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トピックス -企業家倶楽部

2017年03月31日

写真の本当の価値を伝えたい/小野写真館 代表取締役社長CEO 小野哲人

企業家倶楽部2017年4月号 モチベーションカンパニーへの道




お客の生涯に寄り添う経営

 七五三、成人式、結婚式……日本では節目々々写真を撮る風習がある。そんな中、「お客様の生涯に寄り添った事業展開を志向しています」と語るのは小野写真館社長の小野哲人だ。

 茨城県ひたちなか市に本拠地を置く企業ながら、同社の強みは多角化された事業展開。お客の幸せや感動の場面をプロデュースすることを目指す彼らは、ブライダル事業、成人式の振袖レンタル、フォトスタジオと幅広く営む。

 小野写真館のスタジオで七五三の写真を撮り、成人式で振袖レンタルサービスを利用したお客が、ブライダル事業のお客として結婚式を挙げる。そして、生まれた子どもの七五三の記念写真を撮るため、再びスタジオに来店する……。「生涯顧客化という流れをビジネスモデルにしたい。一つの事業に売上げが集まらないような分散型の経営を目指した」と小野は説く。「写真館」と名乗りながらも、実は売上げの50%を占めるのはブライダル事業。振袖レンタルの30%、フォトスタジオの20%を大きく上回る。



町の写真屋から脱却

 小野写真館も以前は、結婚式場の下請け撮影が売上げの大部分を占める写真館だった。通常、結婚式について考える場合、お客はまず式場や衣装、料理を決め、ようやく最後に記念写真に思い当たる。しかし、その時には予算の大部分を使っていて、「もうお金が無いから写真はいらない」「一番安いもので良い」と言われることも多かった。

 小野は、この傾向に疑問を持つ。写真は結婚式の後も残る大切な記念であるにもかかわらず、なぜ重視するお客が少ないのか。「様々な商品を売り込まれた状況でやってくるのでやむを得ない。式場の下請けであったお陰で楽に受注できていたことも事実」としながらも、釈然としない想いを募らせていた小野。彼の理想は、結婚が決まったら真っ先に写真を決めるような社会だ。

「写真に関心が無いお客様を撮っていても、正直楽しくない。私がこれから人生を懸けるビジネスがこれでは嫌だ」

 そこで小野が提案したのは、従来の古いブライダル写真の概念を覆すものだった。当時のブライダルフォトは白バックやグレーバックの「型物」が主流。どのカップルを見ても同じような写真で個性が無かった。そんな中、出会いの場所など、二人の思い出が詰まったロケーションでの撮影を敢行したのである。

 資金繰りが厳しい中での事業立ち上げであったが、話を聞きつけたお客が次々に来店し、「こんな風に撮りたい」と希望を持つカップルも登場。それらの写真をブログなどで紹介すると、さらに多くのカップルが引き寄せられてきた。

「私たちが企画したわけではなく、お客様が自ら品を作ってくれました」と小野は謙遜するが、県外から茨城まではるばるやってくるカップルもいるほどの人気ぶりは事実。小野の思い出の1枚はプロサーファーの新郎がタキシードで波に乗っている姿を撮ったもの。もちろん、衣装がだめになってしまう可能性もあった。しかし、小野は「小野写真館でならどんな希望も叶うと思っていただけるなら、衣装代くらい安いものだと思った」と語る。他にも和装で海に入るカップルや、何百万円もするドラムセットを使った撮影など、同社でしか叶えられない記念写真を撮っていった。

 好調な滑り出しのように思えたが、今まで提携した写真館から中間マージンを得ていた式場はこれをよく思わなかった。新郎新婦がスナップ写真として小野写真館で作成したアルバムを持ち込もうとすると、式場側から断られるケースが相次いだのである。

 悔しい思いをした小野は、さらに川上のサービスを手がけることを決意する。結婚式場から断られるのであれば、自分たちで式場を運営してしまえば良い。こうして同社は、スタジオからドレスショップやウェディングプロデュースへと事業を拡大。2013年にはついに結婚式場を買収し、現在のブライダル事業への布石としていった。



組織診断の結果に驚愕

 事業を多角化すると同時に、昨年には横浜に出店。今年は神奈川・川崎や東京・二子玉川へと首都圏展開を加速する。その中で小野が気付いたのは、人材の重要性だ。意欲が高い人間を採用しても、2、3年目を迎える頃にはやる気が落ちてしまうこともある。そんな時、リンクアンドモチベーション(以下リンク)が運営する組織診断サービス「モチベーションサーベイ」を紹介された。

「当初は目の前のお金で、新しい衣装を買いたいと思いました。あるいは結婚情報誌に広告を出せば明日の売上げが伸びる可能性は高かったでしょう」と当時の葛藤を振り返る小野。しかし、「人材が大事」と言っているにもかかわらず、そこに投資をしなければ嘘になってしまう。小野は、サーベイの導入を決断した。

 その結果に、小野は衝撃を受けた。勤続年数や新卒・中途の違い、店舗や職種などあらゆる切り口から、会社のモチベーションが見える化されたのだ。「見たくない事実もありました」と苦笑いしながらも、「今まで茨城だけで展開していたビジネスが首都圏に広がる中で、様々な歪みは出ている。ここが、単なる茨城の企業で終わらせないかどうかの瀬戸際」と志は高い。

 サーベイに続き、昨年導入に至ったのは「モチベーションクラウド」である。今までは調査結果を受けて、リンクのコンサルタントが指導を行っていた。しかし、モチベーションクラウドを導入することで、問題点の分析を自ら行えるようになった。社内のステップアップに繋がると同時に、「コストダウンが図れるため、ありがたい」と小野は感謝する。

 そんな彼の現在の悩みは、店長など管理者の育成。規模を拡大しながらも自身の考えを現場に浸透させるためには、避けて通れない道である。同社は急激な業務拡大に伴い、新規採用が増えた。エントリーの段階でビジョンを社長自ら注入し、入社後も理念を共有することで束ねられなければならない。 今まで通りに伝えても、事業が大きくなると響きにくくなってくる。事業ごとに伝え方を変えていくことも時には必要だろう。難しい段階だが、管理職クラスが小野の想いを受け取り、しっかり伝達できる体制の構築が急務だ。



震災で知った仕事の意義

 小野が家業として引き継いだ頃、小野写真館は年商2億円の会社であった。しかし、10年連続で20%を超える増収を続け、今期は売上げ15億円を見込む。「今後もこの成長を続けたい」と意気込みながらも、小野の夢は「写真の価値を世の中に伝えること」だ。

 通常、モノは減価償却されて必ず価値が下がっていく。それは高級車でも家でも変わらない。金融業界に身を置いていた小野は、この事実を肌で感じる中で、写真だけは唯一、時間の経過とともに価値が上がっていくことに気付いた。

 小野がそれを痛感したのは、アメリカ留学中に起きた新潟県中越沖地震の時のこと。死を覚悟した人々の多くが、財布やスマホではなく写真を持って逃げたという話を聞いたのだ。そして東日本大震災時のボランティアでは、多くの流された写真が、泥まみれになって汚れながらも体育館に並んでいる光景を目にした。関係の無い人からすればボロボロの紙切れ。しかし、その断片だけでも探すため、体育館には連日のように人々が訪れていた。

 こうした体験から、「写真を撮る習慣を作ること自体に価値がある」との考えに至った小野。すごい仕事をしているのだという想いが自分の中に芽生えた。「写真が持つ本当の価値を世界中に伝えていきたい」。小野写真館から発信される写真の素晴らしさが広がっていくことを期待したい。



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