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トピックス -企業家倶楽部

2017年10月16日

核を「持たない抑止力」もある/日本経済新聞社客員 和田昌親

企業家倶楽部2017年10月号 地球再発見 vol.10


和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。




 2017年7月7日――歓喜と苦渋が交錯する日本人にとっては忘れられない1日となった。同時に「日本ってどういう国なの?」と世界から疑念を持たれる日になったかもしれない。

 国連はこの日、世界の核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」を122カ国の賛成で採択した。反対はオランダだけだった。その瞬間、日本の〝ヒバクシャ?の代表は「戦後72年待った。こんなうれしいことはない」と国連本部で喜びを爆発させた。

 しかし日本の別所国連大使は核保有国と同じように、会議そのものをボイコットし、「日本は署名することはない」と平然と言い放った。岸田外相(当時)も「(条約は)核兵器国と非核兵器国の対立を深め、両者の協力を重視する我が国の立場に合致しない」と会議不参加を決めた理由を説明した。

 唯一の被爆国である日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を目指している。ならば、核兵器の無力化の方法を考えないと「橋渡し」も絵に描いた餅になる。

 日本はアメリカの核の傘に頼っているうちに、いつの間にか外堀を埋められ、身動きがとれなくなっているのではないか。

「核抑止力」という考え方がある。核兵器を持つことによって、他の核保有国による攻撃を未然に防ぎ、共倒れを回避する。東西冷戦時に米ロ(旧ソ連)が核兵器で戦うことを恐れ、世界に浸透した軍縮理論だ。

 それを皆信じてきたが、果たしてそうなのか。「抑止力」に本当にそんな「力」があるのか。疑問が広がる出来事がいくつか起こっている。北朝鮮による核兵器保有やミサイル開発、そしてイスラエル、インド、パキスタンの核保有も隣接地域の脅威を減らすためだという。これが「核抑止力」だとすれば、「相手が持つから自分も持つ」という北朝鮮流の論理を崩せない。「抑止力のワナ」である。

 少々突飛だが、これまでの「核抑止力」の理論を一度、根本から見直してみてはどうか。日本が抱える「唯一の被爆国なのに核兵器に反対できない」という矛盾を解決する道があるかもしれない。

 アイデアのひとつは核を「持たない抑止力」という発想を取り入れることである。単なる夢物語ではない。実際にその発想で動いている地域があるのだ。

 核弾頭をそれぞれ約7000発持つ米ロ両国とは格が違うが、南米大陸の大国ブラジルとアルゼンチンが実現した「核武装放棄」のことである。

 話は1962年のキューバ危機にさかのぼる。旧ソ連が当時の友邦国キューバにミサイルを持ち込み、アメリカと核戦争寸前までいった事件だ。それを機に、中南米では核兵器アレルギーが広がり、68年にトラテロルコ条約が発効した。NPT(核拡散防止条約)より早い史上初の非核地帯条約とされる。

 こうした反核機運に乗って、ブラジルとアルゼンチンは91年に原子力相互監視協定を結ぶ。ブラジルは軍事政権時代に核開発が疑われ、隣国アルゼンチンもブラジルに対抗するためプルトニウム製造などの核開発に取り組んでいるとの見方が出ていた。

 南米の大国同士が「核放棄」で足並みを揃えたのは両国に民主政権が誕生したことが大きい。両国は〝丸腰"になり、お互いに核濃縮サイトを視察し合うまでになった。

 ブラジルとアルゼンチンは核兵器を「持たないことによる抑止力」を提唱したと言える。持ったら脅威になるから持たない。これこそが本当の「抑止力」だと核保有国に教えているようだ。「核抑止力」を疑い、全く逆に、核を「持たない抑止力」を掲げる。それが「未完の戦争理論」というなら、これから理論構築を始めたらいい。

 日本はこのままでは核保有国と非保有国の「橋渡し」など出来っこない。せめて核禁止条約採択の国連会議に出て、賛成が無理なら「苦し紛れの棄権」という選択肢もあったのに、と思う。



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