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トピックス -企業家倶楽部

2017年11月13日

「iPhone X」は「スマホの未来」なのか どうなるポスト・スマホ、ウェアラブルの可能性/梅上零史

企業家倶楽部2017年12月号 グローバル・ウォッチ vol.16


毎年秋は米アップルがスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の新製品を発表する。今年はiPhone発売から10 年という節目を迎えたこともあり、新製品への関心が一段と高まった。携帯電話の概念を変え、様々なアプリケーションのイノベーションをもたらしたスマホはもはや生活必需品になりつつある。しかしスマホが経済を牽引する時代は今後も続くのか。ポスト・スマホはどうなるのか。


「iPhone X」を発表するアップルのフィリップ・シラー上級副社長(©アップル)




「スマートフォンの未来。次の10年の技術の道筋を示す製品だ」。9月12日、カリフォルニア州クパチーノの本社にある「スティーブ・ジョブズ・シアター」で、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は11月に発売する新製品「iPhone X(テン)」をこう紹介した。「iPhone」発売10周年に当たり、記念碑的な新製品「8」をアップルが出すのではないかとの事前情報はあったが、「8」は昨年の「7」の改良に止め、「9」を飛び越えて一気に「X」を投入したところに同社の意気込みが表れている。



デザインに既視感

「X」について、マーケティング担当のフィリップ・シラー上席副社長がまず強調したのはそのデザインだ。高精細・低消費電力の有機ELディスプレーを採用し、表裏をガラスで覆った一体感のある形にした。前面すべてがディスプレーで、ベゼルと呼ばれる外枠がなくなった。前面下部にあったホームボタンも消えた。アプリの終了などは画面を下からスワイプする動作で実施する。ワイヤレス充電に対応し、防水機能も高めた。

 ホームボタンがこれまでは指紋を読み取るセンサーを兼ねていたため、「X」では「指紋認証」によるログインができなくなった。代わりに導入したのが「フェース ID」と呼ぶ「顔認証」だ。赤外線を照射して反射光を捕捉することで立体情報を読み取る「トゥルーデプス・カメラ」を前面に搭載し、3万ドット以上の顔の位置を計測する仕組みだ。髪型が変わってもメガネをかけていても本人であると認識できるという。暗証番号の入力や指紋認証よりも瞬時にログインでき、しかも指紋認証よりも不正ログインのリスクを低減できるらしい。

 しかしこうした特徴に既視感があるのは否めない。韓国のサムスン電子は、6月に発売した「ギャラクシー S8」で、「インフィニティ・ディスプレー」というベゼルなしのデザインをすでに市場に見せている。しかもホームボタンは感圧センサーの採用で画面内に組み込んでおり、必要に応じて表示したりしなかったりする。ログインは「顔認証」と「虹彩認証」、そして背面のセンサーを使った「指紋認証」の3つが可能だ。アップルが「X」で採用した有機ELディスプレーはサムスン電子の独占供給状態で、同社は旗艦スマホ「ギャラクシー」シリーズでは2010年の初号機から採用している。

 中国の情報機器メーカー、小米(シャオミ)もほぼベゼルなしの「シャオミ ミーミックス」を1年前に発表している。液晶ディスプレーで最下部にややフレームが残るが、前面の9割がディスプレーだ。その後継機種を「X」発表の1日前に発売している。さらに遡れば日本のシャープが14年に発売した「アクオス・クリスタル」が、フレームなしをうたった最初のスマホといえるだろう。

 アップルの「顔認証」技術はかなり進んでいるようだが、「X」の見た目、デザインの目新しさは乏しい。サムスンが折り畳み式のスマホ「ギャラクシーX」を開発中との情報もある。発売されれば、携帯性に優れ、かつ開けば大画面という新しいコンセプトのスマホとなり、スマホは縦長というこれまでのデザインの流れを変えるかもしれない。

サムスン電子のベゼルなしデザイン「ギャラクシー S8」(©サムスン電子)


デザインに既視感

ウォッチ単体で通話可能

「X」の発表と同時にお披露目されたスマートウォッチ「アップル・ウォッチ」の新製品に「未来」を感じた人も多かった。アップルが15年に発売した「ウォッチ」の第3世代「シリーズ3」だ。デザイン的には従来と変わりないが、最も大きな変化はウォッチ単体で通信機能を持ったことだ。従来機種は「iPhone」の付属品的な位置づけで、iPhoneが近くにないと通話することもメッセージを送受信することもできなかった。「シリーズ3」ならジョギングする時に、かさばる「iPhone」を身につけなくても、「ウォッチ」だけを腕につけておけばいい。心拍数などの生体情報も詳細にモニターできる。

 自分が持つ「iPhone」の電話番号を「ウォッチ」と共有する仕組みだが、複数の電話番号を登録することもできる。多くのスマホは、電話番号と紐づけされたID番号を書き込んだSIMカードが入っている。別のスマホを自分の電話番号で使うにはSIMカードを入れ替えればよいが、「ウォッチ」では「eSIM」という技術を採用し、無線でID番号を書き換えることができるようにした。「eSIM」はあらゆるモノがネットにつながる「IoT(インターネット・オブ・シングズ)」の基盤となる技術という。

 スマートウォッチの特徴はウェアラブル(装着可能)な点で、スマホに取って代わる可能性のある代表的なデバイスとして注目されている。米調査会社インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)によれば、ウェアラブル端末の市場は毎年平均で前年比17%のペースで拡大し、21 年には2億2950万台に達するとみられている。そのうち時計(スマートウォッチとベーシックウォッチ合計)は1億5440万台と約3分の2を占める見通し。17年の時計市場は6740万台と見込まれ、4年後には市場が2倍以上になる計算だ。

単体で通信機能を持った「アップル・ウォッチ シリーズ3」(©アップル)


 ウォッチ単体で通話可能

「グーグル・グラス」復活

 IDCのウェアラブル端末市場の数字には含まれていないが、メガネ型のウェアラブル端末、スマートグラスもポスト・スマホの候補の一つだろう。前方が見える透明なメガネの一部に映像を投影・表示する仕組みだ。

 スマートグラスといえば、グーグルが12年に公表した「グーグル・グラス」が思い浮かぶが、13年に開発者向けの「グラス・エクスプローラー・エディション」として発売されたものの、鳴かず飛ばず状態が続き、ついに15年1月に事業中止となった。しかしグーグル(その持株会社のアルファベット傘下のエックス)はこの7月、「グーグル・グラス」を復活させた。業務用市場に的を絞った「グラス・エンタープライズ・エディション」を発売。16のパートナー企業と「拡張現実(AR、オーギュメンテド・リアリティ)」アプリの開発をしている。

 まったくの作り物の仮想世界を画面に表示する「仮想現実(VR、バーチャル・リアリティ)」に対して、ARはリアル空間に仮想世界を重ねて表示する。例えば独ユビマックスは物流倉庫での集荷作業をする作業員に、ARグラス上に集荷指示を表示するシステムを開発。国際物流大手DHLが同社のシステムを使った集荷実験を実施し、作業効率の改善を確認した。米オーギュメディックスは患者の情報を医者のグラスに表示し、両者のコミュニケーションを円滑にするシステムを開発した。半導体の処理性能の向上に伴い、実現できるARの可能性が広がっており、リアルとバーチャルを同時に表示できるARグラスへの需要も高まっている。

 米マイクロソフトも16年からOS「ウィンドウズ10」で動くスマートグラス「ホロレンズ」の販売を開始した。マイクロソフトはARではなく「混合現実(MR、ミックスト・リアリティ)」と呼んでおり、単に文字情報を現実空間に浮かび上がらせるのではなく、CG画像を現実の物体に被せるように合わせていく利用法を想定しているようだ。米フォード・モーターが自動車の開発で、実際の車体にCGを被せて設計を改善することができるよう協力している。

マイクロソフトのスマートグラス「ホロレンズ」を使い、仮想空間でアプリを操作する(©マイクロソフト)


 「グーグル・グラス」復活

アップルもARへ

 実はアップルの「X」もかなりARを意識した設計となっている。9月に新OS「iOS11」を公開するとともに、「iOS11」で動かすことができるAR開発ツール「AKキット」も同時にリリースした。アップルとスウェーデンの家具大手イケアが共同開発したアプリでは、イケアの家具をスマホのサイトから選び、それをバーチャル空間のCGとして呼び出し、実際の部屋の風景と重ね合わせて、家具が希望する場所に置けるかどうか、実際の空間にCGの家具を重ね合わせることで確認ができる。

「顔認証」の発表では、実際の顔の動きに合わせてCGの仮面がぴったりと動くアプリをデモした。カメラの前にある物体の立体情報を把握できれば、ARさらにMR的な応用が可能になる。背面カメラではまだテーブルなどの平面の位置しか把握できないようだが、いずれ前面に搭載された「トゥルーデプス・カメラ」が背面に搭載されれば、応用がさらに広がるだろう。米ブルームバーグによれば、アップルもスマートグラスを開発中で、18年にも発表する可能性があるという。グーグルもOS「アンドロイド」で動くAR開発ツール「ARコア」を8月にリリースするなど、スマホでARアプリの開発を支援する動きが盛んになっている。

 現在、メガネ型のウェアラブル端末といえる商品は、ゲームなどのディスプレーとして使うヘッドセットのような比較的シンプルなものが主流だ。IDCはAR・VRヘッドセット市場は17年の1370万台から、21年には8120万台に拡大すると予測する。年平均成長率は56%で、ウォッチの5分の1の市場が5年後には2分の1にまで追いつく見通し。目をディスプレーで覆う、主にゲーム向けのVRヘッドセットよりも、「21年にはARヘッドセットが300億ドル超の市場になるだろう。VRヘッドセットのほぼ2倍だ。ほとんどの消費者はスマホでARを楽しむが、アップルやグーグルのアプリがヘッドセットを前提としたものに移行するのは時間の問題」とIDCのシニアリサーチアナリスト、ジテシュ・ウブラニ氏は述べる。

 IDCはスマホ市場については16年の14億7000万台から21年には17億台に拡大するとみている。年平均3.3%の成長ペースではあるが、年間5000万台弱ずつ市場が拡大している計算で、スマートウォッチ、スマートグラスとは一桁規模が違う。一方、パソコンの16年における出荷台数は前年比マイナス5.7%の2億6000万台で、スマホはすでにその6倍弱の市場規模になっている。

 しかし5年も経てばスマホの概念も変わっているかもしれない。ウォッチの性能が向上し、ウォッチの欠点であるディスプレーをスマートグラスが補う使い方が主流になる可能性もある。あるいはスマホの機能がすべてグラスに埋め込まれるようになることもありうる。ウォッチ、グラスの欠点はキーボード入力が難しいことだが、IT各社は人工知能(AI)を使った音声入力に磨きをかけている。各社がバラバラに取り組んでいるように見える研究がやがて一つの方向に収束していくだろう。

 ARといえば16年にブームになった「ポケモンGO」が火付け役だが、一般消費者はゲームや家具の設置シミュレーションぐらいしか浮かばない。開発環境の整備が進めば、爆発的にいろいろなアプリが出てくるだろう。一つのアプリのヒットが大きくハードの在り方を変える可能性がある。


アップルもARへ


P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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