• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年03月14日

【新連載】先進グローバル企業のキー・サクセス・ファクター(KSF)/スパイダー・イニシアティブ代表取締役社長 森辺一樹

企業家倶楽部2017年4月号 新グローバル戦略 “Open Channel Innovation”の薦め


 今回から6回に渡り「新グローバル戦略 〝Open ChannelInnovation 〝の薦めと題して、これからの日本企業のための新しいグローバル戦略について書いていきたい。この連載では、特に私が専門とする製造業、中でも食品、飲料、菓子、日用品等の消費財系の製造業のアジア新興国での事例を多く持ち出すことになると思うが、生産財等のB2Bの製造業や、サービス業、また、ITやテクノロジーなどのベンチャー企業にとっても、グローバル戦略そのものの考え方や、進め方などは同じであり、応用の効く内容だと思う。この連載が少しでも、皆様のグローバル戦略のお役に立つことを心から願っている。



世界の消費財市場は欧米10社によって牛耳られている

 日本の消費財メーカーがグローバル市場への参入を試みる際、その地が先進国であろうが、新興国であろうが、必ず待ち構えている強豪がいる。圧倒的な製品力とブランド力、そして、配荷力を持ち、その地で大きなシェアを持つ王者、それが、先進グローバル企業だ。具体的な社名をあげるのであれば、それらは、蘭英ユニリーバ、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、端ネスレ、米コカ・コーラ、米ペプシコ、米マースなどである。

 図1は、世界を牛耳る消費財メーカーと、彼らが保有するブランドだ。これは決して、欧米だけでの話ではない、中国やアセアン、インド、アフリカ、南米などの新国を含めたグローバル全体での現実である。ご覧の通り残念ながら、日本の消費財メーカーは一社も入っていない。私たちが、毎日の生活の中で、これだけ慣れ親しんでいる日本メーカーの日用品や食品、菓子、飲料は、一歩世界へ出れば目にすることもなくなる。

 日本では、訪日中国人の爆買いで、あたかも日本の消費財は中国で大人気のような報道がされているが、それは、ごく一部の地域に住む限られた人たちの間での話であり、中国ですらメイン・ストリームに並ぶ日本の消費財は限られている。日本の商品は、基本的には、日系スーパーか、地場のスーパーであっても、富裕層だけが行くような高級スーパーの輸入品棚に、日本の数倍の値段で少量が置かれ、買うのは日本好きの一部の富裕層か、日本人駐在員程度である。地場の近代小売、伝統小売を問わず網羅的に配荷される先進グローバル企業とは大きな差がある。

 一体、先進グローバル企業と、日本の消費財メーカーの違いはなんなのだろうか。P& Gやユニリーバの製品と、花王やラインの製品に、目に見える、肌で感じる大きな差はあるのだろうか。ネスレの食品と味の素の食品には、それほどまでに大きな差が存在するのだろうか。マースのチョコレート菓子と明治のチョコレート菓子に、決定的な差はあるのだろうか。コカ・コーラやペプシコの清涼飲料と、サントリーやアサヒの清涼飲料にどんな違いがあるというのか。もっと言えば、スプライトとセブンアップ、そして三ツ矢サイダーを目隠しで飲んで区別のつく人間が世界にどれほどいるというのだろうか。

 間違いなく言えるのは、先進グローバル企業と日本の消費財メーカーのグローバル市場におけるシェアの差は、決して商品力の差ではないということだ。商品の品質や機能には大した差はない。寧ろ、日本の消費者の厳しい目に鍛えられた日本の商品の方が優れていると言っても過言ではない。だとしたら、尚更、我々に足りないものはなんなのか。

 ユニリーバやネスレ、P&Gなどの先進グローバル企業が、アジア新興国市場で高いシェアを上げている要因は、彼らが、これからお話する3つのことを徹底して行っているからに他ならない。これら3つの事項は、彼らの戦略軸であり、決して揺らぐことはない。逆に、日本の消費財メーカーがグローバル市場で存在感を示せない要因は、この3つの重要性を頭では理解していながらも、そこから軸がブレることにある。商品力では決して劣らない日本の消費財メーカーがグローバル市場で成功するためには、これからお話する3つのことを如何に改善するかにかかっている。


世界の消費財市場は欧米10社によって牛耳られている

絶対にブレないターゲティング

 先進グローバル消費財メーカーは、常に最も人口の多い中間層を徹底してターゲティングしている。中間層の所得が低いアジア新興国などでは、世界標準化という軸を持ちながらも、商品と価格の現地適合化が確りと行われている。富裕層を獲得してから中間層を獲得するのではなく、導入期からターゲットは徹底して中間層に設定している。彼らの戦略軸は決して中間層から逃げないことにある。理由はシンプルだ。アジア新興国の最大の魅力は、爆発的な人口増加が将来にわたって約束されている中間層にあるからだ。因みに、2030年には、アジア新興国の中間層は、30億人を突破すると言われている。消費財メーカーが、最も人口の多い層を狙わなければ、そもそもアジア新興国に出る意味などない。

 この考え方は、日本の消費財メーカーも同じだ。しかし、彼らの本音を言えば、『日本で売っているものが、そのままアジア新興国でも売れればいいな』である。なぜなら、日本で売っているものがそのまま売れれば、現地で売れる商品の開発が必要ないからだ。しかし、商品と価格の現地適合化を行わない商品を取り扱う小売は、一部の日系スーパーやコンビニ、地場のスーパーであっても、現地の消費者がメインとする棚ではなく、輸入品棚だけだ。アジア新興国では、必須の販売チャネルとなる伝統小売など論外ということになる。結果、本来狙うべき中間層というターゲットから遠退き、耳触りの良い富裕層や上位中間層へ逃げて行くことになる。つまりは、日本の消費財メーカーは、日本で最も大切にしている消費者とのコミュニケーションをアジア新興国では無視し、自分たちの売りたいものを、売りたい価格で売ろうとしているわけだ。

 消費財メーカーにとって、アジア新興国で最も重要なターゲットは中間層であり、全ての戦略軸は中間層になくてはならない。どうしたら彼らに買ってもらえるのかを突き詰めていくことこそが、唯一の成功の近道なのだ。マーケティング・ミックス(4P)で言えば、中間層のための「プロダクト(製品)」と「プライス(価格)」の追求である。


絶対にブレないターゲティング

顧客の買い易さを追求した結果のチャネル構築

 中間層を最大で唯一のターゲットとする先進グローバル消費財メーカーは、そのターゲットに商品を届けるチャネル構築に最も力を注いでいる。皆さんが過去に行ったことのある海外で、コカ・コーラやネスカフェが売っていない国があっただろうか。ユニリーバやP&Gのシャンプーが売っていない国があっただろうか。答えは、ノーである。先進グローバル企業の製品は、世界中のどこででも買うことができる。アジア新興国においても、都市部は勿論のこと、僻地であってもそれは変わらず、その配荷力の凄まじさには驚きを隠せない。

 なぜ彼らの配荷力は高いのか。答えは非常にシンプルだ。「自分たちが売り易い流通はどこか」ではなく、「中間層が買い易い流通はどこか」を考えるからである。自分たちの売り易い流通を考えたら、当然、慣れ親しんだ近代小売に決まっている。もっと言えば、日系スーパーや日系コンビニが最も売り易い。しかし、国により差はあれ、アジア新興国の小売流通金額の約8割は伝統小売を経由しており、近代小売はまだ2割にしか過ぎない。

 店舗数で言えば、例えば、ASEANで最も近代小売が多いと言われているインドネシアですら、その数は1万9000店舗弱。日本では、セブンイレブン1社で1万8000店舗を超えているので、近代小売の数がいかに少ないかがお分り頂けるだろう。一方で、インドネシアには伝統小売が300万店以上存在する。従って、「中間層が買い易い流通」は、必然的に伝統小売となるわけだ。

 そのため、先進グローバル企業は、伝統小売のストア・カバレッジを上げることを徹底する。エリア毎に複数のディストリビューターを設置し、広域なディストリビューション・ネットワーク(販売チャネル網)を構築していくのだ。一方で、自分たちが売り易い一部の近代小売にしか配荷できない日本の消費財メーカーは、ストア・カバレッジを上げるための強固なディストリビューション・ネットワークなどという概念はなく、一カ国一ディストリビューター制度という受発注上の管理が楽な方法を採用し、いつまでたってもシェアが上がらない。

 要は、先進グローバル企業のアジア新興国における強固な販売チャネルもまた、中間層のことを徹底的に考えた末にできた産物なのだ。中間層が買い易い流通に配荷可能なチャネルを構築するということに確りと投資をしてきたのだ。



他社よりもより多く選ばれるためのプロモーション投資

 ここまで説明した通り、先進グローバル企業は、中間層が求める製品開発(プロダクトとプライス)を行い、中間層が買い易い流通に配荷するための販売チャネル(プレイス)を構築してきた。そして、マーケティング・ミックス(4P)の最後のPであるプロモーションでも同様だ。

 先に説明したストア・カバレッジを伸ばすことは、物理的な話なので、ノウハウは色々とあるにせよ、時間と労力をかければやってやれないことはない。しかし、店に並んだ商品を、消費者が選び、手に取り、購入するというのはまた別次元の話だ。例えば、ガムでもチョコでも、シャンプーでも、店内には同一カテゴリーの競合商品がいくつもある。その中で、自社の商品がどれだけのシェアを維持できるかというのが「インストア・マーケット・シェア」だ。要は、自社の商品が競合の商品よりもどれだけ多く選ばれるかということだ。

 インストア・マーケット・シェアは、プロモーションをしなければ効果は最大化されない。そのことをよく理解している先進グローバル企業は、この中間層に選ばれる商品になるためのプロモーションにも確りと投資を行なっているのだ。いわば、他社よりもより多く選ばれるためのプロモーション投資である。日本の消費財メーカーの場合、そもそも富裕層しか買わないし、富裕層が買い易い売り場でしか売られていないため、プロモーション投資うんぬんのレベルには到達していないケースが大半なのだ。


他社よりもより多く選ばれるためのプロモーション投資

日本企業に残された時間

 結局のところ、先進グローバル企業のKSFは、中間層という最大で唯一のターゲットのための4Pを最適化しているということなのだ。消費財の業界であれば、最も大きなターゲットは中間層であり、その中間層のための商品を開発し(プロダクトとプライス)、その中間層が買い易い流通に配荷できるディストリビューション・チャネルを構築し(プレイス)、その中間層が選びたくなる商品になるためにプロモーションに投資(プロモーション)を行なっているだけなのだ。

 先進グローバル消費財メーカーのKSFは、決して特殊なことではなく、難しく考える必要など全くない。やっていることは極々一般的なマーケティングである。日本企業にやってできないことなど決してない。但し、構築に時間がかかる販売チャネルにおける差は大きく、先進グローバル消費財メーカーのチャネルは今も進化し続けている。日本企業に残された時間は少ない。これからの日本企業の健闘に期待したい。

P r o f i l e

森辺一樹 (もりべ・かずき)

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。15 年で1000 社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top