• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2017年10月31日

【ベンチャー三国志】vol.46 孫正義、見果てぬ夢を追う

企業家倶楽部2017年12月号 ベンチャー三国志


孫正義は何を目指すのか。情報革命のため、300年企業の基盤を築くため、彼は企業家たちによる同志的結合を標榜する。瞬く間に激変していくソフトバンクグループの様相と、神出鬼没とも言える孫正義の奔走を紐解きながら、彼の思い描く未来を垣間見て、最終回としたい。(文中敬称略)【執筆陣】徳永卓三、三浦貴保、徳永健一、相澤英祐、柄澤 凌、庄司裕見子




 2017年7月20日、21日の二日間に渡り、ソフトバンクグループが開催したビジネスカンファレンス「ソフトバンクワールド2017」。その基調講演に際し、誰もが同社の変容を目の当たりにした。

 来場者の度肝を抜いたのは、社長の孫正義がプレゼンした後、次々と登壇した外国人たちである。例年ならば、孫が1時間~1時間半ほど演説を行い、残る30分で一人か二人のゲストスピーカーが話をする程度であった。海外の人間による英語スピーチも予測の範囲内だ。しかしこの日、孫はわずか30分で自身の話を終え、残りの1時間半を惜しげも無く10人もの外国人企業家たちに明け渡した。

「ソフトバンク1社では決して大きな力を持っていません。しかし、私は同じ志を持つ企業家たちと力を合わせ、革命を起こす」

 それまで、溢れ出る情熱と興奮を内に押し止めるかのように静かな口調で語ってきた孫が、高らかに宣言した。

「それでは、革命の仲間を紹介しましょう!」



相次ぐ買収の吉凶はいかに

 孫正義自ら丁寧に壇上で迎え、聴衆に分かりやすく簡潔に紹介した10人は、自社の事業について堂々たるプレゼンを行った。彼らはいずれも、ソフトバンクグループ本体やソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先企業を率いる社長たちであった。

 ビジョン・ファンドについてはご存知の向きも多いと思うが、17年5月にソフトバンクとサウジアラビア政府が共同で立ち上げたファンドである。運用額は10兆円超。世界のベンチャーキャピタルの総額をも凌駕するとされる。

 登壇した中でも、投資先として納得感の得られる企業はいくつかあった。ソフトバンクグループが17年6月にグーグルから買収したロボットベンチャーのボストン・ダイナミクスは、人型ロボット「ペッパー」に期待をかける孫正義にとって、欲しかった技術領域であろう。無数の小型人工衛星を飛ばして地球を周回させることで、全世界に高速インターネット網を敷こうとしているワンウェブも、今後のIoT(モノのインターネット)時代を見据えるソフトバンクグループとの親和性は抜群だ。

 だが、その他に壇上へと登った企業家たちの事業は、農業から医療まで幅広かった。IoTやAI(人工知能)を駆使するとのことで、孫正義も「シナジーはある」としているが、現時点では名の知られていない企業ばかり。そこに何百億円、場合によっては1000億円以上を注ぎ込むというのだから、到底真似できるものではない。

 そんな10人の企業家たちの中で大トリを飾ったのが、アームCEOのサイモン・シガースである。同社はソフトバンクグループが16年7月、3兆3000億円もの大金を注ぎ込んで買収することを発表。日本企業による海外企業のM&Aとしては、史上最大の規模となった。

 アームは言わば、半導体の設計図を手掛ける会社だ。強みは省電力と高効率性。同社の設計した半導体は、スマートフォンやタブレット端末の実に9割に組み込まれている他、16年度に全世界へ向けて出荷された同製品総数の約3分の1を占める。

 今後IoTが普及していくにあたって、あらゆるモノに半導体が入っていくことが予想される。そうした時代が本格的に訪れた際、ソフトバンクがアームを手の内に入れている意義は大きい。孫も「私たちはプラットフォームを押さえた状態で戦いに臨める」と自信を見せる。

 だが、こうした孫正義の矢継ぎ早かつ巨額のM&A戦略に対しては、懐疑的な向きも存在する。



永守重信が社外取退任

「俺なら10分の1の価格でも買わない」

 孫正義のアーム買収に際して、ソフトバンクグループの社外取締役を務めていた日本電産会長兼社長の永守重信が放ったセリフだ。前述の通り、本買収は3兆3000億円の買い物だったから、「たとえ3300億円であっても買わない」というわけである。

 アームは売上げ2000億円ほどの企業だ。それを3.3兆円で買おうと言うのだから、永守でなくとも躊躇するのは頷ける。取締役会でも永守は、同じく社外取締役を務めるファーストリテイリング会長兼社長の柳井正と共に「本当に競合はいないのか」と真っ向から反対した。こうした流れに対して孫は「50手先を読んだ手筋。普通の人には理解できない」と事あるごとにうそぶいたものだった。

 孫に向かって対等にモノが言える数少ない人物であった永守。14年6月から社外取締役を務めてきたが、時期としては異例となる今年9月末に退任を発表した。ソフトバンク広報部は「本業との兼務が困難になったため」としているが、果たしてそれだけが原因かどうかは分からない。

 もちろん孫も、M&Aの名手であり名経営者と誰もが認める永守に「尊敬する先輩企業家」と信頼を寄せていた。取締役会で舌戦を繰り広げることはしょっちゅうだったが、それはあくまで自社を良い方向に導かんがため。「異なる意見があればこそ、健全な取締役会の運営ができる」と日々の感謝を忘れていない。

 ただ、これまでモノづくりで稼いできた永守の目に、現在のソフトバンクグループの在り方が相容れないものと映ったとしても、別段疑問はない。彼はベンチャー企業を表彰する「企業家賞」の審査委員長を務めていた折にも、「製造業をやるベンチャーはおらんのか」が口癖だった。ひとたびM&Aを行えば、自ら工場へ乗り込み、熱血指導。買収先と自社事業との明らかな相乗効果を武器に、地道に業績を伸ばしていく様子は、孫正義の投資戦略とは対照的だ。孫が近年ますます色濃く帯びてきた「投資家」としての側面が、根っからの「事業家」永守をしてソフトバンクと袂を分かたせたとするのは邪推だろうか。



「投資家」孫正義!?

 孫正義の投資戦略は、「ハイリスク・ハイリターン」を絵に描いたような手法が目立つ。彼自身が「指数関数的な成長を遂げる」と目利きした企業に莫大な資金を入れ、実際にその株価が高騰することで資産価値を何十倍、何百倍にも膨らませるのだ。出資した20億円が4000倍の8兆円に化けたアリババの事例が有名だが、孫はこの一件だけが取り沙汰されることに不快感を示す。「もちろん、アリババに投資できたのはラッキーでした。創業者のジャック・マーにも感謝している。しかし、アリババを除いても、ソフトバンクが投資してきた案件の収益率に大差が無かったという事実だけは、強調させてください」

 それどころか、収益率の高かった上位5社を全て除いても、全体の率としては数%程度しか変わらなかった。孫正義が「私たちの高い収益率はソフトバンクグループの実力だ」と胸を張る気持ちも理解できる。孫は説く。「私たちは、単に一回打席に立ち、偶然一度きりのヒットを打ったわけではない。戦略を練り、意図的に考えて、何度も打席に立ち、たくさんの空振りを重ねる中で、当たった回数の方が多かったのだ」。

 そもそも、ソフトバンクの歴史を辿っても、同社が投資によって規模を拡大してきた会社であることは一目瞭然だ。ソフトウェア流通業に始まり、年商2000億円にも満たない時代に、世界最大のコンピュータ見本市を手掛けるコムデックスを800億円で買収。これをきっかけに見出した、当時無名のヤフーに2億円を出資した。ADSL事業を立ち上げ、日本テレコムを買収し、インターネット勃興の追い風を一身に受けながら成長。そして、ヤフー株の暴騰も背景としながらボーダフォンを傘下に収め、携帯通信事業へと脱皮していった。ソフトバンクはまるで昔話の「わらしべ長者」のように、テコの原理を使って飛躍してきたことが分かる。

 この「カネがカネを生む」投資の道を自ら体現してきた孫正義が、「10兆円の巨大ファンドを作って世界の有望ベンチャーを発掘する」と言うのだから、彼のことを「もはや投資家と言った方が良いのではないか」と見る向きが出て来てもおかしくはあるまい。



僕は死ぬまで事業家だ

 実際、孫はこのところ生き生きしている。一度は60歳で引退することも考え、後継者としてグーグルからニケシュ・アローラも引き抜いてきた。しかし、AIやIoT時代の本格的な到来を前に、やはり全て自身の手で事業を進めたくなったのだろう。アローラを退け、アームの買収、10兆円ファンドの設立へと向かった。

 今は、営業利益1兆円のうち7割を稼ぎ出す国内通信事業をソフトバンクグループ副社長の宮内謙に任せ、海外を飛び回る。まるで、常に泳いでいなければ死んでしまう回遊魚のようだ。宮内も「孫さんが引退などしないことは分かっていた」と笑うが、もはや誰もが知っている。孫正義の辞書に「安泰」の二文字は無いということを。

 ただ、当の孫本人は「投資家」と呼ばれることに抵抗があるようだ。確かに、彼が世界中のベンチャー企業に資金を投入していく様子は投資家と重なる。しかし、孫正義は出資に際し、「情報革命のため」という明確な方向性を定めている。現時点では一見してシナジーが無いと思われるような投資先でも、彼の目には未来を形作る重要なパズルのピースとして見えているのだろう。

 もちろん、投資先企業が成長することで含み益が出ればソフトバンクの活力となるし、特にビジョン・ファンドはリターンを期待すべき立ち位置にあるのも事実。しかし、根源的な目的は決してそこではない、すなわち「金のために動いているわけではない」というのが彼の偽らざる気持ちだ。孫正義は強調する。「僕は死ぬまで事業家だ」。



残る領域は金融業

 むしろ、親和性がありそうな分野ながら、孫正義が手出しをしていないのが金融業だ。

 フィンテック企業への投資は進めているようだが、あまり派手な動きは無い。

 現在、金融業界でソフトバンクグループと蜜月関係にある企業と言えば、みずほ銀行。孫正義は、みずほフィナンシャルグループ社長の佐藤康博と仲が良い。同社はアーム買収に際しても一肌脱ぎ、ソフトバンクが必要となった3.3兆円のうち1兆円分という巨額の融資をわずか一週間で手配した。

 ソフトバンクグループとみずほ銀行は今年から、合弁で新会社を立ち上げ、個人向けの融資事業を始めた。ビッグデータを駆使して格付けを行い、AIが審査するというから、近未来感のあるサービスだ。この分ならば、ソフトバンクが全く新しい銀行を手掛ける可能性もゼロとは言い切れまい。

 元々ソフトバンクは金融関連企業としてSBIホールディングスを持っていたが、同社は06年に独立し、そこが現在インターネット専業の住信SBIネット銀行を手掛けている。奇しくも今回弊誌で特集したGMOインターネットも、来春から新銀行を開設する予定だ。代表の熊谷正寿の口癖は「圧倒的ナンバーワン」。しかし孫正義も、やるからにはナンバーワン、そしてグローバルを標榜してくるだろう。



300年企業へ向けて

 一方、「流石にこれ以上は屏風を広げられない」というのも孫正義の本音だ。目下の本業である携帯通信事業以外に、ソフトバンクグループはロボット、電力、医療、農業などあらゆる方面に手を伸ばしている。

 同社の有利子負債は14兆円超。まるでどこかの国の国家予算だ。この様子は、共和政ローマ末期の英雄ユリウス・カエサルを彷彿とさせる。借金王としても名高いカエサルは、その借入額が国家予算の1割を占めるほどであったため、彼が破産すると債権が回収できず、ローマ経済が混乱に陥るとまで言われていた。まさに「借りるが勝ち」の状態で、誰もカエサルを破産させられなかったわけだが、彼の場合は自ら出世することで見事にこれを返済した。

 カエサルは文字通り「出世払い」できたが、ソフトバンクはどうだろうか。「みずほ銀行と心中」という事態だけは勘弁願いたい。もっとも、当事者の孫正義は「投資先企業の含み益があるから、うちは無借金経営と同じ」と豪語してはいるが。

 ただ、孫正義も歴史から多くを学んでいると聞く。広げ過ぎた屏風が倒れやすいことは重々承知のはずだ。紀元前4世紀、アレクサンドロス大王はわずか30歳そこらという若さでギリシアからインドに跨る大帝国を建設したが、彼が夭折してすぐに起こった後継者争いにより、帝国は一瞬で瓦解した。

 同様に、一人のカリスマの力で支えられた組織がいかに脆いものかということも、よく知っているだろう。創業経営者のオーナーシップが強いベンチャー企業には往々にして言えることだが、孫正義という強烈な指導者の下にまとまっていること自体がリスクなのである。

 
 20世紀後半、「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と揶揄されたユーゴスラビア連邦の事例は悲惨だ。第二次世界大戦中ナチス・ドイツに抵抗するパルチザンを率い、東欧で唯一ソ連軍の助けを得ることなく祖国を解放に導いたティトーが、絶妙なバランス感覚でこの国をまとめていたが、彼というカリスマが死去した途端に民族対立が悪化し、紛争へと発展。同国はいくつもの国家に分裂して今に至る。

 屏風を広げても倒れない方法とは何か。そう考えて孫の至った結論が、「情報革命のための同志的結合グループ」というわけだ。情報革命という同じ志を共有した企業の緩やかな連合体。便宜上、少なくとも現時点での盟主はソフトバンクグループということになろうが、そこには義務も統制も無い。

「まだまだ事業は俺が回す!ただ、たとえ自分がいなくなっても、この見果てぬ夢を受け継ぐ者たちが協力して、革命を完遂してくれれば本望だ」

 最近の孫正義からは、そんな潔さすら伝わってくる。いずれにせよ、現代を生きる誰もが、孫正義の夢が成ったかを見届けることはできない。何しろ彼は、300年続く企業を構想しているのだから。 (完)



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top