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トピックス -企業家倶楽部

2017年07月03日

バイタリティーに溢れた挑戦者/及川智正の人的ネットワーク

企業家倶楽部2017年8月号 農業総合研究所特集第5部


東京農業大学で農学を修め、生産者と販売者の経験を持つ及川。そんな彼が生んだ農総研のビジネスモデルは、生産者に育てる農作物の自由を与え、かつその想いも含めて消費者に伝えてきた。明るくバイタリティーに満ちた人物と周囲が口を揃える及川は、日本の農作物が世界に届く姿、そして世界の農業の将来をも見据えている。(文中敬称略)



和歌山から世界の農業をリードせよ

和歌山県知事 仁坂吉伸  Yoshinobu Nisaka


和歌山から世界の農業をリードせよ


「農業総合研究所成功の最高殊勲選手は及川夫人」と語るのは、和歌山県知事の仁坂吉伸だ。「よくぞ、及川さんを和歌山に連れてきてくれた。よくぞ、及川選手を選んでくれました」と笑顔を見せる。

 和歌山県に本社を置く農業総合研究所は、創業以前から和歌山県と縁が深い。元々農家の出身でもない及川が、「日本の農業を元気にしたい」という熱い想いを胸に、農家に弟子入りしたのが、妻の故郷の和歌山県である。

 農家である妻の実家で農業を体験、大阪で販売も経験し、このままではダメだと一念発起したのが農総研創業のきっかけだ。その及川の妻は今も和歌山県で、農業振興に従事しているという。和歌山で農業を学び、同地で起業した及川の全ての発端が、和歌山県であり、妻であるという事実を鑑みれば、まさに彼女が最高殊勲選手と言えよう。

 仁坂が初めて及川に会ったのは、和歌山県企業ソムリエ委員会激励賞授与式の時だ。これは和歌山を代表する世界企業、島精機製作所の島正博が会長を務め、島に続く経営者を発掘しようとスタートしたもの。その2011年の激励賞に及川が選ばれたのである。仁坂は「及川さんは背がスラリと高くカッコいい、顔が華やかで何より明るい。プレゼンも立派だった」と初対面の印象を語る。

「及川カンパニーは和歌山県で株式上場を果たした数少ない企業の一つ。しかも農業ベンチャーは日本初。これはスゴイことです」

 地方行政の一番の主眼は雇用。雇用があってこそ初めて人口を養える。そのためには産業活動を盛んにする基盤を整備しなければいけない。「産業振興に一番良いのは和歌山に本社を作ること。島さんのような企業家が100人いたら万々歳なのですが……」と仁坂。産業政策に熱心だが、特に力を入れているのが起業支援だ。

「アイデアや技術を持っている人に対して、お金と人材をマッチングするアクセラレーションをやろうとしています。企業ソムリエ委員会もその一つ。こうした施策を実施しているのは和歌山県だけでしょう」

 この目的にピッタリ適ったのが農総研。「及川さんの会社は我々が手伝う前に出来ていたが、とても評価している」と仁坂も嬉しそうに語る。

 今年3月には、和歌山県の広報番組「きのくに21」の「知事と語る」コーナーで、及川がゲストで出演した。仁坂曰く「元気印の方に出てもらって、勇気付けをするにはピッタリ」。農家とスーパー、消費者をマッチングする今の事業は画期的で、「日本の農業を楽しいものにしたい」と熱く語る及川に改めて感心したという。

「和歌山の人は温厚で、及川さんのような県外出身の方でも快く受け入れる」と仁坂。こうした県民性と、多彩な野菜や果物が採れる豊かな土地・風土が和歌山の強みだ。農総研がこの地でスタートしたことこそ、成功への一歩だったのかもしれない。

「上場すると自己満足してしまう経営者がいるが、及川さんは心配無い。どんどん理想を追い求める。日本の農業を楽しいものに変えようと頑張っている姿は頼もしい限りです」

 企業は成長に伴い、管理、財務のプロが必要になってくる。そういう人材を集め、堅実に経営している点では、仁坂も今後の農総研の成長に楽観的だ。課題は、エキスパートを和歌山本社の中で育てる段階までは至っていないこと。「和歌山本社で優れた人材を育てられるようになれば100点満点」と語る仁坂は、「和歌山に拠点を持って世界中の農業をリードして欲しい」とエールを送った。



冒険は最良の師なり

東京農業大学 学長 髙野克己 Katsumi Takano


 冒険は最良の師なり


 及川の母校であり、現在は非常勤講師も務める東京農業大学。その現学長が、髙野克己である。

「本学の卒業生が、消費者と生産者という双方の立場を理解しながら仕事をし、業績を伸ばされているのは喜ばしい」と及川を高く評価する髙野は、「本学の農家実習が及川社長の現場力に繋がっているのではないか」と分析する。

 この実習では約1週間農家へ赴き、作物を育てる実体験を通して、農業経営の成り立ちを学ぶ。及川も学生時代、座学だけではなく、農家の人々と食事や作業をしながら様々な話をする機会を得たはずだ。また及川は実際に農業や八百屋を営んだ経験を持ち、その苦労が身に染みているからこそ、情熱をもって農家やスーパーを説得できるのだろう。

 髙野は、作物に対する農家の人々の想いを理解しないまま、言葉だけで地方活性化を唱える傾向には懐疑的だ。「どうすれば農作物が売れるかといった机上の空論だけではいけません。農業の技術を持ち、かつ地域を理解して再生・創生していく人材が必要です」。その意味で、及川の事業は理想的であると言えよう。

 現在の日本の農業について、髙野は東京農大初代学長である横井時敬の言葉「農学栄えて農業滅ぶ」を引き合いにして警鐘を鳴らす。日本の場合、肥料の製造や遣り方など、大学で研究した技術が実際の現場に応用されていない。これからは農学がどのように農業の発展に関わっていくかが問われるだろう。

 農業が土地に根付いた産業であることも重要な事実だ。工業製品は、同じ機械さえあればどこでも製造できる。だが、農業はそうはいかない。いくら農業分野で技術革新が進んでいるとは言え、自然環境と調和した産業であることは間違いないのだ。

 喜ばしいことに、日本の農産物は世界で高く評価されている。作物が大きく、見栄えも良く、そして美味しい。外国から来た多くの人は、美味しいものが沢山ある国として日本を評価する。実際、海外輸出の中に日本の農産物は増えてきた。この額を1兆円とするのが政府の目標だ。日本の農産物が世界的に認められるにしたがって、就農したいと思う若者も増えている。

 髙野は、「日本の技術で作っているという事実自体をブランドにしたい」と説く。日本の土地で作られた農産物や食品は、高い値段で売れる。しかし、富裕層だけではなく、日本の農産物を世界の憧れにしたいというわけだ。

 例えば、フランス料理は誰もがブランドと認めるところだが、食材に関しては様々な土地のものを使っている。一方、日本料理は、その土地の食材の美味しさを最大限に引き出して作るものだ。「食文化と一体になって、日本の農産物を世界に売り込めれば良い」と髙野。及川率いる農総研も将来的には、その潮流の中心を担っていくことだろう。

 そんな及川へ、髙野が送りたい言葉は二つ。一つは前述の「農学栄えて農業滅ぶ」。そしてもう一つは、東京農大建学の祖である榎本武揚が残した「冒険は最良の師なり」である。榎本は幕臣としてオランダに留学し、帰国後は戊辰戦争に参戦。五稜郭の戦いで敗れた後、明治政府に出仕し、国家の発展に寄与した男だ。

「榎本公が冒険と言うと、大それたことをせねばならないように思えますが、毎日が新たな一歩であり、冒険です」と語る髙野。「今後ますます日本の農業を元気にし、世界に展開していくことを期待するとともに、是非後進を育ててほしい」と及川にエールを送った。



なぜか応援したくなってしまう人 

新日本スーパーマーケット協会 事務局次長 兼 事業本部長

村尾芳久 Yoshihisa Murao


 なぜか応援したくなってしまう人 


 村尾と及川の出会いは10年前。及川が事業を立ち上げたばかりの頃だった。資金も人脈も無いが、元気と情熱と笑顔だけはある。そんな及川の話を聞き、「これは面白い事業だ」と直感した村尾は商社に紹介。しかし、時代が追いついていなかったのか、「良いところに目を付けましたね」と関心は示されるものの、それ以上の展開は無かった。

 その後、しばらく及川とは会うことのない日々が続いた。「最近あの人を見ていないけど、どうしているのかな」。何か心に引っかかるものがあったという村尾。電話をかけて近況を尋ねると、その時に注力している事柄の話はするが、「誰かを紹介してください」と村尾の人脈を頼ることは無かったという。

 現在村尾が事務局次長を務める新日本スーパーマーケット協会は、会員・賛助会員を合わせて約1200社、全国で6000店舗を擁する。この巨大なネットワークを持つ協会に、特に何かを依頼するわけでもなく、及川は付かず離れずの関係を保ってきた。

 折に触れ、村尾は「今どうしてるの」と彼に電話をかけ、年に一度は昼食を共にした。「及川さんは、なぜか気になってしまう人。大変な苦労をされてきたと思うが、人相が全く変わらないのには驚きます。どんな経営者でも、苦労するとどうしても表情が険しくなりますからね」

 二人の状況は、農総研の上場前後から変わった。急激に出会う機会が増えたのだ。「面白い人がいるから紹介します」と言われ、よくよく話を聞けば、それは及川。「なんだ、10年前から知っているよ」。そんなことが何度も続いた。新日本スーパーマーケット協会のネットワークとは関わりなく、及川自身で人脈を構築していること、ひいては、彼が多くの人の関心を集める事業を展開していることの証であろう。

「皆さん、成功する人は運が良かったと言いますが、それも実力です。どんな人にでも平等に、人生を変えるような人や情報との出会いがあったはず。そのチャンスに気付き、どのような人間関係を築けたか。この人を応援したいと思わせたかが重要なんでしょうね」

 村尾は、2016年には新日本スーパーマーケット協会の勉強会に講師として及川を招聘。さらに17年のスーパーマーケット・トレードショーには農総研が企業としてブースを出展した。「農総研のコーナーは常に人で賑わっていたのが印象的だった」と語る村尾。同社の取り組みが業界からも注目されていることは明白だ。

 産地直送の、一番美味しいタイミングで収穫された青果を、採れたてで消費者に届ける。香りも味も違う野菜や果実は、一度食べたら忘れられない。

 農総研の流通は、農産物を通して生産者と消費者の間のコミュニケーション媒体になっていると言えよう。農家、店舗、消費者を繋ぐシステムの構築には骨が折れるが、一度できてしまえばなかなか真似ができない強力な仕組みだ。

「一生懸命生産に取り組む農家さんを一緒に育てていきたい。農総研の仕組みは成長するでしょうし、社会貢献度の高い会社なので、期待しています。まだまだこれから。現状に満足せず、進んでいってくださいね」

 情熱には情熱で応える。それが村尾流だ。



切磋琢磨し合うライバル 

ベルグアース代表取締役社長 山口一彦 Kazuhiko Yamaguchi
 切磋琢磨し合うライバル 


 全国の生産者向けに接ぎ木の苗を販売するベルグアース。社長の山口が及川と出会ったのは、彼が農総研を創業して間もない頃だ。及川の名は薄々知っており、興味を抱いていたところ、その彼が地元松山で講演をするというので、早速聴きに行ったのがきっかけである。その際の印象は「若くて、声の大きな男」。農家のために尽くしたいという熱い想いがひしひしと伝わってきて、凄みを感じた。

 その後、差しで会ってみると及川の方でも山口をよく知っていた。実は、及川が和歌山できゅうりを育てていた折、購入していたのがベルグアースの苗だったのだ。

 お互いに「上場したい」という夢も語り合った。何を隠そうベルグアースは、元々の会社である山口園芸から上場に向けて分社化した企業だ。そんな時に及川の話を聞き、刺激を受けた山口。「こんな若造に負けたくないと思いました」と笑う。

 上場に関しては、どちらが先に達成できるか競争。切磋琢磨した結果、ベルグアースは2011年大証ジャスダック(現東証ジャスダック)に上場を果たし、一足遅れて16年、農総研が東証マザーズに上場した。「次は東証一部!」と山口の意気は衰えない。

 農業に関心のある若者から思いの丈を聞くことが多いという山口。「その中でも及川君のインパクトは毎回強烈ですね。こちらに喋る暇を与えない程、積極的にガンガン来る」。ただ、山口はその情熱の裏に優しさや厳しさも感じ取っている。

「苦労をしているのが分かるので、この人とは一生付き合えると思いました」

 多忙な二人だが、1~2カ月に1回は農業関連ベンチャーの仲間を集め、情報交換の場を作ろうと張り切る。「ここから何社上場企業が出るか楽しみ」と山口はやる気満々だ。

 農業関連企業は上場の事例が少ないのが現状だ。ただ、山口は「モノづくりにはこだわりも自信もあるが、特に経営センスがあったわけではない」と謙遜。

「一生懸命ここまで来た。俺らでも出来たんじゃけん、君らも出来る」と若手を叱咤激励する。

「日本の農業に革命を」がベルグアースの経営理念。そして、革命には仲間が不可欠だ。及川はじめ、「農業で世の中を良くしていきたい」という想いを持った人たちと同盟を組み、力を付けていく。上場も、資金力・人材力・知名度といった力を得るための一つの手段に過ぎない。

 今やベルグアースは、「日本一の苗会社」とも呼ばれる。しかし山口は「これからの農業は製造業としての側面を見なければならない」と説く。規模を拡大していく上では分業化が欠かせない。そういう意味では、ベルグアースは苗の分野を、農総研は流通を担ってきたと言えよう。

 山口曰く、「農業は報われにくい」。生産者は暑い日も寒い日も丹精を込めて作物を育てているが、それでもお客の反応が見えない。ともすれば、モチベーションの維持が難しい産業と言ってもいいだろう。「農総研はこの傾向の歯止めにならねばならない」と山口。生産者の作物だけでなく、想いまで含めて消費者に届けようと奔走する及川に強く共感を示す。

 今後は今以上に連携して、農家と消費者に喜ばれる施策を打てないか模索中だ。「生産者がもっと頑張ってみようと思える世界を作りたい」と山口は語る。

 及川へのメッセージを問うと、「起業しようと思った時の気持ちを大切に。そして、私ももっと大事にしてね(笑)」と茶目っ気を見せた山口。最後に「俺はお前に負けんぞ!」と一声吠えた。この二人の切磋琢磨は、今後も続いていくことだろう。



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