2017年01月24日
自主独立精神を持ち世界へ出る/IRI/BBTowerグループの強さの秘密
企業家倶楽部2017年1/2月号 IRI/BBTower特集第2部
IRI/BBTowerグループは創業以来、インターネットの基盤整備に日夜尽力してきた。彼らのデータセンターが無ければ成立しないサービスも多く存在する。その技術力はさることながら、きめ細やかな対応力と潜在ニーズの発掘力がクライアント企業から好評だ。創業者、藤原洋の説く連邦型独立経営の下、自主性に富んだ社員たちは自ら考え、自ら動く。そんな彼らが見据える舞台は、世界。今後、グローバルに飛躍せんとする同社の強さの秘密を追った。
ビル・ゲイツに会いたいと言わせた男
ビル・ゲイツ。マイクロソフトの創業者にして、世界一の億万長者。アップル創業者のスティーブ・ジョブズと覇を争った男。その彼が来日した際、会いたがった日本人が二人いるという。
一人は孫正義。言わずと知れた現ソフトバンクグループの総帥。そしてもう一人が、藤原洋であった。インターネット業界に徒手空拳で殴り込み、常に大衆の耳目を集めて来たのが孫正義ならば、陰ながら地道にインターネットのインフラを構築し、地場を固めてきたのが藤原洋と言えるかもしれない。
現在、孫正義のソフトバンクグループが9兆円を売り上げるのに対し、藤原洋のBBTowerが売上げ350億円に止まっていることに疑問を呈するなかれ。そこには第1部で詳細を記述したIXI事件が大きな影を落としている。
それでも、日本IBM、日立エンジニアリング、アスキーなどを経て、インターネット総合研究所を設立、その後データセンター事業を主力とするBBTowerを上場させるなど、藤原がその半生をインターネットの発展に費やしてきたことに変わりはない。「日本のインターネットの歴史=藤原洋の歴史」と言っても過言では無かろう。
インターネット黎明期にビジネスが勃興していった様は、19世紀半ばにアメリカ西海岸で金が産出された時節のそれと似ている。多くの者がゴールドラッシュに湧き、一攫千金を夢見て金鉱へと身を投じる中、そうした人々にツルハシやジーンズを売った者、食事や宿、酒を提供した者こそ、最も儲けることができたというわけである。
創業以来、藤原が狙っていったのも、まさにそうしたプラットフォームの部分。今やBBTowerのデータセンターは、インターネットビジネスを手掛ける各社にとって、無くてはならない存在となっている。
月間150億のPVを支える
ニュース、メール、ショッピングなど、そのサービスを生活のインフラとして利用している人も多いヤフー。月間150億PV(ページビュー)という膨大なデータ通信量を24時間365日休まずさばき続けるには、高性能なコンピュータとそれを運用するノウハウが不可欠だ。
ソフトバンクグループの連結子会社であることから、同社が運用まで手掛けているものと思う向きも多いが、実はその裏方を担っているのはBBTower。ヤフーは彼らの大口顧客というわけだ。
データセンター周りのインフラ構築と運用の技術力はBBTowerの強み。「ヤフーが採用し、満足しているという信頼感で、他社からも引きがある」と藤原も明かす。ヤフーとの長年の付き合いは、彼らの高度な要求に適応できる土壌をBBTower内に育んだ。今やIT業界で藤原洋の名を知らぬ者はいないが、名ばかりでは無く、実際にヤフーを日夜支えているという自負が同社にはある。
インターネットの交差点を手中に
では、「データセンターの技術力」と一口に言っても、具体的にはどのような部分が競合との差別化に繋がっているのだろうか。
他社の通信基盤と情報資産を預かるデータセンターを運営する以上、セキュリティに関して余念が無いのは当然。サイバー上の攻撃に耐えうる防御力と監視体制はもちろん、彼らのデータセンターは全て耐震基準・安全基準を満たしており、物理的な堅牢さも売りとなっている。首都圏と関西圏に分散してセンターを構えていることから、万が一の事態に際しても迅速な復旧が可能だ。
ただ、安全性の担保は、言わばデータセンター事業において必要最低限の条件。その上にいかなる付加価値を乗せていくかが勝負の鍵を握る。それについて、BBTowerでデータセンター統括グループのディレクターを務める神坂慶介は「まず東京・手町という場所に優位性がある」と説く。
IX(インターネット・エクスチェンジ・ポイント)という言葉をご存知だろうか。これは、インターネット接続業者や学術ネットワークが相互に接続するインターネット上の結節点にあたり、「インターネットの交差点」とも呼べるもの。このIXが、日本の場合は大手町に集中しているのだ。
回線内を高速で駆け巡るデータと言えど、運ばれる物理的な距離が長ければ長いほど到達まで時間を要することに変わりはない。特に、データ容量が膨大となればその傾向は顕著だ。NTT、KDDI、ソフトバンクという大手キャリア3社を含む多くのインターネット企業が接続し、大容量の回線が引き込まれているIXの近くにデータセンターを構えることで、BBTowerは他社よりも圧倒的に速いデータ通信速度を実現している。
数十Mbps(メガバイト毎秒)のネットワークしか用意されていない一般のデータセンターと比べ、BBTowerは1Gbps(ギガバイト毎秒:1Gbpsは1000Mbps)の広帯域なネットワークを誇るというから、その差は数十倍に及ぶ。また、顧客のニーズによっては、60Gbpsを超える帯域を提供することも可能であり、他の追随を許さない。
東京駅からも程近い大手町にセンターを構えることで、アクセスの良さも強みとなっている。湾岸地区や郊外に立地することの多い他のデータセンターに比べ、「日々の運用を行う上で足を運びやすい」とユーザーから評判だ。
1顧客1SEを貫く
ただ、BBTowerは技術的な側面ばかりが評価されているわけではない。そのきめ細やかな対応力も、クライアント企業が同社に信頼を寄せる決め手となっている。
「1顧客1SE(システム・エンジニア)」というモットーの下、BBTowerにはクライアントからの要望に包括的に応えられる体制が整う。例えば、顧客企業から「23インチのラックに対応した機器を持ち込みたい」との声を受けるや、データセンターの通常規格である19インチのラックを大容量用に改修。また電源に関しても、機器の置かれる位置や直流・交流といった種類の選択を柔軟に受け付けている。こうした施策に関して、前述の神坂は「設備部門とサービス管理を同じチームが担当していることが大きい」と分析する。
最近では、「データセンター内にWi-Fiを飛ばして欲しい」という顧客からの要望に応じて設備を整えた。最新のコンピュータを誇るデータセンター内に無線が飛んでいなかったというのは意外で面白い限りだが、そうした細かい要望にも真摯に耳を傾けて改善を図ることで、顧客の安心感に繋がっている。
その他、空調管理においても、BBTowerは地道な取り組みを行っている。データセンターではサーバーが熱を帯びてしまうため、冷却する必要があるが、24時間365日動いているとなると、それだけで空調設備のエネルギー消費は馬鹿にならない。そこでBBTowerでは、独自の省エネ対策を採っているのだ。
実は、サーバーの稼働状況によって温度はまちまち。同じ部屋の中でも場所ごとに温度が異なるという。そこで同社では、社員が実際に温度計を持ってその場に立ち、温度を調査。部屋を一律に冷やすのではなく、温度が上昇傾向にある部分を特に冷やす工夫を施している。
こうした省エネ対策によって設備維持のコストが下がれば、データセンターを使う各社に対しても提示価格の面で還元できよう。自社、クライアント企業、そしてもちろん環境にも良い、まさに三方よしの施策なのである。
潜在ニーズを引き出す
BBTowerの社員は、単にクライアントからの声を聞くだけではない。むしろ、各社のニーズを汲み取って提案することもしばしばだ。彼らの第一目的は、あくまでクライアント企業のデータ通信が滞らないようにすること。そのために使用機器や用途、必要電力などを調査し、潜在的な要望を掘り起こして運用に繋げる。
「運用自体は、一度やり方が決まってしまえば単純作業となることが多い。しかし私たちは、新しい技術が開発されれば常に導入を検討する」と神坂。現状維持を貫けば、経済的・人的・時間的なコストがかからずに済むところ、クライアント企業の改善に繋がるならば労を惜しまない点は、各社から評価されている。
実際にBBTowerのデータセンターを使い、電子出版事業を展開しているメディアドゥ社長の藤田恭嗣は「普通であれば100%の力までしか出せなかったかもしれないが、彼らとならば120%まで行けると感じられた唯一の企業」と絶賛。藤原と親交が深く「日本のインターネットの父」の異名を持つ慶應義塾大学教授の村井純も、「ベテラン社員が多く、人材の質が高い」とプロの目からBBTowerの技術者を高く評価する。
15年以上の長きに渡ってデータセンターの運用を行ってきたことを考えれば、BBTowerはインターネット業界でも老舗に当たる。長年ノウハウを蓄積してきたベテラン技術者たちの自負が、いかなる要望にも「できない」とは言わせないのだろう。
連邦型独立経営を志向
このように社員の自主性が育つのも、権限移譲がなされた社風の影響が大きい。トップに立つ藤原が、その醸成に深く関わっているのは言うまでもあるまい。神坂も月に一度は藤原との会議に臨むが「いつも大局的な話をしている印象。提案に対してノーと言っているのを聞いたことが無い」と振り返る。
インターネット動画サイト「アンパカTV」を統括しているBBTower副会長の大和田廣樹、AIを用いてコールセンター事業を手掛けるエーアイスクエア代表の石田正樹、ベンチャーキャピタルの役割を帯びたグローバルIoTテクノロジーベンチャーズ社長の安達俊久、アパレルサイトの構築などを行うビービーエフ社長の田村淳。BBTowerが誇る経営陣に話を聞いても、皆が口を揃えて「信頼して任せてくれる」と答えるところを見れば、権限移譲の徹底ぶりが分かる。
一つの経営理念の下、各々が自立し、独立独歩の経営を行う「連邦型独立経営」を以前より提唱していた藤原だが、現在もその方針に変化は無いようだ。この考えに至るきっかけを問うと、藤原独自の人材育成論を聞くことができた。
「自分が相手の立場ならどうかを考えるのです。すると、管理された方が良いという人は珍しいでしょう。自由に動いてもらった方が色々と工夫も出来ますし、理に適っています」
また、同社社員は一様に「藤原が怒っているのを見たことが無い」と言うので、その理由も尋ねると、「相手の立場に立ってみたら、怒られるのが好きですか」と逆質問が返ってきた。
「甘やかして褒めてばかりではちゃんと育たないと言いますが、それは子どもの話。皆さん大人だから大丈夫です」と社員に全幅の信頼を寄せる。
決して諦めない
そんな自主独立精神を重んずる社風の下、今なお新しい領域への布石を打ち続けるIRI/BBTowerグループ。ここにも、創業者である藤原洋の企業家精神が垣間見られる。
以前、IXI事件で辛酸を舐めた藤原だが、それにもめげずIRI株の買戻しを断行。19年にはIRIの再上場を目指している。藤原とは四半世紀の付き合いがあり、現在IRI最高執行責任者にしてBBTower常務取締役を務める中川美恵子も「常人がありえないと思うことをやってのけてしまう人」と舌を巻くように、その挑戦心は留まるところを知らない。
BBTowerの事業に関しても、これまでデータセンター事業というインフラ寄りの部分を担ってきた藤原だが、ここに至ってB2C事業へ関心を示し始めた。具体的には、アンパカTVやビービーエフのアパレル関連事業がそれに当たる。
もちろん、より一般消費者に近づくことで、社会に対する直接的な影響力を強めたいという側面はあろう。だが一方で、「あえて比較的不安定なB2C事業に進出することで、チャレンジ精神を育む意図もある」と藤原は打ち明ける。
ファッションブランドのサイト構築という、これまでとは畑違いの事業を展開するビービーエフに対しては、当初社内からも疑問視する声が多かった。しかし、藤原が背中を強く押したことで、社長の田村は奮起。今ではビービーエフは、約350億円あるBBTowerの売上げのうち5分の4を占めるまでに成長した。
逆風の下であっても、決して諦めない。その不屈の精神は全社に流れている。
ニーズとシーズを繋げる
ネットテレビにAI、IoT、5Gなど、次々に屏風を広げていっているようにも思える藤原だが、闇雲に事業化を進めているわけではない。彼自身、「自信を持って強みと言えるのはテクノロジーの選択と集中」と断言しているように、今何に投資すべきかを見極めている。
得てして、高度な知識や技術力を誇る研究者は興味の対象が研究のみに注がれがち。しかし藤原は、新技術の潮流を把握するだけではなく、その中でもどれがビジネスに繋がりやすく、いかにして繋げていくかという方法論まで一気通貫して考えているのだ。
そうした芸当が可能なのも、「ニーズとシーズを知っているから」と藤原は説く。ニーズは消費者側の必要性、シーズはビジネスの種となる新技術である。
例えば、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正は、洋服の素材に関する専門家ではない。しかし、消費者がどのような商品を求めているのか(=ニーズ)を把握している。そこで、素材メーカーとして日夜研究を重ねている(=シーズを持っている)東レと組むことにより、ヒートテックが生まれた。ニーズとシーズが上手く噛み合ったことで大ヒット商品が誕生した良い事例だろう。
藤原が目指すのはこうした出会い。ニーズとシーズの双方を熟知する者として、その間にあるギャップを埋め、繋ぎ合わせる役目を担うのがIRI/BBTowerグループの描く未来だ。
ネットワークは世界規模
では、技術を欲する側と持っている側を繋げる時の要諦とは何か。藤原は世界中にアンテナを張っている。アメリカのシカゴ大学、カリフォルニア大学に行ったかと思えば、今度は中国の上海交通大学へ。イスラエル、ハンガリーなどにも頻繁に飛び、日本に帰って来れば様々な組織から引っ張りだこである。IRIのサイトに記載されている藤原の略歴を見れば、彼がいかに多くの公職を引き受けているかは一目瞭然。また、精力的な学会活動や大学での講演の数は枚挙に暇がない。
幅広いネットワークには、藤原の好奇心の強さが一役買っている。例えば、藤原は中国共産党の機関誌『人民日報』日本語版の理事長を務めている。中には眉をひそめる者もいるが、「中国は日本最大の貿易国。ビジネスに好きも嫌いも無い。主義主張の違いで交流を受け付けない閉鎖主義こそ間違い」と意に介さない。「ネットワークはワールドワイドが肝要」とは藤原の持論である。このグローバル時代、ドメスティックで偏狭な価値観だけでは上手く事が運ばないのは自明だろう。
藤原は、「国内でも海外でも、ビジネスのやり方は変わらない」と説く。相手のニーズを見つけ、それを満たせる知見、素材、製品、ビジネスパートナーなどを提供することが成功の鍵を握る。孫子の言う「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とはまさにこのこと。様々な分野への造詣が深く、自らも提供できる引き出しを多く持っている点が、藤原最大の強みと言えよう。
「ビジネスにイデオロギーも宗教も関係ない」と叫ぶ藤原の周りには、常に様々なバックグラウンドの人々が集う。その様子は、幕末にあって、薩摩で不足していた米を長州から送り、反対に長州が必要とした武器を薩摩から送ることで、犬猿の仲であった両藩の間に同盟を結ばせた志士、坂本龍馬さながらである。
世界を舞台に様々なコミュニティ間でwin-winの関係を築かんとするIRI/BBTowerグループ。今後ますますグローバルに展開していくであろう同社は、まだ大海に漕ぎ出したばかりだ。
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