• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年08月14日

中東ドバイ、「未来都市」に変貌中ー世界中のスタートアップの知恵を結集

企業家倶楽部2017年8月号 グローバル・ウォッチ vol.14


自動車が空を舞い、列車が真空チューブの中を旅客機以上の高速で移動する。アラブ首長国連邦(UAE)の商都ドバイでSFの世界のような驚きのプロジェクトが進行中だ。世界のスタートアップ企業からアイデアを募り、そのパイロット事業をドバイで実施することでイノベーションを加速する狙い。輸送、建設、医療など7つの分野で将来のビジョンを描き、ポスト石油時代の「未来都市」を他国に先駆けて実現しようとしている。




 この7月、ドバイの空をタクシーが飛行する。空撮などに使われているドローンを一人乗りに改良した車両で、「自律航空車両(AAV)」とドバイ政府は呼ぶ。8つのプロペラで空中での姿勢を制御するとともに、推進力を得る仕組み。「空飛ぶタクシー」は道路交通庁(RTA)が2月に発表したプロジェクトで、試験飛行ではなく、実際に運行を始めるのだという。ドバイが主催した国際会議「ワールド・ガバメント・サミット」でAAVの実機が展示され、タイールRTA長官は「これは模型ではない。ドバイの空ですでにテスト飛行を終えている」と語った。乗客は車内に設置されたタッチスクリーンを見て、表示された地図で行き先を指定すると、自動で離陸して目的地まで飛んでいく。運転手はいない。

 ドバイが飛ばすAAVは中国広州市に本社を置くドローンメーカー、広州億航智能技術(イーハン)が開発中の「EHang 184 」という機種。大きさは長さ4メートル、幅4メートル、高さ1.6メートル。重さは250キログラム。最高時速160キロメートルで30分のフライトが可能としているので、80キロメートルは飛べる計算だ。90メートル以下の高さを飛ぶことを想定。動力源は電池で、充電に要する時間は1~2時間。同社のホームページには無人の「EHang184」が実際にゆらゆらと飛行する映像が公開されている。

 タクシー配車サービス大手の米ウーバー・テクノロジーズも2016年10月に空飛ぶタクシー構想を打ち上げ、この4月には20年までにドバイと米ダラスで試験飛行すると発表した。「オスプレイ」を製造する米ベル・ヘリコプターやブラジルの航空機メーカー、エンブラエルなどと共同で「垂直離着陸機(VTOL)」を開発するという。日本でもトヨタ自動車の若手が勤務時間外に活動する組織「カーティベーター」を結成し、空飛ぶ自動車「スカイドライブ」を開発中だ。20年の東京オリンピック開幕式でのお披露目を目指しており、このほどトヨタグループが4千万円を開発費として支援することを決めた。少額ではあるが、会社からプロジェクトが公認された形だ。

 ドバイ政府は30年までに個人の移動の25%を自動運転にするという目標を掲げており、「(空飛ぶタクシーは)それを実現する一つの手段。スムーズで迅速、革新的移動手段を提供することで、公共交通手段と個人の幸福を一つにする」とタイールRTA長官は述べる。ドバイは交通渋滞がひどいことでも知られ、自動運転による移動の効率化への関心が高いのだ。



■ハイパーループの最高時速は新幹線の4倍

 ドバイが進める次世代交通システムは「空飛ぶタクシー」だけではない。「ハイパーループ」という高速大量輸送プロジェクトにも取り組んでいる。列車が鉄のレールの上ではなく、真空にした鉄管の中を移動する仕組み。列車を磁気で浮上させ、空気抵抗のない状態で動かすため、旅客機以上の速度、時速1200キロメートルが出せるという。新幹線の4倍、リニアモーターカーの2.4倍のスピードだ。しかも建設費は既存の高速鉄道の10分の1に抑えられるとしている。車で2時間かかるドバイ~アブダビ間が12分で結べる。

 「ハイパーループ」は電気自動車メーカー、テスラの最高経営責任者(CEO)で、宇宙輸送システムを手がけるスペースXの創業者でもあるイーロン・マスク氏が13年に構想を打ち出し、注目された。ドバイでは港湾運営会社DPワールドが米ハイパーループ・ワンと16年8月に提携し、ドバイ港からのコンテナ輸送に応用して実証することとなった。さらに11月にはRTAも同社とドバイ全土に旅客輸送網を建設する研究をすることで合意した。ハイパーループ・ワンは米ラスベガス郊外の砂漠に実証システムを建設中で、インドやロシアも同システムに関心を示しているという。

 もう一つ自動運転電気自動車「ネクスト」という次世代交通システムもドバイは支援する。伊ネクスト・フューチャー・トランスポーテーションが提案する構想で、ミニバスのような6~10人乗れる四角い車両(ポッド)を利用者がスマートフォンで呼び、目的地に向けて走行中に、別の車両と連結して走ることで交通渋滞を緩和する。連結すると大型バスのようになり、車両間を人が移動することも可能。カフェ車両やレストラン車両などもあり、移動の時間を効率よく楽しめるようにする。電池を運ぶ車両と連結することで、移動中に停車することなく電源の交換もできる。

 ハイパーループ・ワンもドバイのシステムを紹介した映像で、似たような移動ポッドを提案している。会議室そのものが移動ポッドとなりターミナルに向かい、そこでほかのポッドと連結して真空チューブの中を高速で別の都市に向かう。目的の都市に着くと連結していたポッドが分離し、それぞれ別の最終目的地に向かう仕組みだ。未来では一度、移動ポッドに乗ったら乗り換えの心配をすることもなく、会議をしながら、お茶をしながら目的地に到達できるというわけだ。

 ネクストは16年7月、ウーバーのライバルでドバイを拠点とするカリームと提携した。カリームはサウジアラビアやUAEなど中東地域でタクシー配車サービスを提供しており、ネクストとの提携で自動運転システムの実用化を推進する。



■国全体が「未来技術の博物館」

  ドバイ政府は16年7月に立ち上げた未来プロジェクト支援プログラムの対象に「ハイパーループ」や「ネクスト」を選んでいる。「ドバイ・フューチャー・アクセラレーター(DFA)」というプログラムで、世界中のスタートアップ企業から最先端のアイデアを募集して、ドバイで支援し技術の実用化を目指す。一般的に「アクセラレーター」とはスタートアップ企業に経営指導をしたり、アイデアのコンペなどを通じて事業計画を洗練したりするプログラムだ。企業に少額出資してベンチャーキャピタル的な役割も担う。DFAは経営指導もアイデア・コンペもしない。「都市スケールの課題」を解決するため、世界で最も革新的な企業と政府機関を結びつけるという内容で、プロトタイプをドバイに導入・設置することを前提としている。投資額も向こう5年間で10億ディルハム(約300億円)と規模が大きい。

 DFAが支援するのは輸送、医療、教育などの7分野で、RTAのほか保健庁、知識人材開発庁など7機関が政府側のパートナーとなる。第一弾は9月から3ヶ月間実施され、世界73ヵ国から2千を超える応募があったという。選抜されたのは30社。さらに19社がドバイでの実証実験やプロトタイプ開発のステージに移行し、総額3300万ドルの支援を受けることが決まった。2月からは通信会社2社や外務省など5つの機関が新たに参加し第2弾が始まった。DFAはドバイという都市国家をまるごと未来技術の実験場、展示場にしてしまう考え方で、政府調達によるイノベーション支援の一種とも言えるだろう。

 DFAを運営するのは「ドバイ・フューチャー・ファウンデーション(未来財団)」と呼ばれる組織だ。ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム首長(UAE副大統領も兼務)の指示で、15年に設立された組織で、政府の主要機関のトップが理事会のメンバーとなっている。未来財団は18年12月開業を目指して「ミュージアム・オブ・ザ・ ドバイ上空を飛ぶタクシーのイメージ図(イーハンのホームページより)フューチャー(未来の博物館)」という施設も建設中だ。


■国全体が「未来技術の博物館」

■3Dプリンティング産業の中心地に

 未来財団が入居するオフィスがまた変わっている。世界で初めて3Dプリンターを使って建設されたオフィスだ。1階立て250平方メートルの箱型のオフィスで、壁面などの部材はセメント・プリンターを使って工場で作り、それらを現地で組み立てた。部材のプリントに17日、組み立てに2日、内装などに3ヶ月を要し、16年5月にオープンした。同様の広さのオフィスを従来の手法で建設するよりも労働コストが半分以下になるとしている。

 ドバイは「3Dプリンティング戦略」を打ち出し、30年までにドバイを3Dプリンティング産業の中心地にする構想を抱いている。19年にはドバイの新規建設案件の2%を3Dプリンターを使って建設し、その割合を徐々に引き上げ25年には25%にする。3Dプリンティングの対象は建設だけではなく、人工骨・歯などの医療、生活用品などの一般消費財も含む。各セクターで人員を7割、費用を9割、時間を8割削減することを狙っている。3Dプリンティング市場は30年までに3千億ドルに達すると政府は予測する。

 DFAでもドバイ政庁が3Dプリンター向けジオポリマーセメントを製造するロシア系レンカと提携した。ジオポリマーは石炭火力発電所や製鉄所などから出る産業廃棄物を原料としており、従来のセメントよりも安価に製造できる。しかも添加物を入れなくても、3Dプリンター用に使える流動性が得られるという。ドバイ保険庁は米メダティフと、人体の臓器などのレプリカを3Dプリンターで作り、手術の練習などを効率よくできるようにするプロジェクトを進める。



■未来を語る

  ドバイでは具体的なプロジェクトを進めると同時に未来がどうなるかといったビジョンについても語る。それが17年1月、スイス・ダボスの「世界経済フォーラム」で発表した「ステイト・オブ・フューチャー(未来の状態)」レポートだ。向こう40年先までの未来について、エネルギー、輸送、医療、教育など7つの分野に分けて予測したものだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)、米航空宇宙局(NASA)などの21人の専門家が112の予測をした。未来財団のイニシアティブの一つである教育機関「ドバイ・フューチャー・アカデミー」が取りまとめた。DFAが推進する7分野にはない「宇宙」といった分野もあるが、概ねDFAが目指す方向性と一致する。

 例えば「20年、ハイパーループが初めて実用化」「25年、米国で個人による自動車所有がなくなる」「27年、石油の需要がピークに達する」「30年、脳がクラウドに接続して記憶を保存」「35年、道路は工場で製造されるようになる」「35年、電気自動車が市場の9割を占め、道路自体が(振動エネルギーを使って)電力を供給し始める」「36年、あらゆる人が(パーソナル・アシスタントとして)ロボットを保有する」「40年、心臓血管系の病気が消滅する」といった具合だ。

 ドバイは大英帝国の貿易中継地として栄え、シンガポールと立ち位置が似ている。ドバイの面積は4千平方キロメートルでシンガポールの約6倍。その中に同国の約半分の280万人の人が住む。石油の発見を機に発達したが、アブダビなどに比べると埋蔵量が小さく、物流や金融サービスを中心に経済成長をしてきた。石油価格が高騰した時期には周辺国の石油マネーを集め、世界一高い高層ビル「ブルジュ・ハリファ」やヤシの木のような形状の人工リゾート島「パール・アイランド」の建設が進められ、観光地としても人気が高まった。しかしリーマン・ショック後、不動産バブルがはじけ、政府系投資会社ドバイワールドが債務の支払い猶予を発表したことから世界的な信用不安「ドバイ・ショック」を引き起こした。だが、それもUAEの潤沢な石油マネーで救われ、再び経済成長路線に回帰している。

 「未来は可能性や数字の上に作られるのではない。ビジョンの明確さ、計画、行動、そして実行の上に作られるのだ」とムハンマド・ドバイ首長は語っている。ドバイは20年10月に万国博覧会を開催する予定で、国全体で未来の姿を提示してくれるだろう。ドバイから目が離せない。




P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top