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2016年08月19日

農業×ITはラストフロンティア 「農業に休日を!」を実現/ルートレック・ネットワークス代表取締役 佐々木伸一

企業家倶楽部2016年8月号 フォーカスチャレンジングカンパニー


 人類が直面している問題のひとつに食糧問題がある。だが日本の食糧自給率は低く、新規就農者は少ない。現在農業に携わっている人たちの高齢化問題も深刻だ。これら農業の抱える問題に着目し、M2Mシステムを開発、提供しているITベンチャーがルートレック・ネットワークス。農作業の90%を減らすことに成功し、新規就農者もベテラン就農者に負けない収量を確保できる。この夢のようなシステム「ゼロアグリ」の実際と、農業×ITの可能性を追う。(文中敬称略)



ゼロアグリで農作業の90%を削減

 M2M(マシーンツーマシーン)――。この言葉がメディアに登場するようになって久しい。人を介さずに、機器と機器をインターネットで結ぶ。そこでやり取りされ蓄積されたデータはビッグデータとなって、さらに活用され、ビジネスの発展に寄与する。この膨大なデータは宝の山だ。もっとも、うまくデータを活用できれば、の話だが。

 ルートレック・ネットワークスは2005年に佐々木伸一がMBO(経営陣による買収)でつくったIT企業。M2Mのプラットフォームを大手企業へ提供し、順調に事業を伸ばしていた矢先、リーマンショックで経営危機に陥った。そんな彼らを救ったのが、総務省から受託した「銀座ミツバチプロジェクト」。この事業をきっかけに、ルートレックは農業でのM2M事業に本格参入する。

 農業の一番の課題は高齢化。経験と勘がなければ収量を上げにくいため、新規就農者の数も確保できない。また、それぞれ小規模で農業を営んでいるため、熟練した農家が規模を拡大しようにも自分の時間と労力に限界がある。

 ルートレックの提供する「ゼロアグリ」は栽培の見える化を実現する。明治大学黒川農場と技術提携し、独自の栽培アルゴリズムとIoTセンサーを組み合わせ、経験と勘がなくても一定の収量を確保できる。また、施肥とかん水(水やり)の自動化により、これまでの作業を90%削減、小規模農家でも事業の規模拡大が可能になった。

 同サービスは、ルートレックの自社システムを使うためコストも安く、収量も確保できるので、1年で導入コストを回収可能という。ゼロアグリ導入により、経験と勘が未熟な新規就農者ならば従来の倍、経験と勘を豊富に持つベテラン農家でも30%の収量アップという実績を持つ。この秘訣は何か。



収量を低下させるのは土ストレス

 農作物を作る上でルートレックが着目しているのは「土ストレス」。土に含まれる水や肥料が、多すぎても少なすぎても作物にストレスがかかり、収量が落ちてしまう。「ゼロアグリ」では、このストレスを極力なくすシステムが導入されている。

 具体的には、土に埋め込まれた土壌センサーで、土壌の温度、水分量、土壌中の肥料の濃度を計測してクラウドに送信。日照量や地域による地質の差異も重要だ。これらのデータを、農業クラウドに蓄積していく。 土の中の状況が可視化されるだけでは意味がない。ゼロアグリは経験や勘に頼らず、客観的データをもとに施肥とかん水を行う。土の中の水分と肥料分が常に一定であるよう、「点滴かん水」という技術で培養液土耕栽培を管理する。培養液土耕栽培とは、肥料を水に溶かし、その培養液をハウス内の土壌にチューブで浸透させる栽培法。運用する農家はゼロアグリの栽培アルゴリズムをそのまま踏襲することもできるし、自身のノウハウを追加、反映させることもできる。

 ゼロアグリのターゲット層は培養液土耕栽培の可能な小規模のハウス栽培農家。日本の施設栽培、ハウス栽培農家は4万9000ヘクタールに及び、そのうちの9割は小規模農家のパイプハウスだ。その大きな市場をルートレックは開拓している。

 これだけ実績があり評判の高い「ゼロアグリ」がまだ脚光を浴びていないのは、農業という閉鎖的な文化にある。どんなに良いものでも、口コミでしか広がっていかない。農業の多くの人はメーカーのいうことには耳を貸さない。自分たちが信じる人、つまり自分たちが尊敬する「篤農家」と呼ばれるような人物の言うことしか信じないのだ。そして定植から収穫終了まで時間がかかる農業の性質上、導入から結果が出るまでに最低1年。口コミで少しずつ広がっていく状況からしても、短期間で爆発的な普及とはなりにくい。

 今後、異常気象など地球環境の変化と、世界規模での人口増加に伴い、食糧問題は人類が直面する課題だ。実際、ルートレックは点滴かん水技術を持つイスラエルのネタフィム社と事業提携し、中国やベトナムをはじめ、海外での事業展開も行っている。

 雨の多い日本ではさほど気にされることはないが、海外では農業用水の問題が大きい。勝手に水やりができない国さえある。そこで1滴の水も無駄にしない点滴かん水システムを持ち、確実に収量をアップさせる「ゼロアグリ」は強力なツールとなる。



失敗は経験と考える

「農業IT×分野はラストフロンティア」と佐々木は語る。彼の経歴はユニークだ。半導体の企業に就職し、その後友人が創業したシリコンバレーのインキュベーションビジネスに携わった。1990年代、シリコンバレーの熱いベンチャービジネスを間近で見ていたのだ。佐々木が携わったケースでは、5年間の間にふたつの企業を上場させた社長、数億円の売上ながら1000億円で買収された企業など、華々しいエピソードに事欠かない。

 佐々木も、間近で見ているだけでは物足りないと、現ルートレック・ネットワークスを創業。M2Mという言葉がまだ時代に浸透しておらず、説明しても理解してもらえないことが多かった。役所での事業登録にも苦労したという。

 リーマンショック後、ルートレックのM2M技術が生きる分野を模索していたところ、農業に着目。農業はIT化が遅れていて大手企業の参入もほとんどない。またこれから地球規模での食糧問題が想定され、社会貢献度も高い。農業におけるM2Mシステムがルートレックの主軸となることは間違いなかった。

 佐々木はシリコンバレーでの経験から、IPOを視野に入れた事業計画を立てている。「IT企業がここまで農業に食い込み、収益を上げることができると世間に広く見せたい」と佐々木は熱く語る。

 シリコンバレーの勢いを間近で見てきた経営者が率いるIT企業が、農業に携わるというのも毛色が変わっている。国内の農業にとどまらず、世界規模を視野に入れているのも、これまでにない事業だ。

 佐々木がシリコンバレーでの経験で印象に残っていることは、失敗に対する日米の考え方の違い。日本では、事業に失敗したらしばらく冷却期間を置き、ほとぼりが冷めたころに再出発を図る。だが、シリコンバレーでは投資の決め手が「あいつは2度失敗したから今度は成功するだろう」と、失敗が汚点ではなく経験と考えられている。日本人のように「二度あることは三度ある」とは考えない。

 佐々木が考える社長のステージは3つある。0から1までを創り上げる社長、1から3までもっていく社長、3から100までの社長だ。創業時の0から1を創りあげるステージが一番失敗をする。ここで、どんどん失敗しないスキルを蓄えていくのだ。

 今まさに0から1を作り上げているルートレック。今後の事業展開から目が離せない。



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