ幼稚園を置きたい」と山下は意気込む。

「幼児教育に貢献したい」という一心で経営を続けてきた山下。その歩みを支えるのは、一つの揺るぎない信念だ。「子どもは、みんなできる」。無限の可能性を信じ抜く男の挑戦は、子どもたちが成長した十数年後の未来へと確実に繋がっている。



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