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トピックス -企業家倶楽部

2017年03月27日

緻密なデータ分析で合理的経営を貫く/ライドオン・エクスプレスの強さの秘密 

企業家倶楽部2017年4月号 特集第2部


宅配寿司業界で断トツのシェアを誇るライドオン・エクスプレス。その背景には、20 年に渡って積み上げられたデータの緻密な分析から最適解を見出す合理的経営があった。デリバリー業態の特長を生かした店舗戦略と他社の追随を許さない商品力、そして心血を込めて作られたチラシをポスティングし続ける不断の努力に支えられ、業界の新常識に挑む同社の強みに迫る。(文中敬称略)

強さの秘密1・店舗戦略

小資本で効率良く展開

 東京・世田谷。小田急線千歳船橋駅から歩いて15分ほどの住宅街に、その「店舗」はあった。ありふれたマンションの1階部分にバイクが立ち並ぶ外観は、お世辞にも目を引くとは言い難いが、この店だけで年間1億円以上を売り上げると聞けば、誰もが驚くことだろう。建物をよく見ると、右上に「銀のさら」の文字。そう、ここは宅配寿司「銀のさら」を展開するライドオンの拠点「祖師谷店」なのである。

 同じフードビジネスでも、居酒屋やファミレスといった外食サービスでは店舗の立地が命。人の目に付きやすい場所に、派手な看板を掲げ、まずはお客に来てもらわなければ始まらない。当然、良い立地は多くの競合他社も狙ってくるため、テナント料は高く、激戦を制するにはサービス向上やメニュー開発にも多大な投資が必要となろう。

 一方、ライドオンの提供するデリバリービジネスにおいて、店舗とは調理場と配達拠点を指し、お客が訪れることは無い。極論を言えば、店内では調理さえできれば良いのだ。したがって、立地は駅から遠かろうが、路地裏だろうが関係無い。むしろ、配達効率のみを重視して住宅地の中心に位置することこそ肝要となる。その分、賃貸料も抑えられ、少ない資本で拡大戦略を採ることが可能だ。

宅配寿司市場を席捲

 現在、ライドオンが展開する宅配寿司「銀のさら」は全国に約360店。そのうち直営約80店、FC約280店という構成だ。同社は、宅配寿司のシェアで半分近い46%を誇る。二位はわずかに7~8%というから、断トツの首位と言って差し支えなかろう。

 寿司は、統計的に見ても日本人が最も消費している食業態である。日本における寿司市場は約1兆7000億円。全国的に食べられている焼肉の市場規模が5000億円であることを考えれば、その大きさが分かるだろう。そして、この寿司市場の中でも宅配寿司の市場規模は約570億円。その半分を占めるのがライドオンというわけである。

 ただ、単にデリバリーサービスの強みを生かした店舗戦略だけで勝ち抜けるほど、この業界は甘くない。前述の通り、日本で最も食べられているのが寿司だ。裏を返せば、消費者の商品に対する造詣が最も深いのもまた、寿司なのである。子どもからお年寄りまで、誰もが肥えた舌を持つこの市場で生き残るには、味の良さが不可欠だ。


 強さの秘密1・店舗戦略

強さの秘密2・商品力

機械化で速さと質を担保

 さて、味について語るには、話をライドオン祖師谷店に戻さねばならない。時刻は午後5時。そろそろ夕食時ということもあって、次々に電話が鳴り、お客から宅配の注文が舞い込んできた。

 すると、アルバイトの女性が器用な手つきで寿司を握り、10分もしないうちに5人前50貫の商品が完成。ライドオン秘蔵のシャリマシンが均一にご飯の量を調整するので、一定のトレーニングさえ積めば、誰もが高いクオリティの寿司を握ることが可能なのだ。

 もちろん、古参の店員の中には「自ら握った方が早い」という強者もいる。ベテランの寿司職人と同様、掌の感覚だけを頼りに定量のシャリを取ることができるからだ。しかし、ライドオンが全国展開を志向する以上、そうした属人的な要素は極力排除せねばならない。職人を採用または育成するには、時間やコストがかかり過ぎる。店舗によってネタの大きさにバラツキが生じないようにするためにも、シャリマシンの導入は必須事項なのである。

 また、ライドオンはデリバリー業態である以上、商品を作り終えてからお客の口に入るまでに、どうしてもタイムラグが生じてしまう。そこで、配達された瞬間が最も美味しいように手配しているという。

 例えば寿司のシャリは、ライドオンの商品開発部が試行錯誤を繰り返し、特注で米をブレンド。寿司として握られてから、しばらく経過した時点で良い食感となるよう工夫されているのだ。米の炊き方や酢などの調合にも明確な基準を設け、店舗ごとに味の違いが生じるのを防いでいる。

マグロの鮮度に自信

 ライドオンの社員は「寿司はマグロが命」と口を揃える。店長の中には、「マグロだけは絶対に他の人に触らせない」とこだわる者もいるほどだ。

 マグロは釣り上げられてから店舗に至るまで、継続してマイナス50℃で保存。その間は細胞が壊れないため、味が落ちることは無い。しかし、これを自然解凍すると、ドリップと呼ばれる旨味成分が抜け出し、ネタが劣化してしまう。

 そこで導入したのが高電場解凍機「リジョイス」。水中に磁場を作り、1時間未満で素早く解凍するこの装置は1台100万円を下らないが、宅配寿司としてはライドオンが独占契約し、「銀のさら」全店に導入している。これを使うことで、ドリップが染み出す量は従来の10分の1に抑えられ、マグロの鮮度を保ったまま提供できるのである。


強さの秘密2・商品力

強さの秘密3・販促力

チラシこそデリバリーの要

 しかし、いかに味が良くとも、注文してもらえなければ売上げには繋がらない。そこで重要なのがチラシの存在だ。

 店舗がお客との接点とはならないデリバリー業ゆえ、ライドオンのチラシはスーパーなどのそれとは全く別の意味を持つ。営業企画部エグゼクティブマネージャーとしてチラシ制作に大きく関わる須藤潔も「ライドオンにとって、チラシこそが店舗であり、看板であり、お客様との最初のコミュニケーション」と力説する。

 だからこそ、同社ではチラシのことを「メニュー」と呼び、この作成に心血を注ぐ。最も気を付けるポイントは、商品の写真。美味しそうに写っていることは当然重要だが、商品を色味、大きさなど含めて正確に再現することを是としている。

 外食や他のデリバリー企業を見ても、実際の商品に比べて明らかに誇大な写真が広告に掲載されているケースが目立つ。こうした経験から、デリバリーサービスを利用する中には「どうせ写真とは別物が来る」と考えるお客も多い。そして、そうした諦めが、宅配業態の市場規模拡大を阻害してきた要因ともなっている。

 一方、「銀のさら」では商品力に自信があるからこそ、ありのままの写真を打ち出せる。もちろん商品は全て、店舗で作るものと同じネタで撮影。お客からのアンケート調査でも、「ネタがチラシと比べて期待以上だった」という声は多い。

年間3億枚をポスティング

 チラシは一店舗あたり、月間3~5万枚を撒く。それが360店舗に及ぶため、「銀のさら」のチラシだけで年間3億枚という膨大な数だ。前述の通り、チラシはライドオンの顔。これを各家庭に届けるポスティングが重要であることに、もはや異論はあるまい。同社社長の江見朗も「(デリバリービジネスは)ポスティングに始まりポスティングに終わる」と説く。

 ポスティングは厳しい仕事だ。夏の暑い日も、冬の寒い日も、アパートの管理人から怒鳴られようが、庭先で犬に吠えられようが、チラシを投函せねばならない。しかし、業者に外注する競合他社もある中、ライドオンでは自分たちの手によるポスティングにこだわっている。

 同社では、店舗スタッフ自身がチラシを撒くことを「自社ポス」と呼び、これを高頻度で行っている店舗ほど売上げが高いと言われている。エリアにもよるが、大体200~300枚のポスティングにつき1件の注文を得られることが多い。自社のチラシだけでも300分の1の確率。さらに、お客のポストにはデリバリーサービスを展開する競合他社のチラシも多数入っていると考えると、電話がかかってくること自体、奇跡とすら思える。

 この1本の電話のありがたみを心から感じられるのも、店舗スタッフが自ら何千枚とポスティングを行ってきたからこそである。感謝の気持ちは、自然と感じの良い対応となって出るもの。そして、電話をもらったお宅に届けに行くのもまた自分自身ということになれば、嬉しさ倍増だ。

 実は銀のさら、認知度としては90%を誇っており、道行く人に聞けば知らない人はあまりいない。しかし、消費者が宅配で何か食べたいと思ったその時に、咄嗟の選択肢として滑り込むためには、ただ知られているだけでは不十分なのだ。デリバリーを頼む時に選ばれる些細なきっかけとなるのが投函されていたチラシであり、これを常に撒き続けることでライドオンは地道に売上げを伸ばしてきたのである。


強さの秘密3・販促力

強さの秘密4・データ分析

売上げの8割は予測可能

 一言でポスティングと言っても、闇雲に投函するわけではない。ライドオンは、東京・両国に一号店がオープンした時から約20年の長きに渡って蓄積してきたデータをもとに、予測を立ててチラシの配布範囲と頻度を決めている。

 お客を注文頻度から整理・分析することはもちろん、エリアや曜日、天候によってどのように数字が変わるかまで見える化。家庭には土日の直前にポスティングし、月曜日には法人営業といった具合に、店舗ごとの販促活動にも反映させる。

 例えば、300枚のチラシを撒いて1件の注文が得られたとしよう。単純計算、3000枚を撒けば10件の注文が来るはずだが、これが5件であった場合、別の原因要素が考えられる。そうした理由をあらゆる角度から探り続けた結果、「今では売上げの8割は狂わず予測できる」と江見は豪語する。

 実はこれこそ、ライドオンの持つ重要なアドバンテージだ。曜日、天候、エリアなどから売上げを推定できるということは、店舗に対してスタッフの配置を適切に行えることに繋がる。

 人が少なすぎれば、高いコストをかけてポスティングをした結果、せっかく取れた大事な注文を断らねばならず、機会を損失することになる。あるいは人が多すぎても、スタッフを無駄に待機させてしまうことになり、やはり効率は悪い。

 だが、ライドオンではどの店舗でどれだけの売上げが立つか、かなりの確率で予測できるため、適正な数のスタッフを配置でき、人件費をコントロールできるのだ。

データ分析との親和性

 同じフードサービスとはいえ、こうしたデータ分析は外食業界では難しい。飲食店の顧客は、偶然そこを通りかかっただけの人も多く、確固たるデータとして把握するのは困難だ。来客に住所を聞く機会も無く、たとえクーポン配信サービスなどでメールアドレスを手に入れたとしても、到底ビッグデータとはならないので有効活用できない。

 一方、ライドオンは商品を必ず自宅に届けるため、自動的に顧客の住所情報が手に入る。注文する品によっては、家族構成まで推測が可能だ。そして、ポスティングは確実なターゲット層である近隣住宅に対して行うため、通行人に声をかける居酒屋などと比べて無駄が圧倒的に少ない。どこから注文があったかによって、データ分析も容易に行える。

 江見は「ライバルのチラシが粗雑に入っていたら、それも含めて全部きれいに整えてポストに入れなさい」と言う。もちろん、自社のチラシと商品に自信があることもあろうが、その方がお客にきちんと受け取ってもらえて、適正な競争になるからだろう。すなわちそれは、そのエリアでの適切なデータが取れることを意味する。

「銀のさら」のリピート率は8割に及ぶという。約20年に渡って売上げ、利益共に伸び続けてきているのは、顧客の深掘りができている証拠だ。そして今後も、データが積み上がるほどマーケティングの精度が高まるという好循環の波に乗っていくことだろう。


 強さの秘密4・データ分析

強さの秘密5・配送網

配送形態に革命

「銀のさら」ブランドで確固たる力を誇るライドオンだが、これでチャレンジは終わらない。デリバリー事業で培ったデータマーケティング力と配送網を備えた同社が次に注力するのが、提携したレストランの商品を注文があった自宅に届けるという宅配代行ビジネス「ファインダイン」だ。

「幼い子どもが騒ぐことを考えると、高級料理店には行けない。ただ、たまには贅沢もしたい。そんな時に自宅でレストランのメニューを楽しめるファインダインはとても便利」(30代主婦)と好評。現在300店舗と提携し、さらなる拡大を模索中である。

 従来「銀のさら」などの店舗では、電話やネットで注文を受けると、商品をそのお客の自宅に届けて直ちに戻る「ピストン配送」が行われていた。しかし、これでは帰り道に空の箱を運んでくることになり、その分の労力が無駄になってしまう。

 そこで登場したのがファインダイン。従来の配達と組み合わせることで、ピストン配送から、ルート配送(周回配送)に切り替えられるようになった。例えば、寿司の注文を受けると、まずはその商品をお客へ配送。ただ、配達員はそのまま店舗に戻るのではなく、提携レストランに寄り、それを今度はファインダインで注文した顧客まで届けるという具合だ。「一度の配送でレストランを2~3軒回って届けるダブルピック、トリプルピックという離れ技もありうる」とファインダイン事業部REXPJグループグループマネージャーの石井一夫は説明する。

最新テクノロジーで無駄を省く

 こうした芸当が可能となった背景には、ITシステムの整備がある。ライドオンでは2年前から独自のシステムを導入。外出中の配達員の位置は全てGPSでパソコンの地図上に表示され、配達の目安時間まで可視化されている。

 もちろん、配達員も自社用端末を携帯。そちらにも配達先までのルートが表示されるため、たとえ初心者であっても難なく届けることができる。ライドオンのシステム整備に関わってきた経営支援部シニアマネージャーの鈴木一匡も「これらのシステムは全て自前で開発した」と誇らしげだ。

 従来は電話を受けると、壁に貼られた紙の地図で配達箇所を確認し、頭で覚えて配送していた。まさに職人技。それが今では、スタッフが配達している注文品の種類や、荷物を持っているか否かまで色分けで一目瞭然なため、次の動きが指示できるようになった。

 そうした指示を実際に出しているのが、ライドオン本社ビルからほど近い場所にあるコントロールセンターだ。ファインダインの配送を担う各店舗の店長は、自分の店舗ではなくこちらに来て全体を統括するというから驚く。

 システムの操作は直感的に行える。注文が入ると、その業態によって色分けされたアイコンが左側に出現。ここに、住所や商品内容といったお客の情報は全て入っている。続いて、パソコンの画面に表示された配達員の位置と配達すべきお客の自宅、そしてファインダインならばレストランの位置を地図上で確認。その上で、最も効率良く配達できるように指示を出す。

 スタッフは、注文の少ない時間帯にはポスティングや桶の回収に行く。その際にも例外無く位置が分かるため、場合によってはそこからファインダインの配送に行ってもらうこともありうる。品物をレストランで受け取るため、自社店舗に戻る必要が無いファインダインの強みを最大限に生かし、選択肢を増やしている。

 地図に表示されるルートも、現在はグーグルマップが推奨するものだが、配送ルートとしては最速でない場合もある。いずれは、「実はこの小道を行くと近い」「この道路は信号が少ない」といった情報を蓄積することで、AI(人工知能)がライドオン独自のルートを提示する時代が来るかもしれない。

25兆円市場に切り込む

 このように、最新技術を大いに駆使しながら配送システムを進化させているライドオン。強みの配送網を上手く駆使したファインダインで狙うのは、25兆円と言われる外食市場だ。

 日本には約65万軒のレストランがあると言われている。そして江見は、レストランの料理を宅配で食べたいというニーズについて「あるに決まっている」と断言する。

 確かに、インターネットが登場した時、多くの人は「これでものを買うことなど無い」と一蹴したが、eコマースはもはや生活に密着した存在となった。ライドオンが25兆円市場にどれだけ切り込めるか、見物である。

「提携店を速やかに1万店まで伸ばしたい」と意気込む江見。長期的には10万店をカバーし、相当範囲のレストランの料理を家庭で楽しめるようにする考えだ。「お寿司に止まらず、ピザもカレーもハンバーガーも全てお届けする」。江見の夢は限りなく広がる。

 有名宅配寿司業者から、デリバリービジネスに革命をもたらす企業へと脱皮できるか。ライドオンの挑戦は、まだ始まったばかりだ。



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