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トピックス -企業家倶楽部

2017年02月27日

「怒らない経営」でデリバリー食市場を制す/ライドオン・エクスプレスの21世紀戦略

企業家倶楽部2017年4月号 特集 第1部





宅配寿司「銀のさら」や宅配御膳「釜寅」で知られるライドオン・エクスプレス。主力の宅配寿司ではシェア46%と圧倒的な強さを誇り、連結売上高178億円(2017年3月期見込)、経常利益10 億円(同)と成長を続ける。社長の江見朗は“ 怒らない経営”を信条に、「ご家庭での生活をもっと美味しくもっと便利に」をモットーに邁進する。宅配代行サービス「ファインダイン」で新たな活路を見いだし、ウーバーイーツに対抗するライドオンの未来戦略に迫る。(文中敬称略)          




 「わあー美味しそう!」

 テーブルに運ばれた大きな寿司桶を見つめ、歓声が挙がる。どの顔も美しく盛られたお寿司一つひとつを眺めてはため息をつく。そして「どれから食べようか!」と目を輝かす。今、テーブルの上で注目を浴びているお寿司こそが、宅配寿司最大手、「銀のさら」の季節限定商品“躍 (おどり)  ”である。中でも寿司桶の真ん中に陣取る炙りエビと天然大甘エビに、皆の目が集まる。

 東京・秋葉原にある小さな出版社A社では、毎月、原稿の締め切りが近くなると、決まって「銀のさら」の寿司で、パワーアップする。過去には他の宅配寿司を頼んだこともあったが、ここ数年は寿司は「銀のさら」と決めている。ネタの品質、大きさ、シャリの美味しさ、すべてのクオリティでこれに匹敵するものが無いからだ。そして「銀のさら」はチラシそのままの商品が届くのも、期待を裏切らないからだ。勿論、食べて美味しいことは言うまでもない。

 かくしてA社では締め切り時は、暗黙の了解で「銀のさら」で盛り上げるのが習慣となっている。集まった誰もが納得、誰もが満足し、胃袋も心も満たす。幸せの時間を共有できるからである。

 同社では普段から会議や夕食にと、デリバリーを利用することが多い。郵便受けに投げ込まれるたくさんのチラシの中から、食べたいメニューを選ぶ。若いスタッフが多いときはピザ、会議には弁当、ガッツリ食べたいときは中華などさまざまだ。その中で、「銀のさら」は特別だ。日本人にとって寿司は特別感がある。まさにご馳走なのである。だからこそ締め切りというプチイベントを盛り上げるには「銀のさら」が一番なのである。

 ここだけではない。「銀のさら」の寿司が日本全国のお客に、どれだけの幸せな時間を提供していることか。自宅や会社など、居ながらにして本格的な寿司を食べられる幸せ。これを長年、創意と工夫を積み重ね提供してきたのが、ライドオン・エクスプレス(以下ライドオン)社長の江見朗である。

 最近はさまざまなデリバリー食が普及している。昔は出前といえばそば屋か寿司屋であったろう。しかし、個人経営の店が人出不足で出前を止めてしまってから、その需要を一手に引き受けているのが、宅配専門の業態である。その筆頭はピザであろう。ピザーラ、ドミノピザ、ピザハットなど、ライバルがしのぎを削り、メニュー開発やサービスを進化させている。

 2000年のピーク時は28兆円とも言われた外食市場も、今では約25兆円に縮小。中でもいわゆる外食は縮小、出来合いを家で食べる中食が増えている。寿司全体の市場は1兆7000億円と言われているが、その中で宅配寿司の市場は570億円程度。その46%の市場を握るのがライドオンである。「宅配寿司では当社が断トツのトップ、しかし寿司市場全体と比較したらまだまだ小さいし認知されていない。従って成長の余力は大きい」と江見。その市場拡大にかける情熱は半端ではない。



ライドオン・エクスプレスという会社

 ここでライドオンという会社について説明しよう。前述の宅配寿司「銀のさら」を筆頭に、釜めしの「釜寅」やカレーの「CURRYCARRY」、とんかつの「あげ膳」、値ごろ感のある「すし上等!」など、宅配専門店をFC展開、今や各ブランドを併せた総店舗数約725店舗(直営222店、FC503店、2017年1月現在)を誇る。13年には東証マザーズに上場、15年には東証一部に指定替えを果たしている。売上高177億8700万円(17年3月期見込)、経常利益10億6700万円(同)と、成長を続ける。

 好調な業績を維持している要因の一つは、「銀のさら」を核として、1拠点に複数のブランドを集約する“複合化戦略”にある。一つの店舗で銀のさらの寿司を握り、隣では釜寅の釜飯を炊くという具合である。これにより食材や人材を共有することで、一店舗の売上げ、利益の拡大を実現している。

 ライドオンを語るには江見の仕事人生そのものを辿る必要がある。進学校で知られる県立岐阜高校を卒業積んだ江見が、単身渡米したのは1984年のことだ。さまざまな経験を積んだのち、永住権が取れると聞き、現地の寿司店で寿司職人として7年半働いた。その後、帰国した江見が手掛けたのがサンドイッチ専門店だった。米国ではサンドイッチは日常食、特にランチには欠かせないメニューとして親しまれていた。

 その時の共同経営者が、地元のバーで知り合い、意気投合したという現在副社長の松島和之である。江見と松島は1992年、サンドイッチ店「サブマリン」を出店、絶妙なコンビで事業を拡大していった。しかし日本人にとっては寿司の方が馴染み深いと悟り、その後宅配寿司へと転換する。

 2001年には当時FC開発コンサルタントとして躍進していたベンチャー・リンクと業務提携。「銀のさら」のFC展開を目的とするレストラン・エクスプレスを設立、一気にFC出店を加速することとなる。本社も東京に移転、「銀のさら」東京一号店は江見が店長として陣頭指揮を執った。

 1年で200店舗出店するという途方もない計画をやり遂げたのは、ベンチャー・リンクのノウハウがあったためと言えよう。宅配事業のため、出店立地を問わないことが、この数字を可能にしたと言える。

 勿論、寿司そのものが美味しいことが、最も重要であることは間違いない。実際、特殊な解凍器を使い、鮮度と美味しさを保ったマグロを武器に、「銀のさら」は一気に店舗数を伸ばしていった。

「宅配ビジネスとITは親和性が高い。わが社のビジネスはIT活用なしでは成り立たない」と江見。ポケベルから、PHS、スマホ時代と進化、GPSで配達員を管理、ビッグデータの分析も可能だ。レストランのように客を待つだけのビジネスでなく、こちらから積極的にアプローチできる宅配ビジネスは、伸び代が大きいと、自信を見せる。



「怒らない経営」で成長

 ライドオンを率いる江見が信条としているのが「怒らない経営」である。理想論を掲げているわけではなく、怒らないことが企業の売上げや利益の最大化には、最も合理的というのだ。「怒りとの決別」が幸福と成功を導く鍵となると宣言する。

「そういうと仲良しクラブになるとか、ぬるま湯だという声も多いが、私が怒らない経営を推奨しているのは、数字を上げるために一番合理的だから。怒らず、楽しくやった方が数字も出るし、ストレスもたまらないし、結果経済がよくなる」。結果が問われるが、「うちは断トツトップ、結果は出している」と自信満々だ。そして「仕事はゴールではなく幸せになるための手段」とキッパリ。

 そして「怒る」と「叱る」は天と地ほどの差があると江見。「怒る」は上司の不満と不安を相手にぶつけているだけで自分の無知からきている。一方「叱る」というのは、感情は置いて相手のために理性的に伝えること。日本人の9割はこれを混同しており、わかっていないと危惧する。

 この「怒らない経営」の大前提には「正しい思考」がある。「正しい思考に基づいた行動をとれば、正しい結果が出る。絶対真理は一つ。日本の教育や、社会の状況がここに重きを置いていない」と心配する。

「怒らない経営」について語る江見は、一段と饒舌だ。身を乗り出し、持論に力が入る。但し、江見の「怒らない経営」の裏には基本となる「凡事徹底」がある。笑顔、挨拶などは細かく指導しなくとも各自徹底されているのが当たり前というのだ。確かに凡事徹底していれば怒る必要はないのである。



中村天風に心酔

  この「怒らない経営」「正しい思考」の原点にあるのは、思想家で実業家の中村天風の教えである。「稲盛和夫さんや松下幸之助さんら高度成長期の日本を支えた創業経営者は、天風さんの影響を受けておられる」と江見。中村天風に心酔、天風のDVDを800回は見たと語る。

 江見がこうした考えを持つようになったのは、起業して2、3年ぐらいの時だ。業績不振で借金がかさみ、人間関係もうまくいかず、いよいよダメかなと思ったとき、普通に暮らせていた日々がいかに幸せなことかと気づいた。すると全てが感謝の気持ちに変わった。生きているということは最高だと思った瞬間、他は誤差の範囲となった。そして感謝の気持が込み上げてきたという。

 岐阜のサンドイッチ屋からスタート、寿司に転換、東京進出から15年でここまで成長できたのはこの人間観と仕事観を社内で共有してきたからであろう。


中村天風に心酔

「ファインダイン」で新たな活路を開拓

 今、江見が力を入れているのは、宅配代行サービスの「ファインダイン」事業だ。これは宅配機能を持たない提携レストランの料理をデリバリーするという画期的なサービスだ。7年前から参入していたが、ここにきてデリバリー食文化をもっと根付かせたいと力を入れている。

 ライドオン本社から徒歩10分ほどの東京・高輪のマンション。その2階にファインダインの拠点がある。ここにはファインダイン麻布店、高輪店、芝浦店の3つのコントロールセンターが集結。お客のオーダーを一気に受けている。注文が入ると、それぞれのレストランに発、出来上がり時間ファインダインの配員が料理を受け取、お客の自宅に届るという仕組みでる。ライドオン独のシステムが搭載れたパソコンは、それだけで店舗そのもの。オーダーを受ける店長にも緊張感が走る。

 夕方近くになると中華料理の「謝朋殿」やタイフードレストラン「シャングリラ」などに、次々とオーダーが入る。ここではライバルとなる寿司店のメニューも運ぶ。

 今、ファインダインに登録しているレストランは300店だが、これを早急に1万店に拡大、ゆくゆくは10万店をカバーしたい考えだ。ファインダインの人気メニューは中華料理というが、お客にとって地元の人気店の料理が、家に居ながらにして味わえるのはありがたい。配達料はかかるがその利便性には代えられない。


「ファインダイン」で新たな活路を開拓

ウーバーイーツに対抗

 最近米国を中心にウーバー(ネットアプリを活用した配車サービス)が躍進、シェアリングエコノミーの推進役として注目を浴びている。そのウーバーが食事の宅配代行事業である「ウーバーイーツ」を立ち上げ話題となっている。日本には2016年9月に上陸したが、まだあまり知られていないというのが実態だ。


「ウーバーイーツはライバルではあるが、共に市場を拡大する仲間」と江見。将来的には共同で事業を進めることもあり得ると、その上陸を歓迎する。

 その実態を探ろうと、2016年に江見は役員らと共に米国の現状を視察している。国土が広くレストランが点在している米国ではウーバーイーツの利便性は大きい。しかし日本の食環境では、これがすぐに市場を席捲するようなことはないと睨む。「ウーバーイーツは不特定多数が配達人となるが、我々は自社グループで育てた配達員がお届けする。既にその足回りが確立している」と自信を見せる。

 しかし急速に注目を浴び、業績はマイナスでも莫大な時価総額を持つウーバーは気になる存在だ。「シンガポールではウーバーもウーバーイーツも大きな存在になっている」と江見。

 オーストラリアの実態も探るべく、シドニーを視察した。

 欧米で人気のウーバーが日本でどこまで受け入れられるかは未知数だ。日本のタクシーは許可制で、免許がなければ白タクとして法律違反となる。日本人の国民性もあり、欧米のように浸透しないという見方もある。ましてウーバーイーツは、日本の文化に馴染むかどうかは全く未知数だ。しかし、ネット世代にとっては、その便利さは一度活用したら止められない。爆発的に浸透する可能性もあると踏む。



プロのFC集団

「怒らない経営」こそが最も合理的と、怒らない経営を貫き、宅配食文化を普及させてきた江見。今や全国に銀のさらを中心に700店以上を展開する。

 そのFC展開の成功の裏には、2001年のベンチャー・リンクとの提携がある。当時、FC加盟店開発事業会社として登場したベンチャー・リンクには、やる気満々の若者たちが揃っていた。その彼らが「銀のさら」の可能性を見いだし、江見を支えてくれたのだ。そしてこの時一緒に汗を流した面々がライドオンに入社。今、幹部として活躍している。彼らの存在が今のライドオン成長の支えとなったことは間違いない。

 FCの運営方法、加盟店の指導、人材育成にはベンチャー・リンクのノウハウがある。そして当時一気に増えたFC加盟店の心を繋いでいったのは、江見が掲げる「怒らない経営」であり、「正しい考え方」である。江見のゆるぎない考え、生き方がグループ全体に浸透、チームとして大きな力を発揮していったといえる。

 実際、ライドオンには明るく元気、自由闊達な風土が息づいている。毎年実施される「エクスプレスフォーラム」では、各エリアごとのフォーラムで選ばれたスタッフ約700人が参加。正確で美しい寿司づくりや業績アップの事例発表など、さまざまなテーマで成果が発表され、ライドオン全体のモチベーションアップに繋がっている。その感動的な場面を体験したスタッフのモチベーションは如何ばかりか。参加者全員を巻き込み、ライドオン全体の業績アップへと繋げている。


 プロのFC集団

オンデマンドプラットフォーマーに

「外食中心」から「中食と外食」へとライフスタイルが変化する今、ライドオンの伸び代は大きい。「特に複合化戦略で効率を上げ、シナジー効果を最大化することで、アドバンテージを確立できる」と江見。宅配食の圧倒的な勝ち組としてさらなる進化を目指す。

 シェア46%と断トツ一位を誇る「銀のさら」も、まだ60点と江見の採点は厳しい。今後はテイクアウトを併設したロードサイド店の展開も考えている。銀のさらのビジネスモデルは日本だけのものではない。当然、海外展開も視野に入れている。実際、欧米だけでなく、台湾、香港、シンガポールなどアジア諸国も視察。どこからスタートするか検討中だ。

 サブマリンをスタートして20年、「銀のさら」を本格展開して15年、その細かいノウハウの蓄積は計り知れない。そして蓄積された顧客の膨大なデータをどう活かしていくか。宅配食のフロントランナーとして、次の時代をどう攻めるのか。

 いまは変化のスピードが加速化、ウーバーイーツの上陸でデリバリー食文化に劇的な変化が起こる可能性もある。当然、ファインダインも劇的な成長ができると、その可能性を期待する。

 今後のファインダインでは食だけでなく、家庭で必要なものを運ぶ考えだが、そのためにどこと連携し、何を運ぶのか。銀のさらだけでもリアルの拠点を360カ所持ち、バイク数千台が実働していることは最大の強みとなる。オンデマンドプラットフォーマーとして家庭にどう食い込めるのか。江見の目が光る。

 上場して3年は増収増益を続けてきたが、「今は次のフェーズに進める時期」というのが江見の本音だ。10年後については「世界一を目指すのは当たり前、世の中の役に立ててこそ自分たちの存在価値がある」と力を込める。ライドオンとして世の中にどう貢献していけるのか。江見の戦いはまだこれからだ。



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