• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年10月13日

来たれ!ハードのシリコンバレー、深圳 ドローンなど未来製品の「世界工場」に

企業家倶楽部2017年10月号 グローバル・ウォッチ vol.15


中国広東省の深圳が熱い。通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)、ネット関連サービスの騰訊控股(テンセント)、ドローン製造の深圳市大疆創新科技(DJI)といったハイテク系メーカーが輩出し、中国返還20 周年を祝ったばかりの香港を今や凌駕する勢いを見せている。「ハードウェアのシリコンバレー」などといった呼び方もされるようになった。スマートフォンの製造で蓄積した部品、部材の調達ネットワークが強みとなり、ロボット、ドローンそして電気自動車まで、未来製品の「世界工場」になりつつある。




 日本にある家電量販店のビックカメラに行くと、深圳メーカーの存在感が高まっていることを肌で感じることができる。スマホのコーナーには米アップルの「iPhone」や韓国サムスン電子の「Galaxy 」と並んで、ファーウェイや中興通訊(ZTE)の格安スマホが展示してある。量販店1階の目玉商品のコーナーで、日本企業の存在感がほとんどないのは、かつてのエレクトロニクス産業の隆盛を知る者には異常事態にも思える。

 カメラのフロアには空撮などに使われるドローンのコーナーができ、世界市場の7割のシェアを持つと自称するDJIの製品が数多く並んでいる。そして別のフロアで特設コーナーができていたのは、深圳市創客工場科技(メイクブロック)のロボット組み立てキットだ。アルミのフレームやセンサー、モーターなどを組み合わせて、自前の手作りロボットが作れる。簡単なプログラムを組んで動かすことも可能で、図画工作の時間に子供たちに使ってもらい、プログラミングを学ぶツールとしての普及を狙う。

 パソコンでは台湾メーカーの華碩電脳(エイスース)、北京の連想集団(レノボ・グループ)といったブランドが強いが、スマホ、ドローン、ロボットなど次世代のエレクトロニクス製品で深圳企業の実力は確かなものになっている。



常に最先端の製品

 モノマネ、偽物、安かろう悪かろうと侮っていた中国製品。中国が世界貿易機構(WTO)に加盟した2001年よりも以前、深圳といえば偽物ブランドの時計、AV(音響・映像)製品、そして海賊版のCDやVCDを売っている、香港の国境近くの街だった。香港から出国してすぐの羅湖では、偽物ブランド品を求める外国人で賑わっていた。しかし今や深圳の街は様変わり。羅湖から地下鉄で1時間、西に行った南山区。深圳ハイテク産業パーク(高新園)や深圳大学のある周辺には有力企業が集合している。テンセントの超高層ビルを筆頭に近代的なガラス張りの建物が林立している。

 深圳の有力企業の歴史をみると、深圳という街がいかに時代に適応して、最先端の商品を手がけてきたかが分かる(表1)。米国でインターネットの商業利用が始まったのが1988年。そこから全世界的にIT(情報技術)革命が進行し、通信機器への需要が急拡大する。その波に乗ったのがZTEとファーウェイだ。80年代後半、電話交換機の国産化を狙って、民間の起業家が創業したスタートアップ企業だ。90年代に入り携帯電話が普及してくると、BYDはリチウムイオン電池を携帯電話向けに量産して富を築いた。03年には自動車市場に参入し、電池の技術を生かして電気自動車メーカーとしての地位を築いた。

 07年にアップルの「iPhone」が発売され、スマホ全盛時代を迎える。チャットアプリ「ウィーチャット」などソーシャルメディアを手掛けるテンセントは、モノ作り系ではない点でやや深圳の中では異端だが、モバイル・インターネットの普及とともに成長してきた。「空飛ぶスマホ」といわれるほどスマホと共通する部品を使う「ドローン」では、DJIが10年代に成長した。

 少し遅れてメイクブロックや深圳市優必選科技(UBテック・ロボティクス)といったロボット・メーカーが出てきた。有機ELを使った超薄型ディスプレーやヘッドマウントディスプレーを手掛ける柔宇科技(ロイヤル・コーポレーション)や、人工知能(AI)を使って医療データを解析するiカーボンXといった企業もユニコーン企業(評価額10億ドル以上)の仲間入りを果たしている。


常に最先端の製品

来たれ、されば深圳人

 40年前はわずか3万人だった人口は現在1100万人。これは香港の1.5倍だ。この急速な人口膨張を支えたのが、中国各地からの「移民」だ。有力企業の創業者もほとんどが広東省以外の場所から南の地にやってきた(表1)。改革開放でしがらみもなく、自由な雰囲気、そして温暖な気候。(北京などに比べると)青い空にあこがれて、多くの若者が深圳を目指した。ZTEやファーウェイなどの成功事例が「深圳ドリーム」とみられ、若い起業家たちのあこがれとなった。中央政府のある北京から遠く、政府の監視も比較的緩く自由度が高いところも、深圳がイノベーションを生み出している理由の一つだろう。

 深圳市政府も有能な若者を引きつけようと、企業に対して従業員の住宅費の一部を補助するなど手厚い支援策を講じている。人口の流入が経済成長につながり、経済成長がさらに移民を惹きつける。この好循環により、わずか40年で深圳の経済規模(域内総生産)は香港と肩を並べるぐらいにまでなった。成長しているから転職も容易だ。起業をして失敗しても、再び社員として雇用してくれる別の会社が簡単に見つかる。

「深圳の10大原則(深圳10大観念)」というのがある(表2)。10年、深圳市は経済特別区誕生30周年を記念して、最も影響力のある深圳の考え方を公募し、専門家の意見などを聞いて10のアイデアを選定した。電通の中興の祖、吉田秀雄がまとめた「鬼10則」のようで非常に興味深い。政府が選定したスローガンかもしれないが、伸び盛りの都市の住民がどういう考えに影響を受けているのかが分かる。10番目の「来たれ、さらば深圳人」は排他的でない風土を雄弁に物語ってる。6番目の「失敗に寛容に」も米国のシリコンバレーの起業文化に通じるものを感じさせる。


来たれ、されば深圳人

たった40年、部品調達網が整備

 深圳躍進の端緒は、80年に鄧小平の改革開放政策によって経済特別区に指定されたことだ。隣接する香港の繁栄を見た鄧小平は、その資本を深圳に呼び込むことを考えた。工業団地を整備し、そこに工場を作った企業は関税なしで輸出できる。法人税も安くする。深圳政府としては税収増という即効性はないが、雇用が生まれ、技術移転は起きる。中国本土の安価な労働力を活用して、衣服、家電、AV機器、加工食品を製造する企業が出てくるからだ。

 そうした企業の周辺に、部品や部材を供給する地場産業が育っていく。最初は小さかった付加価値も次第に増加。ハイテク製品の製造ノウハウも下請け企業に蓄積され、有名ブランド品の模倣品も作れるようになる。作る製品も家電からパソコン、携帯電話へとシフトし、最近で消費最前線にいるスマートフォンだ。ファーウェイ、ZTEなど深圳メーカーが世界のスマホ市場に占めるシェアは30%。たった40年で、時代の最先端商品で圧倒的な世界シェアを誇るまでになった。「iPhone」も台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が深センで製造しており、「メイド・イン深圳」のスマホのシェアはもっと多くなるだろう。サムスン電子はベトナムのハノイにスマホの製造拠点を設けたが、部品や部材の多くを深圳周辺から持ってきている。

 モノ作りに不可欠な部品、部材の調達網(サプライチェーン)が深圳周辺に構築されていることが、深圳の最大の強みになっている。電化製品を組み立てるのに必要な電子部品は車で2時間以内の場所にあるともいわれる。設計図さえ渡せば、必要な部品を集めてボードに搭載してくれるシード・テクノロジーのような会社もある。シードは趣味でロボット作りなどをする「メイカー」と呼ばれる人向けに試作工房「メイカースペース」を開設している。さらに本格的にモノ作りをしている大企業が試作品を素早く作れるスペース「Xファクトリー」もオープンした。深圳の調達ネットワークと国内外の製造大手の結節点(X)になろうとしている。


たった40年、部品調達網が整備

次世代のスタートアップ生み出せ

 スマホ全盛時代、深センはその恩恵をもっとも多く受けている地域だ。しかし10年後もスマホが消費の最前線にいる保証はなく、その時、深圳のモノ作りはどうなっているだろうか。

 「10年後こそ、深圳が真の意味で世界の工場になっているだろう」とシード創業者の潘昊(エリック・パン)氏は断言する。「一つの製品がスマホを代替するのではなく、(スマートグラスやウエアラブルコンピューターのような)いろんな製品が出てくるのではないか」とみる。どんな製品が主流になるとしても、それを迅速に大量に製造する能力で深圳に敵う場所はないというわけだ。

 ポスト・スマホ時代の主役を育てるべく、深圳にやってきたのが米国のアクセラレーター、HAXだ。米ベンチャーキャピタルのSOSV傘下のアクセラレーターで、モノ作り系スタートアップに特化して育成する。HAXが拠点を構えるのは「深圳の秋葉原」と呼ばれる華強北という場所だ。ビルの中にはコネクターやLED、ICチップなど電子部品がところ狭しと並べられている。電子部品ならなんでも手に入るといわれる(偽物も多いらしい)。

 HAXは毎年2回、起業支援プログラムを開催し、海外のスタートアップ30社、中国のスタートアップ10社の計40社を支援する。有望な起業家を集めて彼らのアイデアに出資(1社当たり1000万円程度)し、数ヶ月のプログラムを通じてビジネスモデルを洗練する。そうした企業を米国の市場や投資家と結び付け、最終的には株式市場に上場させるか、大企業に売却することでキャピタルゲインを得る。実はメイクブロックも12年に開催した第1回目のプログラムの卒業生だ。HAXが通算で支援したスタートアップは130社に上る。この中から第2のメイクブロック、DJIが出てくるかもしれない。深圳の動きからは当分目が離せない。

P r o f i l e

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top