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トピックス -企業家倶楽部

2017年06月30日

【ベンチャー三国志】vol.44 孫正義、コムデックスのオーナーになる

企業家倶楽部2017年8月号 ベンチャー三国志


1995年、孫正義は展示会、コムデックスを買った。例年通り、アメリカのラスベガスでコムデックスが開かれた。マイクロソフトのビル・ゲイツも出席し、20 万人の関係者でごったがえした。前日、孫正義はビル・ゲイツとゴルフを楽しんだ。ラスベガスでの孫正義の縦横無尽振りを紹介しよう。(文中敬称略)

『企業家倶楽部』1997年1月号 孫正義特集より

【執筆陣】徳永卓三、三浦貴保、徳永健一、相澤英祐、柄澤 凌、庄司裕見子




 ソフトバンクグループは5月10日、2017年3月期の決算を発表した。それによると売上高は8兆9010億400万円(2016年3月期比0.2%増)、営業利益は1兆259億9900万円(同12・9%増)だった。なかなか良い成績だ。

 今回は海外事業をとりあげよう。まずアメリカ。ここは孫正義が青春時代を過ごした土地だ。特にカリフォルニア州は思い出深い。孫正義はカリフォルニア大学バークレー校出身だ。この大学で企業家を目指すことを誓った。

 ラスベガスでは有名な展示会、コムデックスも開かれた。孫正義はコムデックスのオーナーとなり、主催したこともある。その様子を見てみよう。1996年のことだ。

 カジノの町で世界中に名を馳せるラスベガス。通常の観光客とは違う、いかにもコムデックス関係者と思しき男性が目につく。若くて、エネルギッシュなビジネスマンが足早に行き交う。

 毎年1回、11月にラスベガスで開催されるコムデックスは世界最大のパソコン関連の展示会である。この展示会で次の時代を担う技術や情報を得んとする若者たちの期待で街が活気に満ちている。

 11月18日からの5日間、ラスベガスはコムデックス一色になる。街もホテルも普段の観光客は影をひそめ、20万人のパソコン、情報関連人口で膨れ上がる。



孫正義 ラスベガスに乗り込む

11月16日(土)

午前11時30分

 このコムデックスのオーナーであるソフトバンク社長の孫正義はスポーツシャツにブレザーという軽装でたった一人で現れた。

「やあ、こんにちは」。いつもの気さくなにこやかな笑顔。この人が18日から始まる世界最大の展示会コムデックスのオーナーとは思えないほどだ。

 前々日にサンフランシスコ入りし、出資会社となっている米シスコ社の役員会に出席、続いてロサンゼルスに常駐する、衛星放送“JスカイB”のパートナー、ルパート・マードックとの会談を終え、ロスから飛んできたのだという。いかにも世界を股にかける孫らしい。

 午後1時から始まる、ジフ・デイビス・パブリッシング社の営業会議に出席するために、コムデックスに先立って会場入りしたのである。

 このコムデックスを孫が手にいれたのは1995年2月、買収金額は800億円というから世間が度肝を抜かれたのも無理はない。

「背伸びしすぎの買収、孫はいったい何を考えているのか」。当時、巷ではさまざまに憶測された。

 しかし、このコムデックスでの孫の行動を追うと、その計り知れない影響力に驚く。ただの展示会のオーナーだけでない。世界中から集まる明晰な頭脳、社運をかけ英知を結集した新製品・新情報がここに一挙に集まってくるのだ。そしてここにはマイクロソフト会長のビル・ゲイツを始め、インテル社長のアンドリュー・グローブら世界中のパソコン関連の企業家が一堂に会する唯一の機会なのである。孫にとってはコムデックスのオーナーとして、居ながらにして、これらの経営者たちと接触できるのだからそのメリットは計り知れない。あらゆる可能性、チャンスを秘めている。これこそがソフトバンクにとって最大の”含み資産“といえる。まさにこの5日間はパソコン関連の最新情報が結集する宝庫なのである。

 コムデックスのメイン会場となるラスベガス・ヒルトンホテルにアメリカのコムデックス社では毎年1000室を確保する。ジフ社でも1000室を確保、取材陣として600人、出展関係者を400人送り込んでいる。

「来年開催される予定のコムデックスのブースも既に95%売り切っています」と孫は胸を張った。このコムデックスの力がいかに大きいかがうかがえる。これはパソコン関連業者にとっては目が離せない、最も重要な展示会なのである。

 開催前々日から始まった孫の過密スケジュールを克明に追ってみよう。


孫正義 ラスベガスに乗り込む

孫正義ジフ社の営業会議でビジョン宣言

11月16日(土)

午後1時~5時

 ジフ・デイビス・パブリッシングワールドワイド営業会議に出席。巨大なホテルが立ち並ぶラスベガスでも一際大きなMGMグランドホテル、ジフ社の選りすぐりの営業マン及び編集者が世界中から集まって行われるワールドワイド営業会議。

 ジフ社のオーナーとなった孫はここで初めて自らの経営方針を高らかにそして熱意をもって語った。

「ジフ社はパソコン関連出版では世界一の雑誌社である。オーナーが変わっても、何ら気にするには及ばない、これまで通り、君たちの思うように思い切り挑戦してほしい。私が目指しているのはただの一位ではない。断トツの世界一位である」

 孫の口から発せられたダイナミックな経営方針・構想に会場を埋め尽くした400人の社員たちの目が輝く。

「これは凄いオーナーが現れた、ますます面白い仕事ができそうだ」。皆の目に気合いがこもる。

 午後6時30分からはディナーパーティー&優秀営業マンの表彰式が始まる。孫はラフなスタイルで満面に笑みを浮かべ、たった一人で現れた。会場の400名の社員たちも思い思いのリラックスしたスタイルで身を包み、いかにも開放的だ。孫はその社員たちと楽しげに談笑しながらパーティーの中に加わった。会場後方では生のミュージックバンドが心地好いリズムを刻む。ここにはジフ社の選りすぐりの社員400人の熱気とインテリジェンスが渦巻く。

「君は今どんな仕事をしているの?」

「私はPCウィークの編集の仕事をしています」

「うん、あれは実におもしろい。これからも頑張って、時代をリードする誌面にしてほしいね」と孫。

「ありがとうございます。孫さんのことはビジネスウィークの記事で拝見しました。今日はお目にかかれてラッキーです。これからも頑張っておもしろい誌面にしますから期待していて下さい」

 孫は一人一人と握手をしながら、気軽に話しかける。孫の周りは常に人だかりができる。彼等の目はキラキラと輝き、午後の営業会議の席上オーナーとしてダイナミックな経営構想を語った新しいオーナーに対する尊敬の念が込められている。

 PCマガジンの編集長マイケル・J・ミラーは語った。

「孫さんは素晴らしい経営者です。そして大変エキサイティングなオーナーです。我々は若くて、ダイナミックな発想をする新しいオーナーを迎え、益々チャレンジ意欲に沸いています」

 彼の頬は孫に対する期待と興奮で紅潮している。

 ディナーパーティーも半ばになって、95年度の優秀営業マンの表彰式が始まった。社長のエリック・ヒッポーが受賞者の名前を一人ひとり読み上げ、いかに成績優秀で会社に貢献したかを紹介すると、会場から、拍手とヤジが飛ぶ。受賞者は胸を張って壇上に上がり、賞品を受け取る。

 思い思いに嬉しさを表現する受賞者。そしてそれを心から祝福する仲間たち。なんて明るく楽しげな授賞式であろう。気取りや堅苦しさはここでは無縁だ。

 こんな明るくてエネルギッシュな社員たちこそが孫が最も手にいれたかったものであろう。どの顔もいかにも頭脳明晰なエリートそのものだ。ここから新しい知恵、情報が生み出され、発信される。そんなエネルギーで会場はムンムンしている。この会場にいるだけで社員一人ひとりの熱気と胸の鼓動が伝わってくるようである。

 この表彰式は昨年から始まり、今年で2回目である。日本のソフトバンクでは数年前から、インセンティブ制度を取り入れ、表彰式を実施しているが、孫はそのスタイルをこのジフ社にも取り入れたのである。

 表彰式が終了すると次はダンスパーティタイムである。後方のミュージックバンドの音が一段と高まる。体が自然とリズムを刻み、一段と盛り上がりをみせる。

 孫はここでソーッと会場を後にした。社員に無用の気遣いをさせないためだ。オーナーと言えども、全て自分のカラーに染めてしまうというのは孫のやり方ではない。各々の個性を生かしながら、そこに新しい風を吹き込み、更に燃え上がらせる、そんな孫の経営手法にジフ社の社員は大いなる期待を寄せているようだ。

 この日、孫はジフ社で確固たる地位と信頼を築きあげた。


 孫正義ジフ社の営業会議でビジョン宣言

ビル・ゲイツとゴルフを楽しむ孫

11月17日(日)

 朝8時30分、孫は晴れやかな顔で停泊地のラスベガスヒルトンホテルを後にした。昨夜のジフ社のパーティーの疲れは微塵もない。

 きょうはパソコン界の帝王、ビル・ゲイツとゴルフを共にする。ゴルフ好きの孫にとっては最も楽しみにしている日程である。

 9時きっかり、待ち合わせ場所にビルが現れた。「グットモーニング、MASA!」「ハーイ、ビル!」2人は親しげに握手を交わし、談笑し始めた。ちょっぴり眠そうなビルとすっきりした表情の孫、いかにもたのしげだ。

 毎年11月に開催されるこのコムデックスには分刻みの忙しさに追われるビル・ゲイツも必ず出席するというのだから、いかに彼がコムデックスを重要視しているかがうかがえる。そして、開催前日、孫とビルはゴルフを楽しむことになっている。これも孫がコムデックスのオーナーなればこそである。まさにコムデックスが包括する偉大なる含み資産といえる。ラスベガス市内から車で十分、ミラージュホテルのオーナー、ケン・ウィニーが所有する個人のゴルフ場。クラブハウスのロッカーには元アメリカ大統領のブッシュ、バスケットの神様マイケル・ジョーダン、映画俳優のケビン・コスナーら著名人の名がずらりと並ぶ。

 贅を尽くしたそれでいて品の良い調度品が並ぶダイニングルーム。ここでまずは朝食を採る。パンケーキとミルクを注文する孫。なんとビル・ゲイツは朝から皿からはみ出しそうなステーキをペロリとたいらげた。過密スケジュールをこなすビルのタフネスぶりの秘訣は、この朝からステーキの食事なのかもしれない。

 ほどなく、本日のもう一人のメンバーであるビル・ゲイツの右腕、スティーブ・バルマーが現れ、いよいよグリーンに向かう。ビルが運転するカートに乗り込んだ孫、本当に楽しげである。

 10時スタート。ゴルフ好きでハンディ8という孫の華麗なフォーム、腰のひねりもしなやかだ。白球はまっすぐ青空を突き抜けていった。

11月18日(月)

 いよいよコムデックスが始まった。出展企業2200社、来場者は延べ20万人を超える世界最大のパソコン関連展示会。会場となっているヒルトンホテルロビーには獲物を獲んとする鋭い眼差しのビジネスマンが忙しそうにかっ歩する。

 朝8時、孫を乗せた専用車は基調講演が行われるアラジンホテルのホールへ向かった。町中コムデックスに寄せられる期待感で興奮ぎみだ。

 会場の前列に陣取った孫を報道陣が取り囲む。オーナーとしてにこやかな笑顔で応える孫。両隣は昨日ゴルフを共にした、ビル・ゲイツとスティーブである。2人と楽しげに談笑する孫、今年は余裕綽々である。

 丁度1年前のアラジンホール。まだ静まり返っている会場の同じ位置で、スピーチの練習をしていた孫の緊張した面持ちが昨日のように思い出される。5000人の聴衆を前に固い表情を見せた孫だったが、今年はオーナー2年目としての経験からか、余裕の笑顔をふりまく。この貫禄はこの1年間の孫の事業家としての活躍ぶりを象徴するようだ。

 懐かしい名前が出てきた。すべて1996年当時の社名と肩書きである。皆んな若かった。

 この辺で今回は終わる。次回は中国、インド、中東、ヨーロッパ編を紹介する。



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