• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年04月10日

日本に必要なのは意思決定文化だ/物語コーポレーション会長兼CMO 小林佳雄 

企業家倶楽部2017年4月号 企業家は語る


「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」などを全国展開している物語コーポレーション。離職率40%以上と言われる外食産業において、人材開発に注力し、驚異の離職率1桁台を維持している。同社を率いる小林佳雄会長は、生産性を向上させるために必要な条件とは「意思決定文化の醸成」だと説く。



断トツで低い日本の生産性

日本のホワイトカラーの生産性は先進国の中で断トツに低いと言われています。そして、企業のトップとは実質ホワイトカラーの代表選手であり、「ホワイトカラーの生産性が悪い≒企業トップの生産性が悪い」という方程式が成り立つと私は思います。

 日本の生産性が低いことに対して、私は大きく2つの問題があると仮説を立てました。1つ目は、本物の意思決定をする文化が無いこと。他人と違うことを恥ずかしいと考えてしまう、または他人と違う考えを持っている自分に気が付かないという問題があります。2つ目は、トップにばかり説明責任を問い、誰もが説明するのが当たり前だという文化がない問題。この2つの問題が日本の生産性の向上を阻害しているのです。


断トツで低い日本の生産性

意思決定の決め手は「勘」

 では最初に、生産性の向上に大きく関わると私が考えている意思決定について話しましょう。意思決定とは「情報をもとに勘で決めること」です。このように言われても、多くの人はイメージが湧かず、何のことを言っているか分からないという心情になると思います。

 そこで、弊社の話を例に出してみましょう。現在弊社の社長は加治という者ですが、彼は元々社内にはいなかった人です。16年前、私が引っ張って連れてきました。私が彼の情報を集め、私の勘で決めました。勘と言うと適当に聞こえるかもしれませんが、社長を実際にやらせてみるまでは、誰を社長にしたら上手くいくか分かっている人など誰もいないのです。

 最近の例で言うと、中国の上海にお店を出しました。10億円以上注ぎ込んで、どんな店を作るのか、業種だけではなく、メニュー、価格設定、店舗デザイン、看板デザイン、レイアウト、全て私が勘で決めました。

 最初は調子よく売れました。でも、一年も経たず急に売れなくなって、10億円が回収不能になりました。トップはそんな状況の時、どういった行動を取ればいいのでしょうか。現地の社長を叱るのか、更迭するのか、それとももう引き上げるのか、さらに5億円出すからもう少し頑張れというのか、選択肢は山ほどあります。しかし、どれが正解なのか誰も分からない。正直に言って、私の経営は100%勘でやってきたのです。



意思決定には本物と偽物がある

 意思決定をするにあたって心に留めておくべきことがあります。

 1つ目は、「外れてもやり直せる、恥ずかしくない」ということです。例えば、就活を例に出しましょう。就職して働き出すまで、どこに就職すれば幸せになれるか知っている人は一人もいません。入ってみなければ、その答えは分からないのです。もし、自分の勘が外れて、会社を辞めることになっても恥ずかしいことではありません。これが恥ずかしいことだとしたら、恥ずかしくないようにするためには、就職しないという道しかなくなってしまいます。

 2つ目は、「意思決定には本物と偽物がある」ということです。私は実家の料理屋を継ぐという意思決定をしました。確かに、私が決めたことです。しかし、この意思決定は偽物でした。実は、この偽物の意思決定を本物だと勘違いしている人がたくさんいます。

 では、私の意思決定のどこが偽物なのでしょうか。当時大学生だった私は採用試験を受けた30社に全て落ち、その後「自分が継いだら母が喜ぶだろう」と考えて、実家を継ぐことを決めました。本当は、たとえ30社落ちようと就活を続けていくことはできたのです。しかし、当時の私は自分が集めた情報を信じることや自分の勘で決めることに対して恐ろしさを感じていました。そうした感情から、自分の勘や情報よりも「親や友人はどこがいいと思っているのか」を気にして就職先を決めたのです。

 冒頭で、意思決定とは「情報をもとに勘で決めること」だと言いました。実はこの言葉の前には「自分」という言葉が付きます。すなわち、「自分で集めた情報で自分の勘を使って決めること」を本物の意思決定と呼ぶのです。確かに、就職や結婚にあたって、自分が信用する友人や親に相談することは、決しておかしいことではありません。した方がいいことさえあります。それは、自分の情報収集活動の一つです。しかし、親や友人の勘を使った時点で、その意思決定は偽物となります。しかし、日本人の大半は恐ろしさから自分の勘以外を使った意思決定をしているのです。

 3つ目は、「一日に何十回も意思決定をする」ということです。私は一日の中で20回、30回意思決定の局面に出会います。しかし、多くの日本人は小学校を出る頃から、意思決定を放棄しています。人は小学校4、5年生くらいの年齢になると「自分の仲間や偉い人はどのような行動をとるか」を模倣し始め、社会的動物になっていくと言われています。大人になるにつれて「周りがどう思うか」で意思決定するようになるのです。その結果、日本人の多くは小学校4、5年生で意思決定を止めてしまいます。

 長いこと意思決定をしていませんから、いざ自分で意思決定をしなくてはいけない場面に直面した時、多くの人は意思決定とは何のことか分からないという事態に陥ります。決めることに慣れておらず、一般論ばかりを気にしてしまうのです。しかし、意思決定の数は、周りがどう思うかではなく、自分がどうしたいかを重視すれば自ずと増えていきます。


意思決定には本物と偽物がある

山ほどの意思決定がアイデアを生む

 今まで申し上げたような意思決定を行うと、生産性の向上にどのように結びつくか。実は、私もまだ論理的には分かりません。しかし、生産性向上のためにはアイデアの数が大事であるという確信は持っています。私は今まで多くの意思決定をしてきました。意思決定の数が多いということは、山ほど失敗して、山ほど上手くいくということです。この山ほどの意思決定による失敗と成功はアイデアを生み出すことに繋がります。

 例えば、一日10回自分の感覚や感情に基づく意思決定をすると、それだけで年間3650回の意思決定をすることになります。それは客観的事実の無い意思決定ですから、半分は失敗するかもしれません。しかし、逆に言えば山ほどの成功体験も生むということです。確かに、このアップダウンは激しいでしょう。しかし、意思決定をしないトップは上手くいった時も充実感がありません。自分が決めたという実感がないからです。

 本物の意思決定の数が多い人は次から次に判断するようになります。なぜなら、たくさん重ねれば重ねるほど、失敗体験や成功体験がフィードバックされて学習し、勘の精度が上がるからです。

 この体験がアイデアを生みます。例えば、私はたとえ知らないことの決断を迫られたとしても、過去の山ほどの成功体験、失敗体験から答えを出すことができます。山ほどのアイデア、コンセプトが浮かびます。だから、他の人の勘や判断と違うことを恐れなくなります。

 昔は私も人の意見と違うことを恐れて、いつもイエスと言わなくてはならないと思っていました。しかし、違うことは普通のことだと気付いたのです。なぜなら、勘で決めるのですから。会社の中でも10人の会議だったら10通りの判断があって全くおかしくないのですが、日本の会議で違う判断をする人は多くて1人いるかというところ。意見を100パーセントそれぞれの勘で言えば、10人それぞれの違う意見が出るはずなのですが、誰一人違う意見を言う人がいないのが現状です。そんな状態ではアイデアが多く出てくるはずがありません。



説明責任はトップだけが負うものではない

 意思決定によって他人と違う自分の意見が出たら、その違いを説明せざるを得なくなります。弊社では自分の意見を発言していくことを大事にしています。このような理念に対して、「社員や役員など全員が違う意見を出すと、意見がまとまらず困るのではないか」と思われるかもしれません。しかし実際は、山ほどの意見が出ても何も困りません。なぜなら、人は違いを見つけると、自然と「なぜ違うのか」を考えるからです。そして、話し合いが生まれ、その結果答えが出るのです。

 確かにトップは、自分がトップダウンで決断を下す理由について、バックグラウンドから全て部下が納得できるように分かりやすく説明する責任があります。部下にだけではなく、外部に向けてさえ時には説明する責任があるでしょう。しかし、意見を言う文化がこの国や会社にあれば、自分と人の意見に違いが出たとしても恐れず、またその違いについて自分の考えを説明することを当たり前だと思うでしょう。実際にこの意思決定の方法にしたがって行動すれば、意見の違いは出るのです。そして、なぜ自分はそういった考えをしているのか言わざるを得ません。だから、説明責任はトップだけが果たすものではなく、会社の全員がすべきことなのだと私は思います。


説明責任はトップだけが負うものではない

何でも言える風土を醸成

 私はこの意思決定文化によって社員全員が説明責任を持つことで、議論の渦が生まれ、完成度、成功度が上がり、そして、アイデアマンが多くなる。結果として生産性が上がると考えています。

 このことを実現するために私たちが推し進めなくてはいけない改革は、恐れずにたくさん意思決定できる人を作ること、また、違う時に「違います」と堂々と言えるムードを作ることです。たくさん説明し、時には言い訳さえもしていいムードが大切です。

 私も間違えたことは山ほどあります。会社を倒産寸前まで追いやったことも。もちろん、役員や社員に謝りました。ただ私は基本的に、もし間違えてしまったとしても謝るだけでいいと思っています。なぜならば、分からないことを決めるのが意思決定だからです。確かに、こうした問題の責任は私にありました。しかし、一度謝罪をすれば、それ以上その問題に対して反省するよりも、次にどう活かせるかを考えるべきだと思っています。

 2001年、狂牛病により会社が倒産寸前になりました。多くの人が辞めて、私の意思決定文化がいったん崩れてしまいました。会社が上手くいっていなければ、どんなに本質を訴えようとも崩れてしまいます。しかし、それから16年が経ち、私はこの意思決定文化を立て直すことが出来ました。

 その一番大きな原動力は私の模範演技、そして、意思決定をやる人とやらない人の区分けの2つです。これから私がしていくべきは、私が模範演技しなくてもいいような風土を残すことだと考えています。その風土さえ残れば、今後も物語コーポレーションが生き残っていけると思うからです。

 世の中には私の経営のやり方とはまったく逆の「みんなが仲良く、みんなが想像する方向に行く」というやり方もあります。そして、このやり方もとても重要です。一個の経営のやり方では社会は回りません。

 しかし、経営のやり方はどうであれ、社内文化の破壊、いわゆる大改革はトップにしかできません。少なくとも、私が今の位置にいる間は「大人気ない」「外国人みたい」と言われながらも、この意思決定文化を続けていこうと思います。

P r o f i l e

小林佳雄(こばやし・よしお)

1948 年1 月生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学商学部卒業後、首都圏で洋食・フランス料理店等を展開するコックドール株式会社に入社。2 年後、母が経営する株式会社げんじに入社。当時、低迷していた売上げを一気に伸ばし、1980年、代表取締役社長に就任。1997年に株式会社げんじを現在の株式会社物語コーポレーションに社名変更。「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」などを全国展開している。第18回企業家賞受賞。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top