トピックス -企業家倶楽部

2016年08月08日

売れる・売れないの分岐点/北村 森

企業家倶楽部2016年8月号 先端人


売れる商品と売れない商品の違いは何か。それは、企業にとってビジネスの成否に関わる重要なテーマだ。今回は、日経トレンディ元編集長で商品ジャーナリストの北村森が、その難題に切り込んだ。自ら購入・使用した商品を例に出して語る話は、「お客のニーズに応えるだけでは、ヒット商品は作れない」など明快かつ衝撃の事実ばかり。豊富な知識と実体験に裏打ちされたヒットの法則が、余すところなく明かされる。(文中敬称略)



「高い商品は売れない」は間違い

「消費税が8%に上がったら、人は値段が安くて品質が中等の商品を買う」

 北村が、ある経済評論家から言われた言葉だ。消費増税のあった2014年頃から主流になっていた意見だが、北村の考えは全く違った。家計にとって厳しい状況になった今、人は自分の決めたところに集中してお金を使っている。つまり、「人は高いものではなく、どうでもいいものを買わなくなったのです。ここを見誤ってはいけない」と言うのだ。

 確かに現実を見ると、安価な商品を売る大手ファーストフード店や居酒屋チェーン店が赤字になった。その一方で、一個10万円もする「大人用ランドセル」が、発売のたびに完売する現象も起きている。値段が高くても売れている商品があるのだ。

 私たちにとって身近な商品であるマスクもそうだ。一番安いものならば、インターネットを通じて100枚1000円ほどで買える。一枚たったの10円だ。ところが、岐阜県のエストという従業員7名の会社が常識を覆すマスクを作った。「エストクチュール」と名付けられたそのマスクの値段は、なんと1枚1000円。通常のものと比べると、約100倍もの高価格だ。その分、柔らかい今治の布を素材に用いた上、リボンを付けるなどデザインに工夫を凝らしている。

「若いOLは、着る服に合わせてマスクを変えたいと思っている」。そんな製作者の思いから開発された商品だったが、常識外れの値段に最初は反発が起きた。販売に際して、あらゆる卸から大反対に遭い、商品を扱ってすらもらえなかったのだ。



何を変えて何を変えないか

 このように、企業が良い商品を作っても売れないケースは多々ある。そんな時どうすれば良いのか。北村の答えはこうだ。「何を変えて何を変えないかを上手く見定めた企業は、正解の道を歩む」。商品を扱ってもらえず販売戦略の見直しを求められたエストは、この回答を体現した。

 彼らは、商品自体は変えなかった。その理由は、絶対に売れると思っていたからだ。代わりに、プロモーションの方法を変えた。まず卸に扱ってもらえなかったので、ネット販売だけに注力すると決めた。

 そして、これまでは手作りであることを前面に押し出していたが、そこに問題があると気付く。「この商品の生命線は手作り感でなく、おしゃれなマスクであることだ」。そう考えた開発者は、アピールポイントを変えた。具体的には、若い女性をモデルにするなど、広告写真の出来に力を注いだのだ。するとどうだろう。その途端、人気に火が点いた。マスクは一枚1000円という高価格にも関わらず、月に1万枚も売れる大ヒット商品になったのだ。



消費者のニーズより大事なもの

 売れる商品には、どんな共通点があるのだろうか。北村の答えは明快だ。「その商品ジャンルとはどうあるべきかを見定めた商品が売れている」。エストで言えば、「おしゃれマスク」という形で、マスクとはどうあるべきかを世に問うたのだ。「他社がこういう製品を出したから」「マーケティング調査をしたから」という動機を根本に作ってはいけないというのが北村の持論だ。

 その理由について、「消費者に聞けばヒット商品が作れるわけではないから」と明かす北村。例えば、iPhoneが無かった時代を考えてみよう。消費者にアンケート調査をしたら「iPodに電話機能を付けて欲しい」と望む人が出てきたかと言えば、甚だ疑問だ。消費者は、自分の経験の中からしか欲しいものを探せないのである。しかし、大ヒットする商品とは、得てして消費者が思ってもみなかったもの。だからこそ北村は、「お客様のニーズに応えるという言葉には、強い違和感を覚えます」と主張する。昨今当たり前のように使われるフレーズだけに、目から鱗とはこのことだ。そして、売れる商品の特徴を更に3つのキーワードで表現した。



「あなた様仕様」という付加価値

 一つ目は「あなた様仕様」だ。他のどこにも存在しない自分だけの商品ならば、その人にとって大きな価値がある。北村が例に挙げたのは、腕時計を販売するKnot(ノット)という会社だった。腕時計業界自体が右肩下がりの中で、吉祥寺にあるKnotの直営店は、土日になると店に入るのに1時間待ちという盛況ぶりだという。

 最大の要因は、同社が腕時計のカスタムオーダーを受け付けている点にある。お客は20種類の本体と200種類のベルトを自分の好みで組み合わせて、商品を注文できるのだ。完成するのは、ここでしか手に入らない自分だけのオリジナル腕時計。そんな商品を求めて、東京の店舗にわざわざ東北から来る人もいると言うから驚きだ。



物語を作るのはお客様

 二つ目のキーワードは「必然性」だ。北村は再び、今日の商品開発で見られる風潮に疑問を投げかけた。「商品作りには物語が大事だと10年以上前から言われていますが、私は反対です」と言うのだ。

 かつてB級グルメがブームになったが、その盛り上がりは終息に向かっている。それは、とってつけたような物語を作ろうとしたからだと北村は考える。「物語は自分から作るものでなく、第三者が感じるべきもの。その材料を的確に示すのが作り手の役割です」と断言する。

 その際に伝えるべきことが、「なぜその商品でなければいけないのか」という「必然性」なのだ。したがってネーミングでは、他の商品に置き換えても何の違和感も無い名前を付けてはいけない。例えば、ある車に「卓越したデザイン」というキャッチコピーを付けたとしたらどうか。この特徴は様々な車種に当てはまってしまうので、その車にしか無い強みは表せないのだ。



驚異の200%トマトジュース

 また北村は、商品を世に出すタイミングについて、「最初もしくは最後に出すのが良い」と語る。もちろん最初に出せるに越したことは無いが、そう上手くいくことは少ない。そんな時は、同じカテゴリーの商品を全部見た後に真打を出す。その商品が同種の全商品を上回れば、大きな価値を持つのだ。

 高級トマトジュースの分野で、象徴的なエピソードがあった。スーパーにある普通のトマトジュー スは、1リットル200円ほどの値段だ。一方で、「オオカミの桃」というトマトジュースがある。高級トマトジュースの先駆けと言える商品で、値段は1本約1000円。この商品が発売されるやいなや、高級トマトジュースを作る農家が数多く現れたという。ただ、「オオカミの桃」を超えるヒット商品は一つも生まれなかった。

 そんな時、目を見張る商品が登場する。デアルケ農園という三重県の農園が作った、その名も「200%トマトジュース」。絞ったトマトの果汁を7時間半かけて煮詰め、半分の量にした上、何回もこしてようやく完成する品だ。北村自身も飲んでみて、あまりの美味さに驚いたと言う。味は濃厚で香りも良く、のどごしも抜群だった。

 このジュースは、1本500ミリリットルの細い瓶に入っている。通常であれば100円、前述の「オオカミの桃」でも、この量なら500円だ。では、この200%トマトジュースは一本いくらなのか。答えは、なんと約3500円。これまでのものと比べると、桁外れの値段だ。ところがこの商品、今年の頭には購入が2カ月待ちという状態になった。最後に登場した真打が、今までの商品を全て上回ったのだ。



「そこまでやるか」がヒットの鍵

 最後のキーワードは、「過剰品質」だ。この言葉は、「そこまでやるか」と誰もが驚くものを作ることを意味する。これこそが、売れる商品の条件だ。前述のように、ヒットする商品は消費者が思ってもみなかったものだからである。

 そして、「過剰品質は特に中堅・中小企業にとって重要な意味を持つ」と北村は指摘する。ある大手コンビニのデザート開発担当者と話した時のことだ。彼女は「ライバルは同業他社でなく、地元の美味しい個人のお菓子屋さんです」と言い放ったのだ。「それほどの品質の商品を安価で出そうとする大手に対して、中堅中小企業は価格では対抗できません」と北村。だからこそ、彼は「品質の部分で上回る、すなわち過剰品質しかない」と考える。



「ほとんど差が無い」には大きな差がある

 過剰品質では、鋳造メーカーの「愛知ドビー」が作った「バーミキュラ」という鍋が良い例だ。下請けの町工場だったこの会社は、溶かした金属を型に流して作る鋳物を長年扱ってきた。

「鋳造の技術を鍋に活かせないか」。ある時、社長はこう考えた。鋳物の特長が、調理に適していると分かったためである。そうして出来たのが、ステンレス鍋が一般的な中で鋳物を素材に用いたバーミキュラなのだ。

 技術的な難しさから日本には同種の商品は無く、競合はフランスに一社あるだけだった。両社の商品の値段は、どちらも2~3万円と変わらない。しかしバーミキュラは、フランスの会社が販売する鍋の10倍の密閉性を持っていたのだ。調理時に栄養素を逃さない上、味も美味しいと評判になり、いつしか15カ月待ちのヒット商品となった。これこそ、「その商品とはどうあるべきか」、そして「過剰品質」など多くのキーワードが詰まった好例だ。

 ここまで登場したどの商品も、他に無い品質で差別化が図られている。「差が無い」と「ほとんど差が無い」には大きな差がある。北村はこう表現する。差がゼロか、ゼロではないか。その小さな隙間が、商品が売れるか売れないかの違いに繋がってくる。裏を返すと、優れた商品を的確な方法で消費者に伝えれば、価格が高くとも売れる時代になったと言えよう。

 印象的な風貌とよく通る声、示唆に富んだわかりやすい話。会った瞬間、北村は人を惹きつける。商品を自ら使ってその価値を実感、惚れ込んで事実を語る。そこに人を納得させる真実がある。今後どんなスゴイ商品を発掘し伝えてくれるのか。水先案内人、北村森の活躍が期待される。
 




北村 森(きたむら・もり)

商品ジャーナリスト、サイバー大学客員教授( 元日経トレンディ編集長)

1966年生まれ、富山県出身。1992年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日経ホーム出版社に入社。「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立、商品ジャーナリストとしての活動をスタート。原稿執筆、メディア出演、商品づくりを通した地域おこしのアドバイザーとして活躍している。著作『途中下車』は、2014年12月、NHK 総合テレビにてドラマ化された。



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