トピックス -企業家倶楽部

2016年08月27日

自分の『勘』を信じなさい!/物語コーポレーションの21世紀戦略

企業家倶楽部2016年10月号 特集第1部


浮き沈みの激しい外食業界において、11 期連続増収増益を達成、右肩上がりの成長を続ける企業がある。愛知県豊橋市に本社を構える物語コーポレーション(以下、物語)。会長である小林佳雄は母親が営む10坪の小さなおでん屋を引き継ぎ、売上高387億円超の東証一部上場企業へと同社を育てた。「自分のやりたいことが見えて来ると人生が楽しくなってくることを若者に伝えたい」と会社説明会では自らマイクを握り熱弁をふるう。「『個』の尊厳を『組織』の尊厳より上位に置く」という崇高な理想を掲げ、社会に対して挑戦を続ける物語の秘密に迫る。(文中敬称略)



2時間ノンストップの会社説明会

「こんにちは。物語コーポレーション会長の小林佳雄です。67歳です」

 7月22日14時、東京・港区南青山にある物語東京フォーラムオフィスにて、学生・中途採用向けの会社説明会が始まった。

 司会者に紹介されると会場の最後列から受講者一人ひとりに話しかけるように視線を送りながら登壇するのがルーティンとなっている。短く刈り上げたヘアースタイル、スーツは細身でライトグレー。ワイシャツもネクタイも靴も定番は選ばない。スタイリッシュないで立ちだ。言葉を選ばずいえば、お洒落なオヤジである。

 学生が想像する一般的な上場企業の経営者とはイメージが違うことは、一目瞭然。何より小林は声が大きい。受講している約50人の学生らは、皆濃紺のリクルートスーツ、白のワイシャツ、ストライプのネクタイに身を包む。「これさえ着ておけば落とされることはない」、いわゆる定番の服装だ。

 しかし、彼らが特別なわけではない。日本の平均的な就活生であり、もう何十年もの間、服装や髪形で自己主張しないことが善しとされてきた。皆がそうするなら間違いないだろうと自分の頭で考えることを止めてしまうのが大半だ。話を小林に戻そう。

「今日は、若い人に人生が楽しくなる『コツ』を伝えなければと思ってきました。それが私の使命です」

 どこでも開催されている会社説明会だと思って参加した学生らは冒頭から何か雰囲気が違うことに気付く。あっけにとられた若者の反応も当の小林には想定内だ。



事業内容には触れず人生論を語る

「自分の勘を信じなさい」

 私たちは新しい組織や環境に身を置くとき、自分には経験も知識もなく、一から教えてもらう謙虚な態度が美徳と教わってきた。「郷に入っては郷に従え」という諺があるように、白無垢の衣装を着た花嫁の様に生娘を演じろと。それが世の中を渡り歩く処世術とされた。しかし、小林はその考え方を否定する。

「学生さんでも20年間も生きてきたら、アルバイト、サークル、受験、友人との喧嘩、恋愛と山ほど多くの経験があるでしょう。いろんな『情報』を持っているはず。何も知らないという思い込みはしなくていい」

 中途採用組(物語では「キャリア採用」と呼ぶ)にも、「外食業界以外からの入社でも過去の経験は必ず活きる」と断言する。自分の勘、感覚、感情で決めることが何よりも重要と説く。そのために情報を集め、研究し、学習することも忘れてはいけない。

 小林は愛知県豊橋市の進学校を卒業、1年間浪人した後、慶応義塾大学に進学。幼いころから勉強ができ、小中高とクラス委員を務めた。大学3年生になると同級生たちは就職活動を始め、誰もが知っている有名企業の内定を得たが、一方の小林は30社受けて全て落ちた。卒業すると逃げるようにアメリカに渡ったが、すぐに1年が過ぎてしまう。帰国し嫌々就職活動をしたが、案の定、どこも受からなかった。他人の評価が気になった。母親が営む家業を継ぐことを思い付き、どうにか面子を保ったが、その後何十年も辛い過去を引きずり、夢に見ることもあった。

 しぶしぶ始めた食い物屋の店主だったが、2年間の板前修業を終え28歳で板長になると、店を潰すわけにはいかず必死になって働いた。やってみると飲食業は性に合った。30歳になる頃、母親から社長業を継いだ。社長になってみて分かったことがあった。それまでとは比べ物にならない程、日々決断することを迫られた。一日に何十回も自分で決めなければならない。この店主、社長の経験が小林の人生観を変える転機になったといっても過言ではない。

 自分のやりたいことが見え始めたら、人生が急に楽しくなってきた。何事もやってみなければ好きか嫌いかも分からない。自分は何がしたいのか、就活時の様に立ち止まって考えてみても、百年経っても分からないと悟った。



人生の転機

 35歳の時に聞いた海外で語学を教える友人のスピーチが忘れられないと言う。テーマは、「日本人は小学4年生になると喧嘩しなくなる」だった。つまり仲間のリーダーが遊び方を決め、後に従うようになる。本来自分のやりたいことを我慢し、「意思決定」をしなくなるという。一方、海外の子供たちは自分の感覚や感情に素直に従い、自由にお互いの意見をぶつけ合う。大人になるまでに意思決定の総量は随分と差がついてしまう。

「自分の常識と組織の常識が違ったとき、どちらが正しいかを決めることが重要。考えることを止め、思考停止してはいけない。自分の勘を信じて決断すること」、小林から若者に贈る強烈なメッセージだ。

 例えその決断が間違っていても恥ずかしくない。またやり直せばいいだけだ。物事に正解が必ずある訳ではない。周りがどう思うか、普通ならどうするかと考えるのは、愚かなことであり、自分はどうしたいのか決めることが重要なことなのだ。

「意思決定をして山ほど失敗を経験すると次第に勘の精度が上がってくる。まずは、意思決定の数を増やすことが肝である」と小林は熱心に語り続ける。ここまで、会社の事業内容には一切触れず、学生にも分かりやすい言葉を選びながら自身の失敗談など、時にユーモアを踏まえ、2時間ノンストップで話し続ける。エピソードを変え、話す声の抑揚まで変えて、話に惹きつけるため退屈で眠くなる学生は皆無だ。個性を隠して組織に染まることが社会人になることだと誤解している学生も少なくない。そんな中、『自分物語』を作ることを推奨されて心が躍らない若者はいない。

 トップ自らが就職活動の失敗や自身の結婚観など包み隠さず自己開示する会社説明会が他にどこにあるだろうか。この自由闊達な企業文化に共感し、物語に入社した者も多い。

 しゃぶしゃぶや海鮮などの和食を提供する源氏総本店向山店(愛知県豊橋市)女将の前田樹里は「学生時代には飲食業は考えていませんでした。まったく別の航空業界を希望していましたが、物語の話を聞き『この人たちと一緒に働きたい!』と決意しました」と入社の経緯を話す。



全国に地域一番店を抱える外食チェーン

 外食業界全体の離職率は40%超と高く、学生から不人気と言われるが、物語の離職率は1桁台と低く、応募数は1万人に迫る程の人気ぶりだ。その中から企業理念に共感した人を毎年新卒約200名、キャリア採用200名の合計400名超に内定を出す。離職率が低い理由は、入社前と入社後にギャップがないように情報を開示している点が挙げられる。一貫性がないと人の心は離れてしまう。また、自分の意見を自由に発言できる、自由闊達な企業文化も「自分を成長させてくれる職場に違いない!」という入社動機に繋がっている。

 物語の主力事業は4業種あり、焼肉、ラーメン、お好み焼、和食といった郊外型レストランを直営194店舗とフランチャイズ176店舗、グループ合計370店舗を東海・関東エリアを中心に展開し、業績を伸ばしている。

 2016年6月期の売上高は387億8100万円、経常利益26億2000万円となり、11期連続の増収増益を達成。2017年6月期の売上高は467億7900万円(前期比20・6%増)、経常利益は34億円(同29・7%増)を見込む右肩上がりの成長企業だ。

 2008年3月にジャスダックに株式上場し、2011年6月に東証一部に指定替え。2016年4月には、念願だった全国47都道府県すべてに出店を果たし、今や知名度は全国に広がっている。

 ここに面白いデータがある。既存店売上げが前年よりも伸び続けているのだ。この事実はその地域で客から支持されている証拠と言える。

 東京の郊外、練馬区にある「丸源ラーメン練馬関町店」は関東一の繁盛店だ。平日の午後7時過ぎに店を訪ねた。新青梅街道を車で走っていると数百メートル前から大きな黄色の看板が目に飛び込んでくる。駐車場は約40台分あり、道路に面した大きな窓ガラスから店内の様子がよく見えて入りやすい。

「いらっしゃいませ!」

 スタッフが大きな声で迎えてくれる。店内は家族連れや仕事帰りのサラリーマン、学生が多く、繁盛してい丸源ラーメン練馬関町店(東京・練馬区)るのが分かる。席数は120あり、ファミリーレストラン並みに広いので、順番待ちの用紙に名前を記入して数分すると席に案内してくれた。物語の業態には、どの店にもコレを食べておけば安心という看板商品がある。

 丸源ラーメンの場合は、「熟成醤油ラーメン肉そば」(税抜650円)だ。半チャーハンと餃子3つが付いたお得なセット(同980円)を注文すると5分と待たずに出てくる。豚肉を炊き込んだ濃厚で甘めのスープが食欲をそそる。とにかく早いのがいい。税込みでも1000円ちょっとでお腹は充分に満たされる。食べ盛りの子供がいる家庭なら財布に優しく、気軽に来店できる料金設定と言えよう。

「98円で提供しているデザートのバニラソフトクリームを食後の楽しみにしている常連客も多い」と4月に入社したばかりのスタッフが笑顔で教えてくれた。


全国に地域一番店を抱える外食チェーン

「自分物語」を実現する会社

 愛知県豊橋市にある物語の本社オフィスの入り口の壁一面には、全国の店長の顔写真が飾られている。プロのカメラマンに撮影してもらった立派なものだ。額縁も小林がデザインした特注の品物という凝りようだ。

「この会社では店長と私だけが敬意を払い『プレジデント』と呼ばれます。それは経営者として意思決定を求められるからです」と、小林は話す。

 冒頭で述べた学生・キャリア採用向けの会社説明会「意思決定セミナー」を店長になる人材は複数回受けることになる。毎回、同じ内容だが聞く度に印象は変わる。講義を受けた人の問題意識によって、心に響く箇所が違うからだ。

 大型店になると数十から百人近いスタッフを抱えている店長もいる。部下の育成、自己の成長と課題は山積している。小林はセミナー後には必ず店長に受講後の感想を聞くようにしている。社員の理解度を確認するだけでなく、今日の講演の出来がどうだったか自己採点も怠らない。社員も会長を前に遠慮がない。思ったことを忌憚なく発言するのも物語流コミュニケーションなのだ。

「今日は話が少し長かった。あのエピソードは分かりにくかった」と、担当者と小林の会話はまるで親子の様に冗談を言い合いながら、本音で話し合う。『物語的大家族主義』は企業理念にもなっている。



世の中に対する「挑戦」である

「物語は、『個』の尊厳を『組織』の尊厳より上位に置く企業です」

「こんな理想を言ってもビジネスが成立するということを証明したい。とても挑戦的な試みだと思う」と真剣な眼差しで話す。

 この企業理念を聞いたとき、筆者は正直驚いた。理想ではそうだが、「言うは易く行うは難し」である。組織において、『個人』を優先することは利己的になるとイコールではないか。時には自己犠牲も必要であり、部分最適よりも全体最適を優先するのが組織ではなかったか。社会人になったら個人の感情は極力押し殺し、チームのために尽くそう。経営とはそういうシビアなものだと多くの経営者も言ってきたと、小林に少し意地悪な問いかけをしてみた。

 すると、こちらの質問の意図を確認するように少し間をおいて小林は話し始めた。

「会社が儲からない時でさえ、私はいつも『個』の尊厳が一番だと心から言えます」

 いつも具体例を示して説明するのが小林流だ。今、物語でも外国人社員が増えている。すると当然ながら文化の違いから問題が出てくる。現場の日本人スタッフからは、外国人社員は「なぜ間違ったときに謝らない。挨拶しない。敬語を使わない」と不平不満が噴出しているという。

 だから、外国人には特別に教育をしなければという考え方には同調しない。小林には、「それは外国人だけの問題ではない。出来ていない人には日本人でも外国人にも教えなければダメだろう!」と映るという。どこまでいっても「個」対「個」の問題なのだ。外国人だからと一括りにすることは許さない。

「約束を守れない、または出来ない人たちを教育できていない私たちの問題でしょう」、したがって、外国人向けのカリキュラムは必要ない。部下を育てる秘訣は、細かいところまで、自分が持っている「情報」、つまり店長としての経験から得た知識を熱心に小うるさく伝えることしかない。企業理念は掲げれば終わりではない。スタッフの具体的な行動に落とし込めてこそ意味がある。全体最適と「個」の尊厳を優先することは相反する概念ではないという訳だ。

「リーダーは常に正々堂々、人間味豊かに自分の美学を語るべし。『物語人』はかく生きるべし」が小林の信条である。



板前の経験が原点 母から学んだ経営哲学

 小林が目指す「自分物語」の延長線上に「会社物語」があるとはどういうことか。人はこの世に生を受けたなら、自分の人生を設計し、語り部でありたい。自立した個人が「自分物語」を創っていけば、自然と「会社物語」が出来る。小林は多くの失敗経験を経て、それが人生の醍醐味なのだと気付いた。人生を楽しむコツを若い人にも伝えることが最も尊く重要だと考えた。

 社会人になって間もなくは、母親の様に家族的で人間味溢れる振る舞いは経営者としては格好悪いとさえ感じていた。しかし、店を預かる店主兼板前の時、部下を信用させるには、さらにお客から信頼を勝ち取るには、自分をさらけ出すしか方法がなかった。人の信頼を得たり、影響力を持ちたいと思ったら、自分が模範演技を見せる他に方法がなかった。

 社員に対して面倒見良く、温かく接する。自分の考えを相手が理解するまで何度でも伝える。お客には大きな声で挨拶する。むき出しの感情で自分を隠さずに自己開示することの重要さを小林は母親の人生から学んだ。

 社員は「小林から叱られたことがない人は社内にはいない。小うるさい親父のような存在」と慕っている。

 数年前、小林は外食産業に40年携わり、10数年の親交があった加治幸夫を自分の後釜として社長に迎えた。その全幅の信頼を寄せる加治に対しても、注文を付ける。

 役員会議でこんなことがあった。物語の会議では自分の意見を発言しない人は価値がないと判断される。従って序列は関係ない。意見のない者は席を去れという文化が徹底されている。ある議題で社長の加治は迷っていた。A案で行くかB案で行くか、4対6の割合で結論を出すのを一瞬ためらった。判断するのに情報が足りなかったのだ。

 しかし、小林は煮え切らない加治の態度が気にくわない。

「なぜ私は今、どちらにしようか4対6で迷っていると正直に言わない。その胸の内すら、素直に話したらいい」

 加治は決断しなかったわけではない。どちらにしようか情報を集め、検討中であることを開示しなかったことを指摘されたのだ。小林は相手が誰であれ、自分との感覚のズレを感じたら躊躇せずに伝える。自己開示の模範演技者であることを実践する。

「リーダーこそ自ら率先して自分の意見を自己開示すべし」、これが企業家小林の経営の心得である。


板前の経験が原点 母から学んだ経営哲学

イノベーションを続けるCMO小林の覚悟

 2016年1月18日開催の定時取締役会において、会長CEO(最高経営責任者)の小林佳雄を会長兼CMO(マーケティング最高責任者)、社長COO(最高執行責任者)の加治幸夫を社長CEO・COOとする人事を発表した。

 社内一のアイデアマンで、人並み外れた実行力でこれまで物語を牽引してきた小林は、次世代のために自社が得意とする「開発力」を武器に、今後も持続的にイノベーションを起こし続ける組織を築きたいと考えた。

『CMO』というユニークな役職を新設した理由は、社内外に最重要課題と位置づけ、新業態や新商品の開発を通じ、「新たな市場の創造」を具現化していく責任者を明確にするためである。小林の強い覚悟が感じられる。第2部で物語の強さの秘密については述べるのでご安心下さい。

 物語は直営店・FC店を含めたグループ売上高1000億円という新たな中期経営計画を必ずや達成し、『個』の確立と自立が『組織』の成長と共存できるということを証明してくれるに違いない。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top