• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年05月15日

海外売上を拡大させるKPI(主要業績評価指標)/スパイダー・イニシアティブ代表取締役社長 森辺一樹

企業家倶楽部2017年6月号 新グローバル戦略 “Open Channel Innovation”の薦め vol.2


 今回で第2回目となる「新グローバル戦略 “Open Channel Innovation“の薦め」と題したこの連載は、これからの日本企業のための新しいグローバル戦略について書いている。特に私が専門とする製造業、中でも食品、飲料、菓子、日用品等の消費財系の製造業のアジア新興国での事例を多く持ち出しているが、生産財等のB2Bの製造業や、サービス業、また、ITやテクノロジーなどのベンチャー企業にとっても、グローバル戦略そのものの考え方や、進め方などは同じであり、応用の効く内容だと思う。この連載が少しでも、皆様のグローバル戦略のお役に立つことを心から願っている。



「並べる力」と「選ばれる力」

 日本の消費財メーカーが、アジア新興国の市場で売上を拡大させるために行わなければならないこととは一体どのようなことだろうか。現地での売上を拡大させるためには、何をKPIとすべきなのだろうか。実際に現地で高いシェアを誇る欧米の先進グローバル消費財メーカーは、何をKPIに設定し売上を拡大させているのだろうか。第2回目の今回は、日本の消費財メーカーが、アジア新興国市場において売上を拡大させるためのKPIについて詳しく解説する。

 消費財メーカーにとって最も重要なのは、「いかにして多くの人に繰り返し買ってもらえるか」である。より多くの人に、より早い頻度で繰り返し買ってもらうことこそが消費財メーカーにとっての最大で唯一の価値である。全ての企業活動はこのためにあると言っても過言ではない。

 まず、この「いかにして多くの人に買ってもらうか」を実現することから考えていきたい。多くの人に買ってもらうには、物理的に多くの小売に並べなければならない。より多くの消費者の手に届くようにすること。つまりは、より多くの小売に配荷する力こそが、「並べる力」なのである。前回の連載でもお話した通り、アジア新興国は、圧倒的に伝統小売(TT)の市場である。例えば、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)などのASEANの中でも、特に経済成長が著しい国々では、金額ベースで約2割が近代小売で、残り8割は伝統小売の市場である。店舗数ベースで見た場合には、99%以上が伝統小売の市場だ。ASEANで最も近代小売の店舗数の多いインドネシアですら、その数は2万店強。これは日本のセブンイレブン1社の店舗数程度である。近代小売の数がいかに少ないかがお分かり頂けるだろう。仮に近代小売への配荷率が100%でも、それだけでは、高いシェアは得られない。対して、伝統小売は300万店以上存在する。また、ベトナムでは、近代小売の総数は1,200店舗程であり、伝統小売は50万店以上存在する。近代小売だけでは、高いシェアどころか、いつ迄経っても黒字にすらならない。

 並べることに対して各種導入費(リスティング費や店内プロモーション費、広告協賛費など)がかかる上に、数の限られた近代小売だけに並べたのでは、毎日が閉店セールの数倍並みに売れなければ永遠に利益はでない。従って、ここで求められる「並べる力」とは、伝統小売を含めた、少なくとも数万店から数十万店規模の並べる力なのである。

 次に、「いかにしてより早い頻度で繰り返し買ってもらうか」を実現するということについて考えていきたい。競合がひしめくアジア新興国の小売で、自社の商品が他社の商以上に選ばれるということこそが「選ばれる力」だ。そもそも、多くの小売に並べる力がなければ物理的に買うことができないため論外となるが、いくら多くの小売に並べても、「選ばれる力」がなければ、その商品は誰の手にも取られない。従って、手に取りたくなる仕掛けこそが選ばれる力なのである。

 実際に、日本の消費財メーカーの中にも、並べる力の重要性を理解し、自社直販及び、ディストリビューターを活用したセールス体制を整え、一気に近代と伝統の両小売への配荷を進めた企業は多く存在する。「並べること」と、「一度であれば選ばれる」ことは、正直言って物理的な話なので、ある一定の投資を行えば可能だ。しかし、「繰り返し選んでもらう」ことは、消費者が決めることであり、そう簡単にはいかない。一度は商品が並んだが、また一度は商品を選んでもらったが、繰り返し選んでもらえず、しばらくして棚から撤去され、結局、継続的に並べ、選んでもらうことに失敗している企業は数多く存在する。重要なのは、近代小売は勿論のこと、伝統小売を含め数多くの小売店に並べ、それを消費者が他社の商品よりも頻繁に選んでくれるという、「並べる力」と「選んでもらう力」なのだ。


「並べる力」と「選ばれる力」

「ストア・カバレッジ」と「インストア・マーケット・シェア」

 ここまで話せば既に勘の良い読者はお気づきだろう。並べる力が「ストア・カバレッジ」であり、選ばれる力が「インストア・マーケット・シェア」と言うわけだ。消費財メーカーがアジア新興国で高い市場シェアを獲得し、売上を拡大させるには、この二つが重要なKPIになるのである。

 ストア・カバレッジとは、獲得店舗数を指す。つまりは、自社の商品が配荷されている店舗数だ。そして、インストア・マーケット・シェアとは、店舗内の同一カテゴリーでの自社商品のシェアである。例えば、小売一店舗あたりの月の売上が100万円だと仮定する。その100万円の中の、ガムならガムカテゴリーの売上が5万円だった場合、その5万円に占める自社のガムの割合である。この二つが上がれば売上やマーケット・シェアは確実に上がる。

 販売実績を拡大させるためには、ストアのカバレッジを増やしつつ、1店舗当たりのインストア・マーケット・シェアを上げることが必要だ。いくらストア・カバレッジが高くても、インストア・マーケット・シェアが低ければ売上拡大はあり得ない。またその逆も同様だ。この二つは両輪でなくてはならない。P&Gや、Unilever、Nestleなどの欧米の先進的なグローバル消費財メーカーは、このストア・カバレッジとインストア・マーケット・シェアという二つのKPIに徹底して拘り、最も重要な評価指数としている。


 「ストア・カバレッジ」と「インストア・マーケット・シェア」

チャネル投資がストア・カバレッジを上げる

 この並べる力であるストア・カバレッジを上げるためには、伝統小売で売れる商品と、最低でも数万店から数十万店への配荷が可能な強固なチャネル(ディストリビューション・ネットワーク)が必要となる。伝統小売で売れる商品とは何か。アジア新興国では、近代小売で売れる商品はそのまま伝統小売では売れない。ランチが100円程度で食べられる国で、100円の菓子は近代小売では売れたとしても、伝統小売では絶対に売れない。そもそも伝統小売のオーナーがそんな商品を取り扱わないからだ。従って、5個入り100円で近代小売で売っている菓子を、1個入り20円でうるという商品の現地適合化が必要なのだ。

 そして強固なチャネルとは、最低でも数万店から数十万店に配荷が可能なディストリビューション・ネットワークを指す。日本とは比較にならない程に物流インフラが整っていないアジア新興国で、人口密度に粗比例して無数に存在する伝統小売へきめ細かな配荷を行うには、1、2社のディストリビューターを活用した程度では実現不可能である。エリア毎に複数の大中小のディストリビューターを活用したディストリビューション・ネットワークを構築しなければならない。この二つが整って初めて、ストア・カバレッジを上げる体制が整うのだ。


チャネル投資がストア・カバレッジを上げる

プロモーション投資がインストア・マーケット・シェアを上げる

 次に、選ばれる力であるインストア・マーケット・シェアを上げるということだが、そのためには、勿論、前段で説明した安くて良い商品。つまりは、アジア新興国の消費者(中間層)が他社の商品と比べても欲しいと思い、買うことができる値段の商品であることが大前提だが、他社の商品と共に店頭に並んだ時に、他社の商品よりも手に取りたくなる仕掛け、つまりはプロモーションが更に重要になる。マーケティング・ミックス(4P)の観点で言えば、中間層が求める商品を(Product)、中間層が買える値段で(Price)、中間層が買いやすい売り場に並べても(Place)、最後のPromotionが無ければ商品は決して選ばれない。選ばれる力とは、その多くがプロモーションを指していると言っても過言ではない。特に、差別化のし難い消費財において、プロモーションは選ばれる力を大きく左右する。

 最後に、繰り返しになるが、消費財メーカーにとって最も重要なのは、「いかに多くの人に、いかに何回も繰り返し買ってもらうか」である。それを実現するためのKPIは、「ストア・カバレッジ」と「インストア・マーケット・シェア」の2つ以外には無いのである。この2つこそが、海外売上を拡大させるKPIなのだ。




P r o f i l e

森辺一樹 (もりべ・かずき)

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。15年で1000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

2017年度 第19回企業家賞
骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top