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トピックス -企業家倶楽部

2017年04月27日

ビジネスを通じて豊かな社会作りに貢献する/メディアドゥの21世紀戦略

企業家倶楽部2017年6月号 メディアドゥ特集第1部





出版界において成長性のある分野は電子書籍であることに異論はあるまい。2020年には国内の市場規模は3500億円にまで拡大する注目市場だ。一方、紙媒体といえば出版社数と総売上高は右肩下がり、この15 年間で市場は4割という惨状。そんな典型的な斜陽産業にとってメディアドゥ創業者藤田恭嗣が救世主になるかもしれない。「著作物の健全なデジタル流通を実現し、文化の発展に貢したい」と高い志を掲げ、その夢を具現化する独自のテクノロジーを駆使し、電書籍という新大陸を開拓する熱き企業家の真髄に迫った。(文中敬称略)



夢の第一歩

「嬉しい連絡があった。皆で乾杯しよう!」

 2017年3月24日、出版業界の未来を託された男、メディアドゥ社長の藤田恭嗣は徳島市内にいた。徳島に本社を置くソフトウェア開発会社テック情報と「合弁会社設立・事業所立地に関する覚書調印式」に出席するためだ。新会社メディアドゥテック徳島に51%出資(子会社化)し、地元での雇用創出を期待されている。県庁3階の応接室にて知事も同席し、覚書にサインした。

「将来的に地元で100名採用し、雇用創出したい」と地元テレビの囲み取材に応じる藤田。

 調印式後に学生時代の友人らと久しぶりに会食の場を持った。地元の銀行で部長職に出世した者や会社経営をしている仲間もいる。都会の喧騒を離れ、気の置けない友らと懐かしい思い出話に花が咲く。藤田は東証一部上場企業の経営者となり、地元の同級生の誇りなのだ。

 話は尽きず、二次会は知り合いのバーへ。いつものハイボールで乾杯と行きたいところだが、今夜は特別な日だ。実は1カ月前の2月28日に同業最大手である出版デジタル機構を子会社化すると発表したが、念のため独禁法に抵触しないか公正取引委員会の審査を申請していた。その結果が届いた。「無事通った」との連絡を聞き、肩の荷が降り安堵した。もし、申請が却下されたら、出版業界の改革がまた一歩遅れてしまうと心配だった。

 藤田は一番奥のカウンター席に座り、お祝いのシャンパンの泡を見ながらこの1カ月を振り返り、「本当に良かった」と静かに独りごちた。


夢の第一歩

イノベーションのジレンマ

『このままいったらジリ貧だ。何か変わらなければ生き残れない』、出版業界の人間には、この種の共有する危機感がある。インターネットはその利便性から、テレビ、娯楽の時間などから容赦なく我々の可処分時間を奪っていく。時代はネットを活用した電子書籍に移行しつつあるのを認めつつも、既存の紙媒体の市場を食ってしまうことを恐れるあまり、成長性のある電子書籍事業に本腰が入らない。まさにイノベーションのジレンマに陥っている。

 藤田には出版業界に起こるであろう業界再編の姿がイメージできた。そのために一刻も早く打たなければならない手がある。直感的に2年間で200億円の先行投資を決断した。その中心になるのは相乗効果のある企業買収だ。

 同社が買収した出版デジタル機構はメディアドゥよりも売上高で1.3倍大きなライバル企業である。業界2位の会社が1位を買収する稀なケースであろう。出版デジタル機構は、出版各社の協力の元、産業革新機構の出資を得て設立された経緯から、幅広い出版社との取引があるという強みを持つ。メディアドゥが課題とする文芸書、学術書を中心にテキストコンテンツを豊富に取り揃えている。

 一方、メディアドゥはマンガコンテンツに強い。また、これまで音楽配信サービスをしてきた経験からデジタルコンテンツの配信システムを構築する開発力と企画力に定評がある。お互いの強みを補完する理想的な組み合わせと言えよう。この両社が1つになることで質と量ともにデジタル流通界のナンバーワン企業が誕生した訳だ。



危機感を商機に

 業界の改革が進まない理由は他にあるのかもしれない。新市場に進出したいがその術が分からないと言った方が正解だろう。アナログの著作物をデジタル化し、読者がネットで閲覧出来るようにするためには、配信サーバを構築、システムが止まらないように運用する必要がある。しかし、高度で専門的なITが分かる人材は既存の出版社に皆無だ。

 出版社は作家と良い本を作ることに長けているが、変化の早いIT業界の中でユーザーに合わせてサービスを最適化することには不慣れだ。それはIT業界においても至難の業である。そんなボトルネックがあるところにメディアドゥが新規参入するビジネスチャンスがあった。追い風に乗り順調に業績も伸ばしてきた。06年に電子書籍事業を開始以来、増収増益を続け、13年11月に東証マザーズに株式上場、16年2月には、東証一部に指定替えを果たした。

 直近の業績も好調そのもの。17年2月期の決算では、メディアドゥ単体で売上高は155億3200万円(前期比38・2%増)、経常利益6億5600万円(同18・8%増)となった。ちなみに出版デジタル機構の17年3月期決算は、売上高200億6900万円(前期比37・1%増)、経常利益10億6600万円(同70・5%増)を見込んでいる。

 3月末に子会社化が完了したため、今期から業績に反映される見込みだが、18年2月期は単純に合算しても売上高で356億円と倍増し、今期と同じ成長率30%で仮に計算すると450億円超となる。


危機感を商機に

留学費用のため20歳で起業

 藤田は1973年生まれの現在43歳。東証一部上場企業の社長というイメージからすると若く感じるが、企業経営の経験は23年間と誰にも引けを取らない。

「決断力のある経営者で、世代は違えども対等にビジネスの話が出来る貴重な存在」と親交のあるブロードバンドタワー会長兼社長の藤原洋は藤田の見識の深さ、マネジメント力を評価する。

 大学時代は親元を離れ愛知県で過ごした。卒業後は就職せずに米国留学しようと考え、費用を計算すると学費と生活費で1年間に400万円必要なことが分かった。2年留学するとして800万円を貯めなければならない。アルバイトで稼げる金額でないと悟ると藤田は迷わず起業することを選んだ。大学3年、20歳の時だ。といっても創業資金もなければ、コネもない。直ぐに始められるエージェント業を選択し、旅行代理店やイベント企画をこなす中、携帯電話販売という金脈を掘り当てた。学生にネットワークがある藤田と若者に携帯電話を売りたい代理店の思惑が一致し、業績はウナギ登りで気付けば売上げは20億円を超えていた。

「留学はいつでも出来ると切り替え、仕事に集中した。しかし、制約が多く、自由にビジネスが出来ずに充実感がなかった」と藤田は当時を振り返る。



ポジショニングの勝利

 業績は好調だが、不思議とやり甲斐を感じられずにいた。「思い返せば辛い時代だった」と藤田は話す。携帯電話を販売しながら、新規事業としてIT事業を立ち上げるが専門外のため他人を頼るしかなかった。担当者から「開発に1億円掛かります」と言われれば言いなりになるしか無かった。次第にマネジメント不在になり、業績は悪化。サーバ費用などコスト高で赤字が続いた。好調だった既存事業の利益を新規事業が食い潰していく。20億円あった売上げが3億円まで落ち込んだ。とうとう虎の子だった携帯販売事業を売り渡すしかなくなった。

 ベンチャーではこの手の失敗はよくある話だ。しかし、藤田は特に苦労もなく儲かるビジネスよりも目標に向かって頑張っているときの方が仕事にやり甲斐を感じることが出来るという。経営権を取り戻した藤田は水を得た魚のごとく、一人必死にどぶ板営業を続けた。

「捨てる神あれば拾う神あり」というではないか、天は藤田を見捨ててはいなかった。04年、その頃流行り始めた音楽配信事業が当たり、2年目で8億円を稼いだ。

「月商8000万円売上げがあったが、音楽配信業界にはマンモス企業がいて、マーケットシェアを取れないと分かった。そこで参入障壁が高く、シェアを取れて、自社の強みを活かせる市場をリサーチした」と藤田は語る。

 そうして出した答えが電子書籍事業だった。藤田がマーケティングを担当し基本仕様を描いた。天才的な開発力を持ち信頼の厚いエンジニア森秀樹にシステム開発を託した。06年、ここに電子書籍事業を始めることとなった。

「弊社の強みは企画力やテクノロジーと言われることが多いが、私はビジョンだと思う」、藤田はメディアドゥの強さをそう分析する。

 まだアナログな思考回路を打破できない出版業界に対して、著作物の利用と保護の調和をテクノロジーを駆使して成し遂げようとするメディアドゥ。出版業界の救世主と呼ばれる理由はここにある。出版社はデジタル化などの面倒な作業や印税分配など煩雑な管理から開放され、作家とよいコンテンツを作ることに専念した方がよい。一方、電子書店はシステム開発と運用に無駄な人員を当てる必要がなくなり、ユーザーの利便性などサービスの質の向上に集中すればよい。出版社、書店、メディアドゥの3者は役割分担を決め、それぞれの強みを活かせる仕事に集中した方が経済的合理性もある。規格の違うコンテンツ配信システムを複数持つ必要はないだろう。

「電子書籍業界の発展のためにも流通カロリー(コスト)を下げる必要がある」と藤田は力説する。



尊敬する両親への想い

 藤田を知る人は誰もが「熱い男」と称する。出版業界の未来の話題になると機関銃のように早口で語りだす。情熱の塊のような人物だ。そして、多くの人が「家族を大切にする人」と付け加える。特に母親に対する想いは人一倍強い。彼の生い立ちを知るために故郷を訪ねてみよう。

 藤田が高校卒業まで過ごしたのは徳島県・那賀町木頭地区(旧木頭村)。那賀川の清流があり日本の田舎の原風景が広がっている。西日本で二番目に高い霊峰・剣山(つるぎさん)の南麓に位置し、別名四国のチベットと呼ばれ、村は大自然に囲まれている。

 母親は幼稚園の先生で、村の子供たちの世話をしたり、絵本の読み聞かせをしてきたので知らない者はいない。典型的な公務員の家で育った。小学校に上がると剣道を習い、その強さは隣町まで名前を知られる存在だった。

「剣道に夢中で、いつも団体戦では先鋒でした」と母の藤田示子は少年時代の様子を懐かしそうに語る。ビジネスチャンスと見れば、素早く打ち込む戦略や年上の経営者の懐に深く入り込み、息子のように可愛がられる術は剣道から学んだものかもしれない。

 藤田家は誰でも分け隔てなく自宅に招き入れる。内定者研修の二日目は藤田の生家で母親の手料理をご馳走するのが恒例となっている。地元の木頭柚子を使った鰻寿司と猪鍋が定番メニューだ。都会育ちで家族付き合いになれていない若い社員は戸惑うかもしれないが、家族的経営が藤田流なのだ。


尊敬する両親への想い

父の意志を受け継ぐ

 父親は村の助役で、多い時は一人で4つの課を持つほどの実務家として信頼されていた。寒暖差のある木頭で育った柚子は香りが良いと評判が高い。そこに目を付け、農業による地方復興に尽力した。

「桃栗3年、柿8年。柚子は大馬鹿18年」という歌がある。それほど柚子が収穫できるまでは年月が掛かるという例えであるが、藤田の父親は、名産である木頭柚子を産業に育てるため研究に没頭した。柚子は2年に一度しか収穫出来ないため、安定した収入を得るように銀杏を植林した。今も藤田の生家の周りの山には柚子畑と銀杏が栽培されている。

 今から20年前、23歳の誕生日を迎えた8月31日、里帰りしていた藤田を、「誰にも教えていない鮎が釣れる穴場を教えてやる」と父親が珍しく散歩に誘った。行ってみるとその場所はダム建設予定地だった。当時、ダム建設反対派と賛成派が村を二分する騒ぎとなっていた。投票で負けたらこの美しい景色を見せてあげられないと考えていたのだろうか。

 翌朝、出勤する父の後ろ姿を見送ったのが、最後の別れとなった。常に住民のことを考えていた父が志半ばでこの世を去った。「母さんが一番辛いはずです。だから寂しい思いをさせたくない」「密に連絡を取る息子とそうでない息子。私なら前者がいい。ただ出来ることをしているだけ」と驚く周りの反応も全く意に介さない。「一番身近な人を思い遣れない人間にいい仕事は出来ない」、が藤田の信条である。

 死生観を持っている企業家は強い。藤田と話をしていると常に出版業界全体のことを気にしている。また、地方創生の話題でも、大局観を持って未来志向で語る。広い視野と全体の利益を長い目で考えていることが伝わってくるので、多くの人が藤田の想いに共感し、協力を惜しまない。


父の意志を受け継ぐ

メディアドゥが描く未来

「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること。」を社訓に掲げ、藤田はメディアドゥ号の船長として、電子書籍の海原を突き進む。著作物の健全な流通をテクノロジーの力を使って実現し、現代の人が失った読書の貴重な時間を取り戻そうと尽力する。

「著作物は文化の発展に寄与する」という藤田の信念は揺るがない。 4月6日、出版デジタル機構の大型買収に続いて、国産ブラウザの技術を持つベンチャー企業の株式取得を発表した。ブラウザとはネットを閲覧するためのソフトのことであるが、この技術を傘下に収めることによって、同社は独自のビューワーを開発・リリースすることが可能となった。

 例えば、電子書籍を読みながら、何かを購入したり、本を購入する前に要約された記事を読んだりといった複数の機能を同じビューワーの中で完結することが出来、利便性が向上する。この組み合わせからどんな新しいサービスが生まれるか注目される。

 藤田にどんな未来を想像しているか尋ねると、答えは明白であった。出版社はこれまでの面倒な作業から解放され、才能ある作家を発掘し、良い作品を創るという本来の役割に集中出来る。同社が開発したシステムを活用すれば、煩雑な印税分配といった管理も楽になる。

 藤田はこのシステムを「ワンダッシュボード」と呼んでいるが、我々出版社側からの視点でもユーザーがどこを読んでいるのかなど細かい消費行動が一覧できたら、次回作への改善要項としてマーケティング資料として活用したい。これは今までになかった発想である。

 正確なユーザー動向が掴めれば、より消費者が望むコンテンツを作ることが可能になる。今まで顕在化していなかったニーズを拾い集めることが可能になったら、私たちがあっと驚くような新しいサービスが生まれることだろう。

 出版社と書店も不得意な業務から解放され、自らの専門性の高い仕事に集中するのが本来の姿であろう。藤田はメディアドゥの存在を使って、出版業界に本質的な問題提起をしていると思えてならない。 大きなビジョンと独自のテクノロジーを成長エンジンに突き進むメディアドゥの動向からますます目が離せない。



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