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2016年12月07日

自由闊達な社風を継承し新しい価値創造企業へ/理研ビタミン代表取締役会長 堺 美保代表取締役社長 山木一彦

企業家倶楽部2016年12月号 トップ対談




在任20年の節目に社長交代

堺 私が社長になり、2016年で20年経ちました。就任期間はちょうど日本経済の「失われた20年」と重なっています。大変な時期でしたが、グローバル化が進み、前向きな市場環境もありました。当社も現在の売上げは海外が3割弱を占めており、これは20年前では考えられないシェアです。

 今後の成長エンジンは海外事業で、加工食品の品質を上げる改良剤事業に注力します。今後人口が増加し、かつ国民の過半数が30歳以下の国がアジアや中近東に沢山あります。それらの国では必ず加工食品が増えていきますが、そこに当社の海外事業を伸ばしていく基盤が出来上がりつつあります。

 国内の食品事業を維持、発展させながら海外を成長エンジンで攻めていくという事業戦略がほぼ固まってきましたので、今が社長交代のタイミングだと決断しました。山木社長は大学は理系出身ですが、入社以来、一貫して営業畑で仕事をしてきました。市場の動向、ユーザーへの対応のあり方、ニーズの把握の仕方等が優れています。

 当社の事業は多様化していて、1人で全てに精通することは不可能です。その点、彼は多くの社員から必要な知恵や情報を集め、最終的な判断をすることが出来るリーダーです。それに性格が明るい。

山木 私はポジティブシンキングくらいが取り柄ですね。6月の株主総会後社長に就任してから3カ月ですが、あっという間でした。責任の重さを感じています。

堺 担当する事業領域が食品だけだったのが、今度は全体ですからね。しかし、皆の話をきちんと聞けて「和」を保つ資質があれば社長を続けていけるでしょう。

山木 自動車の運転に例えるならまだ仮免許です。社長業務を一巡しないとだめでしょうね。来年、株主総会が終わってやっと本免許になると考えています。

堺 もう表を走っているのだから、仮免なんて言っていられませんよ。



会長の眼力と胆力を見習いたい

山木 1995年、中国事業の青島プロジェクトがスタートしましたが、その時の担当常務が堺会長でした。

 会長は頭の回転が早く、時折ハッと驚くような厳しいつっこみを言うので映画監督の北野武さんみたいだと思ったものです。まだ私が20代の頃、同僚3人で仕事帰りに居酒屋で飲んでいると会長に出くわしました。私が「三人寄れば文殊の知恵で、会社の将来を考えている」と言ったら、すかさず会長が「馬鹿が3人寄っても馬鹿の3乗になるだけだ、まず一人一人が確り勉強してレベルを上げることが大切」と即座に返されたのを覚えています(笑)。

堺 私が食品企画室長として本社にきたばかりの頃だね。当社は理化学研究所の頃から研究者の集団で、自由闊達というDNAがあり、上下関係も厳しくない。

山木 会長と私の関係も肩ひじ張りませんからね。10年ほど前までは「社長」ではなく「堺さん」と呼ぶ社員も多くいました。自由闊達なところは昔からで、新入社員も「会社訪問した他社とは違う」と言います。この企業文化は変えたくないですね。

堺 社長は営業出身だから市場の視点が先に見え、そこをベースに物を考えるところが良いですね。

山木 会長から学びたいのは本質を見極める眼力です。そして、その上で、難しいことも単純化できる能力。例えばヘルスケア事業など、誰もが未経験な分野の話を聞いても、最も肝となる部分を単純化して的確に理解されている。

堺 難しくして煙に巻くという手もある(笑)。

山木 会議でも難しいことを難しく言う人がいますが、言っている本人がわからなくなっては本末転倒です。

堺 何回会議をしても、行動しなければ事は何も進まない。進めるためには、部下が動けるようにしてやらなければなりません。組織が細分化され、それぞれが与えられた職域の権限で動いていますから、会社を1つにまとめて職務を実行していくためには、行動できるような内容にして伝えていかなければいけません。聞いた途端にわかる指示じゃないと誰も動かないし、行動しなければ意味がない。

山木 また、当社でも過去に商品回収などのトラブルがありましたが、そんな時も、会長は動じませんでした。その胆力を見習いたい。社内が大騒ぎしているのに会長だけは平然としていて、それで社員が落ち着きました。心の中では色々考えているのでしょうが、表情に出さずにいられる強さが今後の私の課題です。



山木新社長の所信表明

山木 社長就任後、社内報に所信表明を載せました。当社の中核は食品事業、改良剤事業、ヘルスケア事業です。この3つの事業と周辺をきっちりとやっていくこと、取引形態としてはBtoBと家庭用(BtoC)の両輪で発展していきたいと考えています。さらに、それぞれの事業が単独ではなく有機的に連携して、価値創造型の商品を生み出せる企業でありたいと伝えました。

 就任後の事業所訪問で直接社員と話す機会には、「社員一緒になってやるんだよ」と、砕いて詳しく話すようにしています。

堺 私は社長就任2年目くらいに経営理念と中期経営計画を作りました。そして3カ年計画で数値目標を、さらにそれを実現するための具体的施策を決めたのです。計画を立てて実行していきますから、社長が代わったために、トップの言うことがガラッと変わってしまうということはありません。

山木 先ほど仮免許と言いましたが、中期経営計画はあるし、周りもしっかり支えてくれているので、半分は自動運転のようなものです。

堺 昔の経営の在り方とはかなり違ってきています。行く先は変わらないが行き方は違う。市場もあるので、それに対して変わっていくことはあるかもしれません。

山木 いかに社員が本気で実行してくれるか。方向性は具体的に決まっていますから、そういう会社をいかに作るかが重要です。

堺 会社が大きくなって、簡単には舵が切れなくなっている。

山木 わかめの大減産の影響からくる値上げについてもそうですね。

堺 現在日本人が食べているわかめは7割が中国産ですが、その中国産が7割減りました。

山木 これだけの品薄なのですから値上げが不可欠ですが、営業本部長だけが分かっていてもいけません。徹底して末端の営業まで浸透させ、値上げを期日中に実行する。それは、中期計画でやるべきことをやるのと通じます。流通から「値上げは駄目だ」と言われてそのまま帰ってきたら駄目です。徹底するのみです。

堺 昔は上司が「やれ」と言えば済みましたが、今の人たちは納得しないと動きませんからね。



新たな局面を迎えて

堺 2016年度(第80期)の決算は増収増益でした。売上げは国内外増。しかし、国内の家庭用食品の収益構造を変えるため、家庭用食品営業の構造改革を行いました。また、食品事業全体は売上げよりも、収益を重視する施策で利益を残すことができました。

 海外については、改良剤は大きく伸びました。しかし、ギリシャ問題に端を発したヨーロッパ不景気の影響を受けて、中国の水産加工品事業が悪化し、加えて、この20年で人件費が10倍になり減益となりました。

 中国事業の福生食品は1995年に100%理研ビタミンの資本になり、フィッシュブロックなどの冷凍水産品を欧米に輸出しています。年間約100億円売上げがあり、全て欧米向けに輸出していました。今後は一部を中国国内向けにシフトし、輸出2に対して中国国内1という割合を目指しています。今回、実際に国内販売に取り組むと利益率も高いことが分かったので、販売の構造改革で収益体質を強化します。「福生食品を良くするため、構造改革をやり遂げなければいけない」と、3カ月に1度訪中してテコ入れしています。

 また、当社はわかめのリーディングカンパニー。今年のような不作に備えて、病気に強く、気候変動に強い種の研究を始めています。遺伝子には触らず、自然に存在している地種の中から良い物を選別していきます。

 わかめの養殖に適した水温が5~6度なので、2~4月の厳寒の時期に年1回しか取れません。後継者も少なく、養殖を担う生産者の高齢化も深刻です。しかし、広域な温度に対応できる種があれば、年に何回も収穫できるようになるかもしれません。それでも天然物は不作に悩まされますね。食品はそこが泣き所です。

山木 それを緩和するために一番効率の良い種を供給して、それで養殖したものを調達できれば、安定的な原料を確保出来る道が開けます。

堺 原料の安定が食品事業では大事。我々食品加工メーカーは「利は元にあり」。食品の元は原料で、いかに原料調達に注力するかが大事です。生産コストを下げて質の良いわかめを安くすることを、生産者と一緒に挑戦していかねばなりません。



理研ビタミンの行く道

堺 国内は少子高齢化やダイバーシティが進み、ライフスタイルの変化からますます家庭用加工食品に対する選択の目は厳しくなります。中食、外食、コンビニなど選択肢が増え、間違いなく台所の外部化が起こってくるでしょう。スーパーの陳列や、店舗全体のあり方も変わってきます。

山木 スーパーも今や惣菜の比率が高いですからね。

堺 調理不要な即食がドンドン増えていき、調理が必要な商品は少しずつ減っていく。わかめスープのような即食は、品質のグレードアップやバラエティ化を進めるが、調理用素材であるカットわかめを家庭用で大きく伸ばすのは難しいでしょう。

山木 家庭用食品は売上げ全体の17%くらいですが、もはや、だしも家庭での使用頻度は減って来るでしょう。味噌屋メーカーなどにだしや原料を売ったり、宅配弁当店などへの業務用が増えています。業務用分野は得意分野なので、今後に悲観はしていません。

堺 海外事業は現状の3割から4割、5割へ上げていく。食品関連の上場会社で海外の事業割合が3割というのは国内上位です。海外事業を成長事業にすると、原料相場や為替相場の問題、テロなどの安全の問題がありますが、避けて通れませんし、進めるべきです。

 それを支えるのは人ですから、現地化を進められるような人材をいかに育成していくかが大事になります。

山木 理研維他精化食品工業 (上海)有限公司も中国人が社長です。トップとスタッフのコミュニケーションの良さが雰囲気でわかります。日本人でなくてもトップになれるということ、また、日本人がスタッフとして働くという環境が良いのです。派遣された日本人は、揉まれて成長して本社に戻り、国際事業部でまた違う仕事が出来るようになりますしね。



価値創造型の企業として生き残るために

堺 きちんと先を見て、人事なども決めていかなければいけません。山木 昔から自由闊達な社風で、実力主義が浸透していますから、学歴や中途入社も関係なく取締役や執行役員になる人もいます。

 また、海外は人材の層を厚くしないといけないという悩みがあります。ただ、語学は勉強すればいいですし、現地に行けばなんとかなりますから、一番大切なのはダイバーシティと同じで、現地の人と素直に差別なくつきあえることではないでしょうか。しかし、販売はなんといっても現地化が重要です。ローカルスタッフを充実させることが必要です。

堺 最終的には、人材の確保と育成は現地の人でしっかり行なってもらうのが理想です。

山木 元々、挑戦できる舞台をどんな人間にも用意する社風があります。商品開発、事業開発、営業も、我々が若い頃はどんどんチャレンジしたものです。

 今は優等生タイプが多いですが、社員の2割くらいはもっとやんちゃでもよいと思っています。

堺 この事業領域のこの部分を5年先にこうしたいから、こんな人材を育成するという視点で採用する。そこから計画して育てていかなければなりません。

山木 今後は、希望を追い求めるのではなく、”光る物”を作っていく価値創造型の企業として生き残るのが一番重要です。わが社の先人もそうしてきました。

堺 そのためには「真似をしない企業」であることだね。

山木 「真似をしない社員」を育てることでもあります。

堺 他のものを真似して作るのではなく、独自の技術で独自の差別化された商品開発をするのが基本です。それが社会の役に立つならば、きちんとお金を払っていただけるでしょう。

 それを社員で共有化していくのです。売上げ至上主義で、自社のブランドも主張しないで、売れる商品を作る下請けになればある程度は売れます。しかし、それでは会社としての独自性がない。

山木 当社のDNAもそこにあります。かつてそういう商品を出してきた自負もあります。そのためにも人材を育成して活用していく。そうでなければ、独自の商品を作れといっても出来るものではありませんからね。

堺 それは正に、イノベーションを起こせるかにかかっています。
 




P r o f i l e

堺 美保(さかい・よしやす)

1939年宮城県生まれ。63 年、東北大学農学部卒。同年4月、理研ビタミン油(株)入社。本社工場東京研究課配属。70 年草加工場技術グループリーダー。82 年本社食品企画室長。88 年取締役。食品事業担当。92 年常務取締役。95 年代表取締役専務。営業部門担当。96年代表取締役社長、2016年6月代表取締役会長に就任。




P r o f i l e

山木一彦(やまき・かずひこ)

1959年宮城県生まれ。83年、東北大学農学部水産学科卒。同年4月、理研ビタミン入社、以来営業畑を歩む。95年中国・青島プロジェクトチーム配属、同年8月中国室長に就任。97年国際事業本部国際事業部を経て食品営業のチームリーダーを歴任。2006年加工食品営業担当の執行役員。10 年取締役。業務用食品営業担当。14 年常務取締役を経て、16 年代表取締役社長に就任。



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