• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2016年10月11日

トヨタに逆風カリフォルニア州の排ガス規制/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏

企業家倶楽部2016年10月号 緑の地平 vol.32


Profile

三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。



ハイブリッド車がエコカーでなくなる日

 日本でエコカーの代名詞になっているトヨタの「プリウス」などのハイブリッド車(HV)が米カリフォルニア州では「18年モデル」から「エコカー」の対象から外される。ハイブリッド車の販売で世界をリードしてきた日本の自動車メーカーにとってはかなりの逆風で、戦略の練り直しが求められそうだ。

 車社会のカリフォルニア州では大気汚染対策として1990年から「排ガスゼロ車」(ZEV = ゼロ・エミッション・ビークル)を目指して本格的な排ガス規制に乗り出した。当初は排ガスに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物などの有害物質の規制に力を入れてきたがほぼ目標を達成した。このため、今世紀に入ってからは温暖化ガスのCO2の排出ゼロを達成するための規制を強化している。CO2排出ゼロを実現するためには走行中にCO2を排出しない電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の普及が望ましいが、技術的に超えなくてはならない課題が多く短期間には実現できない。

 そこで、カリフォルニア州は過渡的な措置として、相対的にCO2の排出量が少ないハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHV)、天然ガス車などをクリーンなエコカーとして認定してきた。ところが12年に規制が大幅に強化された。同州では販売台数の大きい自動車メーカーに対し販売台数の14%をエコカーにするよう義務づけた。この段階ではハイブリッド車もエコカーとして認定されていた。ところがこの規制がさらに強化され、来年17年の秋以降に発売される「18年モデル」からハイブリッド車はエコカーの対象から外されることになった。同じハイブリッド車でもPHVはモーター(電気)が中心でガソリンは補助的使用に限られるためエコカーとして残る。さらに「18年モデル」では、エコカー比率がさらに16%へ引き上げられる。



有力自動車各社相次ぎ電気自動車発売発表

 エコカー比率を達成できないメーカーは罰金を払うか、競合他社からCO2の排出枠(クレジット)を購入して賄わなければならない。米国の電気自動車メーカーのトップを走る新興のテスラは、2013年に他社へのZEVクレジットの販売によって6800万ドル(約68億円)を稼いだそうだ。

 エコカーに認定されると、手厚い優遇税制の対象になるほか、高速道路ではエコカー専用レーンを走行できる。他のレーンが交通渋滞していてもスイスイ走ることができる。昨年サンフランシスコ郊外の高速道路を走った際も、エコカー専用レーンを快走するZEVを見てうらやましく思ったものだ。

 カリフォルニア州がZEV 規制を強化してきた背景には、エコカーの普及が進まないことに対する焦りがある。昨年の米新車市場では1747万台と過去最大の販売台数を記録したが、電気自動車の比率は1%にも満たない。テスラのように電気自動車の量産化に成功した企業が現れるなど機が熟したと判断し、各社の競争を通してZEV、特に電気自動車の普及を一気にすすめ、CO2の排出削減を目指す方針だ。

 同州は2040~50年頃までにZEV100 %を目標に掲げている。さらに同州はニューヨーク州、オレゴン州など8州と「ZEV 推進プログラム」の覚え書きを交わしている。当然他州も「18年モデル」に追随することになるだろう。

 すでに「18年モデル」に適応するため、米国ではGM、フォード、さらにドイツのBMWなどが今年末頃に電気自動車を発売する計画を相次ぎ発表している。日本車では電気自動車リーフで先行する日産自動車も次世代リーフを発売する準備をしている。



電気自動車で遅れを取ったトヨタの困惑

 一方、ハイブリット車で世界市場を席巻してきたトヨタやホンダなどの日本の主力は電気自動車の開発・発売に遅れを取ってしまった。同じ排ガスゼロ車(ZEV)でも電気自動車の場合は一度の充電による走行距離が短いため、長距離走行のためには燃料電池車(FCV)の方が好ましいとの判断をした。FCVは空気中の酸素と燃料の水素を反応させてできる電気で走るため、走行中にはCO2を出さない。「EVかFCVのいずれを選ぶか」、日本の主力は熟慮の結果FCVを選んだ。トヨタが14年12月に開発・販売した燃料電池車「MIRAI」はその代表だ。ホンダも今年3月、FCVの「クラリティ フューエル セル」のリース販売を開始、今年中に米国や欧州市場にも投入する計画だ。

 だが、ここに一つ大きな問題がある。カリフォルニア州では燃料補給のための水素スタンドが大幅に不足し、燃料電池車の販売・普及の大きな足かせになっていることだ。さらに日本車にとって都合の悪いことは、走行距離が短いとされてきた電気自動車も、技術革新によって一度の充電で350km近く走れる車が登場している。今後、競争によって一度の充電で走れる走行距離はさらに伸び続けるだろう。



技術革新の勝者が次の時代の敗者に陥る危険性

 トヨタなどは当面の対策としてはクレジットの購入やプラグインハイブリッド車(PHV)で対応せざるをえないだろう。トヨタは6月、今秋にPHVを搭載した新型車「プリウスPHV」を発売すると発表した。一度の充電で走行できる距離は60 以上(従来のEVは26・4km)に伸びる。ホンダも海外で販売している「CR-V」をフルモデルチェンジし、今年末までにPHVとして売り出す計画だ。そのPHVも20年にはエコカーの対象から外されるかもしれないとの観測もある。

 長期的にみると、ZEVは電気自動車と燃料電池車の二つに大別されるだろう。日本のようにEVよりもFCVが優れていると判断しても、巨大な自動車市場のアメリカが電気自動車に大きく舵を切った今、トヨタやホンダも燃料電池車中心の戦略を練り直す必要がある。米市場でFCVを普及させるためには水素ステーションを短期間に設置しなければならないが、そのためには膨大なコストがかかり現実的ではない。長期的にはFCVが性能、価格面で優れているとしても、足元でEV市場が急拡大すれば、それに積極的に対応しなければ有力な米国市場で劣勢に立たされることになる。デファクトスタンダード(事実上の標準)としてEVに軍配があがれば、欧州、中国などの巨大市場にも波及するだろう。日本発のFCVがガラパゴス化に陥る危険性もある。この際、トヨタやホンダに求められるのは時代変化への機敏かつ弾力的な対応だ。

 一つの時代の技術革新の勝者が次の時代の敗者になるケースは歴史を振り返れば枚挙にいとまがないことを自覚すべきだろう。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

2017年度 第19回企業家賞
骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top