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トピックス -企業家倶楽部

2017年05月01日

【ベンチャー三国志】vol.43 孫正義は何を目指すのか!!

企業家倶楽部2017年6月号 ベンチャー三国志


孫正義は“ 平成の渋沢栄一”を目指しているのではないか。単なる経営者というより、実業家を目指しているフシがある。2000年ごろには失敗したけれど、新しい証券市場の設立に動いたこともある。いずれにせよ、これまでの尺度では計れない企業家である。(文中敬称略)【執筆陣】徳永卓三、三浦貴保、徳永健一、相澤英祐、柄澤 凌、庄司裕見子




英アーム社のスチューアート・チェンバース会長(右)と(写真提供:時事通信フォト)



シンギュラリテイ

 最近、孫正義がよく、口にする言葉がある。

「シンギュラリティ」

 もともとは「技術的特異点」という意味で、それから派生して、人間の脳細胞をコンピュータの細胞に当たるトランジスタが超える時はいつかを示す言葉として使われている。人工知能分野の権威であるレイ・カーツワイルは「2045年に起こる」と予言している。

 人の脳細胞は約300億個。これをトランジスタが超えるのは2018年。すぐ近くだ。だが、認識や判断などを加えると、2045年になる。今から28年後の近未来だ。

 人間の脳を人工知能が超えた場合、どうなるか。孫正義は「心配ない」と楽観派だが、イギリスのスティーヴン・ホーキングらは悲観論。人間に反発して来ると、心配する。

 どっちにしろ、シンギュラリティはもうすぐそこに近づいている。

 そうなると、人工知能にとって代わられる人間が続出する。一説には、今ある職業の半分は人工知能にとって代わられる。ソフトバンクのペッパー君に代わられるのだ。

 人間はもっとクリエイティブな仕事をやる必要がある。単純な仕事は人工知能を搭載したロボットに代わられる。

 もしかすると原稿書きも単純な原稿を書いていると、人工知能に代わられるかもしれない。実際、天気予報や決算報告など、少々の固有名詞と数字を変えれば仕上がるような記事に関しては、すでにコンピュータが書き始めている。

 大和ハウス工業は人工知能を活用した物流センターを開発する。インドのグレイオレンジのロボット「バトラー」にAIを活用したシステムを導入する。

 バトラーが注文を受け、目当ての商品が並ぶ棚を効率的に作業場まで運ぶ。まずは18年、千葉県流山市に完成する延べ床面積15万平方メートル規模の倉庫に導入し、順次他の施設にも導入していく。

 通常、600人程度の作業員が必要なところ、バトラーを100台導入すれば100人程度で稼動できる。24時間稼動の上、作業員を最大8割、運営費は3割以上減らすことができる。

 ゆくゆくは業務の指示もAIが行なっていくという。さらに運送会社のシステムと連携してトラックの配送手順やルートを最適化、積載率を従来の50%から65%に引き上げる。



スプリントは売るか、売らないか

 さて、ソフトバンクの経営の話だが、筆者はスプリントは売ると思う。 ある社長が土地を売るとき、決して「買って下さい」とは言わなかった。売って欲しいなら、お前の方から頭を下げに来い、という態度だった。内心では売りたくてたまらないのに。

 孫正義も同じこと。スプリントの経営をよくするのは売ることを想定しているのではないか。スプリントを黒字にして、ドイツテレコムに何とか売ると思う。それまではせっせとスプリントを黒字にするに違いない。まるで売らないように、見せかけて。

 経営者と言うものは反対のことをするものだ。売ると見せかけて、売らない。売らないと見せかけて、内心は売りたい。政治の世界でも、叩いているようで、なでている、なでているようで、叩いている、というのはよくあることだ。政治の世界ほどではないにしても、経営にもある。

 常に本心はどこにあるかを見失わないようにしなければならない。筆者は孫正義の本心はスプリントを売りたいと、思っていると思う。条件をよくするためにスプリントの経営を立て直しているのではないか。

 では、なぜスプリントを売りたいと思っているかと言えば、スプリントは1兆8000億円で買った。今、同じ値段で売れるとすれば、ソフトバンクの財務体質はずい分よくなる。なにせ、13兆円もの借り入れがあるので、少しでも減らしたいところ。スプリント売却で約2兆円借り入れを減らせれば、財務体質はずい分よくなる。

 もし、孫正義がソフトバンクの経営をよくしたいと思うなら、スプリントを売るだろう。だが、1800億円の売上高の英アームを3兆3000億円で買った孫正義のこと、どう転ぶかわからない。もしかすると、売らないかもしれない。相手の条件が合わないこともある。

 孫正義は通常の物差しでは計りがたいものがある。スケールが大きいのだ。もしかすると、”平成の渋沢栄一”をめざしているのではないか。



”平成の渋沢栄一”めざす

 渋沢栄一は天保11年(1840年)2月13日に生まれ、昭和6年(1931年)11月11日に亡くなった「日本資本主義の父」といわれた人。第一国立銀行(現みずほ銀行)や東京証券取引所をつくった。また、500の企業の設立に関係した実業家。理化学研究所の創設者でもある。

 明治2年(1869年)10月に大蔵省に入省する。大久保利通や大隈重信と対立、明治6年(1873 年)に退官した。渋沢は岩崎弥太郎のように三菱財閥をつくらなかった。

 医療にも関心を持ち、東京慈恵会や日本赤十字社などの設立にも携わった。財団法人聖路加病院初代理事長も勤めた。

 日本社会主義の黎明期に広範にわたって活躍した。実業家であり、道徳家であり、大学人でもあった。医療もめざした。明治初期の人は何でもこなす。

 孫正義もそんな所があり、東日本大震災の時は明けても暮れても震災のことばかりを考え、ロボットの時代はペッパー君のことだけを考える。「これからは医療が大事だ」と医療に傾斜している。孫正義は経営者というより、渋沢のように実業家をめざしているように思える。そして、経済界に名を残すのだ。孫正義の行動を見ていると、そう思えてならない。


”平成の渋沢栄一”めざす


実業家・渋沢栄一氏(渋沢史料館所蔵)

ナスダック・ジャパンを設立

 実は孫正義も渋沢のように、2000年ごろに「ナスダック・ジャパン」という証券市場をつくろうとしたことがある。このことはベンチャー三国志の第7回に詳しく書いているが、忘れた読者のために、粗筋だけを紹介しよう。

 ときは1999年初頭のことだ。アメリカの3人の男が孫正義を訪ねた。ナスダックを日本にもつくりたい、という。孫正義は自らの株式上場の経験からナスダックのような市場があれば、13年もかからずに「5年で上場できるだろう」と考え、この話を受けることにした。

 ちょうどその頃はインターネットブームが巻き起こり、ネットベンチャーが次々と生まれていた。東京の某ホテルに2300名のベンチャー企業家を集め、ナスダック・ジャパンとソフトバンクが新しく設立するベンチャーキャピタル(VC)の説明会を開いた。

 ナスダック・ジャパンは2000年6月19日にスタートした。しかし、直後にネットバブルが弾け、ソフトバンクの時価総額は20兆円から2800億円に急降下した。万事休す、である。

 2002年8月、撤退を余儀なくされた。「ナスダック」から「ヘラクレス」と改名して新市場を続けた。ナスダック・ジャパンが長続きしなかった理由はいくつか考えられるが、ひとつは大阪につくったことである。

 東京と大阪は新幹線で3時間だが、大阪に行くのに1日がかりとなるので、次第に足が遠のき、2010年10月12日、ヘラクレス、NEO、ジャスダックが統合し、「新ジャスダック」となった。


ナスダック・ジャパンを設立


2015年アカデミア特別対談でシンギュラリティについて語る孫社長(写真提供:ソフトバンクグループ)

孫正義はハラハラドキドキさせる

 ともかく孫正義ほど、ハラハラドキドキさせる経営者はいない。借入金が13兆円にのぼることも「どうやって返すんだろう」とハラハラさせるし、売上げ1800億円の英アームを3兆3000億円で買収したのも破天荒だ。

 英アームの3兆3000億円は普通考えられないが、孫正義の考えがあってのことだろう。孫正義は企業買収は全部買っておこうという考えだ。

 中には失敗するものもある。「(投資で)成功したのはヤフーとアリババだけ」と悪口を言う人もいる。しかし、2社が”場外ホームラン”だった。

 孫正義にはM&A、投資についての哲学がある。それは、もし、M&Aとか投資をしなかった時のリスクである。ヤフーとアリババに投資しなかったなら、今日のソフトバンクはない。その意味では孫正義と常人とは違う。

 アームの可能性が孫正義には見えていても、われわれ常人には見えない。誰かが言っていたけれども孫正義には俗に言う遠目がきくのである。



2040年に時価総額200兆円

 孫正義は何を目指しているのか。渋沢のように実業家を目指すのか、あるいはソフトバンクの名経営者になるのか。孫正義しか分からない。13兆円の借入金、売上高9兆円、経常利益1兆円(いずれも2016年3月期連結)はケタ違いに大きい。

 自動車メーカーには敵わないが、売上高ランキング7位は立派。1代で築いた怪物企業といえるだろう。

 ただ、世界に目を向けるとどうか。2017年3月末現在の世界の時価総額ランキングを見てみると、アップル7537億2000万ドル(83兆8136億6400万円)、アルファベット(グーグルの持ち株会社)5798億6000万ドル(64兆4804億3200万円)、マイクロソフト5089億4000万ドル(56兆5941億2800万円)、アマゾン・ドット・コム4230億3000万ドル(47兆409億3600万円)、フェイスブック4105億2000万ドル(45兆6498億2400万円)という具合に並ぶ。

 これに対してソフトバンクの時価総額は、4月10日現在で8兆8140億円。アップルの10分の1だ。日本国内では知らぬ者などいない天下のソフトバンクとなったが、これで孫正義が満足するはずがない。特に1994年創業のアマゾン・ドット・コム、1998年創業のグーグル、2004年創業のフェイスブックは今でも創業者が社長を務めており、同じく創業経営者である孫の競争心は否が応にも掻き立てられていることだろう。

 孫正義は、とにかく1番が大好きなのだ。決算報告会や記者会見でも、1番を強調することこそあれ、2番、3番であることを力説するのを見たことが無い。彼の目はとっくに日本など飛び越え、世界へと向けられている。2040年に時価総額200兆円を目指すと豪語しているのも、その表れだ。

 時価総額と言えば、日本とアメリカは比較されることが多い。上位10社が変わり映えしないのが日本、どんどんランキングが新しい企業で賑わうのがアメリカというわけだ。日本では珍しく徒手空拳でランキングに食い込んだのがソフトバンクだったが、同社も創業は1981年と、もう「老舗」。次世代を担う企業家の出現が待たれる。

 孫正義も、このあたりは十分に心得ているだろう。前述の市場立ち上げも、多くの創業経営者が羽ばたきやすいようにとの想いがあったはずだ。企業家精神を持った優秀な後継者を育てるべく、自社でソフトバンクアカデミアも開校した。そう考えると、企業家育成というのも彼の目指す方向性の一つかもしれない。



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