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トピックス -企業家倶楽部

2017年06月09日

触覚デバイスで新世界を拓く/H2L代表取締役 岩﨑健一郎

企業家倶楽部2017年6月号 スタートアップベンチャー





「ゲームプレイング」と聞くと、どんな姿を想像するだろうか。多くの人はテレビの前でコントローラを操作する様子か、携帯ゲーム機、近年ではスマートフォンなどの機器でゲームに興じる子どもの姿が目に浮かぶだろう。

 これらのゲームプレイに共通して言えることは、画面に映っている映像に対し、コントローラのボタン、またはタッチ画面を介してプレイヤー側から操作信号を送っていることである。これに対してゲーム側は、操作した内容に応じた映像と音を返し、人間の五感のうち視覚と聴覚に働きかける。

 これがゲームをする上で、プレイヤーとゲーム機器の間で交わされる基本的な情報交換だ。近年話題のVR(ヴァーチャルリアリティ)でも、この点は同様。全方向の映像描写における仮想現実を謳いながらも、あくまで視覚・聴覚のみへの情報フィードバックであり、コントローラを用いて操作を行うため、嗅覚・触覚・味覚の領域には踏み込めていないのが現状である。



生身の腕がコントローラーに

 今、そんな膠着したゲーム業界に新風を巻き起こさんとする企業がある。東京・江東区に本社を構えるH2L。2012年に創業した同社の主な事業内容は、人間の能力を引き出すための支援ツール(ハードウェア、ソフトウェア、サービスを含む)の企画、研究開発から製造、販売である。

 岩﨑健一郎率いる同社が、代表的な商品として2015年に開発したのが、腕に巻くだけで直感的にVRゲームを操作でき、かつゲーム内の擬似的な触感も得られる新技術が搭載された触感型ゲームコントローラ「Unlimited Hand(アンリミテッドハンド)」だ。

 これに搭載された新技術は、大きく分けて二つある。

 一つ目は「筋変位センサアレイ」と呼ばれるもの。腕に巻いた装置に内蔵されたモーションセンサーが装着した前腕の筋肉の動きを観測することにより、ユーザーの手の動きをVRゲーム上に再現できる技術だ。

 二つ目は「機能的電気刺激」と言い、内蔵された装置によって電気刺激を皮膚から筋肉に伝え、これを収縮させることでユーザーに擬似的な触感を与える技術である。

 これまでのゲームコントローラはボタンを押すタイプが主流であったが、VRやAR(オーグメンテッドリアリティ)のゲームにおいては、現実世界のような没入感が必要とされるにもかかわらず、実際の手指のような直感的な操作方法が無いという課題があった。

「一方、アンリミテッドハンドは、腕に巻くだけでユーザーの手指とVRゲーム内のキャラクターの手指とを連動させ、近年話題のヘッドマウントディスプレイと合わせて使用することで視覚、聴覚、触覚のという三つの感覚を再現できる」と岩﨑は強調する。あたかもその仮想空間に自分の腕があるかのような感覚をユーザーに与えるこれらの新技術によって、例えばゲーム内で敵に攻撃された際の衝撃を感じたり、銃を撃った時の反動を再現したり、画面内のキャラクターをあたかもその場に実在するかのように擬似的に触ったりすることが可能となるのだ。

 人間が知覚できる触覚は大きく分けて二つ。触られたり、つねられたりといった皮膚に感じる認識を「皮膚感覚」と呼び、骨や筋肉が動くことによって生じる、体が今どういった状態にあるのか動きを伴った感覚を「体性感覚」という。アンリミテッドハンドは体性感覚の方に重点をおいて設計されており、銃を撃った際に腕へと走る衝撃などはこれを利用したものだ。


生身の腕がコントローラーに

多数のセンサーで筋肉を操作

 実はH2L、アンリミテッドハンドの前身としてPossessed Hand(ポゼストハンド)と呼ばれる商品を生み出していた。「もしコンピューターがヒトの手を制御できたら」というコンセプトで開発されたこのポゼストハンドは2本のベルトで作られており、1本のベルトには14個、装置全体では28個の電極パッドが設置されている。

 刺激に使用する電極パッドの位置と電気刺激の大きさによって、前腕の筋肉を局所的に刺激し、脳の命令とは無関係に手指を動かすことができる。現時点では手指の16関節をポゼストハンドで動作できることが確認されており、「これによって、例えばピアノの演奏時に、次はどの指が動けばいいのか刺激を与えて知覚させることなどができる」と岩﨑は説明する。

 しかしポゼストハンドはアンリミテッドハンドと比べて装着する手間が大きく、各人の腕に合わせて調節しなければならなかった。その経験から、アンリミテッドハンドでは装着工程を短縮。センサー類を搭載したシリコンバンド形状の本体を腕に「巻くだけ」にし、ゲーム向けとして動きを「手首の動作、指の伸縮、腕に対する触感」の三つに限定することによって、一般向けの気軽に使えるアイテムに改良した。

 現在、アンリミテッドハンドは専用のゲームソフトの販売を行っておらず、ウェブページからいくつかのデモゲームがダウンロードできるようになっている。種類としては、人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばし、畳んだ薬指と小指に力を込めることでゲーム内の銃を発射、プレイヤーに衝撃が伝わってくるゲームや、手招きすると森の奥から鷹が飛んできて腕を啄まれ、軽微な痛みを感じるゲームなどがある。

 ソフトウェア開発キットはH2Lのサイトからダウンロードできるようになっており、パソコンとプログラミングの知識さえあれば、誰でもアンリミテッドハンドのコンテンツを作ることが可能。製品自体も、あくまで開発者向け商品として、アマゾン・ドット・コムのスタートアップ商品取り扱いページ「アマゾン・ランチパッド」にて3万5000円で販売されている他、ツクモパソコン本店や愛三電気などでも取り扱われている。



ソフト×ハードに勝機

 H2Lは今年で設立から5年。今でこそ投資家から目を付けられるほどの存在となったが、その道程は必ずしも平坦なものではなかった。

 創業のきっかけは2011年。共同創業者である玉城絵美が国際学会でポゼストハンドを発表するのとほぼ同時期に、偶然にも米TIME誌の記事「ベスト50イノベーション2011」に同製品が掲載されたのだ。

 すぐに世界中の研究者から「売ってくれ」との問い合わせが殺到した。玉城は「私の論文を読めば誰でも作れます」と答えたが、実際に彼女の論文から回路を設計してポゼストハンドを作れる者はいなかった。そこで岩﨑は「周りを見てごらん。作れる人はいないじゃないか。これは僕らで商品化して売った方がいい」と提案。元々学生時代から研究技術の将来性を広めるために起業しようと話し合っていた二人は、これをきっかけに決意。H2L創業に至った。

 だが、創業時は2012年。今でこそ「VR元年」と呼ばれる時代となったが、当時は参入する市場が見つからず迷走を極めた。研究開発型ベンチャーである以上、しばらくは開発で売上げを立ててはいた。しかし、研究分野は大きな利益を望める市場ではなく、世の中に対するインパクトも限定的となってしまう。VRが世間に認知され、15年にアンリミテッドハンドを開発・発表するまでは、「成長市場を探すのが大変だった」と岩﨑は当時の心境を振り返る。

「VRやARは日本が勝っていける数少ない市場だと思っている」と語る岩﨑。VR市場はアメリカやドイツなどでも人気が高い。しかし、この市場はソフトとハード、両面の技術力が必要。プログラムの開発をする人間は多くとも、モノづくりの土壌が無いアメリカでは、ハードを外注するしかないのが現実だという。これに対して、日本はモノづくりで世界を牽引してきたソニーやトヨタといった企業に代表されるように、繊細なモノ作りを得意とする風土が根強い。また同時に、電子機器・ソフト開発、そしてゲーム産業が盛んなのも日本の特徴だ。「ソフト× ハードならまだまだ負けない」と岩﨑も胸を張る。



目指すはロボットとの感覚共有

 現在、岩﨑率いるH2Lは次のステージを見据えている。当面の目標としてVR、ARの市場が見えてきた今、体の動き、特に手指のジェスチャーを電子化し、世界の標準規格に名乗りを上げようというのだ。

 具体的に狙っているのは、ロボット遠隔操作の分野。岩﨑は、現状のロボット操作に満足していない。「目や耳の情報はさておき、手の情報はデジタル化されておらず、経験の共有が出来る以前の問題だ」

 既存の操作技術をこのように評価する岩﨑が目指すのは、従来のようにコントローラで単純な動きを指示するロボット操作ではない。ロボット自体をまるで自分の身体のように乗っ取り、感覚を共有して、まるで第二の身体のように自由に動かせるレベルまで昇華させることにある。操縦者自身の身体の動きを読み取り、電子化した上、ロボットに送信することで、より精密かつ複雑な動きを可能にしようというのだ。

 例えば、プロピアニストの演奏時の動きをデジタルコピーし、離れた場所でロボットが全く同じ動きで演奏するといったことも今後は可能となる。この技術について岩﨑は「現時点で研究開発段階まで進んでいる」と自信に満ちた表情で語る。

「将来的には日本でもシリコンバレーのように起業が盛んに行われる場所を作っていきたい」と岩﨑。H2Lは日本、そして世界を牽引するベンチャーとなるか。その挑戦に今後も期待したい。

【企業概要】

社 名 ● H2L

本 社 ● 東京都江東区青海2丁目7-4

創 立 ● 2012年

資本金 ● 1億535万円



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