トピックス -企業家倶楽部

2009年10月27日

中国/世界中で1億人の雇用を創出する

企業家倶楽部2009年12月号 ビジネスウェーブ・海外特集 中国


1999年、中国浙江省杭州の英語教師が仲間17人と創業したネット・ベンチャー、アリババが10周年目を迎えた。現在、社員数は1万7000人に成長し、記念式典には、社員他関係者3万人が一堂に会し、創業者ジャック・マーの言葉に耳を傾ける。社員に対する感謝の言葉と今後の目標がカリスマ企業家の口から語られると、歓声と拍手で会場全体が鳥肌の立つような熱気に包まれた。同時期に開催されたネットビジネス交易会の様子とともに中国の現状をレポートする。(文中敬称略)



2019年への目標

「10年前、インターネット上で電子商取引を行うアリババの挑戦は、1万トンの石油タンカーをヒマラヤ山脈まで運ぶようなもので不可能だと言われていました。しかし、社員の絶えざる努力が実り、夢が実現しました。過去の10年間、私たちは電子商取引に注目してきました。これからの10年も変わることはありません。新しい目標として、1000万社に及ぶ中小企業を支援し、ネットビジネスの場を提供します。そして、世界中に1億人の雇用を創出します。さらに、世界で10億人の消費者の生活を支えるプラットフォームを作り出します。10年後の2019年に再びここに集まりましょう」

 9月10日、杭州スポーツセンター(浙江省杭州)でアリババ・グループ創業10周年セレモニーが開催された。創業者兼最高経営責任者、ジャック・マーが記念式典のステージで聴衆にスピーチすると、会場のボルテージは一気に上がり、歓声と興奮の渦に包まれた。夜空にはレーザー光線が輝き、チームごとに衣装をまとったパレードや演劇の出し物が延々と続く。この日のために2カ月前から泊り込みで練習に励む社員もいたという。お祭り騒ぎの大好きな中国らしい粋な演出で1万人を超える社員の一体感を作り上げている。

「アリババの就職人気ランキングは常に上位で、アリババの社員であることに誇りを持っています」と、20代女性社員が笑顔で話す。


2019年への目標

世界の工場から世界のマーケットへ

 上海から南西約150kmに位置する浙江省杭州は、町の中心に西湖があり風光明媚な古都として知られる。この地に中国ネット企業の雄、アリババの本社はある。人口は700万人を数え、新幹線を使うと上海から1時間30分ほどの距離で、夏には富裕層の避暑地としても有名だ。朝の通勤時間は自動車とバイク、自転車で通りは溢れ、町全体に活気が感じられる。主要な道沿いは銀行の建設ラッシュで常に砂埃が立ち、「中小企業」、「融資」の言葉が踊る。この国に経済不況はどこ吹く風だ。現に日本の経済成長率がマイナス2%に比べて、中国は8%成長を続けている。物価は日本の約5分の1、3元(1元=15円)で500mlの飲み物が買え、5元も出せばファーストフードで食事が出来る。ただ、飲み物は冷えていない。常温で炭酸飲料が売られているのには驚いた。

 今年、中国の国内総生産(GDP)が日本のGDP約500兆円を追い抜き、米国に次いで世界第2位になることが確実だと言う。成長率を考えると一度抜かれたら、もう二度と抜き返すことはない。もちろん、一人当たりのGDPが追い越されるまでは、まだ時間が掛かるだろうが、未来への期待がある国とそうでない国の違いを見せ付けられた気分だ。

 しかし、まだ中国には食の安全、環境破壊など国家規模で取り組まなければならない問題が山積みだ。特に食の品質管理は生命に関わる問題で最優先の課題であろう。

「日本人や日本企業で働いた経験のある品質管理責任者の需要が高まっており、中国国内でも品質管理への認識が非常に高くなっている」とアリババ・ジャパン取締役の孫炯はいう。いち早く生産拠点を中国に移したユニクロの成功が物語るように、「世界の工場」と呼ばれるほど経済が急成長した中国が、今や所得が上がり、日本と変わらない価格で商品が売れるようになった。建物や道路などのハード面では著しい成長を遂げたが、接客サービスやオペレーションといったソフト面では、日本のホスピタリティにはまだまだ及ばない。この成長余力があるということが中国の魅力なのだ。

 1978年、当時の国家指導者 小平によって主導された市場経済導入が中国の近代化を後押しし、「世界の工場」から、急速に「世界のマーケット」に変貌させた。

「現在、中国は世界で最も競争力のある市場となっている。中国のバイヤーは日本企業の新製品、物価を毎日インターネットを活用し、ウォッチしている。日本のサプライヤーは型落ちの商品を在庫処理するくらいの認識では、中国ではまったく相手にされない。実際に、ある携帯メーカーが新製品を中国で発表したところ、飛ぶように売れた」とアリババ・ジャパンCEOの香山誠は中国事情を説明する。


世界の工場から世界のマーケットへ

チャイニーズ・ドリーム

 9月11日から13日までの3日間、杭州休博園にてネットビジネス交易会が開催された。企業間(B2B)電子商取引サイト「アリババ」で商品を販売している企業と一般消費者向け(B2C)電子商取引サイト「タオバオ」の出店者の仕入調達先と販売先のマッチングを目的として開催され、中国内外から約1200社(日本企業67社)の企業が出店した。3日間の来場者は15万人を超える盛況ぶりだ。

 中国で消費者向けのビジネスをしようと思ったら現地の代理店と組んだ方がよく、マッチングの場として活用されている。また、一般消費者も来場しているので、中国でどんな商品が売れるのかマーケティングできるのも交易会を利用する利点だ。

「人気のある商品はアパレル関連で、特に肌に直接触れる下着やストッキングは品質のよさが実感できるため、商品認知度の浸透が早い。また、信頼性のある日本製の粉ミルクやベビー用品もよく売れ、常に品薄状態だ」と、アリババ・ジャパンのセールス部門ディレクターの銭江峰は話す。

 今後、注目されているのは食品関連と肌から遠いアパレル商品、ジャケットなどで、中国でも日本のファッション女性誌が読まれており、若い女性の間で日本のブランドの認知度が上がってきている。しかし、売れるかどうかは正直誰も分からない。商品サンプリングやモニタリングが必要で、お金と時間を投資しなければ簡単には成功は掴めない。

「この抗菌防臭性能に優れた靴下は、2008年に中国の宇宙飛行士が履いたことで話題になっています。アウトドアなどの高機能靴下に特化しています」と交易会に出店している杭州漢世服飾有限公司代表(ブランド名はMaxland)の潘暁宇は話す。96年に元通訳だった潘は、杭州駅でたまたま日本人靴下業者と知り合いになり会社を設立、2000年にスポーツインナーに進出した。現在、売上げは15億円、経常利益は約1億円と順調に業績を伸ばしてきたが、今年創設された中国版新興株式市場「創業板」への株式上場には今のところ関心がないという。

「株式上場は順調に行けば後2年ほどで出来ると思うが、確かな地盤を作ってからにしたい」と、ブームに乗った株式上場へは慎重な構えだ。

 中国の13億人の民を食べさせていくためには、一体どのくらいの企業が必要なのだろうか。人口1億2000万人の日本に約400万社とも500万社の会社があると言われている。人口10倍の中国の場合、少なく見積もっても数千万社必要だろう。中小企業に対する銀行の融資が昨年比3倍に膨らんでいるのも理解できる。今や中国は世界一のベンチャー立国なのだ。


チャイニーズ・ドリーム

変化を抱擁する

 チャイニーズ・ドリームを実現した企業、それがアリババだ。1999年に18人の若者が創業した電子商取引を行うベンチャー企業は、インターネットの爆発的な普及と中国の経済成長の波に乗り、2007年11月香港証券取引所に株式上場を果たした。創業からわずか8年で時価総額2兆円を付け、世界中から注目を集めたのは記憶に新しい。株式上場でアリババ・ブランドを構築し、顧客からの信頼を得ることに成功した。現在では、240を超える国と地域から、4000万以上の登録会員を誇る世界最大級のイーコマースサイトになり、杭州だけでなく、中国を代表する企業へ成長した。創業者のジャック・マーも度々紙面に登場し、アジアを代表する企業家の一人となっている。大学のキャンパスのように広大な土地に建設した新社屋には1万人が働き、自家用車で通勤できるように2000台分の駐車場が隣接されている。今や飛ぶ鳥も落とす勢いのアリババだが、飛躍の理由は一体何だろうか。

「その理由のひとつはアリババの企業理念にあります。変化を受け入れ、抱擁するという言葉があります」と、銭は説明する。社会の変化を肯定的に捉え、チャレンジすることを楽しむ企業文化を大切にしている。創業当時からある6つの理念は、「顧客第一主義、チームワーク、変化を受け入れる、誠実、情熱、勤勉」という。この企業理念を見て、中国企業だと分かるだろうか。社会主義の面影はどこにも見当たらない。


 そして、10年目を迎えた今年、2つの項目が追加された。プラットフォームを誰に対してもオープンにするという意味の「開放」と大きな組織になり官僚主義を排除する「シンプル」が付け加えられた。インターネットによるビジネスの可能性を追求し、今や中国経済だけでなく世界経済を牽引するアリババ・グループ。電子商取引のプラットフォームを創造し、中小企業の努力と英知をつなぎ合わせることで相乗効果を生み出す仕組みを今も模索している。巨大なネットビジネスの実験台の進化は続いている。


 今回の中国取材を通して、ある企業家の言葉を思い出した。


「私は欲のない人間を信用しない」


 人間の本能である正しく誠実に生きたい。豊かに楽しく生活したいという基本的な欲求を中国の多くの人が隠さず表現している。その庶民感覚に触れ、懐かしさとそこには戻れない嫉妬を感じるのを禁じえなかった。


 チャイニーズ・ドリームはまだ始まったばかりだ。ビジネスに国境がないならば、中国も日本もない。成長している場所や人と取引を行い、共に栄えればお互いが豊かになれる。今後も偉大なる隣国、中国から目が離せない。  (徳永健一)



アリババ・ドットコムCEO 衛 哲(デイビット・ウェイ)

問 創業10年目を迎えました。これまでの成果は何でしたか。

衛 第一は、多くのお客様と信頼関係を築けたことです。会員企業からインターネットやアリババに対するニーズを聞けたことは大きな成果でした。そして、1万人を超える社員を雇用できたことは大きな喜びです。そこで先日、10周年目の記念式典を開催し、今後のアリババの夢について全世界に発表しました。


問 創業者ジャック・マーが1億人の雇用を創出すると宣言されましたね。その真意は何でしょうか。


衛 中国では1000万社が起業し、新しいビジネスを始めています。まず、中小企業のお手伝いをしたい。インターネットを活用すれば誰でもビジネスを始められます。そこで、アリババの社員以外でも就職の機会を作りたいと考えています。これまでに、個人間商取引サイト「タオバオ」で、60万人の新規雇用を作りました。関係取引先が1人に対して5倍いると考えられます。300万人が食べていける雇用機会を作ったことになります。そして、B2B商取引サイトでは、1社平均10人の社員がいますから、登録社60万社で600万人の計算になります。すでにインターネット関連ビジネスで合計約1000万人の雇用機会を作り出したといっても過言ではありません。今後10年間でそれを10倍にしていきたい。1億人の雇用創出は夢ではありません。

問 そのための仕組みは何かありますか。

衛 9月に若い人にインターネットの知識と経営を教える教育機関、阿里学院を開校しました。実践的なネットビジネスのスキルを教え、就職と再就職の機会を作るのが目的です。年間100万人のトレーニングをしていきたいと考えています。

問 中国でビジネスをするときの課題は何ですか。また、その解決策はありますか。


衛 やはり言語の壁があります。中小企業はいい商品を持っていますが、直接国際貿易をした経験がありません。また、言語能力に長けた人材も不足しています。そこで、現在アリババでは、翻訳ソフトの開発をしており、年内にリアルタイム翻訳の新サービスを発表できると思います。また、日本向けには国際貿易経験のある人材を採用し、コンサルタントサービスを用意しています。


問 その他に今後注力する事業はありますか。


衛 中小企業に対して中国建設銀行と提携し、無担保融資サービスを開始しました。アリ・ローンの融資対象はアリババ会員企業で、与信審査は銀行がアリババの利用状況などを考慮し審査するなど、両社の協力のもと進めていきます。浙江省及び上海市で実験的に始めていますが、成功すれば中国全土での展開も視野に入れます。2019年までの10年間で1兆元(約15兆円)を100万社に対して行う予定です。1社平均100万元(500万円)の融資をする計画です。


アリババ・ドットコムCEO 衛 哲(デイビット・ウェイ)

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