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トピックス -企業家倶楽部

2016年10月17日

起業家とベンチャーキャピタリストの関係/東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 郷治友孝

企業家倶楽部2016年10月号 キャンパスのキャピタリスト仕事録 vol.8


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。


Profile
郷治友孝(ごうじ・ともたか)

通商産業省(現経済産業省)で『投資事業有限責任組合法』(1998年施行)を起草、2004 年㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)共同創業。3本の投資事業有限責任組合(計約300億円)を設立・運用し、テラ含め16投資先ベンチャーの役員に就任。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。




 ベンチャーキャピタリスト(以下、VCという)は、投資したベンチャーの成功を目指すという意味で、起業家と運命共同体。しかし両者の仕事は、当然一緒ではないーーときには緊張関係もある。今回は、そんな起業家とVCの関係について考えてみたい。

 UTECのような、技術シードや事業開始間もない段階から投資するVCファームの場合、事業立ち上げの段階から起業家と一緒に苦労することが多い。ただ、共同作業を重ねて信頼関係を築いても、起業家とベンチャーキャピタリストは当然同じ立場ではない。

 創業時に一緒に苦労するので、「共同創業者」のような存在になる。深い人間関係も築く。起業家は、今までにない技術や製品、サービスを世に送り出し事業をつくり、新産業を興すことが目的である。一方VCは、ファンドに出資してくれた投資家に、投資事業の成功を通じて投資リターンを返すことが使命である。このため、VCと起業家は、深い信頼関係を築いたとしても、一体化はしない。互いの立場をわきまえる規律を持ったうえで、信頼関係を築くことが重要だ。このことを筆者は「規律ある信頼関係」と呼んでいる。

 ここでいう「規律」とは何か。それは、自分のことだけを考えるのではなく、互いに相手の求めるものを理解しながら築く規律である。投資家は起業家の成功を、起業家は投資家の成功のことも考えながら活動しなければならない。自分の利益だけを追求しようとすると、起業家が興す事業に投資するVCはいなくなるし、VCからの投資を受けいれたい起業家もいなくなる。

 では、起業家とVCが、成功のために相手に求めるものとは何だろう。VCが起業家に求めるのは、当然のことながら、投資を受けた事業を収益化し、投資リターンをもたらすことである。対して、起業家がベンチャーキャピタルに求めるのは、まず何と言っても、たとえ失敗しても返済が不要なリスクマネーを投資してもらうことである。それに加えて、いろいろな支援をしてもらうこと、具体的には、顧客や人材といったネットワークの紹介、戦略立案や事業計画の策定上のアドバイスといった、事業を成功させるために必要な様々な支援も含む。こうしたVCの支援は、投資することにとどまらず、中に入って手をかけてすることが多いので、一般に「ハンズオン」と呼ばれている。(図 技術シードからのハンズオン支援)




「ハンズオン」の内容は、それだけに留まらない。要は、良かれと思って、いろいろ気にかけ、世話を焼くということである。筆者の場合、ホームページで社長が着ているスーツの色を変えてもらったり、接客時の服装や姿勢を注意したり、髪を切ってもらったり、言葉遣いを直したり、といったことすらしてきた。

 このように、一蓮托生の起業家とVCの関係ではあるが、長期の関係を築くためには、互いのスタンスの違いについてもよく理解しておくことが重要である。

① 事業についてのスタンスでいえば、起業家は、フルコミットして特定の事業に邁進しているのに対し、VCは、複数の「ポートフォリオ」と呼ばれ る事業群を投資対象としている。

② 事業体(会社)に対して持つ株式持分については、起業家は、その事業に専念してコミットすることに見合った持分を求めるし、一方VCは、投資金 額に見合った持分を求める。

③ 事業への関与でいえば、起業家は、できるだけVCから制約を受けることなく事業を進めたい。一方VCは、事業が失敗してしまうと基本的に資金 は取り戻せないので、起業家に対し、あらかじめ、 正確な説明を求めたり、重要なことをしようとする場合に事前同意を求めたりしたい。

④ 株式持分の維持については、起業家は、自分で追加投資しなくても、ストックオプションの付与といった形で実質的な株式を後で増やすことができる。VCの場合、追加投資しない限りそれは基本的にできない。

⑤ 株式の保有期間については、起業家は、継続保有を通じて安定的に事業を行うことを望むことが多いが、VCは、投資家の資金を運用しているため、技術シードからのハンズオン支援投資家の望む適時にリターンを回収しなければならない。

【Step-1】

・基礎研究 ■創造性と革新■研究開発

【Step-2】

・起業決断 ■企業理念■事業方針

【Step-3】

・Proof of Concept ■試作品■市場の選択■知財の整備

【Step-4】

・ビジネスプラン ■ビジネスモデル■事業計画■資本政策

【Step-5】

・経営陣結成 ■チーム■アントレプレナーシップ

【Step-6】

・資金調達/法人設立 ■調達先の検討■オーナーシップ

 こうしたスタンスの違いに由来して、以下のような緊張関係が生じることがある。

① 起業家の思い入れと、VCの俯瞰的見解が異なる場合。事業に詳しい起業家がVCを説得することもあるし、様々な視点を持つVCが経営方針の転換を求めることもあるが、それぞれに互いの認識の根拠をよく理解して最善の選択肢を取ることが重要である。

② 起業家は自社の企業価値を非常に高く考えるのに対し、多くの失敗事例を知っているVCは評価に慎重である場合。まだ売上や利益のない企業を、一体どれだけの価値で評価するのがよいかは難しい。

③ 投資契約を結ぶ際の、起業家が表明して保証する範囲、投資家が事前承認を求める範囲について、起業家が許容する範囲と投資家が求める範囲が異なる場合。「表明保証」とは、技術や事業内容について表明したことが真実であると保証することである。

④ VCが増資は必要ないと思っているにも関わらず、起業家が他の投資家への増資に熱心な場合。VCから見ると、他の投資家への過度な増資は株式持分の希薄化を招くだけでなく、起業家が事業に割く時間が減るため好ましくない。事業から現金収入を得られていない場合に起こりがちである。

⑤ 投資家に資金回収(「エグジット」)の機会をもたらすイベント、すなわちIPO(新規株式公開)やM&A(企業の買収・合併)の時期について、起業家とVCの意見が異なる場合。IPOやM&A は、起業家にとっては新たな株主を迎える経営上の大きな転換点であるが、投資家にとっては投資資金のエグジットイベントとして不可欠であり、双方の要請を満たす時期を設定しなければならない。

 このように、起業家とVCの間にはスタンスの違いに由来したさまざまな緊張関係が生じうるのであるが、両者は、大局的・最終的には運命共同体である。互いが成功し合ってこそ、「ベンチャー・エコシステム」と呼ばれる、新しいベンチャー企業や新しい産業が次々に生まれる土壌ができる。我が国においてシリコンバレーやイスラエルに伍する世界的インパクトのあるベンチャー・エコシステムを築けるかどうかは、起業家とVCが「規律ある信頼関係」を幅広く築けるかどうかにある、と筆者は考えている。



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