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トピックス -企業家倶楽部

2017年08月04日

生産者と消費者を繋ぐ/農業総合研究所の強さの秘密

企業家倶楽部2017年8月号 農業総合研究所特集第2部


農家とスーパーを繋ぎ、消費者に産直の農作物を届ける農総研。流通という立ち位置を生かし、旧態依然とした業界に風穴を開ける彼らは、どこまでもベンチャー気質だ。ITを駆使して農業に関するあらゆる情報を見える化。閉鎖的・社会主義的な農業に構造改革を促す同社の強さの秘密に迫る。(文中敬称略)



強さの秘密1・流通革命

スーパーに道の駅が出現!?

 6月6日午前10時前。都内の某大手スーパーには、この日もひっきりなしにお客が訪れていた。入口の自動ドアをくぐると、ひときわ異彩を放つコーナーが目に飛び込んでくる。一カ所に固まって並んでいるのは、赤、黄、緑、色とりどりの野菜たち。その横に立つ幟には「農家さんから直送」の文字が揺れる。

 近づいてよく見ると、レタスやトマトはもちろん、ズッキーニ、ラディッシュなど珍しい野菜から、コールラビ、コリンキーといった耳馴染みの無い種類まで様々だ。平日ながら、子連れのお母さん、老夫婦、学生風の若者と客層は幅広い。皆、コーナーをぐるりと回って吟味し、「これ!」と思った商品を籠に入れていく。

「こんな良い場所に置かせていただいて、ありがたい限り」と爽やかに語るのは、農総研の経営企画室でチームリーダーを務める新井雄貴。なにせ入口の目と鼻の先だ。「夕食の仕度前、午後5時頃には大体完売する」と胸を張る。

 同じ野菜でも、個体の大きさや一袋に入っている個数は千差万別。当然と言えば当然だ。農家が違えば、付ける値段も育て方も違うに決まっている。野菜の入ったパッケージに貼られているのは、生産者の名前を印字した特殊なバーコードシール。農家が自身の名前を公開して、販売を行っているのだ。

 ここには前日の朝に収穫された野菜が届くため、「鮮度・熟度ともに抜群で美味しい」と評判だ。生産者の顔が見えるので、「ラベルの名前を見て、特定の農家の野菜を買って行くファンもいる」と新井。言わば、突如スーパーに出現した「道の駅」である。

 とはいえ、もちろん毎朝農家が一軒一軒スーパーを回って配達しているわけではない。それではあまりにも手間がかかるし、日によって納品される量や種類が変わるのではスーパー側も困ってしまう。そこで、生産者とスーパーの間を取り持っているのが農総研というわけだ。

 同社のビジネスモデルの要は、北は山形から南は沖縄まで広がる全国65拠点の集荷場。ここに集まった果菜はまず大阪と千葉・浦安の自社センターへ向かい、次にスーパー各社の物流拠点へ。そして翌日早朝にはスーパーの各店舗に納品され、消費者の元へと届くのだ。この仕組みを紐解くために、ある日の集荷場を覗いてみよう。

農総研の要は集荷場

 6月2日午前11時。成田駅から車で1時間弱、成田空港にも程近い農総研の旭集荷場には、千葉県旭市や成田市近郷から続々と生産者が集まっていた。大きな倉庫の壁という壁、そして中央に積まれたプラスチック製の箱には、提携しているスーパーの店名が書かれたプラカードがズラリ。次々に訪れる農家の人々は、それぞれが出品したい店名を見つけ、その下に置いてある箱の中に丹精込めて育てた野菜を入れていく。正午までの1時間で、農産物の入ったケースは見る見るうちに山積みとなった。

 集荷場には、自宅で商品を梱包して持って来る人もいれば、その場で一つひとつ袋詰めする人まで様々だ。「採れたてのピーマンを集荷場で5個ずつ詰めて出品するのが日課」と話す女性もいた。

 農総研のスタッフはバーコードシールを農家の人と一緒に貼ったり、新しいプラスチックケースを用意したりと常時飛び回る。そんな彼らに対し、時には生産者がおにぎりを差し入れてくれることも。集荷場は、農総研が地元の農家とコミュニケーションを取る場にもなっている。

 集荷場の端には、なにやらタブレット端末を触っている人の姿があった。ここでは、どの店舗にいくらで売り出すかを決定し、専用のバーコードシールを発行できる。実は、バーコードの規格はスーパーごとにバラバラ。そこで農総研は、自社の流通に乗せる農産物に貼るバーコードを一括で作れるように、専用の機械を開発してしまった。

 あらゆるスーパーのラベルが同じ端末から出せるようになったことで利便性は向上。今では、農家が自宅でもシールを発券できるようになっている。金額、出品場所、量を自由に設定するなど、これまで農協の管理下にあった農業界では考えられないことだった。

物流コストを極力削減

 農総研は流通を担う言わば「中間業者」だが、農協よりも遥かに高い売値の約65%を農家に還元している。これを可能とするのが独自の物流手法だ。自社もしくは業務提携先が地方の空き倉庫を安く借り、集荷拠点としている。物流に関してもアウトソーシングし、持たざる経営を貫く。

 ただ同社は、農家から消費者に直接農産物を届けるB2C企業のように、宅配便を使っているわけではない。ある企業では、「?農家から会社、?会社からお客」という具合に計2回宅急便を使っているが、これでは輸送コストが高くついてしまう。

 そこで農総研は、農協のように10トン車とまではいかずとも、4トン車や8トン車をチャーターしてスーパーの拠点に届ける。その後の流通に関してはスーパー側が責任をもって行ってくれるので、費用も手間も掛けずに済むという寸法だ。

 少量多品種の流通を売りとしながらも、最も面倒な仲介業務を自ら行うことで中抜きを徹底排除。「弊社では輸送にかけられるのは末端売価の5%まで。どこよりも物流コストを安くしなければ事業が成り立たない」と創業社長の及川智正は語る。


強さの秘密1・流通革命

強さの秘密2・四方よしの経営

産直商品で差別化

 農総研が取り次ぐ「産地直送」の農産物は、スーパーにとって他店との差別化を図る良い商材となりうる。冒頭で紹介したように、コーナー自体を全面的に押し出すなど、注力している店舗も少なくない。

 現在、スーパー業界は飽和状態と言われる。売場面積は増加しているものの、運営する企業数は吸収合併や倒産によって年々減少しているのだ。同じような食料品を取り扱うため、近隣の店舗と価格競争を強いられることも多い。

 そこで農総研の産直果菜が武器となるわけだが、販売店が商品を買い取るのではなく、あくまで委託販売の形である点もスーパーにとっては嬉しいところ。つまり、在庫リスクが発生しない仕組みなのだ。産直果菜は人気のため、売り切れることがほとんどだが、万が一売れ残ってしまっても、スーパーは廃棄するだけで良い。また、陳列方法や賞味期限間際の値引きまで、全て各店に一任されているため、せっかくの商品を余らせぬよう企業努力のしがいもあるというものだ。

 時には農総研のスタッフと農家が店舗に出向き、朝採れ野菜のフェアを開催することもあるという。収穫したての野菜を農総研が直接店舗に持ち込み、お客は実際に育てた生産者からおすすめの食べ方を聞くことも可能。もちろん集客効果は抜群だ。一日だけで15万円を売上げることもある。

道の駅と農協の間を行く

 全国6500もの農家を惹き付けているだけあり、農総研のシステムには農家のメリットも大きい。

 農協による流通では販売店に届くまでに最短でも3~4日かかり、それよりも前に入荷していた商品があれば、そちらが優先的に店頭に並ぶため、もっと日数が経ってから置かれるケースもざらだ。

 また、農協に出荷した分の手取り金額は、末端売価の約30%と言われている。全て農協が買い取るため、売れ残りのリスクは無いものの、量、品種、大きさといった指定が厳しく、そもそも商品として受け取ってもらえない作物も多い。

 この農協のシステムと正反対に位置するのが、道の駅などの直売流通だ。こちらは、生産者が直売所に農作物を直接持ち込むため、鮮度が良い商品を届けられる上、中間業者を一切介さないので手取り金額も売価の約80%と大きい。しかし、出荷する時だけではなく、売れ残りも含めて自分で運搬しなければならず、忙しい農家にとっては手間がかかり過ぎるのが難点だ。

 農総研の仕組みは、この両者の中間に位置していると言って良いだろう。前述のように、収穫した果菜は翌朝には確実に店頭に並ぶため、鮮度抜群。その分、消費者の手にも取られやすい。そして道の駅と同様、農家は価格や出荷場所を自由に決められる上、農協では扱ってもらえないような野菜も出荷できる。

 手取りは末端売価の約65%と道の駅に比べ若干劣るものの、人々の目に触れやすい都心のスーパーに商品が並ぶと思えば納得であろう。集荷場が近くに無い農家は、提携しているスーパーの商品センターに直接宅急便で送ることも可能。薄利多売の農協の他に、農総研による流通という新たな選択肢が生まれたのである。

安心・安全を届ける

 これらのメリットは、ひいては消費者のためにもなる。近年、日本でも食の安全について敏感な消費者が増加した。生産者の顔が見える野菜には安心感を覚える人も多い。

 例えば、通常店頭に並んでいるトマトは、皮は真っ赤でも切ってみるとまだ熟れていないことが多々ある。これはまだ青い段階で収穫されたものが、輸送している間に赤くなっているため。農協の流通では店頭に並ぶまでに時間を要するので、熟してから収穫していては、消費者が購入した頃には傷んでいる可能性も否めないのだ。

 しかし農総研のトマトは、包丁を入れても皮と同じ真っ赤な身が現れる。消費者にとって、収穫翌日の農産物が近所のスーパーで手軽に買えるのは嬉しい限りだ。しかも、価格は市場流通の約80%。美味しいだけではなく安い。通常はスーパーに並ばないような珍しい野菜も選べる上、多くの農家が出品しているため、同じ野菜でも品種やサイズ、量が異なり、選ぶ楽しさもある。

 このように、農家、スーパー、消費者、そして自社の全方位に対してメリットを提供しているのが、農総研飛躍の秘訣となっている。


強さの秘密2・四方よしの経営

強さの秘密3・泥臭いIT

農業に創意工夫を

 農総研は「農業×IT」を掲げているだけあり、同社の仕組みの至るところにITを駆使している。及川曰く、その特長は「泥臭いIT」。ITベンチャーと聞くと、「パソコン一つで起業し、売上げの半分が利益」といったイメージを抱く人もいるだろうが、農総研の本質はあくまで流通企業だ。IT活用の原点は、創業期に及川が一人でコツコツとこなしていた業務をシステム化していった歴史にある。

 同社は都会のスーパーに委託販売をしてもらっている。そのため、地方の生産者としては、どの程度売れているのか見に行くことが物理的に難しかった。そこで、スーパーのレジ情報を吸い上げ、売上げを逐次伝えるシステムを開発した。「これも元々は、私が一つひとつ記載して各農家さんにメール配信していたのが始まり」と及川。どこで何がどの程度売れているか伝えることにより、生産者が翌日集荷場に持ち込む果菜の量や価格、出品店舗を決める際の判断材料となっている。

 農家はタブレットなどで専用ページにログインすれば、今日一日の売上げだけでなく、売れ残りの個数、月末の入金額などが分かる。週、月、年単位で売上げを管理することも可能。更に、他の生産者が付けている金額の最高値、最低値、平均を知ることで、値付けのヒントに出来る。また農総研は、スーパーの5倍ポイントデーや自社スタッフ参加の店頭販売といった、高い売上げが見込めるイベント日程も見逃さずに共有する。

 彼らがスーパーの店舗情報まで網羅しているのは自明だ。生産者は、立地や駐車場の有無、売り場面積、客層といった様々な要素を一目で把握できる。特売品情報だけでなく、スーパーで売られている農協経由の果菜の価格まで調べがつく。当日のチラシそのものが表示されるというから、その徹底度が知れよう。

 このように多種多様な情報が自宅にいながらダイレクトに分かることで、生産者は売れるための創意工夫ができるようになった。努力して収入が上がれば、それはモチベーションと楽しさにも繋がる。

栽培記録まで蓄積

 農総研では、生産者の売上げだけではなく、栽培記録に関してもデータを取っている。種を蒔いた時期、使用した農薬などの生産履歴を100%デジタルに落とし込んでいるのだ。栽培情報を入れなければ、販売に必要なバーコードシールが発券できない仕組みにすることで、消費者の安全・安心も保証している。

 これは、職人的な経験と勘に頼ってきた第一次産業において、大きな変化だ。企業であれば技術はマニュアル通りに伝承されていくが、農業の場合そうはいかない。平地と山間部の農業は全く別物であり、谷を一つ跨げば風向きも地質も違う日本においては、特に難しかろう。しかし、全国各地から栽培データが集まり、ビッグデータを構成すれば、科学的に成功法則が導き出せるかもしれない。こうした情報は、今後農業を始めたい人にとっても役立つだろう。ともすれば、農業人口の増加にも寄与する可能性がある。

農業の周辺領域を網羅

 6500もの生産者が、毎日農総研のシステムを使うようになれば、大きな強みとなる。生産者側に有益な情報を発信できるのはもちろん、例えば肥料や苗を紹介するバナー広告が取れる可能性も望める。

 また、銀行との業務提携も推進中だ。「将来的にはフィンテックを取り入れたい」と語る及川。日々の売上げだけではなく、肥料の購入などが全て会計システムに反映され、簡単に青色申告を行えるようにしたい考えだ。様々なデータが連動して一元管理できるようになれば、農家の負担も減るに違いない。今後、農業のあらゆる周辺領域が農総研の手の内に収まっていくだろう。

 現在、農総研は関西の一部スーパーで試験的にタブレットを置いている。商品に貼ってある2次元バーコードを読み込むと、生産者の情報をその場で見ることが出来る仕組みだ。具体的には、生産者が農産物を収穫しながらコメントしている様子や、出品した果菜を使ったレシピの一例などが動画で流れるようになっている。

 都会の人たちは生産現場を見る機会が無い。これを知らなければ、野菜を選ぶ基準として価格を重視するのも止むを得まい。そこで重要なのは、「農家の人たちがどのような想いで作物を育て、先祖伝来の畑や土地を守っているのか伝えること」と東京農業大学学長の髙野克己は説く。こうした想いやこだわりを伝える役割も、農総研は担っているのだ。


 強さの秘密3・泥臭いIT

強さの秘密4・構造改革

社会主義的農業にメス

 農業の歴史を紐解けば、戦後GHQの指導による農地解放の影響が大きい。これにより、国は従来の小作人に幅広く農地を分配し、農地法を制定して再び大規模化が起こらないように規制を行った。こうして自作農が急激に増加したわけだが、戦後の食糧不足や交通網未整備の中では、食っていけない者も出現。そこで、戦前からあった食糧管理制度の延長上として、政府が米を全量固定価格で買い上げるシステムが構築された。

 この流れの中で、農民を支える基盤として発足したのが農協だ。社会が不安定な時代においては、農協が規格品を定め、それを買い取る制度は安心・便利で、多くの農家が救われた。彼らは生産者から集めた作物の「量」を武器に、価格交渉力を持って市場で取引し、利益を分配。ある意味、社会主義的だったとも言える。

 しかし、現代にあって「農協しか選択肢が無いという状況は良くない」と及川は説く。自由競争が当然の資本主義経済の中、農業だけが時代に取り残されてしまった。時勢に合った流通を作り、選択肢を提供することで、社会主義的農業に変革を促しているのが農総研なのである。

持続可能な農業を

 将来、農業が衰退することは許されない。その中で、自給自足、有機栽培、家庭菜園といった様々な形態があることは望ましい。現在、業界が盛り上がりに欠けているのは事実だが、一部では農業再建に熱い想いを持った人間たちが集まっている。農総研にも若い生産者からの問い合わせが後を絶たない。

 農業とは、果菜の生産に止まらない。トヨタが車を作って終わりではなく、それに乗って快適な生活を楽しんでもらうことを目的としているのと同様、及川に言わせれば、農業は「日本、世界の人々の胃袋と心を満たす」産業なのである。

「農家も企業のように事業計画が立てられれば、先の見通しが立ち、自信をもって子供に継がせられる農業が実現できる」とCFOの松尾義清は説く。「持続可能な農環境を実現して生活者を豊かにする」ことを掲げる農総研。彼らの仕組みが日本、世界に広がれば、農業全体の革命に繋がるだろう。及川が一人で始めた同社だが、今は頼りになるスタッフが集まり始めている。彼らは理想を胸にどこまで駆けるのか、楽しみだ。


強さの秘密4・構造改革

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