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トピックス -企業家倶楽部

2017年05月12日

米金融政策の正常化に潜むリスク ―中国、日本発の金融危機の可能性

企業家倶楽部2017年6月号 グローバル・ウォッチ vol.13


米国が金融政策の正常化に乗り出した。リーマン・ショックから9年、失業率やインフレ率などの指標が上向き、景気過熱に備えて金利を段階的に引き上げていく方針だ。米国の動きは世界のマネーの流れの変化を促し、次なる金融危機のトリガーになる可能性もある。その場合の震源地はどこか。20 年前の1997年7月、タイから始まったアジア通貨危機は韓国やロシアにも波及した。今回、中国、そして日本発の金融危機の可能性はないのか。




「経済の状況はよい。金融危機以降、1600万人の雇用が生まれ、失業率は下がった。インフレ率も目標の2%に向けて上昇している」。3月15日、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長はこう語った。同日、FRBは政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを0・25ポイント引き上げ、0・75~1・00%に変更した。

 FRBはリーマン・ショック後、2015年12月に初めて利上げに踏み切り、1年置いた16年12月に2回目の利上げを実施した。3月の利上げが3回目で、年内にさらに2回の利上げをすると見られている。米国の2月の失業率は前月比0.1ポイント低下して4.7%となりほぼ完全雇用状態になった。3月31日に発表された2月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比2.1%となり、FRBのインフレ目標2%を超えた。

 米国の金利が上昇すれば、ドルの金融資産としての魅力が増し、世界の資金が米国に流入する可能性が高まる。特に経済基盤の脆弱な新興国からマネーが引き上げ、対ドルで通貨が下落するのではないかとの懸念が広がる。実際、2013年5月、バーナンキFRB前議長が量的緩和縮小を示唆しただけで、新興国の通貨が大幅に下落した。今回の利上げの局面では当時ほどの急激な下落は起きていないが、金融変動のマグマは蓄積しつつある。



金融危機は米国の高金利時に起きる

 周期的に襲ってくる世界の金融危機。いずれも米国が利上げを開始し、高めに維持されている時に起きている。直近では08年9月のリーマン・ショック。04年6月から2年に及び利上げを続け、07年から経済が変調し始めた。その前は99年6月から1年弱の間、利上げし、IT(情報技術)バブルは2000~01年に弾けた。さらにその前は94年2月から95年の2月まで。94年12月にメキシコ経済危機が勃発し、しばらく間を置いて97年7月にアジア通貨危機が始まった。97年もFF金利は5%台で高止まりしていた。

 メキシコ危機もアジア危機も構造は似ている。経常赤字を抱えたメキシコやタイ、インドネシアからマネーが流出。通貨当局は外貨準備を使って為替介入して、通貨下落を食い止めようとしたが、その原資も底をつく。そして各国ともドルにペッグしていた固定相場制から変動相場制への移行を余儀なくされた。FRBの利上げ開始とほぼ同時期の94年1月、中国が人民元を30%以上切り下げたことも、東南アジアの輸出競争力を低下させてアジア通貨危機の遠因になったとも考えられている。



人民元下落止まらず、外貨準備3兆ドルに

 その人民元が今、不穏な動きをしている。人民元は05年7月に1日の変動幅を一定内に収める「管理変動相場制」に移行し、その後、レートは1ドル約8元から6元程度にまで人民元高が進んだ。しかしFRBが量的緩和縮小を開始した直後の14年から下落に転じ、17年2月末で14年1月末に比べ10%以上下落した。トランプ米大統領が中国は人民元安を誘導していると批判していることから、米国の保護貿易的な動きをけん制する意味でも中国は人民元高に誘導したいところだ。しかし、当局はマネーの流出を食い止められないでいる。

 日本経済新聞によれば、16年の中国から海外への純流出額(流出から流入を差し引いた金額)は3千億ドル(約35兆円)超と15年比6割増になったという。中国企業は人民元を外貨に換えてせっせと海外企業を買収し、資産を海外に移している。16年に入り海外への投資による資金流出は、海外からの対中国投資を上回った。最近では統計上把握できていない「誤差・脱漏」という項目が増えている。個人が手荷物に現金を入れて香港などに持ち出して外貨を買ったり、仮想通貨ビットコインを購入して、それをドルに換えたりしているもようだ。世界のビットコイン取引の9割方が中国で実施されているという。

 政府は資本規制を強化するなどして直近では1ドル7元間際で下落を食い止めたようにも見える。16年11月末から500万ドルを超す大口両替、海外送金、海外企業買収は当局による事審査が必要になった。また17年1月からは個人が銀行窓口で外貨を買う場合、詳細に目的を記した書類の提出を義務付けた。

 しかし当局が為替介入を繰り返した結果、4兆ドルあった外貨準備は3兆ドルにまで減少するなど、当局の危機対応能力は低下しつつある。習近平による汚職取り締まりなどでいつ国家の手が自分の資産に及ぶかもしれない。国内総生産(GDP)比170%を超える企業債務の問題もあり、先行きの経済状況にも暗雲が漂っている。そうした不安が人民元の信認低下につながり、通貨安がさらに不安を呼ぶ悪循環に陥っているのではないか。


人民元下落止まらず、外貨準備3兆ドルに

利上げ加速で日銀は赤字転落、債務超過に

 では日本はどうか。日本円は3月末現在で1ドル110円前後で推移し、年初からはやや円高に振れている。中国のような資金流出は起きていない。だが過去のトレンドから見ると、米国が金利を上げて、日本が上げない場合、両国の金利差が拡大して円安方向に動いていく可能性が高い。

 円安に振れれば輸入物価が上昇し、国内のインフレ率も上がっていく。17年1月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は0.1%上昇と1年11カ月ぶりのプラス圏に浮上した。日銀は目標の2%程度には18年度ごろに到達するとしている。問題はその先、日銀がいつ出口戦略に着手するか、すなわちいつ金融緩和を止めて利上げに転じるかだ。利上げに転じたとしても、どの程度まで利上げできるのか。

 日銀の当座預金には17月2月時点で金融機関が預けている超過準備が320兆円ほどあり、その一部に0.1%の金利を付けている(注)。日銀の出口戦略では超過準備の金利を引き上げていくとみられ、金融機関に支払う利息が増えていく。一方、日銀は410兆円の国債を保有し、日本総合研究所によれば日銀の受け取る平均利息は0.3%ほど。資産規模が変化しないと仮定すれば、政策金利が0.4%に到達する前に支払利息が受取利息を上回ってしまう計算だ。FRBの保有債券利回りは3%台とみられ、それに比べると日銀が余裕で利上げできる幅は狭い。

 その限界を超えて金利を引き上げていくと日銀は逆ざやになり、赤字が蓄積していく。政策金利が2%になれば、大雑把に計算すると5兆円の赤字。日銀の自己資本は8兆円弱で、2年で債務超過になる計算だ。普通の事業会社なら資金繰りに困って倒産する事態だが、通貨を発行している日銀が倒産することは考え難い。日銀が保有する国債の残存期間は7年強とされる。国債を満期まで持ち、その後は買い換えないことで減らしていっても、半減するまで7年はかかり、赤字は数年は続くだろう。債務超過期間が長くなれば日銀券の信認は失われ、超円安と超インフレが待っている。

 日銀が債務超過になるのを避けるために低金利を維持し続けるならば、金利の高い米国に資金が流出し円安が加速する。やはり輸入インフレが進行する。超過準備は流動性の高いマネーであり、預け入れている金融機関も資金をもっと高金利の商品、例えば外貨建債券などに移すだろう。それは円を売って外貨を買うことになり円安を招く。挙句の果ては中国のような強制的な資本規制による円安加速の防止となりかねない。

 政府が資本注入すれば日銀の債務超過は免れるが、赤字の原因が銀行に支払われている超過準備の利息だとなれば政治問題化は必至だ。ただでさえ政府はGDP比200%を超える政府債務を抱えている。富士通総研の早川英男エグゼクティブ・フェローは日銀が超過準備の塩漬けを図ると予想する。強制的に日銀に預けさせる預金準備率を引き上げ、超過準備の一部をただの準備預金にするのだ。そうすれば金利を払う必要がなくなるというわけだ。だが金融機関にとっては稼ぐ機会の逸失となり、そのつけは手数料の引き上げなどを通じて預金者に回ってくる。金融機関からの預金引き上げにもなりかねない。


利上げ加速で日銀は赤字転落、債務超過に

FRBの資産縮小着手で長期金利急騰か

 米国の利上げが加速すると日銀はにっちもさっちもいかなくなるとの見立てだが、そもそも円安もインフレも起きないのではないか。FRBもゆっくりと利上げしていくというし、急激な変化はないのではないか。日銀がデフレ脱却のために量的緩和やマイナス金利政策を導入したが、ほとんど効果が出ていないし、長期停滞によるデフレトレンドは根強いのではないか。日米金利差が拡大しても、対外純資産が世界一の日本は通貨への下落耐性があるのではないか。確かに最悪の事態はこれまでも来なかった。

 FRBの利上げよりももっと大きな激震と市場関係者が考えていることがある。FRBがいつ資産縮小に着手するかだ。長期金利急上昇のトリガーになり、急激なドル高のきっかけになるかもしれないからだ。FRBはリーマン・ショック後の市場に資金流動性を供給するために、国債や住宅ローン担保証券を購入。そうした債券の満期が来ると買い換えて資産規模を維持してきた。

 イエレン議長は「引き続き償還分の再投資は続ける」としているが、拡大したバランスシートをいつまでも放置しておく気はない。政策金利が1%になれば資産縮小に着手できるとの見方もあり、すでに秒読み状態だといえる。現在4兆5000億ドルの資産を3兆ドル程度縮小する可能性があり、藤代宏一第一生命経済研究所主任研究員によればその引き締め効果は3・75ポイントの利上げに相当するという。

 デフレと戦ってきた日銀だが、米国の出口戦略が軌道に載れば、今度は円安・インフレと戦わなければならなくなる可能性が高い。拡大しきったバランスシートを抱える日銀に、果たしてインフレを制御できるのか。中国の人民元下落を対岸の火事と見ている余裕は日本にはない。

(注)16 年2月に導入したマイナス金利政策ではこのうち基礎残高(210兆円)にはプラス0.1%、マクロ加算残高(90兆円)には0%、政策金利残高(20兆円)にはマイナス0.1%の金利を付けている。日銀が利上げに転じる時にはまずはマイナス金利を取りやめ、基礎残高の金利を引き上げていくと見られる。

P r o f i l e

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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