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トピックス -企業家倶楽部

2017年06月05日

確固たるビジョンで出版業界の未来を照らす/メディアドゥの強さの秘密

企業家倶楽部2017年6月号 メディアドゥ特集第2部


ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届ける。この崇高な事業理念の下、メディアドゥは私心を捨て、出版業界、ひいては人類の文化に貢献しようと邁進する。旧態依然とした業界にITの新風を吹き込み、明確なビジョンでその行く先を照らし出す同社の強さの秘密に迫る。(文中敬称略)



強さの秘密・1 取次という立ち位置

出版社と電子書店を繋ぐ

 スマートフォンの代名詞とも言えるiPhone誕生から今年でちょうど10年。日本国内のスマホ普及率は年々高まり、今や小学生からお年寄りまで遍く液晶画面の虜だ。

 都市部では、電車に乗り込んでくる人の多くが示し合わせたかのようにスマホを取り出す。パズルゲームに興じる者、SNSの投稿を確認する者、ニュース速報を見る者、スマホの用途は十人十色だが、このところ電子書籍を読む人が増えてきた。最近ではタブレットを持つ向きも少なくない。「紙の書籍よりも大きな文字に拡大して読めるのは助かる」という声も聞く。

 ページをめくる際も、指で軽く画面を撫でるだけでスイスイと読み進められる。また、一度に何冊も持ち運べる上、インターネット接続さえあればいつでもどこでも購入でき、場所を取らないのも電子書籍の特長だ。

 様々な出版社から出た作品が電子化され、アマゾン・ドット・コムの「Kindleストア」、アップルの「iBooks」、楽天の「楽天kobo」といった多くの電子書店で販売される現在、言わばその架け橋を担っているのが電子書籍取次のメディアドゥである。出版社が自ら営業して数多ある電子書店を開拓し、それぞれと契約をまとめて個別に管理していくのは至難の業だ。もちろん、逆もまた然り。そこで、両者の間に入り、交通整理を買って出ているのがメディアドゥというわけである。

 同社はほぼ全ての電子書店と契約しているため、出版社からすれば自社商品を広く流通させることが可能。また、電子書籍事業にはユーザーが書籍をダウンロードするための配信サーバが必須となるが、メディアドゥはそこも含めて提供するため、書店側としても、わざわざ自社システムを構築せず安価に事業を進められる。このように、いまや同社は電子書籍業界に無くてはならない存在に成長した。

電子書籍取次事業へ転換

 メディアドゥは言わば、業界における絶好の立ち位置を占めることとなったわけだが、ここに収まるまでには、同社創業社長である藤田恭嗣の苦い経験があった。

 
 20歳で会社を創業した藤田は、携帯電話販売に始まり、インターネットを駆使した様々なビジネスを手掛けた後、2004年に携帯電話音楽「着うた」の配信事業へと至った。

 着メロ(着信メロディ)が流行していた当時、実際の楽曲音源を配信すればユーザーは必ず食いつくとの読みで、藤田は0から各レーベルを回り、開拓営業を行った。しかし、音楽業界はそう甘くはなかった。当時営業に携わっていたテクニカルアドバイザーの森秀樹は「まさに、お前らどこの馬の骨だという状況。マイナーな洋楽やレゲエ音楽といった領域しか残されていなかった」と苦笑する。

 それでも2年目には年商8億円を達成したが、藤田はふと立ち止まって自問自答した。

「この業界のマーケットは約1000億円。そのうち我々が取っているのは1%程度だ。正直、将来的にマーケットで圧倒的シェアを確立するのは難しい。それが分かっている事業をやり続けるのか」

 では反対に、どの領域ならマーケットシェアが取れるのだろうか。現在の強みを考えると、①モバイルインターネット、②著作物流通事業、③集客・広告のノウハウ、④将来の可能性を掛け合わせて、電子書籍事業に思い至った。

 版権元からライセンスを受け、そのコンテンツのファイルをデータ化してサーバに入れる。これをストア経由でユーザーに売る。その履歴をデータベース管理し、印税を分配する。音楽配信時代に取り組んでいたこの一連の流れが、見事に生きる。

「これだ!」と手を打つ藤田。当時は音楽配信事業も伸び盛りであったため、40名弱いた正社員は全員反対したが、藤田は諦めなかった。賛同を得られた2人の役員と共に、ひっそりと舵を切った。2006年11月にはシステムが完成。こうしてメディアドゥは、電子書籍業界に参入した。

 それも、自らが電子書店になっては元も子もない。音楽配信においてはコンテンツ提供者の一つであったため、ひしめく競合に悩まされた。その経験から、電子書籍事業においては上流の取次という立場を取りに行ったのである。

 メディアドゥは、自社の立ち位置を「電子書店と出版社の中間点」と明確に定めている。禁忌はこれら二者に自ら参入すること。自社店舗はあくまでマーケティング用のアンテナショップとしての機能に止めている。

 ただし、「どちらかと言うと出版社寄り」と藤田は説く。それもそのはず。出版社のコンテンツ無くして、メディアドゥは流通業を営むことは出来ない。したがって、出版社の仕事を奪うような真似は自重。作家から直接取引しようという話が来ることもあるが、全て断っている。


強さの秘密・1 取次という立ち位置

強さの秘密2・明確なビジョン

著作物の利用と保護を調和

 短期的に見れば悪くない話もありそうだが、なぜメディアドゥはここまで立ち位置にこだわるのか。そこには、「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること」という確固たる事業理念があった。これは著作権法第一条に照らして藤田が作ったものだ。

 著作権法の第一条には、「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」とある。

 すなわち、「著作物は文化の発展に寄与するため、出来る限り広く利用してもらえるように努めよう。ただし、海賊版や不正配信が出てきて著作者が適正な利益を得られないことを防ぐため、厳正に保護しよう」というわけである。藤田はこの「著作物の利用と保護を調和する」という概念に感銘を受けた。

 彼に言わせれば、「読書は人々の民度を上げ、文化の発展に寄与するもの。ゆえに、出版業界に身を置く企業として、良作が生まれ続ける環境整備に貢献せねばならない」という大前提がある。

 そこでメディアドゥでは、コンテンツの管理や、印税の分配、どの書店でどれだけ売れたかといった情報把握を一つの管理画面で行えるようにするなど、出版社が面倒に感じる業務を一手に担う。これにより出版社は作家の発掘・育成に注力できるようになり、ひいては作家へ適正な報酬が支払われる環境が整うことで、良作が多く生まれる土壌を作ることにも繋がる。

 またインターネットの性質上、電子書籍は国境を越えやすい。仮に1冊の本だけでも複数の国に流通した場合、どの国でどのように売れていて、現地通貨を日本円に換算するといくら儲かったのかといった管理をするのは、出版社には困難だろう。だが、メディアドゥの流通システムを使えば、煩雑な手続きも必要無く、海外へコンテンツを出していける。そうなると、より力作を生もうとモチベーションの高まる作家も多いのではないだろうか。

 書店側に対しても、デザイン性や使いやすさを追求した魅力ある店舗づくり、ユーザーへの宣伝活動といったマーケティングに特化してもらうことで、消費者が本を手に取りやすいようにする。出版社・書店の両面に働きかけ、読書文化の醸成に寄与しようというのがメディアドゥ流だ。

流通カロリーを引き下げる

 自社の利益だけを追求するのではなく、業界全体、さらには人類の文化に貢献しようというメディアドゥの姿勢は多くの人の心を動かし、今回の出版デジタル機構の買収にも繋がった(第1部に詳述)。

 メディアドゥでは流通にかかる経済的・時間的・精神的なコストのことを「流通カロリー」と表現している。本買収では、これまで二つに分かれていたシステムを統合することで流通カロリーを半分に引き下げるのが目的の一つだ。結果として出版社に多くの印税を払ったり、書籍の価格を安くしたりすることができるかもしれない。

 こうした大局観は、電子出版業界の巨人としても力を振るうアマゾン・ドット・コムに対する見解にも表れている。メディアドゥにとって、アマゾンは良好なパートナー。コンテンツを配信している先であり、ユーザーとの接点を持っていて、ITに強い企業だ。ただし、「アマゾンが強くなり過ぎるがゆえに、流通が一本化されてしまい、良い作品が生まれなくなる可能性があるのはいただけない」と藤田は懸念する。

 アメリカでは、電子書籍市場のシェア8割以上をアマゾンが取っているとも言われる。作家とアマゾンが直接独占契約を結ぶことも多いが、これはすなわち出版社を間に挟まないということ。出版社の編集能力を介さないまま著作物が世に出るため、作品のクオリティが下がる可能性も否めない。

 その結果、読者層が減ってしまったらどうだろうか。仮にマーケットシェアの9割をアマゾンが取ったとしても、本を読む人が半分になっては元も子もない。藤田が「アマゾンのためにも、アマゾンだけではない世界を作るべき」と説くのはこのためだ。

 彼らが目指すのは、あくまで品質の高い作品が出版され続ける世界の構築と読書をたしなむ層の拡大だ。そのための潤滑油の役割を、メディアドゥは担っていく。


強さの秘密2・明確なビジョン

強さの秘密3・IT発祥

出版業界にITを吹き込む

 こうした想いを実現させていく有力な手段がテクノロジーだ。前述の通り、メディアドゥの特長はただコンテンツを右から左に流すのではなく、システムをセットにして提供できる点にある。

 従来の出版業界は、ITに弱かった。紙の部数が減少しているという危機感こそあれ、今後業界全体をどうしていきたいかというビジョンが不明瞭なため、テクノロジーの利用と言われても、現時点での業務を効率化する程度にしか考えが至らなかったのである。

 片やメディアドゥは、元々インターネット事業を展開していたIT発祥の企業。出版業界が持っていなかった思想を軸に、「イノベーションのジレンマ」の解決が期待される。これで、出版業界がようやくITのアイデンティティを得たというところだろう。

 出来る限り多くの著作物をユーザーに届けるのがメディアドゥの使命だ。理論的に考えれば、インターネットを利用した電子書籍の方が流通しやすいのは確か。ただ、現在は紙で出版された全てのコンテンツが電子化されているわけではないため、まずはそこに貢献していくことが必要となる。

 また、運用面の重要性も見逃せない。メディアドゥのサーバが止まると、提携する多くの電子書店で著作物がダウンロードできない事態に陥る。ゆえに、彼らは決して止まっていけないという責務を帯びている。

 同社は2006年のサーバ稼働以来11年間に渡り、24時間365日、連続稼動率99・999%以上という驚異的な記録を誇っている。現在も1カ月で延べ3億以上ものコンテンツがダウンロードされているが、「月間60億ダウンロードまでは耐えられる」と藤田は自信満々。この安心感が信頼を生み、電子書籍普及に一役買っている。

デジタルらしさを追求

 ITを駆使することで、紙の本では決して出来なかった情報収集の形態も可能となる。例えばある雑誌が売れた場合、紙媒体ではどの書店で売れたかくらいしか分からなかったが、電子版であれば、どのページがよく読まれているかといった詳細まで把握できる。

 こうした情報は、マーケティングへの有効活用が考えられよう。仮にファッション誌の中である商品のページ視聴率が高かった場合、その理由を分析することでユーザー動向を研究できるのだ。「最終的には、様々な事象から需要が予測されるようになる」と藤田は語る。

 GPSとの連動も面白い。同じ本でも、ずっと家に引き籠って読んでいる人と、毎日通勤しながら読んでいる人では行動パターンも思考も違うだろう。おそらく、購入する商品も全く異なっていることが予想される。

 これ以外にもメディアドゥは、「デジタルらしさ」の追求に余念が無い。その一つが要約。多くのビジネスマンが本を読みたいと思っているものの、仕事をしながらでは1冊の読了に1週間を要する。そこで同社はフライヤーという会社を買収し、要点が分かるように再編集して提供しようと試みている。ユーザーはまずそれを素早く読み、気に入った内容の書籍を実際に購入すれば良いというわけだ。

 さらにこれとは別に、人工知能(AI)を使って自動で本をサマライズする技術も実装に向けて動いている。これを駆使すれば、1000字ある新聞記事も一瞬で自動要約される。字数はユーザーが指定。200字でも500字でもAIが重要な文脈を抽出してくるから驚きだ。

 藤田は「本を読まないのは買うお金が無いからではなく、読む時間が無いから」と分析し、「テクノロジーの力で本を読まない層にアプローチしたい。これは紙では無く、デジタルだからこそできること」と意気込む。

 電子書籍は紙のマーケットの20%しか無いと言われる中、彼らが挑戦するのはその数字を100%以上にすること。常にスマホを持ち歩くユーザーに対して、新しい読書の形態を発明・啓蒙することで、読書に費やされる可処分時間の増加を目指す。


 強さの秘密3・IT発祥

強さの秘密4・チャレンジ精神

共通本棚が読者の不安を払拭

 現在本を読んでいない人々をいかに読書層に取り込むかについて、メディアドゥは前述の他にも様々な施策に挑み続けている。

 まずは共通本棚の概念だ。紙の書籍ならば、購入した以上、紛失しない限り何度でも読み返すことができる。しかし、電子書籍はあくまでインターネットのサーバ上にあるデータを読み込めるという許諾権を購入することになるため、紙の本と同じような値段で購入したにも関わらず、「無くなるかもしれない」という漠然とした不安を抱えることになる。これがマーケット拡大の阻害要因になっている可能性も否めない。

 そこで、ユーザー側からすれば共通本棚、出版社側からすれば共通台帳を作ることによって、ユーザーが安心して電子書籍を購入できる基盤を作ろうというのがメディアドゥの考えだ。これは、ユーザーIDとコンテンツIDさえ共有できれば解決する。どこの書店で買おうが、メディアドゥのサーバと連携している電子書店であれば同社に履歴が残り、万が一その書店が無くなってしまっても、ユーザーは不自由なく再ダウンロードができるという仕組みである。

理念のため赤字も覚悟

 読者層の中には、「高価で買うには躊躇するが、図書館で借りて読みたい」という人々もいる。そして、この領域にもメディアドゥは果敢に斬り込む。あくまで彼らの理念は「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること」。そのためには、専門分野である電子書籍という観点からアプローチしていく。藤田も、「電子図書館は赤字になったとしても絶対にやらなければならない」と決意は固い。

 機能としては、一般的な図書館と同じだ。リアルの図書館で在庫がある分を貸し出せるのと同様、電子図書館でも出版社が付与したアクセス権の分だけ貸し出すことができる。例えば、図書館が出版社から3冊分のアクセス権を購入している状態の書籍ならば、借りられるのは3人まで。4人目になると貸し出し待ちリストに予約が入り、1人目が返した際に順番が来てダウンロード可能となる。

 もちろんデジタルデータなので、あえてアクセス制限をしないという見せ方もできる。1巻は誰でも読めるように完全開放して、2巻目以降は借りるようにしたり、10巻目以降は購入してもらえるようにプロモーションをかけたり、許諾権に関しては出版社の自由自在だ。実はアメリカでは、電子図書館で読めるようにした方が、紙の本も売れるという統計が出てきている。

 メディアドゥがこうしたチャレンジを続けるのも、明確なビジョンがあるからだ。この軸がある限り、彼らは「あるべき論」で未来を見据え、ITの力を惜しみなく使って文化の発展に貢献していくことだろう。



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