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2016年11月24日

研究開発型ベンチャー:起業の条件とタイミング~ゲノム編集技術の事例~/東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 郷治友孝 

企業家倶楽部2016年12月号 キャンパスのキャピタリスト仕事録 vol.9


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。


Profile
郷治友孝(ごうじ・ともたか)

通商産業省(現経済産業省)で『投資事業有限責任組合法』(1998年施行)を起草、2004 年㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)共同創業。3本の投資事業有限責任組合(計約300億円)を設立・運用し、テラ含め16投資先ベンチャーの役員に就任。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。




 今回は、大学発ベンチャーのような研究開発型ベンチャーの起業が成功する条件とタイミングについて考えてみたい。


 第3回コラム(「大学発ベンチャー:成功する経営陣の条件」(2015年12月号))にも書いたように、よい研究開発成果があっても、ベンチャーの起業による事業化を成功させるためには、それ以外に様々な条件が揃うことが必要である。具体的には、優れた経営陣、資金、ビジネスモデル、知的財産の整備、製品開発といったもろもろの条件が整うことが必要となってくる。ところが、である。では研究開発型ベンチャーの起業は、一体いつ行うのがよいのだろうか。 全ての条件が揃ってからでなければいけないのだろうか。


 答えは否、というのが現在の筆者の見解である。革新的で需要の大きな研究開発成果であって、後で不足条件を付加・補完できるのでありさえすれば、起業のタイミングはどんどん早まってきているとすら言える。というのも、最近は、研究開発型のベンチャーの成功事例も相当数になってきたし、幹部人材の流動化も進んできている。資金や経営支援の面でも、ベンチャーキャピタルや篤志家・エンジェルによる金銭的な支援、経営関与も活発になってきている。政府によるベンチャー助成のための予算も大規模化している。こうした中で、研究開発型ベンチャーの起業においては、条件が足りないことは必ずしも一番のネックではなくなってきたといえるのではないか。踏み込んで言えば、知的財産や事業化の面でさまざまな課題があっても、それに長けた経営人材さえいれば、後から対応することも可能になってきたのではないか。


 筆者がそのような思いを強くする事例が、最近、バイオテクノロジー領域のCRISPR-Cas9 (「クリスパー・キャスナイン」と読む)と呼ばれるゲノム編集技術(ゲノムとはDNAのすべての遺伝情報)で見られた。 




 ゲノム編集技術は、遺伝子の改変技術の中でも、従来の遺伝子組み換えとは異なり、交配やスクリーニングを不要とする技術である。中でも、CRISPR-Cas9(clustered regularlyinterspaced short palindromicrepeats / CRISPR associatedproteins)は、ゲノム配列中で切断したい遺伝子配列の領域を切断して編集(置換、挿入)することに特に優れた技術である。ガイドRNA(gRNA)と呼ばれるターゲット遺伝子配列へのガイド役と、Cas9蛋白質というカッター役を発現させることで、標的遺伝子の変更や複数遺伝子のターゲッティングが容易となることから、世界中で急速に利用されるようになってきている。

 CRISPR-Cas9が知られるようになったのは、2012年6月、米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とスウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ教授らがScience誌オンライン版で論文発表し、CRISPR-Cas9を用いて狙った領域を切断できることを示したのが最初とされる。その後2013年1月、米マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所のファン・ツァン教授らが、真核細胞(ヒトなど細胞の中に細胞核を有する真核生物の細胞)においてCRISPR-Cas9の有用性を示す論文を発表した。




写真左から:シャンパンティエ教授・ダウドナ教授・ツァン教授

 他方、CRISPR-Cas9の知的財産に関しては、2014年に最初に米国特許を取得したのはツァン教授の属するMITだった。ツァン教授は、自分自身が最初の「発明者」である証拠として実験ノートを提出し、先に論文を発表していたダウドナ教授やシャルパンティエ教授のCRISPR-Cas9の「発明」は自分より後だったと主張し認められたのだ。そのため特許紛争が巻き起こり、関係者間のeメールまでもが法廷で取り沙汰されて争われる泥仕合に発展している。ヒトでのCRISPR-Cas9を用いた臨床試験も始まっていない。

 しかし、競い合う3教授はそれぞれベンチャーを立ち上げた。これら3社は短期間のうちに多額の資金調達を行い、製薬企業とも提携し、今年2016年にはいずれも米国NASDAQ株式市場でIPOしてしまったのである。従来であれば、特許係争中で臨床試験すら始まっていないバイオテクノロジー領域で、ベンチャーが大規模な資金調達や事業提携、IPOで成功するなど考えられなかった。(ツァン教授 /エディタス・メディシン社/VC : サード・ロック・ベンチャーズ、フラッグシップ・ベンチャーズ、ポラリス・パートナーズ/提携先: ジュノ・セラビューティクス/2016年2月IPO、ダウドナ教授/インテリア・セラピューティクス社/VC: アトラス・ベンチャー/提携先: ノヴァルティス、リジェネロン・ファーマスーティカル/2016年5月IPO、シャルパンティエ教授/クリスパー・セラピューティクス社/VC:ヴァーサント・ベンチャーズ/提携先: バイエル、ヴェルテックス・ファーマスーティカル社/2016年9月IPO)。

 

 こうした事例は、真に革新的で大きな需要が見込まれる 研究成果があって、不足条件は後から補完できる余地があるのならば、先に起業することが可能となってきた時代変化を伺わせる。このような情勢を踏まえると、国のベンチャー活性化のための施策についても、 革新的な研究成果を生むための土壌を豊かにする原点に立ち返ることが必要である。具体的には、若手研究者の安定的なポストを確保し、独創的な基礎研究が多数行われうるようにすることが求められよう。

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