トピックス -企業家倶楽部

2016年08月01日

人工知能で革命を起こす/HEROZ 代表取締役 林 隆弘・代表取締役 高橋知裕 

企業家倶楽部2016年8月号 スタートアップベンチャー


(文中敬称略)

 2016年5月21、22日。比叡山延暦寺(滋賀県大津市)で、ある戦いの火蓋が静かに切って落とされた。日本でなじみの深い、将棋の対局である。しかし、会場は異様な空気に包まれていた。

 顔をしかめる棋士、その向かいに座る対局者は、表情を変えることも足を組み直すこともない。それもそのはず。対局者は人ならざるモノ、最強の将棋ソフトウェアと名高い「PONANZA(ポナンザ)」だ。鈍い金属光を放つアームが駒を掴み、電子の頭脳で対局者を打ち負かす最良の方法を常に思考し続ける。そこには雑念も無駄もない。2日間に及ぶ長い戦いの末、PONANZAが人間相手に白星をあげ2対0で勝利を収めた。



棋士の4人に1人がプレイする将棋ウォーズ

 このPONANZAを使ったAIサービスを提供するのがHEROZ(ヒーローズ)だ。共同代表の林隆弘と高橋知裕は「世界を驚かすサービスを創出する」を経営理念に掲げ、「人工知能革命を起こし、未来を創っていく集団を目指す」と明言。現在はストラテジーゲーム、いわゆる将棋やチェス等の戦略を模したボードゲームの分野を得意とする。

 中でも最も有名なタイトルが世界最大の将棋対戦アプリ「将棋ウォーズ」だ。2012年にリリースされたこのアプリは、将棋の競技人口が約1000万人と言われる中、300万ダウンロードを達成。アクティブプレイヤー数は約250万人と言うから、棋士の4人に1人は将棋ウォーズをプレイしている計算だ。リリースから4年経った今でもその人気は衰えることを知らず、毎日20万局以上の対戦が行われ、その累計対局数は2億局に及ぶという。

 将棋ウォーズでは、オンライン上で1日3回まで無料で対人の対局を行うことができ(月額500円の課金により対局数制限解除、対コンピュータは一律無料)、そこでの戦績や特定の条件をクリアすることで段位を獲得することが可能となっている。この段位は、なんとそのまま日本将棋連盟公認の段級位として申請できるというから驚きだ。

 他にも、劣勢に追い込まれた時の助け舟としてPONANZAの解析能力を使用し、120円でプロ棋士レベルの手を5手借りることができる「棋神召喚」など独自のサービスが人気を呼ぶ。林曰く、「この棋神召喚は単なるゲームの課金ではなくeラーニング」。劣勢に陥った時、PONANZAに助けてもらうだけではなく、「その局面における解決法を学べる」と説く。プロ棋士レベルの手を学習することで、再び同じような局面に遭遇したとしても、次は自力で切り抜けられるようになるだろう。将棋ウォーズは、課金システムを通して棋士の育成にも貢献していると言える。AIを作ってきた人類が、逆にAIから教わる時代の到来だ。

 HEROZの事業は将棋ウォーズの開発・運営に止まらない。他にリリースしているアプリとして、幼少時から将棋を楽しめるようにルールを簡易化し、駒を可愛い動物に見立てた「どうぶつしょうぎウォーズ」や、将棋ウォーズのプログラムを応用して海外向けに配信を行っているチェスアプリ「CHESS HEROZ」、バックギャモンアプリ「Backgammon Ace」がある。

 ゲームアプリ事業以外では金融IT部門にも進出。市場予測のAIプロジェクトや与信管理のAIプロジェクトに乗り出している。そのテクノロジーが評価され、2014年にはグーグルやスカイプが受賞した「Red Herring Top 100 Global」を受賞。AIの最先端を走る会社として、世界から注目されている。


棋士の4人に1人がプレイする将棋ウォーズ

プロ棋士の対局データ50万件を収集

 そんなHEROZの根幹を支えるのが、独自のノウハウと高い水準で構成された人工知能技術だ。チェスや将棋などボードゲームのAI開発は近年になって始まったものではない。人工知能開発の一分野としての研究開始は1970年頃に遡る。

 コンピュータに将棋の対戦相手をさせようとした場合、2つの条件が必須となる。「指し手を予測する先読み」と「判断・意思決定」である。将棋では、相手が繰り出す次の手を予測しつつ過去の経験から次の一手を決めるという定跡があるが、2003年まではプログラマー自身が考え1万桁にも及ぶ膨大な数列を打ち込んでいく作業が行われていた。プログラムの思考も単純で、歩が1点、香車は3点、銀は6点というように駒に点数を設定し、スコアの高い駒を優先して狙っていく仕組みであり、プロ棋士の強さを再現するには限界があった。

 しかし、2004年に人工知能革命が起きた。マシンスペックの向上や技術革新とともに、情報の蓄積による機械学習が可能となったのだ。従来の手動で情報を入力する方式とは異なり、プロ棋士の過去の実戦データ50万件を読み込ませて関数で評価。1局あたりに内包された盤面が約120面と考えると、途方も無い量のデータだ。盤面全体を図と捉え、ビッグデータと機械学習によって判断と意思決定を行う仕組みへと変化した。

 この仕組みを用い、HEROZでは2013年、世界で初めて人工知能で現役プロ棋士に勝利するという偉業を達成。「将棋ウォーズ」を構成するAIも膨大な情報から局面を判断するこの機械学習で成り立っている。



まだ見ぬ兆円市場を狙う

 林と高橋は99年4月に日本電気(NEC)に入社。以前からモバイルコンテンツやAIに関心があり、いずれスマートフォンアプリが流行すると時代の先を見据えていたという。10年の時を経て、2009年に共同経営者としてHEROZを創業。モバイル向けの占いコンテンツやソフトウェアを開発していたが、林が将棋で段位六段、アマチュア全国大会で優勝数回の経歴を持っていたことから将棋のAI技術に興味を持ち、2012年に将棋ウォーズをリリースするに至った。

「将棋のゲームをリリースするにあたって一番気を使ったのが、対局のマッチングにおける快適さ」と語る高橋。マッチングは対戦ゲームの要といえる。この構成が甘いとユーザーが途端に離れていってしまうのだ。特に将棋は秒単位でゲームが進行していくスピーディーな競技。さらなる安定化に向けて、リリースから4年経った今も改善には余念がない。

 今後も将棋ウォーズは、より将棋を身近に感じてもらえるアプリケーションとしても進化を続けていく。AIによる過去の戦歴の分析やアドバイスもできるように改良。「棋士を育成するため、より良いアフターフォローやラーニング機能の拡張に注力していきたい」と林と高橋は目標を語る。

 彼らの夢は、アプリの分野に止まらない。現在AIの産業規模は約7000億円だが、これが10年後には12兆円まで拡大すると言われている。その中で全体の3割を占めるのは自動運転車などの交通関連事業と考えられているが、2人は誰も踏み入れていない領域をAIで開拓したいと意気込む。

 狙い所は、溜め込んでいるだけで活用されていないビッグデータだ。「データを学習させ、活用していくことが人工知能の真価。金融を含め、様々な分野でAI革命を起こしていきます」と語る林と高橋。今年で創業8年目を迎えるHEROZ。その社名の通り、AI技術における英雄となり得るか。彼らの描く未来に期待がかかる。



企業概要

社 名 ●  HEROZ株式会社

本 社 ●  東京都港区芝5-31-17PMO田町2F

設 立 ●  2009年4月

資本金 ●  1億2270万円(資本準備金含む)



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